事業をするなら、必ず付いて回る商標登録。この記事では、そもそも商標登録とは?という基本的なことから、商標登録のメリット・デメリット、気になる費用やポイント、手続きの流れ、よくある質問まで、ひとまずこれを読んでおけばOK!という内容をわかりやすく解説します。
目次
商標登録とは?
商標登録とは、商品やサービスの目印(商標)を守る国の制度の下、その目印(商標)を国に登録しておくことをいいます。
自分がビジネスにおいて使うネーミングやロゴマークのような商標を国に登録しておくことで、国から「商標権」という法的な独占権が与えられるので、その商標を使うビジネスを守ることができます。
商標登録の例
具体的に、いくつか商標登録の例を見てみましょう。
普通の書体の文字、シンボルマーク、シンボルマーク+文字からなるロゴマーク、特殊な書体の文字など、いろいろな形で商標登録がされていますね。
①文字商標
商標登録第1758671号
権利者:アップル インコーポレイテッド
②図形商標
商標登録第4039298号
権利者:トヨタ自動車株式会社
③結合商標
商標登録第4656162号
権利者:オリックス株式会社
④特殊な書体の文字商標
商標登録第6139062号
権利者:株式会社ヤプリ
世界的なグローバル企業からスタートアップ企業、B2CからB2Bまで、さまざまな企業が商標登録していることがわかります。
そもそも、商標とは?
商標とは、一言でいうと商品やサービスの目印です。
一般的には、商標=ネーミングやロゴマーク、という理解がされているかもしれませんが、実はこれは商標の本質を捉えていません。
商標の本質とは、「商いの標(しるべ)」と書くように、商売をするときに
「この商品は〇〇さんが売っている商品だ」
とか、
「このマークが付いている商品を前にも見たけど、これも同じマークが付いているので同じところが出している商品に違いない」
と、その商品やサービスがどこが出しているものなのか(=商品・サービスの出所)を識別するための目印になることなのです。
ですから、この目印としての機能を果たすものであれば、ネーミングやロゴに限らず商標になり得ます。
近年の法改正により「音の商標」(例:正露丸のラッパのメロディ)や「色彩のみからなる商標」(例:MONO消しゴムの青・白・黒の3色カラー)などが商標登録できるようになりましたが、これは、音や色であっても、それだけで商品・サービスの出所を識別する目印としての機能を果たせるくらい有名になれば、立派な「商標」となるからなのです。
全国の商標登録の数
日本では、どのくらいの数の商標登録があるのでしょうか?
商標登録と一口に言っても、特許庁に商標登録の出願(申請)がされてまだ審査中のものと既に登録になったものがあるのですが、
- 年間19万件の新規出願(2017年)
- 登録され権利存続中の商標数は400万件(本記事執筆時点)
このくらいの数があります。
新規出願の数は、2009年では年間11万件だったものが、2017年までの間に年間19万件まで急増しました。増加しているのにはさまざまな背景がありますが、市場の成熟化によりブランドの重要性が高まっていることや、商標登録サービスの多様化により以前より商標登録が身近なものになったということも要因の一つとしてあるでしょう。
また、商標登録は、更新という手続により半永久的に権利を存続させることができるので、登録された商標の数が増えていきやすいというのも特徴です。そのため、どんどん増えていく商標の中で自分の商標を確立していく必要があるのです。
なぜ、商標登録する必要があるの?商標登録の目的
ではなぜ、商標登録をする必要があるのでしょうか?
