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『ぴえん』『アマビエ』・・どうして商標の出願は炎上するのか? メカニズムと回避法、教えます! -あしたの知財 vol.05(稲穂 健市先生)

『アマビエ』、『そだねー』、古くは『ギコ猫』。商標登録出願をめぐり、「その人に登録させても良いの?」と批判が巻き起こることがあります。

最近では『ぴえん』のアパレル会社による出願が物議をかもし、「これ、この会社に独占させても良いの?」、「アウトでしょ」との声が上がっています。
 

「ぴえん」商標登録

「ぴえん」商標出願で使えなくなる?アパレル会社申請にネット物議も「保険的な意味」(Yahoo!ニュースより)

批判が大きくなり、あちこちで拡散され、大手ネットニュースやTVに取り上げられれば立派な炎上。イメージダウンは避けられません。

「炎上マーケティング」なんて言葉こそありますが、自分の商標登録出願で炎上したい人は少ないはず。時には脅迫メールまで届くことがあると聞きますから、事態は深刻です。

商標の炎上は何故起こるのか。そしてどうすれば回避できるのか。万一、炎上しちゃった時の収束法は・・?

そこで今回は、『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』(楽工社)に先立つ2年前、『こうして知財は炎上する』(NHK出版新書)を出版され、また、商標登録出願の炎上事例についての論文も書かれている稲穂 健市先生に前回に続き、お話を伺います。

<稲穂健市先生 プロフィール>

東北大学特任准教授、弁理士、米国公認会計士(デラウェア州Certificate)、科学技術ジャーナリスト(筆名:稲森謙太郎)。横浜国立大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、大手電気機器メーカーにおいてソフトウェア関連発明の権利化業務、新規事業領域における企画推進・産学連携・国際連携などに従事。

知的財産権を楽しく・わかりやすく伝える知財啓蒙をライフワークとする。

主な著作は、『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)、『こうして知財は炎上する ービジネスに役立つ13の基礎知識』(NHK出版新書)、最新作 『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』(楽工社)。稲森 謙太郎名義での著作も多数。 

 

※ より詳しくは稲穂健市 Offical Pageよりこちら

商標を出願する前に知っておきたい、炎上メカニズムと対処法とは?早速スタートです。

稲穂先生×ちざたまご

稲穂先生 × ちざたまご

1、商標炎上のメカニズム ~社会と知財のズレ

―今回のテーマの「炎上」ですが、ネットのバッシングなどイメージはできるものの、言葉としては漠然としていますよね。どのように定義すれば良いのでしょうか?

稲穂:パテント誌掲載の私の論文(商標登録出願にかかる炎上事例に関する考察)で、この点を検討したのですが、商標に関するものとしては、

炎上:ある商標登録出願に対して批判が殺到する状態・現象

と定義すれば良いかなと。批判が殺到する状態が生まれていれば、本来その舞台はネット上に限られないのですが、00年代以降のインターネットの急速な普及により、炎上といえば「ネット炎上」と認識されるようになっています。

中でも商標登録出願が炎上するようになった背景として、1999年3月から特許庁の「特許電子図書館(IPDL)」のサービスが開始され、一般の人が無料で出願・登録に関する情報を検索できるようになったことが大きいですね。

 

―商標登録出願されていること自体が一般に知られていなければ、炎上しようがないですからね。商標案件ならではの「炎上の特徴」ってあるのでしょうか?

稲穂:一般的な炎上ネタでは、「食品ケースに人が入って写真をアップ」とか、「有名人が差別的な発言をしてしまい批判が集中」などが思い出されますが、商標においては「他人の財産や皆の共有財産と認識されているものを勝手に出願し、かすめ取って独占しようとする」と認識されることが多くの炎上の出発点です。

言い換えれば、一般の感覚で「その出願はずるい」と感じる人たちが出てきて、それが小さな反対の声で終わるのか、それとも批判が殺到する「炎上」レベルにまで達するのか、そこが大きな分かれ道です。

 

―ただ、「ずるい」と感じられたとしても、必ずしも商標法に違反している訳ではないですよね。最近の例だと『アマビエ』を商標登録出願したとしても何ら法には反していないわけです。単に「登録したい」と審査を求めているだけかと。

稲穂:おっしゃる通り、出願しても法的には何ら問題はないですよね。しかしながら、その出願が一般からの理解が得られず、大きな批判の声に晒されれば、本来登録によって獲得しようとした利益以上のものを失う可能性があるという現実もあります。いわば、モラルによる社会的制裁です。

