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モガンボ両津・麗子…普通名称化した商標をこち亀キャラから教わる

こち亀記事として初めて「商標」を取り上げます。こち亀は40年の歴史の中で様々なお話が描かれ、その内容は実に多岐にわたるもの。誰もが関わる日常の出来事からフィギュア玩具といったマニアックなネタまで網羅されており、現実世界で登録されている「商標」も多く登場します。そう、こち亀から学べるのは特許だけではないのです。(関連記事:こち亀は時代を先取りする?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.1-

そこで本記事では、「普通名称化した商標」について、関連するこち亀のお話を振り返りつつ紹介していきます。普通名称化した商標とは、「様々な人々が使用することによって、その業界の一般的な名称であると広く認識されてしまった商標」を指します。

今回は普通名称化の代表的な例である「正露丸」含め、計15件をこち亀とともに眺めていきましょう。身近な名前が多く登場しますので、是非サラッとお楽しみください。

こちらが15件のリストです。巻数や関連キャラの情報から、どのお話か想像がつくでしょうか?なお、商標の名称そのものがこち亀に登場していないケースもあります。その場合は関連するお話を取り上げました。

目次

■裁判所にて「普通名称だね」と判断された商標12件

一度登録された商標がそのあとに普通名称となったとしても、今の商標法では無効理由にはならず、登録が取り消されることはありません。

ただ、普通名称には商標権の効力が及ばないため、商標権が残っていても、もはや他人の使用を禁止することはできないのです。(参考:パテント2020 Vol.73 No.15 「普通名称化と防止措置」

自社製品名が世の中に広く認識されることは、マーケティング上で好ましいもの。しかしあまりに広く普及してしまうと、そこには「普通名称化」という罠が待ち構えているのです。

以下、訴訟の場において「これは普通名称だね」と裁判所に判断されてしまった商標の例を紹介していきます。特に面白いお話を選んで紹介・・と思ったものの、見つけてしまった以上は全て掲載したいところ。長くなりましたが、全件を記載しました!是非お楽しみください。

① 1970年判決 普通名称化した商標「雷おこし」

1件目は「雷おこし」です。昭和11年に商標登録出願された以下商標は、「雷おこし」「浅草雷門角」といった文字や雷神等の図形から構成されています。出願人は、「株式会社常盤堂雷おこし本舗(HP)」です。明治の中頃より現在の場所(雷門横)に店舗を構え、「雷おこし」を長年にわたり製造販売されています。

商標登録第339068号
(出願日:1936.2.25)

下町を代表する銘菓である雷おこし。下町を舞台として40年間続いたこち亀に登場しないはずがありません。複数の巻にて登場しますが、ここでは以下お話を紹介します。

両さんの長崎旅行②の巻(コミック36巻, 1985年)

長崎の警察署から呼び出された両津。まずは麗子の車で大阪まで送ってもらい、大阪の警察署の知り合いである「梅田」を訪ねます。警察署の手前で車から降りたところ、以下コマの登場です。

コミック36巻 P124 より
(両さんの長崎旅行②の巻)

「元祖東京名物 雷おこし」がしっかりと確認できます。結構な大きさですが、「各県警察用に用意してきた」とのこと。東京名物といえばやはり「雷おこし」なんですね。警察署内で梅田に渡したところ、喜ばれていました。

その後梅田にフグをご馳走してもらいつつ、長崎までパトカーで連れてってくれとお願いをする両津。しかし断られてしまったため、次の手として本田を召喚します。そして本田のバイクに乗って広島付近まで来たところ、知り合いを装って見ず知らずのおじいさんの家に泊めてもらうシーンがこちら。

コミック36巻 P151 より
(両さんの長崎旅行③の巻)

2つ目の「雷おこし」が登場!見ず知らずの相手に強引過ぎます。しかし心優しいおじいさんは、二人を受け入れて飲み明かすのでした。

(参考情報)
「雷おこし」について(常盤堂雷おこし本舗 HP)
(事件)
昭和45年7月22日, 知財高裁 昭和41(行ケ)24(全文PDF
昭和50年4月8日, 最高裁 昭和45(行ツ)95(全文PDF