その主な理由は次の2つです。
- ブランド保護のため
- 事業継続のため
1.ブランド保護のため
1つは、企業ブランドや商品ブランドを保護するためです。
商標は、その企業の商品やサービスであることを示す目印ですから、消費者が企業自身や商品・サービスのブランドを記憶・想起する装置としての役割も果たします。
いわば、商標はブランド(信用)が貯まる受け皿であり、それを権利として保護できる商標登録を活用することで、あなたのブランドへのタダ乗り(模倣)やイメージ毀損を法的に防止することが可能になります。
ブランドと商標と関係については、こちらの記事で深掘りをしていますので、ぜひご参照ください。
2.事業継続のため
もう一つは、その商標を使って行う事業を継続できるようにするためです。
事業継続のためには、まず第一にその事業自体が市場で生き残れる優れたものである必要がありますが、事業は必ず商標(他者の事業と区別する目印)を伴って行われます。また、その事業は、商標を介して消費者に記憶されます。
ですが、もし他人が似たような商標を先に登録してしまった場合、商標権の効力により、あなたは自分の商標をその事業に使えなくなってしまいます。また、早い者勝ちの制度なので、商標登録ができなくなり、模倣者が現れても自分の力では止められなくなります。あるいは、商標を使えるようにするために権利者にライセンス料を支払ったり、相手の権利を取り消すための法的手続を執ったりしなけらばならなくなります。
そうなると、苦労して認知と信用を積み上げてきた商標の変更を迫られたり、その解決のために多大な時間とコストをかけなければならなくなるので、場合によっては事業継続自体が困難になります。特に、リソースに余裕のない中小・ベンチャー企業こそ、何としてもこの事態は避けたいところでしょう。
このように、きちんと商標登録をしておくことは、事業継続のためでもあるのです。
商標登録のメリット
商標登録の具体的なメリットとは何でしょうか?
1.使うのやめろと言える
1つは、自分の登録商標を真似してきた人に対してその商標を使うのを止めるように言えるという点です。
商標登録すると、独占権である商標権が発生するので、その登録商標と同一または類似の商標を無断で使用している人に対して法的に差止請求をすることができます。
自分の登録商標と紛らわしい商標を他人に使用されてしまうと、その商標名=自社(商品)という認知が薄まってしまったり、意図しない方法で使用されることで商標のイメージが汚染されてしまったりすることがありますので、適切に差止請求権を活用することで、このような事態を避けることができます。
また、自ら差止請求をしなくても、商標登録の事実は公開されますから、権利侵害を恐れる他社が自主的に紛らわしい商標の使用を控えてくれる効果も期待できます。
2.他社に訴えられない
もう1つのメリットは、他社から商標権侵害で訴えられることを避けられるという点です。
商標登録をすると、他社が紛らわしい商標を無断で使用できなくなるというだけではなく、それを商標登録することもできなくなります。
商標法には、他人が先に同一・類似の商標を登録していた場合は後から出願した人はそれを登録できない、という決まりがあるからです(商標法4条1項11号)。
他社が商標登録できなくなるということは、その商標について商標権を取られる心配がないということですので、他社から商標権侵害で訴えられる事態も回避することができるのです。
他社の模倣を防止することも大切ですが、それ以上に自分の商標を安全に使い続けられることが重要ですので、これは商標登録の非常に大きなメリットであると言えます。
商標登録のデメリット
では逆に、商標登録をすることで何かデメリットはあるのでしょうか?
1.個人の場合は、住所がバレます
実は、商標登録のために特許庁に出願手続をすると、出願人(権利者)の名称や住所は一般に公開され、特許庁の商標検索サイト J-PlatPat で検索すると誰でも見れるようになってしまいます。
商標登録をするというのは、日本全域で独占権が発生する(=他のみんながその商標を使えなくなる)ということなので、商標登録の事実やその権利者の情報を、誰でも知ることができるように公開しておく必要があるからです。
そのため、個人名義で商標登録をする場合には、個人名や住所がバレてしまいますので、プライバシー上の注意が必要です。
特に、個人住所を知られたくないという人は、住民票上の住所ではなく「居所」(住所以外に本人が常時そこにいると考えられる場所)を記載することもできますので、たとえば自宅ではなく仕事場の所在地を居所として使うなど、必要に応じてこれを活用するといいでしょう。
ちなみに、このように出願人(権利者)情報は公開されてしまうのですが、 住所についてはJ-PlatPat の商標情報で簡単に見れるのは「番地の前まで」なので、一定の配慮はされています。ただし、商標公報(これも J-PlatPat で見ようと思えば少しわかりにくいですが見れます)や、有料の出願書類閲覧(ファイル閲覧)の手続をすれば、住所の全部を誰でも見れてしまうので、基本的には全て公開されてしまうと考えておいた方がいいでしょう。
