商標登録の出願をしたら、特許庁から「拒絶理由通知書」というカタ~い書面が突然届いてビックリしたことはありませんか?
この拒絶理由通知が来てしまったときの代表的な対応策として「意見書」があります。
ポイントをしっかり押さえて意見書の対応ができるかどうかで、商標登録の成功率は大きく変わってきます。
この記事では、商標の意見書の書き方や対応の手順を、事例も挙げながらできるだけ分かりやすく解説します。
1.商標の意見書の具体的な書き方・手順は?
商標の「意見書」とは、商標登録をするときに特許庁に反論する書類のことです。
商標登録の手続きをすると、特許庁の審査で「〇〇という理由でこのままでは登録できないですよ!」と通知されることがあります(この通知を「拒絶理由通知」といいます)。
この拒絶理由通知に不服があるときは、意見書で反論できる仕組みになっています。
ではこの「意見書」は、どのように書けばいいのでしょうか?
意見書の具体的な書き方・手順は、以下のとおりです。
- 拒絶理由を確認する
- 反論方法を考える
- 意見書の様式に記載する
- 紙 or 電子出願で提出する
①拒絶理由を確認する
まずは、書かれている拒絶理由をよく確認しましょう。
特許庁から届く「拒絶理由通知書」には、なぜこのままでは商標登録を認めてもらえないのか、その理由(拒絶理由)が必ず書かれています。
「似た商標が登録されているよ」という理由の場合(4条1項11号)
■第4条第1項第11号(先願にかかる他人の登録商標) この商標登録出願に係る商標は、下記の登録商標と同一または類似であって、その商標登録に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものですから、商標法第4条第1項第11号に該当します。 記 区 分 引用No 第9類 1 引用No 引用商標一覧 1 登録第〇〇〇〇〇〇号 |
「似た商標が登録されているよ」という理由で登録できないと言われた場合は、このような文章が拒絶理由通知書に書いてあります。
たとえば、『ランタン』という商標を出願したら、「すでに登録されている『ランダン』と似ているのでダメですよ」と言われたケースです。
ポイント1:似てると言われた他人の商標の番号だけ書いてある
なんと、書いてあるのは「似てる」と言われた他人の商標の番号だけで、なぜ似ているかなどは書かれていません!
そのため、なぜ「似てる」と言われたのかどうかは自分で(あるいは専門家に相談して)考える必要があります。
ともあれ、まずはどの商標が問題になっているのか把握することが大切です。
まずは、「似てる」と言われた他人の商標の番号をよく確認しましょう。
ポイント2:何の商標か?何の商品・役務が類似しているか
「似てる」と言われた他人の商標の番号を特定したら、その番号で J-PlatPat を検索し、問題となっている商標の内容を確認しましょう。
その際、次の点を確認します。
- どのような「商標」か?
- どの商品・役務が類似しているか?
なお、どの商品・役務が類似しているかどうかの判断は、商品・役務に付与された「類似群コード」を見て行います。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
「商標に特徴がない」という理由の場合(3条1項3号)
■第3条第1項第3号(品質等表示) この商標登録出願に係る商標(以下「本願商標」といいます。)は、「〇〇」の文字を横書きしてなるものですが、これは「〇〇」を意味する語です。 そうすると、本願商標をその指定商品中、「〇〇」に使用しても、これに接する需要者は、「〇〇」であることを認識するにすぎませんから、本願商標は、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものと判断するのが相当です。 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当します。 |
「商標に特徴がないよ」という理由で登録できないと言われた場合は、このような文章が拒絶理由通知書に書いてあります。
たとえば、『現場のカレー』という商標をカレーに使う商標として出願したら、「商標に特徴がないのでダメですよ」と言われたケースです。
ポイント:「特徴がない」理由は書いてある
「似た商標が登録されているよ」(4条1項11号)の場合とは違い、「特徴がない」(3条1項3号)と言われる場合は、その理由が書いてあります。
先ほどの『現場のカレー』の例で言えば、「この商標をカレーに使っても “(工事など)の現場で食べるのに適したカレー” という意味で消費者に理解されるだけで、特定のブランド名とは思わない=特徴がない(独自性が足りない)のでダメですよ」みたいな理由が書かれます。
また、この「理由」の根拠(証拠)が載っている場合もあります。たとえば、「現場で食べるのに適したカレー」という意味合いで、世間の人たちが「現場のカレー」という言葉を使っている様子がわかるブログ記事などが証拠として引用されることがあります。
どのような拒絶理由が書いてあるとしても、まずは落ち着いて、審査官がなぜ拒絶理由を通知したのかを確認することが大切です。
特に「似た商標が登録されているよ」(4条1項11号)のパターンでは、詳細な理由まで書いてくれないので、審査官の意図を正確に推し量ることが求められます。
②反論方法を考える
拒絶理由の内容を理解したら、次は、反論方法を考えます。具体的には、審査官の主張(判断)が妥当ではない理由を考えます。
事例で考えてみましょう。
「似た商標が登録されているよ」(4条1項11号)『ランタン』vs『ランダン』のケース
『ランタン』と『ランダン』が似てると言われたのは、おそらく、3音目の「タ」と「ダ」しか違わないからでしょう。
だとすると、「タ」と「ダ」しか違わないけど区別できるといえる理由を考えるべきことになります。
たとえば、次のようなものが考えられます。
- 読みが短い言葉なので、1音の違いでも十分区別できるのでは?