② 1971年判決 普通名称化した商標「正露丸」

2件目は「正露丸」です。大幸製薬が1946年に薬商「中島佐一薬房」より「忠勇征露丸」の製造・販売権を継承し、「正露丸」としてビジネスを進めてきました。1952年に商標登録出願(1959年登録)を行うものの、1971年の裁判にて普通名称であると判断されてしまいます。

商標登録第545984号
(出願日:1952.1.11)

ところで正露丸の当初の名前である「征露丸」は、1904年の日露戦争時に陸海軍に配布されていたとのこと。正露丸は軍薬だったのですね。その歴史はこち亀においても反映されています。

東京留学⁉の巻(コミック35巻, 1985年)

千葉と埼玉の間にある「度井仲県」から芋頭巡査が研修に来て、指導担当として両津が面倒をみることに。「度井仲県」では、世の中でまだ戦争が続いていると勘違いして、村中が戦闘状態にあったとのことです。芋頭巡査は、度井仲署における最新式の銃である三八式歩兵銃を携えています。

2人で外を「警ら」していたところ、芋頭巡査は踏切にて新幹線にはねられてしまいます。そして身体を痛めた芋頭巡査の発言がこちら。

コミック35巻 P75 より
(東京留学⁉の巻)

「あれがきくのに・・・」として、「正露丸」の登場です。外傷にも効くのでしょうかね。20銭を渡されたときの両津の表情が印象的です。

(参考情報)
正露丸あれこれ話 製品ヒストリー(大幸薬品 HP)
(事件)
昭和46年9月3日, 知財高裁 昭和35(行ナ)32(全文PDF

③ 1990年判決 普通名称化した商標「ドロコン」

3件目は「ドロコン」です。藁すさを混ぜた土のことを泥コンと呼び、壁材として使われています。

商標登録第1313955号
(出願日:1970.4.3)

肉体派マジシャン⁉の巻(コミック80巻, 1993年)

こち亀には「ドロコン」の名称は登場しませんが、レンガ造りの壁は出てきます。例えば、「壁のすり抜け」で有名なマジシャンであるピエール西川口と両津がマジックの共演を行うお話です。ピエール西川口による壁抜けマジックは「カーテンに隠れた中で、スコップで地面を掘って壁の向こう側へ行く」というものでしたが、TV リポーターの要望に応えてカーテン無しで披露することに。

ピエール西川口の耳元で2万円を要求しつつ、代理で両津が実演するシーンがこちら。

コミック80巻 P39 より
(肉体派マジシャン⁉の巻)

強引に壁を破壊して見事にすり抜け成功です。ブラジルから来た(とされている)「モガンボ両津」は、その後マスコミに驚異の人物として取り上げられ、様々な無茶なチャレンジをこなしていきます。

(事件)
平成2年11月30日, 名古屋地裁 昭和61(ワ)1394

④ 1991年判決 普通名称化した商標「FLOORTOM」

4件目は「FLOORTOM(フロアタム)」です。ヤマハによって1975年に商標登録出願された、ドラムの名前です。

商標登録第1373053号
(出願日:1975.11.27)

ヤマハ HP より

「FLOORTOM(フロアタム)」は1978年に登録となったものの、河合楽器製作所が黙っていませんでした。打楽器業界において普通名称であるとして、当該登録商標は無効であると訴えたのです。そして最終的には、裁判において「普通名称だね」ということが判示されました。

派出所バンド結成!!の巻(コミック102巻, 1997年)

こち亀ではどの場面で出てくるでしょうか?バンド関係で探っていったところ、派出所の関係者でバンドを結成するお話を見つけました。亀有商店街のイメージソングを作るべく、メンバーを探している場面。両津から「ジョディ―も歌 上手だったよな」との発言があった後、以下のコマが描かれています。