2.他の人の商標を登録するとSNSで炎上することがあります
もう1つ注意しなければならないのは、上記のように商標登録出願の内容は公開されるため、その内容によっては社会的に非難されることがあるという点です。
特に、近年はSNS等ですぐに情報が拡散され、見知らぬ人からもコメントを受けてしまう時代ですから、たとえば、他の人が使っている商標や、一般に使われていて独占に適さない商標を登録出願すると、その事実をおもしろがって拡散されたり、「こんな商標登録をしようとするなんてけしからん!」と炎上することがあります。最近では、2019年に起きたティラミスヒーローの事件が記憶に新しいですね。
悪質な場合はともかくとして、法的に、あるいは冷静に考えれば一方的な非難を浴びる必要はないような場合でも、SNSで炎上してしまうこともあるため、注意が必要です。
どうやって商標登録するのか?手続の方法
では実際に商標登録をするためにはどうすればいいのか、手続の方法を見ていきましょう。
まず方法として、大きく次の2つがあります。
- 自分でやる
- 専門家に頼む
1.自分でやる
商標登録の手続は、必要な知識があれば、自分自身でやることもできます。
手続は、決まった書面やルールに従って行う必要がありますが、最近は特許庁も、自分で出願したい人向けに手続方法を解説した資料などを用意しています。
自分でする場合の一番のメリットは、専門家に頼む費用がかからないということでしょう。
一方、デメリットとしては、自分の時間が取られてしまうということと、登録できるか予測が難しかったり、権利の取り方や手続上のミスをしやすいということが挙げられます。
2.専門家に頼む
自分では直接行わず、弁理士などの商標登録の専門家に頼むこともできます。
弁理士は、商標や特許などの知的財産に関する法律事務を取り扱う国家資格であり、その中でも商標を専門分野として扱う弁理士もいますので、手続の代理はもちろん、それに付随した商標コンサルティングも受けることができる場合があります。
専門家に頼む一番のメリットは、事前の登録可能性の判断、適切な内容の権利取得、特許庁の審査で駄目だったときの反論対応など、専門的サポートが受けられることです。これにより、事業にブレーキがかかるリスクを下げたり、自分では取得が難しい権利を取れるチャンスが広がります。また、何より自分の貴重な時間を節約して本業に集中できることも大きなメリットと言えるでしょう。
逆にデメリットは、専門家に頼む費用が必要になるということです。
手続の流れ
具体的な手続の流れは、以下の通りです。
- 調査
- 出願
- 審査
- 登録
1.調査
最初のステップは、商標調査です。
商標調査とは、すでにどのような商標が特許庁に出願・登録されているかや、その商標が世間でどのように使われているかなどを調査した上で、その商標が無事に登録できるか(特許庁の審査に合格できるか)どうかを予測・判断することです。
商標調査をすることで、実際に特許庁の審査結果を受ける前に未来を予測することができるので、事業計画を立てやすくなったり、事前に問題を把握することで早めに軌道修正を図ることができるようになります。
そのため、調査を飛ばして出願をすることもできますが、基本的にはまず商標調査のステップを入れることをおすすめします。
専門家が行う商標調査の内容は多岐にわたりますが、調査では、商標登録の要件(審査合格のためにクリアしなければならない基準)のメインである、次の2点を主に判断します。
- 類否・・・商標が似ているかどうか
- 識別力・・・商標に独占できるだけの特徴があるか(ありふれていないか)
商標調査は、一連の手続の流れの中でも、最も専門性の高い業務の1つです。
調査の詳細について興味のある方は、こちらの記事でわかりやすくまとめてありますので、ご参照ください。
2.出願
調査が終わったら、いよいよ特許庁に商標登録の出願(登録のための申請手続)をします。
出願は、決められた書式の「商標登録願」という書面を特許庁に提出することで行います。この書面は俗に「願書」とも言います。
「商標登録願」の様式
参照先:https://faq.inpit.go.jp/industrial/faq/search/result/10939.html?event=FE0006
商標登録願の提出は、①紙で提出する方法と②電子提出する方法がありますが、②は少し特殊な事前準備が必要なので、自分で提出する場合は、①の方法が手軽でしょう。霞が関にある特許庁の窓口に直接差し出しに行くこともできますし、郵送することもできます。
この出願手続には、特許庁に支払う出願料が必要で、特許印紙という特殊な印紙で支払います。これは、自分で手続をする場合でも必要な費用になります。
費用の詳細は、本記事の「費用」の項目をご参照ください。
