商標とは、商品やサービスを提供する上で欠かせないネーミングやマーク等の目印のことです。
この記事では、初めての方でもわかりやすく、「商標って何?」「どんなものが商標になるの?」「どうして必要なの?」といった疑問にお答えします。
目次
商標とは
商標とは、商品やサービスを区別するための目印です。
身近な商標の例としては下記のものがあります。
- 商品名、サービス名
- 商品やサービスのロゴ
- 会社名
- キャッチコピー
- キャラクター
- 音
身近な商標の例
普段、皆さんはどのような目印を見て、商品・サービスを選んでいますか?
あまり意識していないかもしれませんが、必ず目にしている目印。
身近な例と共に紹介します。
1.商品名、サービス名
商標の中で代表的なものは商品名、サービス名です。
商標の中では最も多く、見た目だけでなく、読み方(発音した時の音)も重要な要素になっているのが特徴です。
例
- NIKE
- ヒートテック
- フラペチーノ
- きのこの山
- 宅急便
2.商品やサービスのロゴ
商標やサービスのロゴの商標は、言語の壁を超えて理解できるので世界的に通用しやすく、遠くから見ても判別しやすいことが特徴です。
①文字だけのロゴ(ロゴタイプ)
②文字+図形のロゴ(ロゴマーク)
③図形だけのロゴ(シンボルマーク)
といったパターンがあります。
例
- Google のロゴ(ロゴタイプ)
- NIKE のロゴ(ロゴマーク)
- スターバックス のロゴ(ロゴマーク)
- Amazon のロゴ(ロゴマーク)
- Apple のロゴ(シンボルマーク)
- マクドナルド のロゴ(シンボルマーク)
- ルイヴィトン のロゴ(シンボルマーク)
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3.会社名
会社名も立派な商標です。
「Google」のように、サービス名=会社名という場合もありますが、
「ファーストリテイリング」と「ユニクロ」のように、会社名と商品名・サービス名が異なる場合もあります。
その場合は、会社名よりも商品名の方が認知されていることが多く、会社名はあまり大々的に露出していないことがあります。
それでも、会社名を商品・サービスを区別させるために使えば、商標になります。
例
- ファーストリテイリング
- トヨタ自動車
- 電通
- 良品計画
4.キャッチコピー
キャッチコピーは一般に商標としては認識されにくいかもしれませんが、一部のキャッチコピーは商標の役割を果たしています。
たとえば、「お値段以上〜」と聞くと何を思い出しますか?
きっと、すぐに「ニトリ」を思い出した方が多かったのではないでしょうか。
このように、そのキャッチフレーズを見て商品・サービスが区別できるような場合は「商標」になるのです。
- 商標登録第5292375号「お、ねだん以上。ニトリ」(株式会社ニトリホールディングス)
ここでひとつ、クイズを出して、先に進みましょう。
「なめてるくらいがイイ。」
さて、これは何の商品のキャッチフレーズでしょうか?
5.キャラクター
キャラクターも商標になる場合があります。
キャラクターの画像や人形などは、著作物でもありますが、それを商品・サービスする目印として使うときは、商標にもなります。
キャラクターは記憶に残りやすく、人気キャラクターにもなれば、商品名やロゴ以上に「どこの商品がすぐわかる」効果があります。
また、一見「商標」っぽくないので、 “宣伝感” を出しすぎずに「目印」としての役割を担わせることもしやすいです。
例
- くまモン
商標登録第5540074号(熊本県) - ピカチュウ
商標登録第4397232号(任天堂株式会社) - カーネルサンダース
商標登録第4170866号(Kentucky Fried Chicken International Holdings LLC) - すしざんまい の社長
商標登録第6317426号(株式会社喜代村)
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6.音
テレビCMで流れる印象的なメロディ。それを聴いて「あ、あの商品のCMだ!」と思うことってありますよね?
音楽や効果音のような「音」も、その音だけを聴いて商品・サービスが区別できるくらい知名度を得た場合は「商標」になります。
大幸薬品の正露丸のCMで使われている「ラッパの音」は、 “みんながわかるくらい有名じゃないと登録できない” という高いハードルを乗り越え、「音の商標」として商標登録が認められています。
商標登録第5985746号(大幸薬品株式会社)
なぜ、商標が必要なのか?