コミック102巻 P49 より
(派出所バンド結成!!の巻)

ありました!とても小さくですが、左のコマ中央付近に「フロアタム」が描かれています!その後、中川の人脈により世界的アーティストも結集し、商店街で流すものとしては豪華すぎるイメージソングが完成するのでした。

(事件)
平成3年6月20日, 東京高裁 平成2(行ケ)150(全文PDF

⑤ 1997年判決 普通名称化した商標「うどんすき」

5件目は「うどんすき」です。「うどんすき」とは、うどん入りのすき焼きではありません。お肉や海鮮、野菜などたくさんの具材をうどんと煮込んだ、大阪名物のお鍋料理です。

ここでは、①の「雷おこし」にも登場した大阪のシーンを紹介します。長崎へ向かう途中で大阪の警察署の知り合い(梅田)を訪ね、一緒に食事をする場面です。

両さんの長崎旅行②の巻(コミック36巻, 1985年)

コミック36巻 P128 より
(両さんの長崎旅行②の巻)

フグを食べるべく入ったお店「当り屋」にて、梅田と一緒にお鍋を食べます。見たところかなりの具だくさん。しかし残念ながら・・・うどんを食べる描写はありません。たくさんの具材とともにうどんを煮込み、「うどんすき」を楽しんだと想像しておきましょう。

(事件)
平成9年11月27日, 知財高裁 平成9(行ケ)62(全文PDF

⑥ 1999年判決 普通名称化した商標「システムダイアリー」

6件目は「システムダイアリー」です。指定商品「日記欄付き手帳」として、1968年に商標登録出願されました。(1972年登録)

商標登録第976985号
(出願日:1968.12.2)

こち亀において手帳は度々登場します。ここでは、システム手帳として欠かせない要素である「バインダーが付いており、用紙の交換が可能」な手帳が登場するコマを紹介します。システム手帳が描かれるとしたらタブレット端末やスマートフォンが普及し始める前(~2010年)である可能性が高いと考えて探したところ、以下のお話を見つけました。

ハイパー運動会!の巻(コミック136巻, 2003年)

両津に対して大原部長がお願いをするシーンからお話が始まります。そのお願いは、溺愛する孫(大介)の運動会に代理として父兄参加してくれというもの。大原部長から「どうせお前ヒマだろ!」と煽られた両津は、スケジュールを確認(するふりを)します。

コミック136巻 P149 より
(ハイパー運動会!の巻)

両津が確認する手帳にはバインダーが描かれており、これは正しくシステム手帳と思われます。2003年当時は携帯電話が普及し始めてきたものの、まだスケジュール管理はアナログの手帳を用いることが主流だったようですね。その後大原部長からお金を受け取り、運動会にて大活躍するのでした。

(事件)
平成11年5月14日, 東京地裁 平成10(ワ)18387

⑦ 2001年判決 普通名称化した商標「カンショウ乳酸」

7件目は「カンショウ乳酸」です。ph調製剤として幅広く使用される、乳酸と乳酸ナトリウムを配合した食品添加物です。

武蔵野化学 HP より

いくらコミック全200巻を誇るこち亀でも、「カンショウ乳酸」の単語を探すのは無謀・・。そこで今回は、「カンショウ乳酸」の主な用途である「パン」と「麺類」が登場するお話を紹介します。単独であれば、それぞれ様々なお話が思い浮かびます。日暮が好む三色パン(コミック100巻)。両津が一人でログハウスを建築中に女性署員から差し入れされるコッペパン(コミック88巻)。両津が経営コンサルとしてお店を再建させるそば屋(コミック47巻)などなど。

選定に悩んだ結果、1コマにてパンと麺類の両方が登場するお話を抽出しました。

スイーツマカロンの巻(コミック171巻, 2010年)

麗子ら婦警が販売する手作りケーキが署員に大好評。そこに便乗して、両津は様々なパンを開発します。そして「キムチチャーハンパン」に続き、両津がドヤ顔で紹介するパンがこちら。