3.審査
無事に出願が完了すると、その後、特許庁にてその商標を登録すべきかどうか審査されます。
この審査に合格して初めて、正式に商標登録され、商標権を取得できます。
商標の審査には時間がかかります。
審査期間は一律に決まっておらず時によってかなり変動がありますが、最近では、出願件数が増えていることもあり、通常の審査では出願から審査結果が出るまで平均8ヶ月程度かかっています(本記事執筆時点)。数年前は4ヶ月程度だったこともありますので、時代によってかなり変わります。
審査では、商標法に則して多数ある登録基準をすべて満たしているか検討されることになりますが、審査に不合格となってしまう場合は次の2つが問題になることが多いです。
- 先に他人が同一・類似の商標を登録している
- 商標に独占できるだけの特徴がない(ありふれていて、1人に独占させると支障がある)
上で解説した通り、これらの点は最初のステップの「商標調査」で予測・判断できるため、審査期間が長い近年では、より商標調査の重要性が高まっていると言えるでしょう。
なお、審査の結果、不合格と判断されてしまった場合でも、その審査結果に対して意見書などで反論をしたり、出願内容を微修正したりする機会が与えられます。(これを中間対応と呼んだりします)
ここで適切な対応ができれば、再審査の上、審査に合格できる場合もあります。
ここも、専門家に任せることが多い部分です。
4.登録
審査の結果、無事に合格した場合には、特許庁から審査合格通知(登録査定)が届きます。
しかし、これで正式登録ではありません。
正式に商標登録するためには、この通知から30日以内に、決められた登録料を特許庁に支払う必要があります。
支払方法は、「登録料納付書」という決まった書面に特許印紙を貼りつけて特許庁に提出することで行います。
上で説明した出願時の「出願料」と、審査合格後に支払うこの「登録料」の2段階になっているのが、商標登録の料金の特徴です。
登録料の支払いが完了すると、約2週間程で特許庁から「商標登録証」が届きます。
商標登録証の例 ※2024年4月1日より電子データでの交付となりました
商標登録証には、「登録第〇〇〇〇〇〇〇号」という商標登録番号が記載されています。これが正式に商標登録されたことの証であり、法律上、商標権が発生したことになります。
費用
商標登録するための気になる費用について見ていきましょう。
一般的には10万円以内
商標登録を1件するときの出願~登録完了(5年登録、1区分)までにかかる費用は、一般的には10万円以内におさまることが多いです。
商標登録の費用には、大きく分けて、次の2種類があります。
- 特許庁に支払う印紙代(実費分)
- サポートを受ける弁理士などの専門家に支払う費用(プロフェッショナルフィー)
1の費用は誰にとっても同額ですが、2の費用は、依頼する専門家次第になります。
そのため、専門家に依頼する場合は費用総額もまちまちになりますが、相場感としてはトータルで10万円以内くらいです。
区分によって費用が変わる
ただし、商標登録の費用は、登録しようとする区分の数(商品・サービス分野の数=広さ)が増えれば、それに伴って増加します。
また、登録時の登録年数(5年 or 10年)が増えれば、登録費用が増えます。その他には、特許庁の審査過程で特許庁への反論対応(意見書提出)などが必要になった場合など、オプション費用がかかる場合があります。
ですので、最小単位で一般的には10万円以内とお考えいただければよいと思います。
特に事業立ち上げの時期には決して安い金額ではないかもしれませんが、5年以上の独占権を取得できる費用と考えれば、また見方も変わってくるように思います。
商標登録の費用の概要
権利の期間と更新制度
商標権の権利期間
商標登録すると商標権(商標を独占的に使用できる権利)が発生します。
この商標権の権利期間は、登録日から5年 or 10年でひと区切りとなっており、特許庁の審査に合格した後「登録料」を支払うタイミングで、5年か10年かを選ぶことができるシステムになっています。料金は、10年の方が割安になっています。
社名商標や、変化の少ない分野の商標などの場合は、商標のライフサイクルが長いため、10年を選ぶことが多いです。
一方、変化が速い分野の商標などはライフサイクルが短いため、5年を選ぶ人も増えてきています。
半永久的に更新できる
商標権の権利期間は、更新登録料を支払うことで、半永久的に更新することができます。
更新の単位も5年か10年かを選ぶことができます。
同じ知的財産権でも、技術を守る特許権や、デザイン守る意匠権は、他の人による利用を長期間制限しすぎるとかえって産業の発展を妨げるおそれがあるという考え方から、権利期間に限りがあります。一方で、商標は、長く使うほど信用が貯まり、その企業や商品の象徴となっていく性質があるため、商標権はこのように半永久的に更新することができるようになっています。これは商標の大きな特徴の1つです。
