商標登録をするとき、その商標が英語(アルファベット)だと、英語表記で商標登録するのか、それともその読みを表すカタカナで商標登録するのか、迷ってしまうことはありませんか? 実際、商標登録の相談を受けていると、そういったお悩みを聞くことも少なくありません。
どのような形で商標登録をするかは、取れる権利の範囲や、かかる費用にダイレクトに影響します。また、常に同じやり方が良いかというと、商標の内容や事情によってベストな方法は変わってきます。そのため、登録する商標を英語表記にするかカタカナ表記にするかは、商標実務家にとってもよく考えなければならない大切な事項です。
そこで、本記事では、英語表記とカタカナ表記のどちらで(あるいは両方で)商標登録すればいいかを見極めるためのポイントを公開しちゃいます!
目次
1. 商標登録の際に英語・カタカナで迷う理由
そもそも、どうして商標登録をするときに、英語表記とカタカナ表記とで迷ってしまう人が多いのでしょうか。それは、商標登録の制度上、次のような事情があるからです。
- 商標は英語表記とカタカナ表記のどちらでも登録できる
- 1つの商標登録で守れる範囲には限りがある
- 分けて商標登録するのはお金がかかる
商標は英語表記とカタカナ表記のどちらでも登録できる
商標登録は、英語の商標でも、カタカナの商標でも、することができる仕組みになっています。英語やカタカナなどの文字に限らず、図形や立体物など、「視覚的に見えるもの」は商標登録の対象になります。商標登録の出願をするときは、「登録したい商標を表す画像」を出願書類に貼りつけて提出するので、たとえば、ハングル文字やタイ語の商標でも、登録することができます。
① 英語表記の登録商標の例
商標登録第4988737号
権利者: ソニー株式会社
② カタカナ表記の登録商標の例
商標登録第5495043号
権利者: マクドナルド インターナショナル プロパティー カンパニー リミテッド
1つの商標登録で守れる範囲には限りがある
もし、英語表記かカタカナ表記かで迷ったとしても、どちらか片方だけ登録しておけばもう片方も必ず守れるのであれば、適当に好きな方を選んで登録すればいいので、誰も悩まないですよね。
でも実際には、1つの商標登録で守れる範囲には限りがあります。カンタンに言うと、
- 他人が勝手に使うことを防止できるのは、まぎらわしいほど似ているといえる範囲まで
- 自分は登録したものと同じ商標を使っていないと、商標登録が取り消されるかもしれない
という点に気をつけないといけません。そのため、英語表記とカタカナ表記のどちらか一方で商標登録したときに、これらの観点からデメリットがないか、見極める必要があるのです。
商標権の効果については、こちらの記事でもわかりやすく解説しています。
分けて商標登録するのはお金がかかる
英語表記とカタカナ表記のどちらか片方だけで商標登録してしまうとデメリットがあるかもしれないなら、両方とも商標登録しちゃえばいいじゃないか! とも思うかもしれませんが、なかなかそういうわけにもいきません。なぜなら、商標登録には、次のようなルールがあるからです。
- 1回の出願で商標1種類しか登録できない
- 1回の出願ごとに別途費用がかかる
だから迷ってしまう
このように、「英語かカタカナか」は、一見ささいな問題に見えても、いざ商標登録を考えるときには切実な問題なのですね。誰しも、最小のコストで最大の効果を、すなわちコストパフォーマンスが高い方法で商標登録したいものです。
2. 英語とカタカナのどちらで商標登録すべきか、見極めるポイント5つ
それではいよいよ、英語とカタカナのどちらで商標登録すべきかを見極めるポイントを見ていきましょう。ポイントは次の5つです。
① 英語表記でも一発でカタカナと同じように読めるか?
② 英語表記のスペルが特徴的か?
③ 海外展開があるか?
④ 早期審査を申請したいか?
⑤ より多く使うのはどちらの表記か?
① 英語表記でも一発でカタカナと同じように読めるか?
まずは、英語表記でも一発でカタカナ表記と同じように読めるか、を考えましょう。
たとえば、「Toreru」という英語表記と「トレル」というカタカナ表記で迷っているとしたら、
「Toreru」という英語表記をフリガナなしで見たときに、一発で「トレル」と読めるか?
を考えます。
この例の場合、「Toreru」は「トレル」をローマ字で表したものだと自然に理解でき、他に平均的な日本人が思い浮かぶような読み方は特にありませんから、フリガナなしで「Toreru」の文字を見たとしても一発で「トレル」と読める、と判断していいでしょう。
このように、一発でカタカナ表記と同じように読める場合には、英語表記とカタカナ表記のどちらか一方だけで商標登録したとしても、もう一方の商標も実質的に守れる可能性が高いと一般的にはいえます。
なぜなら、読み方が同じ商標は、まぎらわしいほど似ているといえる範囲に入る可能性が高いからです。まぎらわしいほど似ているといえる範囲の違いであれば、それを別個に商標登録しなくても、取った方の商標権で守れる可能性が高いといえます。
逆に、英語表記だけを見たときに他の読み方がされてしまうかもしれない場合には、英語表記とカタカナ表記の両方を商標登録した方がいいことが多いです。
たとえば、「FINNEL」という商標があったとしたら、フリガナが付いていなければこれを「フィネル」と読んだり「ファイネル」と読んだり「フィンネル」と読んだりするかもしれません。このような場合、もしあなたがこれを「ファイネル」と読むブランド名として使っていこうとするのであれば、英語表記「FINNEL」とカタカナ表記「ファイネル」の両方を、商標登録しておく方がいいです。なぜなら、もし英語表記「FINNEL」だけを商標登録していた場合、カタカナ商標「ファイネル」とは読み方が違うからまぎらわしくないという理由で、他人が使ったり商標登録できてしまうおそれがあるからです。
なお、上で「フリガナなしで」「一発で読める」と言いましたが、これはとても大切なポイントです。「商標の読み方」は、「その文字だけを見せられたときに、正式な読み方を知らない人が自然になんと読むか?」を基準として特許庁や裁判所が判断することになっているからです。商標を考えた人自身は、どうしても「他の人も自分と同じ読み方で読むだろう」と思ってしまいがちなので、ここは気をつけましょう。
② 英語表記のスペルが特徴的か?
