商標の早期審査とは
商標の早期審査とは、一定の条件を満たせば、商標の審査期間が短くなる制度です。
通常約8ヶ月かかる審査期間が約2ヶ月になります。
しかも、特許庁に支払う費用は0円です。弁理士に依頼する場合は弁理士手数料(約2〜4万円)だけがかかります。
早期審査の利用数は、2012年では約1500件でしたが、2020年には約11000件まで増えました。メリットがとても大きい制度ですので、年々利用数は増えています。
この制度自体はまだ一部の人にしか利用されていませんが、上手に利用することでビジネスを有利に進めることができます。
早期審査のメリット
審査の結果が早く通知されるということで、4つの大きなメリットがあります。
- ネーミング変更をすべきかどうか早くわかる
- 早期に他社にやめろという警告ができる
- Amazonセラーの場合は、ブランド登録が早くできる
- 今後特徴がなくなる可能性が高いネーミングの場合、特徴がなくなる前に審査に合格できる
それではひとつずつ見ていきましょう。
ネーミング変更をすべきかどうか早くわかる
審査の結果が早くわかれば、商標登録しようとするネーミングが最終的に決定すべきかどうかが早くわかります。
仮に、通常の審査期間の8ヶ月後にネーミングが使えないとわかった場合は、それまでに作ったチラシや、店舗の看板、名刺などを全て変更しないといけません。
それが早期審査をしていると、多くの投資をする前にネーミングを変更すべきどうかわかりますので、無駄な投資を抑えることができます。
早期に他社にやめろという警告ができる
商標出願中(審査中)では、他社に商標を使うことをやめろという権利(差止請求権)がありません。
そのため、審査に合格して商標登録が完了するまで、他社の使用を止めることができません。しかし、早期審査をしているとすぐに商標登録が完了するので、早期に他社にやめろという警告ができます。
そうすることで、模倣品の被害を最小限に食い止めることができます。
Amazonセラーの場合は、ブランド登録が早くできる
Amazonセラーの場合は商標登録を完了していることがブランド登録の条件です。
早期審査をするとブランド登録が早くできます。
相乗りをされている場合は、すぐに売上の減少に繋がるので、ブランド登録を早くして相乗り排除をすることが有効です。
また相乗りをされてない場合であっても、 ブランド登録が遅くなると、相乗りされる可能性が高まりますので、早期審査を利用することをオススメします。
今後特徴がなくなる可能性が高いネーミングの場合、特徴がなくなる前に審査に合格できる
ネーミングの特徴があるかどうかは商標登録の審査において非常に重要なポイントです。
例えば「クラウドテック」という言葉を自分で作った場合、現在はあまり使われてなくても、メディアや SNS 等で広く使われ始めると、特徴がないとして拒絶される可能性が高まります。
そうすると、せっかく自分で作った用語が他の人にも自由に使われることになります。
それを防ぐために、早期審査をして、特徴がなくなる前に審査に合格することが有効です。
商標登録が完了した後は、差止請求権が発生しますので、自由に使われることを防止できます。
早期審査のデメリット
早期審査のデメリットは3つあります。
- 権利範囲が狭くなる可能性がある
- 適切な商品・サービスを記載できなくなる可能性がある
- 弁理士に依頼する場合は費用がかかる
権利範囲が狭くなる可能性がある
早期審査は後述する一定の条件のもと、認められます。
そこでは、商品・サービスを限定することを求められることがありますので、権利範囲が狭くなる可能性があります。
適切な商品・サービスを記載できなくなる可能性がある
上記と同じ理由で、商品・サービスを限定することにより、適切な商品・サービスを記載できなくなる可能性があります。
例えば、「被服の小売」と「車いすの小売」の2つの小売サービスの権利を取得したい場合は、「被服の小売」※は早期審査として特定のサービスとして認められる記載方法ですが、「車いすの小売」は認められません。
その場合は、「車いすの小売」の権利は諦めるか、早期審査を諦めるしかないことがあります。
※「被服の小売」は正確には「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と記載します。
弁理士に依頼する場合は費用がかかる
弁理士に依頼する場合は弁理士手数料(約2〜4万円)がかかります。特許庁に支払う費用は0円です。
早期審査の条件
早期審査は下記の2つの条件を満たせば認められます。
- 出願人が商標を使用していること