商標権の権利期間と更新については、こちらの記事にも詳しく書いてありますので、ぜひご参照ください。
商標登録のポイント3つ
1.商品やサービスのリリース前に済まそう
商標登録の出願をするタイミングですが、対象となる商品やサービスのリリース前に済ませるのがベストです。
なぜかというと、商標制度には次のような特徴があるからです。
- 早い者勝ち
- 誰でも出願できる
①早い者勝ち
競合する2つの商標登録出願があった場合、早く出願した方が優先して登録できる「早い者勝ち」の制度になっています。
注意すべきは、原則として、「先にその商標を考えた」とか「先に商品をリリースした」ということは関係ないということです。
②誰でも出願できる
商標登録は、自分で考えた商標でなくても誰でもすることができます。
つまり、たとえ自分が苦労して考え出した商標であっても、それを知った第三者が自分の商標として出願することができてしまいます。
以上のような特徴があるため、自分が商標登録出願を済ませるまでは秘密にしておかないと、誰かが先に出願し、登録してしまう可能性があります。
もしそうなれば、「早い者勝ち」なので、出願のタイミングが遅れたあなたの方がその商標を使えない立場になってしまうのです。
2.ネーミングが最優先、ロゴはあとでもOK
ネーミングとロゴマークの両方があった場合、どちらを優先して登録した方がいいのか?
もちろん両方登録するに越したことはないのですが、予算に余裕がない場合もあるため、この点で悩む方は多いです。
ケースバイケースではありますが、一般論として言うと、ネーミングを最優先で登録する方が問題になりにくいと言えます。
なぜかというと、
- ロゴマークが他社の登録と競合してしまう可能性は低い
- もし登録できなくなってしまっても、ネーミングそのものに比べれば、ロゴマークはまだ変更がしやすい
と考えられるからです。
もちろんロゴマークもブランディングの観点から非常に重要なので積極的に商標登録すべきですが、優先順位をつけなければならない場合は、ネーミングの登録を優先しておいた方がリスクが低いと覚えておきましょう。
3.専門家に頼もう
この記事でも書いたように、商標登録の手続そのものは、自分自身で行うこともできます。
しかしながら、よほど詳しい人を除き、信頼できる専門家に頼む方がトータルで得をすることが多いです。
商品・サービスはローカルルールが多い
自分自身で適切な商標登録をすることが難しい大きな理由の1つは、商標の世界にはローカルルールが多い、という点です。
特に、出願をするときに必ず記載しなければならない「商品・サービス」(正確には「指定商品・指定役務」)の書き方やその意味は、一般の感覚とはズレた商標特有のものが多く、かなり前提知識や経験がないと、権利範囲を間違えてしまうということが起きやすいです。
たとえば、第30類という商品区分に「コーヒー豆」という指定商品があります。コーヒーショップが消費者向けに焙煎したコーヒー豆を販売したい場合、普通の感覚であれば、商標登録するときにこの「コーヒー豆」を記載したくなると思います。
ですが、実はこれは間違いです。第30類「コーヒー豆」の意味は「焙煎していないコーヒー豆」のことなので、「焙煎したコーヒー豆」について商標登録をしたいときは「コーヒー豆」ではなく「コーヒー」と記載しなければならないのです。
ここを間違えてしまうと、せっかく商標登録をしたのに、守りたい事業範囲が守れていない、つまりは意味のない権利を取得してしまうことになってしまいます。
もし意味のない権利を取得してしまったら、正しい内容の権利を取るために再度出願をし直さないといけなくなったり、最悪、誰かが先に権利を取ってしまっていてその解決を図らなければならない事態になります。そうすると、かえって大きなコストが発生します。
こういった事態を避けるためにも、自信のある方以外は、専門家の力を借りたほうが結果的にコスト安になります。
料金の差は結構ある
専門家に頼む場合、専門家によって料金の差はかなりあります。
低価格帯と高価格帯の差は4~5倍くらいになることもあります。
これは、専門家自身の単純な実力差というよりも、ターゲットとしている顧客層の違いや、特許事務所の規模(社員数)、ビジネスモデルやスタイルの違いなどによる影響の方が大きいと思います。
そのため、料金だけで判断するよりも、あくまで自分に合った専門家を選ぶという意識で探すことをおすすめします。
オンラインで商標登録できる
最近では、オンラインで商標登録をすることも可能です。
オンライン商標登録サービス「Toreru」は、商標登録の専門家である弁理士のサポートを受けながらもオンラインでカンタンに商標登録の手続や管理ができ、現在、10,000人以上のユーザー数と日本一の出願代理件数を誇ります。料金もIT技術の活用により通常の3分の1程度とリーズナブルになっており、どなたでも利用しやすいサービスです。
よくある質問
Q1.名前すら使えなくなるの?