そもそもなぜ、商標が必要なのでしょうか?
もし商標がなかったら誰が困るか考えてみましょう。
想像してみてください。
「喉が乾いた!」と思って自動販売機を見つけたあなた。
お金を入れて、さて何飲もうかな…? と見上げた先には、
なんと “ラベルのないペットボトル” が並んでいるではありませんか!
たとえお気に入りのミネラルウォーターがあったとしても、目の前のミネラルウォーターがその “いつものミネラルウォーター” かどうかは全くわかりません。
もしかしたら、せっかくお金を払うのに、全然おいしくない水かもしれない・・・。最悪、お腹を壊すかもしれない・・・。
これでは、消費者は安心して買い物なんかできないですよね。
また、販売者にとっても、これは大問題です。
せっかく自分たちの商品を気に入ってくれている消費者がいても、消費者がきちんと商品を見つけられないので、売れたはずの商品が売れず、売上が大きく下がってしまいます。
それだけならまだしも、消費者が別の会社の商品を自分たちの商品と勘違いして買ってしまい、「こんな味だったっけ?」とか「飲んだらお腹壊しちゃったんだけど!(怒)」ということにもなりかねません。
これでは、販売者の信用を維持することはできません。
このように、もし商標がなかったら、商取引は大混乱に陥ってしまうのです。
でも、商品やサービスにきちんと「商標」がついていれば、それを “目印” にして選べるので、こういうことを防げます。
商標の3つの役割
商標には、商品やサービスを区別する機能があることで、3つの役割が発生します。
1.誰が売っているのかわかる
商品名も会社名もわからないノーブランド品だと、もう一度同じ商品を買おうと思っても難しいです。
もしそれが気に入って誰かにおすすめしたくても、
「ええっと…渋谷の黄色い看板の店で買って、柔らかくて〜」
みたいに、あいまいな伝え方しかできません。
商標があれば、誰が売っている商品(なんというブランドの商品)なのかがわかり、消費者は安心して買い物ができます。
誰の商品かがすぐわかれば、優れた商品には評判が立つようになるので、事業者側にとってもメリットです。
2.品質について安心感が出る
商標には、商品の “品質のイメージ” が結びつきます。
もしあなたが NIKE のスニーカーを持っていて、「クッション性が良くて疲れにくいんだよな~」と日頃から思っていたとしましょう。
ある日、健康のためにランニングを始めようと思い立ったあなたは、スポーツ用品店にランニングシューズを買いに出かけます。
さまざまなブランドの商品が立ち並ぶなか、目に留まった NIKE のランニングシューズ。
「きっとこれもクッション性が良いんだろうな~」
と自然と安心感が湧いてきます。
これは、その目の前のランニングシューズのクッション性が本当に良いかどうかはまだわからないにも関わらず、 NIKE のロゴを見ただけでそういう風に思ったということです。
よく考えると、これはすごいことですよね。
商標には、見ただけで過去の経験や耳にした評判を呼び起こす力があるのです。
知らない土地に来て、どの店が良いかよくわからない時に、チェーン店を見たときの安心感。身に覚えはありませんか?
3.買いたくなる
商標には、 “消費者の記憶に残りやすい” という機能もあります。
「この会社の商品は、肌触りが良くて、軽くて、20代後半の女性に人気があって・・・」
というように、商品やブランドごとに特徴を記憶し、思い出すことはなかなかできません。
でも商標があれば、「あのロゴがついた商品」という形で簡単に記憶できます。
商標を見せれば、誰の商品か分かり(1の機能)、品質のイメージが湧き起こります(2の機能)。
商標に信用がどんどん貯まってくると、商標自体が、優れた営業マンや広報担当のように、商品を宣伝広告してくれるようになります。
究極的には、 “そのロゴがついた物ならなんでも欲しい” という熱心なファンが生まれることさえあります。
ここまでくると、商品を買っているのか、そのロゴを買っているのか、よくわからなくなってきますが、これが可能なのも、たくさんの情報が一つの商標に乗っかる(象徴される)ことで、記憶に残りやすく、「買いたい」の伝達を簡単にしているからなのです。
商標の問題点
商標はカンタンにパクることができる
商標はカンタンに真似できます。
なにせ、 “コピペ” すればいくらでも複製できるのですから。
信用が貯まり顧客吸引力のある他社のネーミングやロゴ。これを自分の商品にペタッと貼れば、不注意な消費者が間違えて買ってくれる。
他社の信用に乗っかってラクに売上アップ!
