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空間デザインを権利保護!瞑想ルームで「内装の意匠」を考察する~こち亀のあの細長い家も意匠権を取れる?~

本記事では、空間デザインにおける一要素である「内装の意匠」について取り上げます。「内装の意匠」は、意匠権による新たな保護対象として意匠法に近年追加されたものです。

どの様な意匠が登録対象なのでしょうか?

例えばこちら。

意匠登録第1687753号 より

これは一体何でしょう…有名な建築家によって設計されたビル群?(それは建築物であり、内装ではない)

あとは、こんな登録例も。

意匠登録第1684157号 より

おぉ、綺麗な星空!もしや神奈川のヤビツ峠…!?(それはただの景観であり、内装ではない)

一体どの様な登録例なのでしょうか。以降、「内装の意匠」制度の趣旨から説明しつつ、上記登録例の答えや実際の現場体験記を紹介していきます。そして後半では特許庁の審査基準とも照らし合わせながら、「こち亀」に登場する ”あの” 内装について登録可能性を探ってみました。

1.空間(内装)デザインを権利保護する「内装の意匠」とは?

新しく「内装の意匠」が法律で保護されることになった理由は何でしょうか。その趣旨はこちらです。

店舗等の内装に特徴的な工夫を凝らしてブランド価値を創出した上で、サービスの提供等を行う企業が増加していることを受け、内装デザインを意匠権で保護できるよう、本条を新設した。

工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕意匠法第8条の2 より

「ブランド価値」というキーワードがありますね。私達消費者は、製品やサービスを通じて得られる情緒的な価値を大事にすることがあります。例えば皆さんも「この T シャツは 5,000円 もするけど、ブランドの世界観が好きだから買っちゃった!」といった経験があるのではないでしょうか?着心地や外観が一見類似する T シャツが近所のスーパーにて 500円 で売られているにも関わらず、です。これは「ブランド価値」に対してお金を支払っていることを意味します。

「ブランド価値」を分解すると、製品やサービスに込められたストーリー、世界観、企業姿勢など、様々な要素が出てきます。そして店舗で商品を買ったりサービスを受けるビジネスでは、「内装」は欠かせない要素です。日用品等の商品単体のビジネスとは異なり、サービスの提供を受ける際の視覚体験として印象に残りやすいものが「内装」であるためです。

例えば無印良品。店舗の看板を見なくとも、内装の写真を見るだけで、きっと「無印良品」だと思い浮かぶはず。それは無印良品の「ブランド価値」が内装に表れている証です。

では、どうしたら「内装の意匠」として登録できるのでしょうか。審査基準には以下のように書かれています。

<内装の意匠に該当するための要件>
(1)店舗、事務所その他の施設の内部であること
(2)複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
(3)内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

内装ならなんでも登録になるというわけではなく、基準があるんですね。

このうち(1)(2)はわかりますが、(3)の「統一的な美感」とは一体何なのか・・何やら難しい雰囲気。でも大丈夫です。実際に登録された事例を眺めてイメージを掴んでいきましょう。意匠権として登録された3社の事例を紹介していきます。

2.空間(内装)デザインが「内装の意匠」として登録された事例3社

意匠「書店の内装」(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)

こちらは記念すべき第1号の登録事例。蔦屋書店の内装ですね。(参考:『蔦屋書店の「内装の意匠」が登録第1号に、4月施行の改正意匠法で取得』-日経クロステック)

書架、テーブル、椅子が規則的に並んでおり、たしかに「統一的な美感」が感じられます。

意匠登録第1671152号 より

意匠「化粧品店の内装」(株式会社ポーラ)

こちらは化粧品を手掛けるポーラ(POLA)による内装の意匠。赤色の内容以外、つまり黒い部分の内容が意匠権として登録されています。

意匠登録第1684868号 より

この伸びやかな造形は、B.A シリーズ…!各製品単体の意匠についても意匠権(意匠登録第1674071号等)がありますが、5つの製品が結集した状態でも「内装の意匠」として権利を取得しています。堂々と胸を張って凛と立つその姿からは、たしかに「統一的な美感」を感じずにはいられません。

上記図面に示された意匠は、よく見ると以下写真における配置と類似していますね。これが B.A シリーズの基本フォーメーションなのでしょうか。

ポーラ HP より

そしてお次はこちらの案件。

意匠登録第1687753号 より

なんと…!今度は登場する意匠が2つ減り、3つの製品が凛と立っています。百貨店等における店舗入口にこちらの展示があると、とても映えそう。そしてやはりこちらの並びも、上記5つの場合と同様のフォーメーションを組んでいます。

優れたプロダクトデザインだけでなく、それらを顧客が認識する場である店舗デザインも含め、複合的な観点での権利保護に成功した一つの良い事例ですね。店舗における顧客との何気ないタッチポイントである展示方法を保護することで、競合他社とは差別化されたブランド体験の保護にも寄与しそうです。

ところで、上記内装は何処かの店舗にて実施されているのでしょうか?コロナ禍において、中年男性である筆者が探し回ることは憚られます。もしご存知の方がいらっしゃいましたら、Twitter 等で是非教えてください!