商標登録をしないと名前すら使えなくなってしまうのか?
答えは、半分正解で、半分間違いです。
なぜなら、商標登録により取得できる商標権は、あくまでもその商標(ネーミングやロゴマーク)を登録時に指定した商品・サービスとの関係で使用する行為を独占できる権利だからです。別の言い方をすると、登録時に指定した商品・サービスの出所を区別する目印としてその商標を使用する行為を独占できる権利とも言えます。
つまり逆に言えば、商品・サービスとは無関係にネーミングなどを使用する行為については、他人の商標権による制限を受ける行為ではないため、他人に商標登録されてしまったネーミングであっても、そのネーミングを使うこと自体が一律に禁止されてしまうわけではないのです。
たとえば、他人が「ABC」というネーミングを商品「化粧品」を指定して商標登録していたとしましょう。この場合、あなたは、別の「化粧品」について「ABC」というネーミングを無断で使うことはできませんが、ブログの記事で「ABC」という言葉を化粧品とは関係なく使うとか、「ABC」という名前の会社を設立することができなくなる、というわけではありません。
禁止されるのは、「ABC」というネーミングを使って化粧品を販売したり、「ABC」という会社名を化粧品販売の際にもブランド名として使用する、などの行為です。
Q2.日本で商標登録すれば海外でも権利があるの?
いいえ、日本で商標登録をすると、日本でだけ通用する商標権が取得でき、海外では商標権は発生しません。
これは、商標権の効力は各国ごとに独立したものとするという国際ルールがあるからです。
そのため、もし海外でも商標権がほしい場合は、各国で商標登録する必要があります。
Q3.他社に商標登録されてしまいました。どうすればいい?
対応策として、大きく次の3つの方向性があります。
- 相手の商標権を取り消すための手続きをする
- 相手と交渉して商標権を譲渡してもらったりライセンスしてもらったりする
- 使う商標を変更する
1.相手の商標権を取り消すための手続きをする
商標法上、他人の商標権を取り消すために、次のような手続が用意されています。
- 不使用取消審判、不正使用取消審判 → 登録商標が適切に使用されていない場合に取り消す手続
- 登録異議申立、無効審判 → そもそも商標登録を認めるべきではなかった場合に取り消す手続
そのため、相手の商標権を取り消せる理由があるときは、この手続をして成功すれば、また商標登録をできるチャンスが生まれます。
2.相手と交渉して商標権を譲渡してもらったりライセンスしてもらったりする
相手の権利を取り消す以外にも、相手と交渉して商標権を譲り受けたり(買い取ったり)、ライセンス(使用許諾の契約)をしてもらう、という方法もあります。
交渉が成立するかどうかはやってみないとわからず、失敗した場合は下手をすると逆に商標権侵害で訴えられるリスクもあるというのが難点ではありますが、交渉材料を持っている場合や、ダメなら撤退する用意がある場合などは、有力な選択肢の1つになります。
3.使う商標を変更する
1も2もできない場合には、そのまま商標を使い続けてしまうと商標権侵害になってしまいますので、使う商標の変更を考えなければいけません。
事業が進んでいると、商標の変更は簡単なことではなく大きな決断となりますが、それも致し方ない状況になります。(このような事態を避けるためにも、事前の商標調査や登録が必要です)
単に商標権侵害を回避するという意味で言えば、必ずしも「まったく違う名前にしなければならない」というわけではありません。
ケースバイケースのため専門家のアドバイスを受けて判断する必要はあるかと思いますが、名前を1音変えたり、別の言葉を付加したりすることで、回避できる場合もあります。
もっとも、商標変更の際は、侵害回避のことだけではなく、市場の反応や、ブランドイメージの維持・刷新など、総合的に考える必要があります。
変更後の商標を決めるにあたっては、再び同じことが起こらないよう、商標調査と登録をしっかり行いながら進めることが大切です。
Q4.大文字と小文字で権利は変わるの?
