商標登録をすると商標権を持つことができます。では、商標権とは一体何なのでしょうか? また、商標権を持つとどのような効果があり、逆に、第三者が持つ商標権に対してどのようなことを気をつければいいのでしょうか?
本記事では、商標登録の中でもこの「商標権」にフォーカスを当てながら、簡単に解説していきます。
商標権とは
商標権とは、ひとことで言うと、商品やサービスの目印(商標)を独占できる権利です。
ビジネスをするということは、必ず、何かしらの商品やサービスを売っています。商品やサービスを買ってもらうためには、あふれる商品・サービスの中から自分の商品・サービスを顧客に選び出してもらわないといけません。
ですから、選び出せるように、その商品やサービスには必ず、他社の商品・サービスと区別するための「目印」が付いているはずです。
その「目印」こそが「商標」であり、その目印(商標)を独占できる権利が商標権です。
そもそも商標とは何か?という点については、こちらの記事でもわかりやすく解説していますので、ぜひご参照ください。
商標権の例
では、具体的に商標権の例を見てみましょう。
商標権の例1:著名グローバル企業
商標登録第5893980号
権利者:グーグル エルエルシー
商標の例2:国内B2B企業
商標登録第2285793号
権利者:横河電機株式会社
商標の例3:国内スタートアップ企業
商標登録第6231701号
権利者:株式会社メルカリ
著名グローバル企業から国内のB2B企業、あるいはスタートアップ企業まで、きちんと商標権を取っていますね。
また、文字の商標やロゴマーク(図形)の商標、あるいはその組み合わせの商標など、取り方もさまざまあります。
商標権の期間は?
商標登録すると商標権が発生します。では、その商標権はいつまで有効なのでしょうか?
商標権の期間は、原則として登録日から10年間となっています。
しかしながら、10年経った後も、更新料を支払って更新手続をすることで、半永久的に商標権を継続させることができます。
同じ知的財産権でも、特許権は20年、意匠権は25年で長くても切れてしまいますが、商標権はこのように半永久的に権利を維持できる点で特徴的です。
これは、技術(特許)やデザイン(意匠)はあまり長く1人の人に独占させてしまうとかえって産業の発展を妨げるおそれがある一方、商品やサービスの目印(商標)に蓄積した信用は、むしろその信用を獲得した人と長く結びつけて守る必要がある、という考え方に基づいています。
ちなみに、商標権は10年単位で権利を登録・更新していくのが原則なのですが、料金を5年分ずつ支払うことで、5年単位で登録・更新していくこともできます。この場合は、商標権が10年ではなく5年間で終了することもあります。5年の方が、10年単位で登録・更新するよりもトータルでは若干割高の料金にはなっているのですが、最近は世の中の変化が速く、商品・サービスのライフサイクルが短くなってきているため、5年ずつ商標権を更新していく人も多くなっている印象です。
商標権の更新については、こちらの記事にもわかりやすくまとめてありますので、ぜひご参照ください。
商標権を検索するには
現在どのような商標権があるか調べるためにはどうしたらいいのでしょうか?
商標権は、 J-PlatPat という特許庁公式の検索サイトで検索することができます。
具体的な検索方法は、こちらの記事でわかりやすく解説していますので、ぜひこちらをご参照ください。
また、よりカンタンな方法で検索できる Toreru 商標検索 という検索サイトもあります。
慣れないと検索が難しいロゴ商標も、画像ファイルを放り込むことでカンタンに検索できます。
商標権侵害とは
自分のビジネスを守る強力な武器になってくれる商標権ですが、一方で、他人が商標権を持っていると侵害をしてしまわないか怖いですよね。
では、一体どういうときに商標権侵害となってしまうのか、また、もし侵害してしまった場合にはどうなってしまうのでしょうか?