意匠「瞑想室の内装」(三菱地所株式会社)

最後は三菱地所が手掛ける瞑想ルームに関する登録例です。(参考:『三菱地所の新事業「Medicha」 マインドフルネスを新たなビジネスに』日経クロストレンド)

左から 意匠登録第1680695号、第1684157号、第1684158号

これはとても興味深い…!こちらのビートルズ記事でも触れたとおり、瞑想には少々関心があります。

3.瞑想ルーム「Medicha」体験レポ:空間(内装)デザインの権利保護=視覚体験の保護

実際にこの瞑想ルーム「Medicha」へ行ってきました。表参道駅から徒歩4分程。”オモサン” のオシャレ街道を歩くだけで、気分が少し高揚してきます。

入口。秘密の地下空間へ誘われている感じが素敵。

入口がオシャレです。果たしてこの先にはどんな空間が待っているのか…!

・・・

館内は撮影禁止のため、残念ながら現場レポはここで終了です。

公式 HP に掲載の写真を引用させてもらいながら、瞑想体験について感想を述べていきます。(ネタバレしない程度に)

Medicha HP より

瞑想ルーム以外も心地よい

「内装の意匠」として登録された瞑想ルームが目当てで訪問した訳ですが、その他にも着目すべき心地よい体験がありました。入口で出迎えてくれるピクトグラム、スタッフさんの所作、音響…。

サウナの様な「ととのい」体験

「内装の意匠」の意匠権が3件あるとおり、趣きの異なる3つの瞑想ルームがあります。それら瞑想ルームを行き来することにより、サウナ ⇔ 水風呂 で得られるような「ととのい」体験がありました。なお 2021.8 現在は完全貸し切りでの利用となっており、周りを気にせず「ととのう」ことが可能です。

五感を解放することで、その後「シュッ」となる

海に陽が差し込む様子を海底から見上げるような…闇の中でたまに見つかる希望の光を探すような…そんな80分の体験を終え、その直後に書き記したメモがこちら。

「シュッ」となる感じ

うまく言葉で表現できず、絵になりました。SNS や外界の雑多な情報から距離を置くことで、「シュッ」となります。そして精神が安定し、集中力がみなぎってきた実感も。

瞑想ルームは初体験でしたが、戸惑うこと無く快適に過ごせました。リラックスしたいときや、人生の岐路に佇んでメンタルを整える必要があるときには、是非また利用したいものです。

そして「内装の意匠」について瞑想中にも色々と考えたところ、これは「視覚体験を保護」するための制度だと実感しました。瞑想ルームビジネスにおいて主となる内容は当然「瞑想」であり、体験全体の中で、瞑想ルームにて過ごす時間が長いです。そして外界と遮断されたその空間は、より一層「視覚」が敏感になります。

これはいわゆる「吊り橋効果」が発露する場面の様な、特殊な状況下における体験と言えるでしょう。その視覚体験を「内装の意匠」としてうまく権利保護することで、提供する「ブランド価値」が守られていくのだと感じました。

自分自身を研ぎ澄まして精神を整える行為である瞑想。それをさり気なく応援する「内装」が、表参道には存在します。

4.こち亀と審査基準からみる空間(内装)デザインの権利化可能性についての検討

以上、「内装の意匠」として既に権利化された事例について紹介しました。最後は、こち亀や審査基準(特許庁)を参考にしながら、どの様な内装であれば権利化が可能であるかについて検討していきます。

「内装の意匠」として権利保護できそうな例①:細長い4畳半の部屋

~コミック第50巻「住めば豪邸の巻」~

  • 派出所まで往復7時間かけて通勤する寺井。両津と一緒に家探しを行うものの、「ホンダラ不動産」から紹介される物件は一風変わったものばかりであった。

コミック第50巻 P89 より

出ました!細長い家。2階の部屋を行き来するにあたり、浴槽の中を通る必要があるという奇異な設計がなされたお家です。そして四畳半の和室は、畳が縦一列に並んでいます。規則正しく畳が並んでいるので「統一的な美感」がありそうですが、どうでしょうか。特許庁から出されている審査基準として、参考になりそうな事例が記載されていました。

意匠審査基準 第Ⅳ部 第4章 より

こちらは「公知意匠(= 従来から知られている意匠)と比べて単に畳の数を増やしただけだから、登録できないよ」という事例。「統一的な美感」の有無以前に、従来から世の中にある内容から「ありふれた」変更を施したものは、意匠権は取れませんということです。

一方、上記こち亀は畳を縦一列に並べており特徴的な美感を生じさせていることから、「ありふれた」には該当しないものと推測します。よって、こち亀の「細長い四畳半部屋の内装」は、内装の意匠として意匠権を取り得たのではないでしょうか。

「内装の意匠」として権利保護できそうな例②:変形可能な部屋

~コミック第50巻「住めば豪邸の巻」~

  • 「細長い家」以外にも色々な家を訪問。最後に紹介された物件は、ルービックキューブの様なシンプルな見た目の一軒家。電話等によりデジタルな操作を行うことで各種家電や家具がセットされるという家であった。