そして、モラルと法律はイコールではない。このモラルにしても、絶対の規範がある訳ではなく、商標出願人の対応や日頃の見られ方、社会の注目度、商標自体の話題性・キャッチーさなどによって大きく変動します。

 

―あいまいな「モラル」。知財業界の人間からすると、法律の規範に反していないかが第一であり、その点がクリアされているなら、過剰に「モラル」に忖度することは、むしろ法の敗北だと言いたくなりますが・・。

稲穂:例えば、2015年の「東京五輪エンブレム騒動」。盗作ではないかと批判されることになり、最終的にはエンブレム撤回という形で幕が下ろされましたが、法的に評価するとどうなのか。

抗議したベルギー・リエージュの劇場ロゴのデザイナー側には登録商標はなく、また、著作権侵害という観点でも、仮に著作物性があるのだとしても、色彩や構成の違いにより類似と認定される可能性は低いでしょう。

 

東京五輪エンブレム騒動 撤回されたエンブレム

 

―当時、知財関係者はほぼ一貫して「これは著作権侵害にはならない」という評価でしたよね。そもそも、デザイナーの佐野氏が作った原案はTマークの右下に赤丸が来ている構成だったのが、組織委員会による依頼により赤丸が上に来る構成に修正されたといいます。そうなると「依拠性」も否定されますよね。少なくとも侵害の立証は無理でしょう。

稲穂:ただ、社会はそう評価しなかった。別に発覚したトートバックのデザイン盗用問題という「燃料」もありましたが、インターネットにおける批判の声がTV・新聞といったマスメディアでも取り上げられ、いかにも「パクリロゴ」であるかのような空気も形成されてしまい、最終的にはデザインの撤回に至りました。

ネットの「炎上」が法規範や冷静な判断を超えて、メディアや世論をミスリードしてしまった典型例ですね。

この点、私も知財作家として一般の方の知財リテラシーを高めてもらう活動を続けているのですが、現実として「法律上問題がなくても、十分に炎上リスクは存在する」と認識しておくべきだと思います。

 

―法律論だけを検討していると危険ということですね・・。
先ほど、商標で炎上しやすいのは一般の感覚で「ずるい」と感じられるかどうかという話がありましたが、具体的にどんなケースが炎上しているのでしょうか。

稲穂:商標登録出願を巡る、ネット上での最初の炎上は2002年の「ギコ猫騒動」です。当時の巨大掲示板「2ちゃんねる」などで親しまれていたアスキーアート(AA)キャラクター『ギコ猫』について、2002年3月に大手玩具メーカーが文字商標を出願しました。

公開商標公報が発行されてから約2か月後に大きな話題となり、2ちゃんねる内でスレッドが乱立し、2ちゃんねる管理人(当時)の西村博之氏が玩具メーカーに質問状を送付するという騒ぎになりました。

 

2ちゃんねる

 ギコ猫(Wikipediaより)

 

―そんな騒動、ありましたね。最終的にメーカー側が謝罪し、出願を取り下げたことで収まったと記憶しています。

稲穂:『ギコ猫』出願が炎上した大きな理由として、ネット上の「共有財産」として誰もが自由に使用してきたキャラクター名が突然、特定の企業から出願されたことがあります。

商標の権利範囲を過剰に捉え、「ギコ猫のAAが使えなくなる!」というような誤解も一部ありましたが、それ以上に「俺たちの共有財産であるギコ猫のネーミングを、関係ない企業が独占し、勝手に儲けようとする」ことへの不快感があったのかなと。

 

―メーカー側は当時の取材で、経緯について「『ギコ猫』には著作権がなく、商標登録した上で商品化を考えていた」と説明したそうですからね。商標登録出願自体はビジネスの安定性を守るためとしても、『ギコ猫』の商品化で儲ける意図はあったでしょう。

商標を出願せず、『ネット猫』など分かる人にだけ分かる名前で、ぬいぐるみなどを販売する程度であれば、炎上せずに済んだかもしれませんね。

稲穂:商標権が、「国より特定の人・企業に付与される独占排他権」だという点も、権威や干渉を嫌うネット民の不快感を煽ったといえますね。

また、出願人の属性によっても「炎上しやすさ」が変わります。例えば、権力がある、過剰に儲けている、やり方が強引と見られている団体・企業が商標を出願した場合、たとえ安全確保のための出願だったり、ビジネス展開はまだ決めていない「とりあえず出願」だったりしても、「共有財産に手を出した悪い奴」と曲解され、炎上リスクが上がります。