コミック171巻 P18 より
(スイーツマカロンの巻)

ラーメンパン!麺や具とともに、ゼリー状にした特製汁を仕込んでいます。意外な組み合わせかと思いきや、美味しそうですね。300円にて購入して食した署員曰く「ヤキソバパンよりうまい!」とのこと。

(事件)
平成13年10月31日, 平成13(行ケ)258(全文PDF

⑧ 2002年判決 普通名称化した商標「SAC」

8件目は「SAC」です。袋状のものを示す単語です。1993年に商標登録を受けたものの、2002年の裁判において「普通名称だね」と判示されました。

商標登録第2701718号
(出願日:1982.12.23)

紹介するこち亀は、リュック ”サック” が関わるお話です。リュックサックは上述の①雷おこしにも登場しますが、ここではタイトルに「リュックサック」が含まれるお話を抽出しました。

ハイパーリュックサック⁉の巻(コミック104巻, 1997年)

警察がGPS機能やカメラ機能を有する「災害時情報端末」を試作。測定のモニターとして選ばれた両津・中川・麗子は、当該端末を背負ったままパーティや高級レストランでのデートをこなすことに。

コミック104巻 P137 より
(ハイパーリュックサック⁉の巻)

スマートフォンが普及した現代においては考えられない代物ですね。もしかしたら秋本先生は、世の中に出始めた製品やビジネスのコンセプトをギャグとして表現することで、PoC(Proof of Concept:概念実証)のきっかけを提供されていたのかもしれません。

(事件)
平成14年1月30日, 東京高裁 平成13(行ケ)249(全文PDF

⑨ 2002年判決 普通名称化した商標「巨峰」

9件目は「巨峰」です。1954年に商標登録出願され、1955年登録。現在は「株式会社日本巨峰会」が権利を保有しています。「巨峰」は、濃い紫色をした巨大な甘い葡萄を表す商標として長く君臨しました。しかしその有名さ故に、2002年の判決にて「普通名称だね」との判断に至りました。

商標登録第472182号
(出願日:1954.11.6)

「巨峰」程の著名な果物であれば、こち亀にも必ず登場するはず。病気で寝込んでいる轟へお見舞いの品として両津が持って行った果物?・・それは10円で買った、腐ったメロン(コミック26巻:ガンコ電車の巻)。千葉の農園で両津達が食べ尽すもの?・・あれは苺やキュウリやメロン(コミック136巻:恐怖のイチゴ狩り!!の巻)。「巨峰」が出てくるお話を探すのは意外と難航しました。

そして淡い期待を抱きながら確認した以下お話にて、とうとう発見しました。

恐怖のバイオ革命⁉の巻(コミック63巻, 1990年)

バナナの皮で滑った車が事故を起こしたとの一報を受け、両津と中川が事故現場へ。事故車の横にあったものは、人間と同等以上の大きさがあるバナナの皮でした。これは近くにある「バイオ研究所」で作られた巨大果物だったのです。研究所の中には、ナスやトマト等、巨大化した様々な野菜や果物が横たわっています。そして動物用の増強剤を池の中へ全てこぼしてしまった後のコマがこちら。

コミック63巻 P29 より
(恐怖のバイオ革命⁉の巻)

巨峰がありました!掃除をする博士の背後に、艶やかで大きな粒が密集した美味しそうな房が描かれています。これは紛れもなく「巨峰」です。美味しそうですね。

(事件)
平成14年12月12日, 大阪地裁 平成13(ワ)9153(全文PDF
平成15年6月26日, 大阪高裁 平成15(ネ)76(全文PDF

⑩ 2005年判決 普通名称化した商標「PEEK」

10件目は「PEEK」。ポリエーテルエーテルケトンという熱可塑性樹脂の名前であり、スーパーエンジニアリングプラスチックの一種です。7件目の「カンショウ乳酸」と同様、そのものがズバリ表現されているお話を見つけるのは至難の業…。そこで今回も、PEEK の用途に関わる品が登場するお話を紹介します。