コミック第50巻 P100 より

近未来感溢れる家ですね。こういった操作をスマホで制御できるお家が、そのうち現実世界にも登場しそうです。そして審査基準によれば、こういった構成物品の変化を含む内装についても、登録可能性があります。

意匠審査基準 第Ⅳ部 第4章 より

こちらは壁面に格納可能なベッドについて。美感を有するだけでなく「スペースを効率的に利用できる」といった機能的にも優れた意匠の例ですね。審査基準によれば、上記事例の様に「一の用途及び機能に照らして必要な変化の範囲内のものである場合」に限って、「内装の意匠」として登録され得るとのこと。変化する内装についてなんでもかんでも登録できるわけではないということですね。

次は、登録が難しい事例の紹介です。

「内装の意匠」として保護が難しい事例①:人形のおうち

~コミック第44巻「魔法の杖の巻」~

  • 日頃の悪行の影響で、神様の魔法によって小さくなってしまった両津。「おまえの新しい家だ!」と言って大原部長が用意したものは、人形ハウスであった。

コミック 第44巻 P65より

まるでリカちゃん人形のお家。内装がゴージャスで「統一的な美感」を有していてもおかしくないですが、こちらは残念ながら「内装の意匠」としては登録対象外です。「内装の意匠は、人がその内部に入る大きさを持ったものであり、かつ、複数の物品等から構成されるものである」(意匠審査基準 第Ⅳ部 第4章より)ためです。小さくなった両津も「人」ですが、審査基準にはそういった例外は抜きにした現実世界のお話が記載されているものと判断します。よって、人形ハウスについて「内装の意匠」を取得するのは困難と言えるでしょう。

「内装の意匠」として保護が難しい事例②:漫画等で登場する公知の内装をそのまま表したもの

上記にて「細長い四畳半の部屋」や「変形可能な部屋」の内装を登録可能と紹介しましたが、今からこれらの内装についてそのまま真似して出願したとしても、権利化することは出来ません。その点、「創作容易な意匠の事例」(= 登録できない事例)として、審査基準にもしっかりと明記されています。

6.3.6.7 物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠
【事例1】公知の漫画に登場する部屋の内装をそのまま表したもの
【事例2】公知のおもちゃの家の部屋の内装をそのまま表したもの

意匠審査基準 第Ⅳ部 第4章 より

以上、こち亀に登場する内装を参考にしながら、「内装の意匠」の登録可能性について探っていきました。

5.さいごに:美しい空間(内装)デザインを見れば、心も美しくなる?~運動伝染とは~

美しいものを見たら、自分の心も美しく…

なるのか否かは不明ですが、運動に関して言えば「運動伝染」という考え方があります。「他者の動作を見ることで、自分の動作が無意識のうちに影響を受けてしまう現象」のことです。(参考:『「他者をどうみるか」が鍵!~他人の動作を予測した時の“誤差”が自分の動作を変える~』NICT)

そういえば学生時代の部活動(野球・テニス)を振り返ってみると、上手な先輩のプレーを眺めているだけで、なんだか自分も上手くなった気がしていました。その後の自身のプレーに良い影響があった旨の自覚はありませんが、無意識のうちに影響を受けているというのは頷けます。

これは内装デザインについても同じことが言えそうです。顧客は「統一的な美感」を有する内装を認識することで無意識的に良い影響を受け、ひいては、当該製品・サービス・企業のブランドに価値を感じることに繋がるのではないでしょうか。

まとめ:「統一的な美感」を有する内装を保護することで、視覚を通じたブランド体験を保護

  • 「統一的な美感」を有する内装は、「内装の意匠」として権利保護し得る
  • プロダクトの意匠 × そのプロダクトの展示内容(内装の意匠)という複合的な権利保護が可能
  • 瞑想ルームの様な「視覚体験」が重要なビジネスにおいては、より一層「内装の意匠」での権利取得がブランド価値の保護に効いてくる

意匠制度は物品等の美的外観を保護するものであり、視覚が関わるのは言うまでもありません。そしてプロダクトデザイン等による他の意匠と比べて、内装は視覚を通じたブランド体験と密接に関わるものです。もし店舗や建築物が関わるビジネスを行っていく場合には、

「内装の 視覚体験 保護しよう」

を念頭に置き、意匠権での保護を検討してみてはいかがでしょうか。

なお、こち亀 × 知的財産 については過去に6つの記事を掲載していますので、こちらも是非ご覧ください。こち亀知財ワールドを一緒に楽しみましょう!

・【①特許】:こち亀は時代を先取りする?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.1- 
・【②特許】:こち亀は時代を先取りする?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.2- 
・【③特許】:特許庁の審査官はこち亀好き?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.3- 
・【④特許】:審査官はどうしてもこち亀を参照したかった? -こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.4- 
・【⑤商標】:モガンボ両津・麗子…普通名称化した商標をこち亀キャラから教わる
・【⑥著作権】:新桃太郎⁉こち亀の名シーン5選からゆるく学ぶ著作権法~お茶屋の藤田くんは違法行為をしていた~

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