大事な商品のブランドを表すネーミングやロゴ。
無事に商標登録完了!と思っても、実は、気を付けていないと商標権が取り消されてしまう場合があります。
商標登録した商標(登録商標)を指定した商品・サービスについて実際に使用していないと、その商標権は取り消されてしまう、という仕組みがあるのです。
この仕組みを「不使用取消審判」といいます。
この記事では、この「不使用取消審判」とはどういうものなのか? 実際に起こった場合のチェックポイントは? などの疑問を解消します。
目次
商標の不使用取消審判とは?
商標の不使用取消審判とは、カンタンにいうと、次のような制度です。
- 登録商標を3年使用していないと取り消される制度
- 商標制度の趣旨は、商標そのものではなく、商標に貯まった「信用」を保護すること
- 実際に使用していない商標は、信用が貯まらず、保護する必要はない。そのため、取り消しができるようになっている
商標登録出願をして正式に商標登録された後、3年以上その商標を権利者が使用していなかった場合には、誰でもその商標登録を取り消しを求める手続きをすることができます。
この “使用されていないから商標登録を取り消してね” という手続きを「不使用取消審判」といいます。
商標制度は、ネーミングやロゴなどの商標そのものを保護するためではなく、商標が実際に使用されることで蓄積された「信用」を保護するためにつくられた制度です。
商標が使用されていなければ保護すべき信用が貯まっていないはず。 “それならもう商標登録で守ってあげる必要はないでしょう” ということで、不使用取消審判の制度が設けられているのです。
登録商標を使用しているかどうかが問われるのは、商標登録するときに指定した商品・サービス(指定商品・役務)です。
たとえば、指定商品が「洋服」だった場合には、その商標を「洋服」に使用していたかどうかが問われます。
商標権者が「洋服」について直近3年以内に登録商標を使用していたことを証明できれば、「洋服」についての商標登録は取り消されずにすみます。
一方、「洋服」には登録商標を使用しておらず、「靴」にしか使用していませんでした・・・ということになると、「洋服」ついての商標登録は取り消されてしまうのです。
なお、登録商標を3年以上使用していなかったとしても、自動的に商標登録が取り消されてしまうわけではありません。
あくまでも、誰かが不使用取消審判の手続きをしたら、(審査を経て)取り消されてしまう、ということです。
不使用取消審判は誰ができる?
不使用取消審判の手続きは、なんと「誰でも」することができます。
その商標登録があるから困っているといった事情(利害関係)がなくても、商標登録の取り消しを求めることができるのです。
不使用取消審判はいつできる?
不使用取消審判の手続きは、取り消したい商標の登録日から3年経った後にすることができます。
商標を実際に市場で使用するためには、いろいろと準備したり、タイミングを図ったりするのが通常です。
商標登録になってから3年も経たないうちに取り消しできてしまうと、さすがに商標権者にとって酷です。そのため、登録日から3年以上経過した後でないと、不使用取消審判ができないようにしてあるのです。
審判請求書の書き方
商標登録を取り消すために不使用取消審判を起こしたいときは、所定の「審判請求書」を特許庁に提出します。
審判請求書の書き方は、特許庁のHPのここにまとまっていますので、チェックしてみましょう。
審判請求書自体は定型的な書面なので、書面作成の難易度はそれほど高くはありません。
(ただし、そもそも取り消せるかどうか?などの判断は専門的になってきます)
不使用取消審判の費用
不使用取消審判を起こす費用は、以下の通りです。
弁理士費用については、依頼する弁理士によって異なります。
取り消しを求める区分数 | 印紙代 | 弁理士費用※ |
1 | 55,000円 | 10〜20万円 ※別途、成功報酬がある場合も |
2 | 95,000円 | 20~35万円 |
3 | 135,000円 | 30~50万円 |
4区分以降 | 15,000 + ( 40,000 × 区分数 ) 円 | 40万円~ |
攻撃側(取り消したい側)のチェックポイント
不使用取消審判では、権利を取り消したい指定商品を選ばなければいけない仕組みになっています。
たとえば、その商標登録の指定商品が「洋服,靴」の2つだった場合、「洋服」だけ取り消すのか、それとも「靴」だけか、あるいは「洋服」と「靴」の両方を取り消すのか、を決めなければなりません。
不使用取消審判をする上で最も大事なことは、この「何を取り消すか」という戦略です。 なぜなら、取り消しを請求した指定商品すべてについて取り消しが成功しなければ、不使用取消審判全体が失敗になる仕組みになっているからです。
たとえば上の例でいうと、対象の商標登録の指定商品は「洋服,靴」の2つです。もし「洋服」と「靴」の両方について取り消しを請求した場合、商標権者が「洋服」と「靴」の両方とも登録商標を使用していたことを証明できなければ、その不使用取消審判は取消成功。すなわち、「洋服,靴」の両方の権利が取り消されます。
一方、もし商標権者が「洋服」については商標の使用を証明できなかったものの、「靴」については証明できた場合、取り消しを請求していた指定商品(「洋服」と「靴」)のすべてについて取り消しが成功していないので、不使用取消審判全体が失敗、すなわち、なんと「洋服」と「靴」のどちらも取り消し失敗という扱いになるのです。
このため、不使用取消審判で商標登録を取り消そうとする際は、「取り消せそうな指定商品(商標を使っていなさそうな指定商品)」を見極めることがポイントになります。無闇に行うと、本来取り消せたはずの権利も取り消しに失敗してしまいます。
また、取り消しに失敗した場合、もしあなたがその取り消そうとした商標権に抵触する行為をしていると、商標権侵害訴訟というカウンターパンチを喰らう可能性もあります。不使用取消審判はこのようなリスクもあるため、行う際は慎重に検討しましょう。
ここでは、そのチェックポイントを紹介します。
- 取り消したい商標登録は登録日から3年以上経っているか?