PEEK はその素材特性を活かし、例えばスピーカーの振動板材料として用いられています。(スピーカ振動板材料 : 主要材料と技術動向 -日本音響学会誌, 2010年)そして以下パイオニア製品であるヘッドホンにおいては、ボイスコイルと振動板との間にて「PEEK 複合フィルムエッジ」が活躍。

パイオニア HP より

スピーカーやヘッドホン、そしてイヤホン等、音響分野でよく用いられる素材なのですね。音楽は万人共通の娯楽。スピーカーやイヤホン等は勿論こち亀でも数多く登場します。ここでは、ヘッドホンについての最も古い登場巻を紹介しましょう。

まずは1977年発売のコミック3巻第一話。冒頭にて以下シーンがあります。

コミック3巻 P6 より
(消えた派出所⁉の巻)

ラジカセにてロックを聴いている中川に対して両津が注意するものの、ヘッドホンを付けようとする素振りを見せない中川。このお話では、結局ヘッドホンは登場しませんでした。そしてコミック3巻を読み進めていくと・・・。

治安の戦士⁉の巻(コミック3巻, 1977年)

ヘッドホンをする中川の姿が!こちらは江戸川での訓練へ向かう警察バスの中でのワンシーン。両津と戸塚が花札を興じる横で、中川は P6 にも登場したラジカセに繋いだヘッドホンにてロックを聴いています。

コミック3巻 P155 より
(治安の戦士⁉の巻)

P6 にて両津に注意されたので、その後に購入したのかもしれませんね。そして戸塚の反応をみると、ヘッドホンは1977年当時においてまだ広く普及していなかったようです。連載当時の時代感が味わえますね。

(事件)
平成17年7月6日, 東京高裁 平成17(行ケ)10252(全文PDF

⑪ 2006年判決 普通名称化した商標「一枚甲」

11件目は「一枚甲」。三味線の演奏に用いる ”バチ” を表す言葉です。商標登録第1366281号が関わる裁判にて、2006年に「普通名称だね」と判示されました。

商標登録第1366281号
(出願日:1975.1.21)

こち亀で三味線と言えば、お琴や三味線を上手に嗜むことについて嘲笑される男性時代の麻里愛(コミック67巻)や、磯鷲早矢から三味線を教わりたい下心満載の大原部長(コミック137巻)が思い浮かびます。

ストラディバリ協奏曲!の巻(コミック85巻, 1994年)

紹介するのは、両津が幼少時代の習い事について思い出すシーンです。麗子のバイオリンの先生である巨匠「ガンディーニ先生」の来日を TV で観たことをきっかけとして、五歳当時にバイオリンを習っていた麗子や中川との生活環境の違いを目の当たりにする両津。「わしが5歳の頃はカエルの尻にストローで空気を入れて遊んでたぞ」との発言の後、三味線を習った経験を思い出します。

コミック85巻 P68 より
(ストラディバリ協奏曲!の巻)

両津とおばあさんがそれぞれ右手に「一枚甲」を持っているのが確認できます。この象牙の ”バチ” を削って「コルト45」のグリップを作成したことでおばあさんに引っぱたかれ、両津の三味線の習い事はすぐに幕を閉じるのでした。

(事件)
平成18年10月26日, 東京地裁 平成17(ワ)25426(全文PDF
平成19年9月27日, 知財高裁 平成18(ネ)10085(全文PDF

⑫ 2010年判決 普通名称化した商標「招福巻」

12件目は「招福巻(しょうふくまき)」です。招福巻は恵方巻とも呼ばれ、節分の日に食べる太巻きを意味します。昭和初期には大阪の一部地域で行われ、その後全国へと広がっていきました。

節分に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習は遅くとも昭和7年の段階で少なくとも大阪の一部地域で行われていたものであり,大阪の巻き寿司関連業界の宣伝活動によって次第に広がり,昭和の終わりころには,大阪以外の関西地方,・・・・