- 発音すると「ン」が埋もれて「ラ」と「タ」(「ダ」)にアクセントが付くから、違う音もハッキリ聴こえるのでは?
- 『ランタン』は「角灯」という意味の言葉だから、造語である『ランダン』とは意味合いで区別できるのでは?
「商標に特徴がない」(3条1項3号)『現場のカレー』のケース
「この商標をカレーに使っても “(工事など)の現場で食べるのに適したカレー” という意味で消費者に理解されるだけで、特定のブランド名とは思わない=特徴がない(独自性が足りない)のでダメですよ」と言われたとすると、たとえば、次のような反論が考えられます。
- 「現場」という言葉だけでは工事現場以外にも色々な意味が浮かぶのでは?
- 『現場のカレー』とだけ聞いても意味が曖昧で一つに決まらないから、消費者は独自の造語だと思うのでは?
反論は、商標法の趣旨から考えると妥当な説得材料になることが多いです。
そもそも「似てるとダメ」とか「特徴がないとダメ」というルールがあるのは、商標法が、どこが出している商品かを消費者が勘違いするのを防いだり、みんなが使えないと困るような言葉を独占させないためです。きちんとルールの「趣旨」があります。
登録になってほしいからといってただ「似てない」というだけの主張をしても、水掛論になってしまいます。また、商標や事業に込めた熱い想いを述べても審査官には響きません(ビジネスにとっては大事ですが)。
そうではなく、ルールの趣旨を踏まえて「登録を認めても害はないですよ。制度趣旨に反しないですよ」というアプローチができれば、良い反論に近づきます。
③意見書の様式に記載する
反論の骨子ができたら、それを意見書の様式にして文章化します。
意見書の様式はこちらです。
考えた反論は、【意見の内容】という項目に記載します。
この項目内の書き方の形式的ルールは特にありません。第三者が読んでも意図がわかりやすいように、章立てをしながらロジカルに書くことを意識しましょう。
④紙 or 電子出願で提出する
意見書が完成したら、特許庁に提出します。
提出方法は、紙 or 電子出願の2通りあります。
一般の方は、紙で特許庁に提出する方法が、特別な設備がいらず、手っ取り早いです。
一方、専用の電子出願ソフトを持っている場合は、そのソフトを通じてPCからインターネット提出することができます。外出や郵送がいらないので、とても便利です。
2.意見書を弁理士に任せる場合
効果的な意見書を書くのは難しいため、専門家である弁理士に任せることが多いです。
弁理士に任せる場合、意見書の作成費用は5~10万円くらいかかります。
決して安くはない費用ですが、意見書の作成は非常に専門性の高い仕事であり、登録できないと一度は特許庁から言われた商標の結果を逆転させ得るものです。
実際、素人目には解決が難しい拒絶理由でも、弁理士から見ると60~70%くらいの勝算はありそうだなと見込める場面はよくあります。
重要な商標に対する投資としては合理的と言えるでしょう。
意見書を弁理士に任せる場合の手順は次のとおりです。
- 拒絶理由通知を送る
まずは相談する弁理士に拒絶理由通知を見てもらいましょう。 - 見積もりをもらう
対応費用について見積もりをもらいましょう。 - コメントをもらう
具体的にどのような対応策が取れそうか弁理士のコメントをもらいましょう。 - 依頼する
対応策や費用に納得したら、正式に意見書の着手を依頼しましょう。 - 意見書を確認する
もし特許庁への提出前に内容を確認したければ、提出前に一度見せてもらうようあらかじめ弁理士に伝えておきましょう。
どうしても権利がほしい商標の場合は、意見書を弁理士に任せることをおすすめします。
3.意見書の記入例
では、実際の意見書はどのように書かれているのでしょうか。
弁理士が書いた例を少し見てみましょう。
「似た商標が登録されているよ」(4条1項11号)に対する意見書例
これは、『sophia crystal』という商標が『SOPHIA203』(下記のロゴ)という登録商標と似ていると特許庁の審査官に言われたことに反論したケースです。
おそらく審査官殿は、本願商標は構成中の「crystal」の文字部分の識別力がないため要部が「sophia」の部分のみであると認定し、引用商標は構成中の「203」の文字部分の識別力がないため要部が「SOPHIA」の部分のみであると認定した上で、両商標は要部の称呼「ソフィア」が共通するため互いに類似すると認定されたものと推察いたします。