- 他に取り消さなければいけない商標登録はないか?
- Google検索などで事前調査したか?
- 取り消す指定商品は必要最小限にしたか?
- 商標登録出願も同時にしているか?
⒈ 取り消したい商標登録は登録日から3年以上経っているか?
不使用取消審判の手続きは、取り消したい商標の登録日から3年以上経った後でなければできません。
もし3年経過前に不使用取消審判を起こしても却下されてしまいますので、必ず事前に確認しましょう。
2. 他に取り消さなければいけない商標登録はないか?
不使用取消審判を起こそうとするからには、他人の商標登録を取り消したい理由があるはずです。
典型的な例を挙げましょう。あなたは『ABC』という商標を登録したいと思っているが、先にX社が『ABC』を商標登録している。このX社の商標登録『ABC』が邪魔になっていて、これを取り消さないとあなたが商標登録できない、というケースです。
この場合、X社の商標登録『ABC』に対して不使用取消審判を起こすところですが、ここで注意すべきは、「取り消すのはX社の『ABC』だけで足りるのか?」という点です。
もし、X社の『ABC』だけでなく、Y社が『abc』を商標登録をしていたとしたらどうでしょうか? この場合、あなたが『ABC』を商標登録できるようにするためには、X社の『ABC』だけでなく、Y社の『abc』も取り消さないといけないかもしれません。
もしそうであれば、たとえX社の『ABC』に対する不使用取消審判が成功したとしても、当初の目的(あなたが『ABC』を商標登録すること)は達成できないということになります。
このように、不使用取消審判を起こそうとするときは、他に取り消さなけれないけない商標登録はないか? をよく確認することが大切です。
3. Google検索などで事前調査したか?
不使用取消審判によって商標登録が取り消せるかどうかは、その商標の権利者※が直近3年以内に登録商標を使用していたかどうか、で決まります。
そのため、不使用取消審判を起こす前に、少なくともGoogle検索などで「その登録商標が使われていそうか?」を調べましょう。
慎重にいくならば、専門の調査会社(探偵会社など)に「商標の使用状況調査」を依頼すべきことになりますが、最近は、インターネット上である程度情報集ができることも多いため、まずは自分でインターネット検索で調査することも重要です。
ただし、BtoB の商品など、分野によってはインターネット上に表れない形で商標が使用されていることもありますので、その点は留意しておく必要があります。
また、単にその登録商標が使われているかどうかだけでなく、権利を取り消したい指定商品について商標が使われているかが重要になりますので、何の商品・サービスにその商標が使われているかもよく調べるようにしましょう。
※ここでいう「権利者」には、商標権者だけでなく、商標権者から商標の使用許諾を受けた者(いわゆるライセンシー。法的には専用使用権者・通常使用権者といいます)も含まれます。商標権者自身は登録商標を使用していなかったとしても、ライセンシーが使用していた場合には、不使用取消審判は失敗となりますので、商標の使用状況を調査するときは、この点も留意が必要です。
4. 取り消す指定商品は必要最小限にしたか?
上で説明をしたように、不使用取消審判は、取り消しを請求した指定商品すべてについて取り消しが成功しなければ、不使用取消審判全体が失敗になる仕組みになっています。
そのため、本当に取り消さなければならない指定商品を見極め、その指定商品についてだけ取り消しを請求することがとても大切です。
たとえば、「洋服」だけを取り消せば自分の事業は満足するのに、不用意に「靴」までも取り消そうとしてはいけません。なぜなら、権利者が「洋服」については商標の使用を証明できなくても 、「靴」についての使用は証明できるかもしれません。もし「靴」についての使用を証明されてしまったら、本来取り消せたはずの「洋服」の権利も取り消し失敗になってしまうからです。
5. 商標登録出願も同時にしているか?