何をすると商標権侵害になってしまうのか
権利者ではない人が、勝手に、登録商標を使って、登録された商品・サービスを販売してしまうと、商標権侵害になってしまいます。
ちょっと商標を変えればいいだろう、という考えもNGです。登録商標そのものだけでなく、それと紛らわしい商標(類似の商標)も勝手に使用してはいけません。また、登録された商品・サービスについても、全く同じ商品・サービスだけでなく、紛らわしい分野でその商標を使用することもNGなので、注意が必要です。
商標権侵害にならない場合
一方、たとえば次のようなときは、形式的には他人の登録商標を使っているようでも商標権侵害にはならない場合があります。
個人的に商標を使う場合
たとえば、自分で NIKE のTシャツを作ってそれを着るだけなら、商標権侵害にはなりません※。
これは、商標権はあくまでも事業において商標を使用することを制限するものだからです。
このように、個人的に使うだけの物に登録商標を使うのは商標法的にはOKですが、自分で作った NIKE のTシャツをフリマアプリで販売するのはNGですので、要注意です。
※著作権法などの他の法律違反となる場合はあり得ます。
商品やサービスの目印(商標)として使用していない場合
また、他人の登録商標であっても、それを商品・サービスの目印(商標)として使用していない場合は、商標権侵害にはなりません。
たとえば、単に記事の文中で「昨日、スターバックスのコーヒーを飲みました!」と書くのは問題ありません。(なのでこの記事も問題ありません!)
また、書籍のタイトルも「商標」ではないと考えられているため、書籍のタイトルに登録商標を使用することも原則として※商標権侵害にはなりません。基本的に、書籍のタイトルはその書籍の「内容」を表すものであって、誰が出版しているかなどの「商品の出所」を区別するための目印ではないからです。よく『iPhone を徹底解説!』のようなタイトルの本が出ているのも、こういった背景があります。
※同じタイトルでシリーズ化しているものなどはタイトルであっても商標と認められるケースもあり、その場合は商標権侵害になり得ます。
商標権の商品・サービスが異なる場合
その商標権について登録されている商品・サービスとは全く違うものに登録商標を使う場合も、商標権侵害にはなりません。
たとえば、「ABC」という商標が「被服」について登録されていた場合、その商標権は「被服」まわりについてだけですので、「飲食店」の名称として「ABC」を使用する分にはOKということになります。
商標権侵害するとどうなるのか?
商標権侵害をしてしまった場合には法的な制裁があります。
法的な制裁には、民事的制裁と刑事的制裁があります。
民事的制裁
民事的制裁とは、商標権者が自分の利益を守るために侵害者に対して行うアクションです。
次の2つが代表的です。
- 差止請求
- 損害賠償請求
差止請求は「紛らわしい商標を使うのをやめろ」というもので、損害賠償請求は「侵害行為のせいで受けた損害をお金で賠償しろ」というものです。
刑事的制裁
刑事的制裁とは、国家が商標権侵害という法律違反をした者に対して処罰(刑罰)を課すためのものです。
商標法に規定されている主な刑罰は、
- 懲役
- 罰金
の2つです。
故意に行った場合に刑事事件になる
商標法違反の刑事罰は全て、「故意」に行ったと認められた場合にのみ問われます。
「故意」かどうかを客観的に立証することは基本的に複雑な作業になりますが、たとえば、
- 有名ブランドの商標を使って販売する場合
- 何度も警告を受けているのにやめない場合
などは、「商標権侵害行為だとは知らなかった」と言っても信憑性は低くなりますので、故意性が認められる可能性は高いと考えられます。
商標権侵害罪に課される刑事罰
商標権侵害を行った者に対しては、以下の刑事罰が課されます。
- 10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方
- 法人などの組織は、実行者への処罰と併せて法人に3億円以下の罰金
あまり知られていませんが、商標権侵害に対する刑事罰はかなり重たいものになっていますね。
身近な商標権侵害事件の例
偽Supremeのペット服で商標権侵害容疑 社長ら逮捕
高級アパレルブランドである「Supreme」などのロゴを無断で使用したペット服などを販売目的で所持したとして、ペットショップ会社社長とその社員が逮捕された事例です。
フリマにシャネルなどに類似した商品 無職の女書類送検
フリーマーケットで「シャネル」など6社の商標に類似した商標を付けたキーホルダーや帽子など109個を販売目的で所持した罪で、無職の女が書類送検された事例です。
遊戯王カード偽造、売上1500万円 兵庫の男起訴、ネット見て独学で学ぶ
人気漫画「遊戯王」の偽造トレーディングカードを販売して2010年以降約1,500万円を売り上げていた事件で、商標法違反容疑で無職の男が逮捕された事例です。
まとめ
商品やサービスの目印(商標)を独占できる権利である商標権。本記事では、商標権とはどういうものであるか、調べる方法、侵害するとどうなるかなどを解説しました。
商標権は、うまく使えばビジネスを有利に進められる一方、侵害してしまうと大きなリスクがあります。
しっかりと基本と対策を押さえて、商標を上手に活用していきましょう。
図解でまとめ(グラレコ)
