特許庁の審査官はこち亀好き?-こち亀アイデア関連の特許出願紹介 Vo.3-

1.はじめに:特許発明の審査に漫画を活用

本記事では、筆者が大好きな漫画である「こちら葛飾区亀有公園前派出所(以下、こち亀)」に登場するアイデア関連の特許出願を紹介します。Vo.1Vo.2 では、「こち亀のコミック発売後に出願された、似たアイデアに関する特許出願 or 実用新案出願」を紹介しました。

今回は少し視点を変えて、「特許出願に関する特許庁の審査において、実際にこち亀が参照された事例」を3つ紹介します。審査においては、多くの場合、過去の特許文献が参照されて審査が行われます。しかし以下3件については特許文献に加えてこち亀も登場しており、知財関係者としては非常に胸熱な状況です。(・・私だけ?)

では、紹介していきます。

2.審査事例1:音声入力制御システム

特開2001-343996:三菱電機(出願日:2000年6月1日)

特許文献(J-PlatPat リンク)

1件目は、利用者が適正な音量レベルで音声入力を行うことができる音声入力制御システムに関する発明です。利用者の音量レベルに応じて案内音声の出力レベルを変化させるといった内容が記載されています。

ところで、特許出願した発明が従来から世の中に知られた内容だと、出願人はその内容で特許権を取得することができません。そのため、特許庁における審査では、従来技術と発明とを比較して、その発明を特許権として認めていいかどうかを判断しています。そして、もし特許権として認めるべきではないと判断された場合、「拒絶理由通知書」という通知が特許庁から送られてきます。

以下は、本件の審査時における拒絶理由通知書の記載内容の一部です。

1.秋本治,こちら葛飾区亀有公園前派出所,  
  第75巻,p.6-9,1992年第1刷発行
  (以下、「引用例1」という。)      
  ・・・                    
引用例1(第6頁~第9頁)には、音声認識、音声出力が可能な装置において、発話者の音声入力の音量レベルに応じて案内音声信号(「モウ少シ小サイ声デオ願イシマス」、「モウ少シ大キナ声デオ願イシマス」)を出力するものが記載されている。

特願2000-164047 拒絶理由通知書(起案日2005年12月2日)より

なんと、引用例1としてこち亀の第75巻について言及されていました!これはアツイ・・。

では、引用されたこち亀の内容も見ていきます。

こち亀 コミック第75巻(発売日:1992年6月)

以下は、コミック第75巻1話「音声予約でコンニチワ!の巻」のワンシーンです。新し物好きの両さんが「世界初のボイス予約のビデオデッキ」を購入して、ワクワクしながら派出所にて使用開始しているところです。

こち亀 第75巻 P7-8より引用

たしかに、上記の特許出願内容に似ている描写がありますね。両さんの音声の音量の大小に応じて、受話器から発信される音声信号が異なります。その後の麗子(両さんの同僚)の声は問題無く認識される点も含め、音声認識における課題について面白おかしくデザインされています。そのため、特許庁の審査官の記憶に強く残っていたのかもしれません。

3.審査事例2:気球で物品を配達

特開2017-109720号:個人(出願日:2015年12月17日)

特許文献(J-PlatPat リンク)

2件目は、中高層階にいる人に対して、バルーンを用いて空から物品を配達する発明です。本発明によれば、「モーターつきプロペラ2,7,8」にて「バルーン1」を移動させて、「配達する商品5」を所望の場所までお届けできるというものです。

特開2017-109720 図1 

こちらの案件についても「拒絶理由通知書」を確認してみます。

すると、「先行技術文献」として、参考程度にこち亀第85巻の情報が掲載されているに留まっていました。これは1件目の「引用例」とは異なり、「発明内容ととても近い内容が記載されている訳ではなかったけど、まぁ似ているから参考までに確認したよ」という審査官のメッセージです。

では、関連するこち亀の内容を見ていきます。

こち亀 コミック第85巻(発売日:1994年2月)

以下は、コミック第85巻10話「空飛ぶ屋台!?の巻」のワンシーンです。高層マンションの住民は屋台のラーメンを食べに来てくれない・・と嘆く友人と会話していた両さんは、熱気球による「空飛ぶ屋台」というアイデアを創出しました。

こち亀 第85巻 P192より引用

ここでは熱気球を活用しており、上記特許出願に記載された発明の様な「モーターつきプロペラ」については描写されておりません。その為、「拒絶理由通知書」においては、「引用例」としては採用されず、「先行技術文献」としての記載に留まったのではないかと思います。

高層マンションの間を抜けて気球が物品を届けてくれる様は風情がありますが、自転車等でのフードデリバリーサービスが充実している現代においては、なかなか実現されないアイデアかもしれませんね。実現するとしても、ドローンを活用した無人配達でしょうか。

4.審査事例3:穴あきすべり台

特開平07-289739:ビイエルデイオリエンタル(出願日:1994年4月20日)

特許文献(J-PlatPat リンク)

3件目は、より一層のスリル感を味わうことができる遊戯用乗物装置に関する発明です。本発明の走行軌道1は一部が欠落しているため、走行中に車両が空中に飛び出します。

・・・なんて恐ろしい発明なのでしょう。

実際にこの様なコンセプトのジェットコースターは存在するのでしょうか?ディズニーランドの乗り物ですら乗るのが苦手な私としては、決死の思いで乗車する必要があります。

特開平07-289739 図1

では、関連するこち亀の内容も見ていきましょう。もしこの時点で「あ、あの巻だ!」と分かった方は、相当なこち亀マニアです。

こち亀 コミック第50巻(発売日:1988年2月)

以下は、コミック第50巻4話「遊び天国出現の巻」のワンシーンです。中川の系列会社が経営する巨大レジャー施設にて、オールシーズンでスキーや海水浴が楽しめる設備や、シミュレーションゴルフが登場するお話です。施設のアトラクションを破壊しながら豪快に満喫する両さんを少々懲らしめるために、中川が両さんに対して「ジェットすべり台」を紹介します。

こち亀 第50巻 P80より引用

P80の最終コマには、一部が欠落したすべり台について描かれています。乗物を使用していない点が先ほどの特許出願と比べて異なりますが、一部が欠落したすべり台によってスリル感を味わうというコンセプトは同様です。(両さんも「うぉっこのスリル」との発言有り)

では、特許庁における審査の結果である「拒絶理由通知書」をみていきます。

引用文献1のp.80の左下のコマにおける「ジェットすべり台」に関する絵を参照されたい。そこには、「ジェットすべり台」の一定の軌道の一部を欠落せしめたものが示されている。

特願平06-120828 拒絶理由通知書(起案日2002年11月8日)より

なんと…!事例1と同様に、引用文献1としてこち亀が引用されていました。これは胸が熱いです。この1コマを発見した審査官は素晴らしいですね。「・・・絵を参照されたい」だなんて、なんだか少々冷たい印象を受けてしまいますが、素晴らしいです。

なお、事例1においては「引用例」、事例3においては「引用文献」と記載されていますが、いずれも同様の意味です。

5.さいごに

特許出願に関する特許庁の審査において、実際にこち亀が参照された事例」を3件紹介しました。審査官は、審査を行うにあたって「あれっ?これと似た内容はこち亀に出てきたような・・」と思って、漫画を読み返したのでしょうかね。

こち亀に限らず、「キテレツ大百科」や「ドラえもん」あたりも参考になりそうですね。特許の審査に使えそうな漫画を集めて、特許庁の中に「漫画室」でも設けられていたら面白いものです。

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