やろうと思えば、こういうことがいくらでもできてしまいます。
しかしこれでは、本物を売っている事業者も、本物を買いたい消費者も、どちらも困ってしまいます。
商標の価値は、そこに貯まった「信用」力で、無意識にも消費者が安心や期待を感じることです。
偽物の存在は、単なる一時的な売上ダウンにとどまらず、取引における大切な「信用」が損なわれ、長期的な損失につながります。
模倣品の例
ヘアカラー剤の登録商標「Bigen」の模倣
引用元:https://www.pref.aichi.jp/san-kagi/mohou/jp/images/pdf/12.pdf
模倣被害件数の推移
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商標権を取得することで商標のパクリを対策できる
何も対策をしなければ、カンタンにパクれてしまう商標。
でも、商標登録すればこれを防ぐことができます。
商標登録をすると、その商標について「商標権」が発生します。
商標権は、指定した商品・サービスについてその登録商標を独占的に使用できる権利であり、他社による無断使用に対しては、「商標を使うのをやめろ」(差止請求)と言ったり、「受けた損害を賠償しろ」(損害賠償請求)と言ったりすることができるようになります。
いわゆるデッドコピー品のような悪質な模倣に対してはもちろん、悪気がなくても「たまたま似たような商標を使ってしまった」というケースに対しても、商標権があれば「商標を変えてください」と求めることができます。
商標を見ただけでそのブランドやそこに付随するイメージを思い出してもらうには、丸パクリ商品を撲滅するだけでなく、「似たような商標」を使うのもやめてもらい、あなたの商標を市場においてユニークなものに保つことが大切です。
こういったブランド保護のための活動をするには、商標権を取得することが欠かせません。
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商標登録をするためには、特許庁に商標登録出願という手続きをすることが必要です。
手続きの流れや全体像については、こちらの記事が参考になります。
商標の数
ここでは、商標の「数」を見てみましょう。
商標権の数
現在、日本で有効に存続している商標権は一体どのくらいあるのでしょうか?
日本国内の商標登録を検索できる J-PlatPat で検索してみましょう。
・・・なんと、200万件もあります!
J-PlatPat で検索可能なものだけですので正確な数字ではありませんが、少なくとも200万件もの商標権が日本に存在していると考えると、なかなかすごいです。
商標登録出願の数
続いて、商標登録出願の数を見てみましょう。
先ほどの「商標権」の数とは違い、今度は「商標登録出願」の数です。
つまり、商標登録になったかどうかとは関係なく、登録するための出願(申請)自体の数です。
2010年から約10年の間に、日本の商標登録出願件数は大きく増え、現在は毎年19万件前後を推移しています。
世界の傾向
今度は、世界の傾向を見てみましょう。
こちらは、「米国、欧州、韓国、中国、日本」における商標登録出願件数の推移です。
(特許庁『特許行政年次報告書2020年版』より引用)
何よりも目に付くのは、中国(赤)の近年における伸び具合です。
2016年以降、急激に増加しています。
これは、中国が世界の主要なマーケットになったことや、中国における権利意識の高まり(権利が無いと始まらないというお国柄や、模倣被害の多さ)が、大きな影響を与えていると考えられます。
このように、「商標」の存在は普段あまり意識しないかもしれませんが、世界的にも重要視されているものなのです。
よくある質問
Q1.商標ではないものはなんですか?
A.「商標」になるかどうかは、それが「何であるか」というより「どう使うか」で変わります。
たとえば、有名人の芸名。
「タモリ」という芸名それ自体=商標、というわけではありません。
「タモリ」という文字を何か商品やサービスを売るための目印として使う場合には、そこで使う「タモリ」の文字は「商標」になります。
たとえば、「タモリ」の文字を「ゴルフクラブ」を売るときに使うと、「タモリ」の文字はその商品「ゴルフクラブ」の商標ということになります。
そのため、もし「タモリ」の文字を商品「ゴルフクラブ」について商標登録できた場合には、「タモリ」の文字を「ゴルフクラブ」を売るために使う行為については独占できるわけです。
一方、「タモリ」という芸名それ自体が「商標」というわけではないので、たとえ商標登録をしたとしても、「タモリ」という言葉を発してはいけないとか、「タモリ」の文字が一切使えない、ということにはならないのです。
ちなみに、商標法上では「商標」が定義されていますが、一般の方には少しわかりにくく、誤解を生みやすくもあるため、ここでは割愛します。
今は、「商標」であるかどうかは商品やサービスを区別する目印として機能するものかどうかで決まる、という風に考えておいていただければと思います。
ですから、文字やロゴ以外に、音とか色なども、それが商品やサービスを区別する目印として機能するものであれば、商標になり得るのです。
Q2.書籍、テレビでは商標の発言は気をつけないといけないの?