その英語表記のスペルに独自性があって特徴的な場合には、英語表記で商標登録をする優先度が上がってきます。
たとえば、スピーカーの商標として「Speakaa」(読みは “スピーカー” )を考えていたとしましょう。この商標は、スピーカーを意味する英単語「speaker」のスペルを少し変えてつくった造語です。この場合には、英語表記の「Speakaa」で商標登録をした方がいいです。なぜなら、この商標が自分独自の商標として認識してもらえる理由は「スペルが特徴的」だという部分にあり、カタカナ表記にした「スピーカー」では単なる商品の普通名称になってしまいそもそも商標登録できないからです。
③ 海外展開があるか?
その商標を使って海外展開をする可能性があるかどうかは、英語表記で商標登録をしておくべきかどうかを判断するポイントの1つです。
海外で商標を守りたい場合には、その国で商標登録をする必要があります。また、日本と同じように、海外でもほとんどの国は、商標登録は「早く出願した者勝ち」です。日本の企業にとっては、海外でいち早く出願するのはなかなか難しいこともありますよね。海外で商標登録の出願をするとき、その日から過去6ヶ月以内に日本で同じ商標を出願していた場合は、日本の出願と同じタイミングでその海外でも出願したものと取り扱ってくれる「優先権」という制度があります。
ちょっとややこしいですが、要は、海外で登録しようとしている商標と「同じ商標」を日本でも出願していた場合は、海外出願のときに有利になることがある、という風に理解していただければと思います。
この「同じ商標」に当てはまるためには、もし海外では「英語表記」の商標にする場合は日本でも「英語表記」の商標を出願していないといけない、というところがここでのポイントです。そのため、海外展開を視野に入れている場合は、日本でも英語表記の商標で登録しておくことが選択肢に入ってくるでしょう。
④ 早期審査を申請したいか?
商標登録をするためには、特許庁に出願をして登録のための審査を受けなければなりません。また、日々たくさんの出願がされているので、大量に「審査の順番待ち」が発生しており、審査が下りるまでの期間は結構長い(本記事執筆時点では約14ヶ月)です。ただ、日本には、一定の条件を満たすことで、この審査時期を早めてもらえる「早期審査」という制度があります。
この早期審査の条件の1つに、「出願した商標と同じ商標をすでに使い始めているか」というものがあります。そのため、早期審査を検討している場合には、英語表記とカタカナ表記のうち「実際には使い始めている方」を出願する必要があります。
⑤ より多く使うのはどちらの表記か?
これまでのポイントを検討した結果、「英語表記とカタカナ表記のどちらでもよさそうだ」となった場合には、結局どちらにするか迷ってしまいますよね。そんなときは、より多く使うのはどちらか?を考え、より多く使う方を優先するといいでしょう。
商標登録は、正式に登録になってから3年以上実際にその商標を使っていない期間が続いてしまうと、その登録が取り消されてしまうおそれがあります。これを防ぐためには、「商標は登録した形で使う」を可能な限り徹底するのが基本です。
これを考えると、英語表記とカタカナ表記とで迷ったら、実際に使う頻度が高い方を選ぶのが得策といえます。
3. 英語・カタカナどちらで出願? ~事例でちょっと考えてみよう
さいごに、おまけでちょっと事例を用意してみました。上記のポイントを踏まえて、自分ならカタカナ・英語どちらで出願するか、または両方で出願をするか、ちょっと考えてみると、より理解が深まると思います。
事例1
商標「tarner」
- カタカナ表記は「ターナー」
- 家具のブランド名として使う
- 説明文などでは「tarner(ターナー)」のようにフリガナを振ることもあるが、基本は英語表記をメインで使う
事例2
商標「QUANCUL」
- カタカナ表記は「カンカル」
- 衣料品のブランド名として使う
- 英語表記だけ、カタカナだけ、両方を併記する、の3パターンがある
事例3
商標「LaLaKun」
- カタカナ表記は「ララクン」
- 電動マッサージ機のブランド名として使う
- 英語表記だけ、カタカナだけ、両方を併記する、の3パターンがあり得るが、すでに使っているのは「カタカナだけ」のみ
- 早期審査を受けたい
4. おわりに
本記事では、悩む人の多い「英語表記かカタカナ表記か問題」を解決するためのポイントを解説しました。実際には微妙な判断が必要なケースも少なくないため、専門家のアドバイスを受けた方がいいこともありますが、どのようなことを気にすればいいか掴めたのではないかと思います。
ポイントを押さえて、スマートに商標登録をしましょう!