まず、なぜ似ていると言われたのか、その理由を的確に推測しています。
このケースでは、『sophia crystal』と『SOPHIA203』という両者から「sophia(SOPHIA)」の部分だけを抜き出して比較された(「crystal」や「203」は付記的な部分に過ぎないと評価された)ことを問題と捉えています。
その上で、まず、『sophia crystal』が全体でひとかたまりのブランド名として理解すべきである合理的な理由を述べていきます。
本願商標は「sophia crystal」の欧文字を標準文字で表してなるところ、全ての構成文字を同一書体(標準文字かつ小文字)、同一の大きさで、横一連に表したものであり、外観上、「sophia」の部分のみまたは「crystal」の部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、全体として統一感のある一体的な構成よりなるものです。
商標の見た目(外観)に統一感があることを指摘したり・・・
また、本願商標全体から生じる「ソフィアクリスタル」の称呼も、全8音と一気一連に称呼することが困難なほど冗長なものではなく、3音(ソ・フィ・ア)+5音(ク・リ・ス・タ・ル)という区切りにより語呂が良く感じられるためむしろリズムよく一連に称呼しやすいものであるといえます。加えて、前半部分(ソ・フィ・ア)の音数が3音と短いため、わずか3音を称呼した時点で「長いから省略したい」と需要者が感じるおそれはなく、後半部分(ク・リ・ス・タ・ル)まで続けてスムーズに称呼しようとすると考えるのが自然です。
読み方(称呼)としても「ソフィア」だけに省略される理由はないことを述べています。
さらに、「sophia」は外国の女性名(ファーストネーム)としてよく用いられる語であるところ(資料1~2)、「sophia + 空白 + 欧文字の単語」という構成からなる文字列に接したときに、需要者の頭の中で、全体として「外国人のフルネームかもしれない」という一種の引っ掛かりが生じ、「sophia」の後に続く「crystal」の文字部分にも注意を向けると考えられます。その結果、上述のような外観上・称呼上の一体性とも相俟って、本願商標「sophia crystal」において殊更「sophia」の部分だけを商標(出所表示)として捉えるというのはやや不自然であり、むしろ「sophia crystal」全体がひとかたまりの商標であると理解すると解するのが相当です。
想起される意味合いやイメージの観点からも商標の一体性を主張しています。
このような主張を積み重ねることによって、本件では、「似ている」とした審査官の当初の判断を覆し、商標登録させることができました。
意見書の書き方について、少しイメージがつきましたでしょうか?
4.期間延長請求について
最後に、「期間延長請求」という制度について少し触れておきましょう。
商標の意見書は通常、拒絶理由通知の発送日から40日以内に提出する必要があります。
でも、忙しくて期限内に意見書の作成・提出するのが難しいこともありますよね。
そのような場合のために、最大3ヶ月間期間延長ができるようになっています。
延長するための特別な理由はいりませんが、費用はかかります。
印紙代は、1ヶ月で2,100円、2ヶ月で4,200円です。
詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
最後にまとめです。
- 商標の「意見書」とは、登録NGと特許庁に言われたときに反論する書類のこと。
- 意見書の具体的な書き方・手順は次のとおり。
- 拒絶理由を確認する
- 反論方法を考える
- 意見書の様式に記載する
- 紙 or 電子出願で提出する
- 意見書を弁理士に任せると費用はかかるが、勝算が上がるので、どうしても権利がほしい商標の場合は弁理士に任せるのがおすすめ。
- 実際にプロが書いた意見書を参考にしてみよう。
- 意見書の準備期間は最大3ヶ月延長できる。
意見書を使いこなせるかどうかで、商標登録の成功率は大きく変わります。
自分で書く場合でも、弁理士に任せる場合でも、ポイントを押さえて大事な商標を登録させましょう!