平成22年1月22日, 大阪高裁 平成20(ネ)2836(全文PDF

商標登録第2033007号
(出願日:1984.1.31)

「招福巻」は1988年に商標登録。そして2010年の判決にて、広告チラシや広辞苑への掲載時期等の情報を勘案すると「遅くとも平成17年(2005年)には普通名称となっていた」との判示がなされました。

したがって 「招福巻」は,巻き寿司の一態様を示す商品名として,遅くとも , 平成17年には普通名称となっていたというべきである。

平成22年1月22日, 大阪高裁 平成20(ネ)2836(全文PDF

この招福巻(恵方巻)の文化はいつ頃全国的に浸透していったのでしょうか?こち亀からも探っていきましょう。

世界中を巻き尽せ!!の巻(コミック151巻, 2006年)

2006年発売のコミック151巻に恵方巻が登場します。「恵方巻が東京でも静かなブーム」との情報を中川から聞いた両津。副業先である超神田寿司にて、寿司をアピールすべく恵方巻を節分の日の定番にさせようと企みます。

コミック151巻 P147 より
(世界中を巻き尽せ!!の巻)

2006年当時の東京において、まだ恵方巻は一般的なイベントではなかったようです。もしかしたら寿司業界等の関係者がせっせと仕掛けていた時期であり、秋本先生はその情報を新聞の片隅などで入手されたのかもしれませんね。

ところで上記判決によれば、「招福巻」は遅くとも2005年には普通名称になっていたとのこと。しかし本判決が示されたのは2010年です。つまり、こち亀にて恵方巻のお話が取り上げられた2006年よりも後。判決文には表れていませんが、もし裁判官がこち亀や少年ジャンプを愛読していたならば、普通名称であるとの心証の形成にこち亀が影響を及ぼしていた可能性があるかもしれませんね。

(事件)
平成22年1月22日, 大阪高裁 平成20(ネ)2836(全文PDF

以上、裁判所にて「普通名称だね」と判断された商標12件を紹介しました。

■特許庁にて「普通名称だよ」と判断された商標3件

最後に、特許庁にて「普通名称だよ」と判断された商標3件を紹介します。

⑬ 1982年審決 普通名称化した商標「サニーレタス」

13件目は「サニーレタス」です。1978年に商標登録出願されたものの、特許庁にて「普通名称だよ」と判断され、登録には至りませんでした。

歌えニンジン君の巻(コミック157巻, 2007年)

署長より「署員全員で野菜になるんだ」との大号令。近頃の子供達は野菜を食べないので、警察官が野菜に扮するキャンペーンを行おうというもの。署員一同、巨大な果物や野菜の被り物を身にまとっていきます。

コミック157巻 P30 より
(歌えニンジン君の巻)

一瞬見逃しそうになりますが、上記コマの右下には「サニーレタス」が!

白菜なのではないか?との声もありそうですが、白菜は別のコマに、違う着ぐるみ姿で登場していました。レタスが苦手な子供が多いということも合わせて考慮し、ここは ”コレ” をサニーレタスと認定しましょう!

(事件)
昭和57年 審判第2936号

⑭ 1987年審決 普通名称化した商標「ポケベル」

14件目は、1968年にサービスが開始された「ポケベル」です。商標登録出願されたものの、特許庁にて「普通名称だよ」と判断され、登録には至りませんでした。

こち亀にはポケベルや PHS 等のガジェットが度々登場します。ここでは話に繋がりのある2話を紹介しましょう。

ポケベル新商法!の巻(コミック99巻, 1996年)

ゲームセンターで知り合った女子高生達から頼まれて、ポケベル購入の代行をやっている両津。派出所でポケベルの受け渡しとともに、使い方を指導しています。

コミック99巻 P126 より
(ポケベル新商法!の巻)

今回は「ポケベル」という単語がストレートに出てきました。このあたり(90巻-100巻以降)から、ポケベル・PHS・パソコン等のガジェットが頻繁に登場してきますね。それぞれの時代における流行り物についてのこち亀話を読みたい場合は、その時代に発売されたコミックを確認してみましょう。

