商標登録をしようとするとき、「称呼(しょうこ)」という言葉を耳にしたことはありませんか?
日常生活ではあまり使わない言葉ですが、商標の世界ではとても重要なキーワードです。
「称呼」の意味や審査での扱われ方を理解しているかどうかで、商標登録の成否を大きく分けることになります。
この記事では、商標の「称呼」について押さえておくべきポイントをわかりやすくまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください!
目次
1.商標の称呼とは?
商標の「称呼」とは、商標の読み方のことです。
たとえば、商標『Toreru』の称呼(読み方)は「トレル」です。
商標では「商標が似ているかどうか」の判断が重要になります。他人の商標と似ていると、自分の商標が登録できなかったり、商標権侵害で訴えられたりしてしまうからです。
その「商標が似ているかどうか」は、次の3つのポイントで判断することになっています。
- 見た目(外観)
- 読み方(称呼)
- 意味(観念)
その中でも「読み方」は最も重視されています。
「見た目」や「意味合い」が違っていても、「読み方」が同じ商標同士は、似ている商標であると判断されることが多いです。
たとえば、『Toreru』と『TOLELU』は、見た目が違いますが、読み方はどちらも「トレル」です。そのため、似ている商標であると特許庁や裁判所に判断される可能性が高いです。
商標権は「似ている範囲」まで及ぶので、商標がどう読まれるかは権利範囲に大きな影響があります。
ではこの「読み方」は誰がどのように決めるのでしょうか?
実は、商標が似ているかどうかの判断に使われる「読み方」は自分で決めることができません。「一般の人が自然に読むとどう読むか?」を基準に決められます。
2.商標の読み方は登録できるか
商標登録の際、商標の「読み方」は特許庁に登録できません。
先ほど書いた通り、商標の読み方は、商標登録をする人ではなく「一般の人が自然に読むとどう読むか?」を基準にして決めることとされているからです。
「一般の人が自然に読むとどう読むか?」は、特許庁の審査の中で審査官が都度判断します。また最終的には、何か争いが起こったときに裁判所で認定されます。
しかし、商標を検索するときに「読み方」のデータがないと不便なので、特許庁がデータベース上、参考的に読み方を付けています。
それが、 J-PlatPat の「称呼(参考情報)」です。
3.J-PlatPat の称呼(参考情報)とは
J-PlatPat で商標の情報を見ると、上の図のように「称呼(参考情報)」という項目があります。
これは、特許庁で参考として付けられた読み方のことです。
あくまで商標検索に便利なように参考情報として付いているに過ぎず、確定的なものではありません。そのため、専門家は「参考称呼」といって、特許庁や裁判所で認定される正式な「称呼」とは区別して呼んでいます。
参考称呼は変更されることもありますが、私たちが自由に変更はできません。
原則として審査や権利範囲に影響するものではなく、あくまで検索用として特許庁が一方的に付けるものだからです。
4.J-PlatPatの称呼(参考情報)を変更する方法
J-PlatPat で付けられている称呼はあくまで参考情報だとはいっても、検索に用いられたり、特許庁の審査官が審査の参考にしたりすることもあり得ます。
そう考えると、明らかに J-PlatPat での「称呼(参考情報)」が間違っている場合には気になりますよね。
そのような場合は、リンク先の「既に出願されている商標に付与された称呼等に関すること」のお問合せフォームから、特許庁に問い合わせすることができます。
5.商標の読み方の実質的な指定方法
商標の読み方は登録できませんが、出願手続きをするときの「商標の書き方」によって実質的に指定できることがあります※1。
※1 できないケースもあるので、専門家と相談することをおすすめします。
たとえば、『Toreru』を出願するとき、本当は「トレル」と読ませたいけど「トレルー」と読まれてしまいそう…と心配する場合は、
このように、読み方を表すカタカナと二段に併記した商標画像を作成して出願すれば、特許庁が「トレル」の称呼を認定してくれる可能性が高まります。
なおこの方法は、造語では有効ですが、一般語(既成語)の場合はあまり意味がないことがあります。
たとえば、
この場合は、カタカナで併記した「リュウデンセン」だけでなく、「竜田川」から自然に生じる「タツタガワ」の読み方も出ると認定されてしまうことがあります。
このように、二段併記での登録には注意点もあり、その他のデメリットも多いです。そのため、特別の事情がない限りは、普通に元々の商標のみ(上の例で言うと「Toreru」の文字のみ)で出願することをおすすめします。
二段併記を適切に使いこなすには十分な知識と状況判断が必要ですので、困ったら専門家に相談しましょう。
6.読み方が同じ商標が検索で見つかったときの対処方法
読み方が同じ商標が検索で見つかったときに、すぐ「商標登録できないかもしれない」と思いがちです。
でも、下記の対処方法があります。
6.1.指定商品・指定役務が似ていないかどうかを確認する
商標が似ていたとしても、指定商品・役務が似ていなければ、商標登録ができます。
たとえば、見つかった他人の商標の指定商品が「靴」で、自分の商標の指定商品が「洋服」だったとします。この場合、「靴」と「洋服」は似ていないと扱われる商品なので、商標が同じであっても登録できます。
このように、読み方が同じ商標が見つかっても諦める必要はないケースもあるため、見つかった商標の商品・役務をよく確認してみましょう。
ちなみに、商品・役務が似ているかどうかの判断は「類似群コード」を見て行います。
気になる方はこちらの記事をご覧ください。
6.2.意味や綴りが大きく違えば、読み方が同じでも似ていないと判断されることも
たとえば、「bowl」と「BALL」は読み方が同じでも、見た目と意味合いで十分に区別できるので似ていないと判断された事例があります(不服2020-14218)。
例外的なので多くはありませんが、意味合いや綴りが大きく違う場合は、読み方が同じでも似ていないと判断されることもあります。
気になるときは、専門家の意見を聞いてみましょう。
6.3.審査ではダメでも審判までいけば商標登録できるかも
特許庁の審査プロセスは、何段階かに分かれており、一度NGを受けても、上級審でさらに争うこともできます。裁判でたとえると、第一審判決に対して控訴(上訴)するような感じです。特許庁では最初の審査プロセスを「審査」といい、上訴した先のプロセスを「審判」といいます。
審査では「すでに読み方が同じ商標があるので登録できませんよ」と言われても、「審判」に上げれば判断が覆る可能性もあります。
審査ではなるべく画一的な審査がされますが、「審判」ではより個別的な周辺事情を考慮した高度な判断をすることになっているからです。
あくまでケースバイケースではありますが、「審判」までチャレンジすることを専門家がおすすめする場合には、それなりに勝算が見込めることも多いので、大事な商標の場合は「審判」も検討してみましょう。
まとめ
最後にまとめです。
- 商標の「称呼」とは、商標の読み方のこと。「読み方」が同じ商標同士は、似ている商標であると判断されることが多い。
- 商標の「読み方」は特許庁に登録できない。「一般の人が自然に読むとどう読むか?」を基準にして決まる。
- J-PlatPat で見れる「称呼(参考情報)」はあくまで参考情報。私たちが自由に変更はできない。でも、どうしても気になる場合は、特許庁の専門窓口に問い合わせできる。
- 読み方は登録できないが、出願手続きをするときの「商標の書き方」(フリガナを二段併記)によって実質的に指定できることがある。ただし、デメリットもあるので使いどころには注意しよう。
- 読み方が同じ商標が検索で見つかっても、商標登録を諦めずに対処できることがある。困ったら専門家に相談してみよう。
商標登録において「称呼」の性質を理解していることはとても大切です。
この記事を参考に、上手に商標登録しましょう!