不使用取消審判を起こす目的にもよりますが、セオリーとしては、不使用取消審判を起こすだけなく、同時に、自分が権利を取りたい商標を出願しておくことが大切です。
単に他人の商標登録を取り消しただけでは、一時的には邪魔な権利が無くなりますが、また別の人が似たような商標を先に登録してしまうおそれがあります。
もしそうなってしまうと、せっかく取り消したのに、また邪魔ができてしまうことになります。
そのため、並行して自分で商標登録出願をしておき、また別の人に商標登録されてしまうことを防ぐことが大切です。
防御側(取り消される側)のチェックポイント
次は、不使用取消審判の防御側(取り消される側=商標権者)です。もし突然、不使用取消審判の知らせがあっても、焦ってはいけません。
ここでは防御側のチェックポイントを紹介します。
- 請求人の確認をする
- 少しでも使用していないか社内で調査する
- ライセンス先が使用していないか調査する
- 交渉できないかを検討する
- もし不要であればそのまま放置するのも手
1.請求人の確認をする
まずは、不使用取消審判の請求人(起こした人)が誰かを確認しましょう。
起こした人(会社)の名称や住所はもちろん、それらの情報を元にインターネット検索をして、情報収集します。
特許庁の商標検索サイト(J-PlatPat)などで、その人が最近どのような商標登録出願をしているかを調べることも重要です。
もし、不使用取消審判と並行して、あなたの登録商標(取り消しを請求されている商標)と似たような商標を出願していたら、不使用取消審判を起こしてきた意図が推測できます。
2.少しでも使用していないか社内で調査する
商標登録の取り消しを防ぐためには、あなた(商標権者)がその登録商標を実際に使用していたことを証明する必要があります。
そのため、過去にその商標を使用していないか社内で調査をしましょう。
証明が必要なのは、取り消しを請求されている指定商品についての直近3年以内の商標使用事実です。
「証明」が必要ですので、単に「商標を使用していました」と主観的に主張するだけではだめです。商標を使用していたことを客観的に示す物証(証拠資料)が必要です。
たとえば、以下のようなものも有効な物証になり得ます。こういうときのためにも、日頃から、登録商標の使用事実を示す資料を保管しておくことが大切になってきます。
- ホームページ
- チラシ
- 請求書
- 見積書
3.ライセンス先が使用していないか調査する
商標登録の取り消しを防ぐためには、その商標の権利者(あなた)が商標を使用していたことを証明しなければなりません。
ただし、もし商標権者自身が使用していなかったとしても、商標権者から商標の使用許諾を受けた人(ライセンシー)が使用していたことを証明できた場合にも、商標登録の取り消しを防ぐことができます。
そのため、自社が登録商標を使用していたかどうかだけでなく、商標ライセンスをしていたかどうかも確認することが大切です。
なお、ライセンシーによる証明をする場合でも、不使用取消審判の手続に直接対応しなければならないのはあくまでも商標権者自身になりますので、この点は注意が必要です。
4.交渉できないかを検討する
不使用取消審判の中で真っ向勝負するやり方だけでなく、請求人(不使用取消審判を起こした人)に交渉を持ちかけるやり方もあります。
たとえば、
- 不使用取消審判を取り下げてくれたら、商標ライセンスをしますよ
- あなた(請求人)は私の登録商標と似た商標を使っているようなので、このままだと侵害訴訟をするつもりだけど、不使用取消審判を取り下げてくれたら訴訟はしませんよ
といった交換条件を持ちかけるといったことが考えられます。
請求人も何か意図(不使用取消審判によって実現したいこと)があるはずですので、その意図を汲みながら上手に交換条件を持ちかけることが、交渉成立のポイントになります。
5.もし不要であればそのまま放置するのも手
特に不要な権利の場合は、調査の時間やコストをかけずに放置するのも手です。 何もせずに放置した場合は、そのまま不使用取消審判の審理が進行し、請求どおり商標登録が取り消されます。
取り消されるのはちょっと悔しいかもしれませんが、実利を取って他のことに時間を使う方が良いときもあります。
まとめ
最後に、ここまでのまとめです。
- 不使用取消審判とは、登録商標を3年使用していないと取り消される制度
- 攻撃側のチェックポイント
- 取り消したい商標登録は登録日から3年以上経っているか?
- 他に取り消さなければいけない商標登録はないか?
- Google検索などで事前調査したか?
- 取り消す指定商品は必要最小限にしたか?
- 商標登録出願も同時にしているか?
- 防御側のチェックポイント
- 請求人の確認をする
- 少しでも使用していないか社内で調査する
- ライセンス先が使用していないか調査する
- 交渉できないかを検討する
- もし不要であればそのまま放置するのも手
不使用取消審判は少し高度な制度ですが、うまく利用すれば商標戦略が広がります。また、長くブランドを守るためには、よく知っておきたい知識です。
この記事で紹介したポイントがお役に立てば嬉しいです。