A.一定の配慮が必要な場合はありますが、商標(文字とかロゴとか)それ自体を書いたり、口に出すことが、商標権により制限されるわけではありません。
Q1への回答にもあるように、NGなのは、商標権を取っている特定の商品・サービスを区別する目印として他人の登録商標を表示したり、口に出したりする行為です。
たとえば、他人が「タモリ」という文字商標を「ゴルフクラブ」の商品について登録していたとしたら、「タモリ」とただ書いたり言ったりするのはOKですが、「ゴルフクラブ」を販売したり宣伝広告するときに「タモリ」の文字を表示するのはNGです。
ただし、例外的な事例として、単に他人の登録商標に言及するだけの場合であっても、その登録商標をあたかも普通名称であるかのように言うことによって、その商標権の効力を失わせる行為となってしまうことがあります。
たとえば、「正露丸」は、もともと登録商標ですが、みんなが普通名称かのように使った結果、いわゆる「登録商標の普通名称化」が起き、商標権の効力が及ばなくなってしまっていると考えられています。
そのため、商標権者としては、自分の登録商標を普通名称のように使ってほしくないため、普通名称かのように使用している人に対して、やめてください、とお願いすることがあります。
このような意味での配慮が必要になる場合があるということです。
登録商標の普通名称化については、こちらの記事も参考になります。
Q3.TMマーク、®︎マークとはなんですか?
A.TMマークとは、商標を使うときに商標の側に付ける「™」という記号のことです。『 Toreru ™ 』のように、商標の右肩に付けることが多いです。
TMマークを付けると、「これは商標です」という意思表示をしている、という意味になります。
どういう効果があるかというと、たとえば、普通名称であると消費者に勘違いされてしまいそうな商標を使うときにTMマークをつけておくと、「これは(普通名称ではなく)商標です」ということを自主的に宣言する形になります。こうすることで、周囲に「(自分の)商標」であることをアピールするとともに、上記のような「普通名称化」を抑制する効果が期待できます。
なお、TMマークは、次に説明する ®︎マーク とは異なり、未登録の商標であっても付けることができます。TMマークの意味は、単に「これは “商標” です」と言っているだけで「これは “登録商標” です」と言っているわけではないからです。
一方、 ®︎マークとは、商標を使うときに商標の側に付ける「®︎」という記号のことです。これも『 Toreru ®︎』のように、商標の右肩に付けることが多いです。
®︎マークを付けると、「これは登録商標です」という表示をしている、という意味になります。
これにより、この商標には商標権が発生していますよ(独占権がありますよ)、ということを周囲にアピールできるため、特別なブランドであることを印象付けたり、他人の模倣を牽制する効果が期待できます。
注意点として、®︎マークは、TMマークとは異なり「これは “登録商標” です」という表示になりますので、未登録の商標に付けてはいけません。商標登録出願をした後であっても、審査に合格して登録番号がつくまでは「未登録」ですので、まだ®︎マークは付けてはいけません。®︎マークを付けるときには、その商標がその国で商標登録済であることをよく確認してから行うようにしましょう。
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まとめ
商標とは、商品やサービスを区別するための目印のことで、商品名・サービス名やロゴだけでなく、会社名やキャッチフレーズなども商標になる場合があります。
商標は、誰の商品やサービスであるかを区別させることで、消費者が安心して取引できるようにしたり、事業者の信用(ブランド力)を守り、ひいては購買を促進する役割があります。
商標をうまく活用するためには、そもそも「商標ってなに?」の本質を理解しておくことが大切です。
この記事がその助けになれば幸いです。
(ちなみに、キャッチコピーのところで出したクイズの答えは、「チュッパチャプス」でした!)