アルファベットの商標を登録するとき、大文字と小文字の違いはどうすればいいのか悩む人が多いと思います。
基本的には、大文字で登録しても小文字で登録しても、権利内容に大きな違いはないため、よく使う態様で登録しておけば大丈夫です。
例外として、大文字と小文字が変わることで商標の読まれ方が変わってしまう可能性がある場合などは、注意が必要になります。たとえば、「RunKeep」と「RunkEep」とでは、大文字と小文字が変わることによって語の区切りの見え方が変わり、それによって自然な読まれ方も変わる可能性があります。
(前者は「ランキープ」、後者は「ランクイープ」と読まれる可能性が高い)
最初の一歩
まずは検索してみよう
商標登録の第一歩として、どのような商標登録があるか検索をしてみることがおすすめです。
厳密な判断はできなかったとしても、登録したい商標が既に取られていそうか何となくわかったり、他社がどのような商標登録をしているのかなどもわかり、商標を身近なものにするためには良い方法です。
特許庁に出願・登録されている商標を検索するには、次のような無料の商標検索サイトを利用できます。
Toreru 商標検索は、難しい検索式を使わなくてもカンタンに商標検索ができるので、初心者にはおすすめです。
商標検索の詳しい方法を知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
商品・サービスの区分を調べてみる
商標登録するときは、どの商品・サービス区分で登録すればいいかを考える必要があります。
区分は、権利範囲や料金に影響するからです。
商品・サービスの内容により全部で45区分に分かれています。自分にはどの区分が必要かの正確な判断は、専門的な知識と経験が必要になりますが、各区分が大体どのような事業領域に対応するのか当たりをつけておくために、区分について少し調べてみるのも良いでしょう。
各区分の内容は、次のサイトで調べることができます。
専門家を探そう
安心して相談できる専門家(弁理士)を探しましょう。
一口に弁理士と言っても、特許が得意な弁理士、意匠が得意な弁理士…など得意な専門分野が分かれていますので、商標に強い弁理士を選ぶのがおすすめです。
また、弁理士や所属事務所によって性格やサービスのスタイル、費用も大きく異なり、相性もありますので、自分に合ったところを探すことが大切です。
とはいえ、最初は取っ掛かりがなくどう選んでいいかわからないことも多いと思いますので、まずはHPなどを参考に実績のあるところを選んだり、商標登録の経験のある信頼できる知人に聞いてみたりするのも良いと思います。
まとめ
商標登録とは
商標登録とは、商品やサービスの目印(商標)を国に登録しておくことで、それを独占して使用できる商標権を取得する手続のことでした。
手続きの流れ
商標登録は、次のような流れで進むものでした。特許庁に出願をする前に、商標登録できる可能性が高そうか調べる商標調査を行うことが1つのポイントでした。
- 調査
- 出願
- 審査
- 登録
費用
商標登録を1件するときの費用は、全て自分でやるか、弁理士などの専門家に依頼するか、あるいはどの専門家に依頼するか、などによって変わってきますが、専門家に依頼する場合でも一般的には10万円以内から商標登録が可能でした。
ただし、権利を取得したい商品・サービスの範囲(区分の数)が広がると、それに伴って費用も増加するという仕組みでした。
最初の一歩
商標登録の第一歩としては、次の3つをやってみることがおすすめでした。
- まずは商標を検索してみる
- 商品・サービスの区分を調べてみる
- 専門家を探す
おわりに
いかがでしたでしょうか?
商標登録の基本を網羅的にまとめましたので、まずはこの記事の内容を押さえておけば、スムーズに商標登録を進めることができると思います。
商標登録を有効に活用して、大切なビジネスを守っていきましょう!