そしてこの99巻における女子高生へのポケベル販売は、後の伏線となります。

無いちっち たまごっち の巻(コミック104巻, 1997年)

たまごっちが大ブームの中、孫の「桜」から預かったたまごっち(27歳のうさぎっち)を死なせてしまう大原部長。あと2時間でたまごっちを桜へ返さないといけない中、両津が持ち前のネットワークを活用します。ここで、99巻にてポケベルを販売した女子高生150名に対して、協力を仰ぐメッセージを一斉送信するのです。

コミック104巻 P79 より
(無いちっち たまごっち の巻)

上記メッセージ送信後、本体がブルー/ピンクであり現在「うさぎっち」の姿をしているたまごっちを持つ女子高生から連絡がありました。その女子高生は、両津から「超ダッシュだぞ!」と言われてタクシーに乗り、派出所に到着。孫の桜に対して生きているうさぎっちの状態でたまごっちを無事返却し、大原部長は事なきを得るのでした。

なお、「たまごっち」は株式会社バンダイの登録商標(第4070675号 等)であり、普通名称とは判断されておりません。1996年に発売された「たまごっち」は今も新商品が開発され、世代を超えて愛されるブランドになっています。

(事件)
昭和62年 審判第15568号

⑮ 2000年取消 普通名称化した商標「さんぴん茶」

最後の15件目は沖縄のお茶「さんぴん茶」です。一度商標登録となったものの、沖縄県の業者の反発により登録取り消しとなりました。(参考:パテント2020 Vol.73 No.2「商標登録出願にかかる炎上事例に関する考察」)

両津が沖縄を訪れる複数の話を探しましたが、「さんぴん茶」はなかなか見つからず・・。諦めかけていた頃、予想外のコマにて「さんぴん茶」を発見しました。

超小型モビリティの巻(コミック187巻, 2013年)

「メイドインジャパンの底力を見せる」として、組み立てが簡単なミニ四駆風の三輪自動車を発案する両津。そして中川の会社の傘下である中川自動車にて試作車を造ることに。その中川自動車のビルの屋上に目を向けると・・。

コミック187巻 P79 より
(超小型モビリティの巻)

トラックの荷台に巨大な筒状のものが鎮座しています。首を曲げて目を凝らしてみると、そこには「沖縄県産 さんぴん茶」の文字が!苦労して探した甲斐がありました。何故さんぴん茶なのか?秋本先生にお伺いしてみたいものです。

(事件)
平成12年3月13日, 平成11年 異議第91037号

■さいごに:こち亀は商標の普通名称化と相性が良い「超一級の文化史料」

以上、普通名称15件と、関連するこち亀のお話を紹介しました。最後までお読みいただき有難うございます。この企画を考えた当初は「まぁ正露丸とかポケベルとか、すぐ見つかるものだけ紹介すればいいや~」と軽く考えていました。しかしいざサーチを始めてみると、もう止まりません。特許の調査も同様ですが、「見つからないはずがない」という感覚を持ったまま見つけずにやり過ごすことは、サーチャーとして許容できなかったです。

本記事の執筆にあたり、以下大著を参考にさせていただきました。こち亀40年の歴史を読み解く珠玉の一冊です。こち亀話のサーチ&執筆作業を進める中で、こち亀は「超一級の文化史料」であるという点を身をもって実感しました。大衆社会を40年間描き続けたこち亀は、広く一般人が認識しているか否かが争点となる「商標の普通名称化」と相性が良くないはずがありません。

そして本記事は、まさひこさんが運営する「こち亀データベース(HP)」無しでは決して実現されませんでした。各お話の概要や発売日の情報などを探るにあたり、大いに活用させていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。有難うございます。

(参考文献)
普通名称化と防止措置(パテント2020)
・『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く(稲田豊史 著, イースト・プレス)
こちら葛飾区亀有公園前派出所 データベース

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