- 願書に特定の商品・サービスを記載していること
商標を使用していること
「商標を使用している」とは、例えば下記のようなことをいいます。
- ホームページに商標を記載している
- 商品パッケージに商標を記載している
- 請求書や見積書に商標を記載している
ここでの「使用」は商標法に定義があるものです。一番オススメの使用の証明方法は、ホームページに商標を記載していることを証明する方法です。
ホームページはキャプチャを取れば良いので、証拠として用意するのは楽だからです。
願書に特定の商品・サービスを記載していること
商標登録するには、願書にどの商品やサービスで権利を取るか記載します。
その商品・サービスの書き方は基本的には自由なのですが、早期審査が認められるためには下記にあるような特定の商品・サービスを記載しなければなりません。
- 類似商品・役務審査基準
- ニース分類
特定の商品・サービスを満たしているかどうかは、J-PlatPatの商品・役務名検索のページで確認できます。
データ種別の「基」「N」にチェックを入れると、特定の商品・サービスを満たしたもののみが検索できます。
検索キーワードの「商品・役務名」を「被服」というキーワードで検索した結果です。
その他の条件
上記で示した条件以外にも、 様々な条件で早期審査が認められることがあります。
しかし、条件が厳しかったり、証拠が多くなる可能性が高いため、まずは上記の条件を検討しましょう。その他の条件は下記の通りです。
- 第三者が出願商標を無断で使用(使用準備)している
- 出願商標の使用(使用準備)について第三者から警告を受けている
- 出願商標について第三者から使用許諾を求められている
- 出願商標について日本以外にも出願中である
- 早期審査の申出に係る出願をマドプロ出願の基礎出願とする予定がある
早期審査の申請方法
早期審査を申請方法は、弁理士に依頼するか、自分で行う方法があります。
早期審査は複雑で専門知識が必要ですので、基本的には弁理士に依頼することをオススメします。
弁理士に早期審査を依頼する場合
弁理士に早期審査を依頼する場合は、その旨を伝えれば大丈夫です。
依頼するタイミングですが、商標調査と同時に早期審査を希望してることを伝えましょう。
なぜなら、早期審査がそもそもできるかの判断や、商品・サービスの記載を出願前に検討する必要があるからです。
自分で早期審査を行う場合
特許庁の商標早期審査・早期審理の概要を参照して、条件や雛形を確認しましょう。 「早期審査に関する事情説明書」を提出する必要があります。
引用:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/soki/document/index/201812guide.pdf
早期審査のよくある質問
Q1 まだ商標をホームページなどで使用していませんが早期審査は認められますか?
認められません。
そのため、何かしらのホームページを作ることをオススメします。今では無料でホームページを作るサービスが多くあります。
ホームページで出願する商標を記載して、商品・サービスの販売を開始すると早期審査が認められます。
Q2 出願した商標と、実際に使用している商標が大文字・小文字で違う場合に早期審査は認められますか?
認められます。
その他にも、認められる場合、認められない場合の一覧です。
引用:https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/document/shkouhou_q_a/example-doitsu.pdf
Q3 出願した後でも早期審査は申請できますか?
できます。
ただし、審査の一次結果が返ってくるまでです。
例えば、出願してから4ヶ月後に早期審査を申請することも可能です。その場合は、早期審査が認められると、速やかに審査の結果が通知されます。
Q4 類似の商標が先に出願されていた場合、早期審査をすると先に権利を取得できますか?
できません。
早期審査はあくまでも審査を早くするだけであり、類似の商標については原則通り出願日が早い人に優先的に商標登録が認められます。
まとめ
いかがでしょうか。商標の早期審査は、通常8ヶ月かかる審査期間が約2ヶ月になることで、非常にメリットが多い制度です。ぜひ活用していただければと思います。
具体的なメリット
- ネーミング変更をすべきかどうか早くわかる
- 早期に他社にやめろという警告ができる
- Amazonセラーの場合は、ブランド登録が早くできる
- 今後特徴がなくなる可能性が高いネーミングの場合、特徴がなくなる前に審査に合格できる