 

―炎上を避けるため、担当者が商標登録出願前にやっておくべきことはあるでしょうか。

稲穂:自分たちが普段どのように見られているのか?立ち位置を意識しておくことが炎上回避の第一歩として有効です。また、流行に寄せたワードをつい出願したくなりがちですが、そのワードにどのようなファンがいるか、「共有財産」として大切にしているコミュニティはないか?事前にネットなどで調査するのも有効でしょう。

商標は著作物のような「創作物」ではなく、先行する商標登録やその他の権利がなければ、たとえば世の中にあるネーミングをそのまま使用しても認められる「選択物」です。そういった特徴から、知財の専門家視点では、法律面のクリアランスだけをしてOKを出してしまいがちですが、「その選択=出願が社会に受容されるか?」も合わせて考えていくべきだと思います。

 

2、Twitterは「炎上加速装置」

―それにしても最近の炎上事例は、TwitterをはじめとするSNSの存在抜きでは語れないですよね。00年代のインターネット掲示板全盛の時代からは、どのように環境が変わっているのでしょうか?

稲穂:00年代にはギコ猫とは別のAAキャラクター、「モナー」に酷似した『のまネコ』の文字・図形商標にまつわる炎上騒動もありましたが、特定のネット掲示板から発生した怒りであり、今ほどの広がりはありませんでした。

環境が大きく変わったのは2011年以降です。スマートフォンやTwitterなどのソーシャルメディア(SNS)が急速に普及し、知財に限らず、炎上発生件数が大きく増加しています。

 

国内における炎上発生件数推移

 国内における炎上発生件数推移(山口真一『炎上と口コミの経済学』より)

 

―急激な伸びですね。スマートフォンは日常的に持ち歩きますし、Twitterではいいねやリツイートも手軽ですから、炎上に関与することも簡単そうです。

稲穂:単にTwitterをはじめとする「ソーシャルメディア」が成長したから炎上しやすくなった、という単純な話だけではありません。

テレビ・新聞・Yahoo!ニュースといった大型の「マスメディア」と、個人の集合体である「ソーシャルメディア」の間に、中規模なまとめサイト・ニュースサイト・検索エンジンと言った「ミドルメディア」が生まれ、情報拡散の要になっていると言われています。

「ミドルメディア」が特定の話題をクローズアップし、情報を編集することで、より影響力が大きい「マスメディア」が取り上げやすくする機能も果たしているのです。

 

ニュース情報のメディア循環構造

 ニュース情報のメディア循環構造
(藤代裕之『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』より)

 

―Toreru Mediaも知財に関する話題を掘り下げ、紹介している点で「ミドルメディア」と言えますね。確かに記事のテーマ選定では、Twitter上の話題性も意識しているかも・・。

稲穂:情報の循環構造がわかったところで、改めて「商標の炎上」にフォーカスすると、Twitterのいわゆる「商標bot」の影響は非常に大きいと思います。

 

商標速報bot Twitter

商標速報bot (@trademark_bot)

―公開商標公報の概要を紹介しているだけなのに、「商標速報bot」のフォロワー4万人は凄いです。最近では複数のbotサービスがありますよね。

稲穂:商標botが出て来る前は、いかに公開情報だといっても、能動的にデータベースを検索しに行かなければどんな商標が出願されているか分からなかった。

それが、今では商標botをフォローしておくだけで、自動的に商標公報の情報が流れてきますからね。面白そうな出願があれば気軽にコメントもできる。

 

 

―確かに、これなら大喜利感覚でコメントできそうです。

稲穂:誰もが見ることができ、公開商標公報が本当の意味で「公報」化したともいえそうですが、多くのフォロワーに見守られていることで、こっそり商標を出願して登録を目指す、ということは難しくなりました。

 

―多くの人がいいねをつけたり、リツイートしたりすると、商標botをフォローしていない人のところにも情報が拡散して行きますからね・・。

稲穂:情報をシェアしたり、意見表明するハードルも非常に下がったと感じています。

私が最初の著作を出した20年前は「自分が尊敬する発明家のことを悪く書くな」と読者から手紙が届きましたが、手紙をわざわざ書くためには相当なエネルギーが必要です。

それが今では、スマホのワンクリックでいいね・リツイートできますから、手軽ですよね。誰かの怒りがSNSやメディアでドンドン回って行く。

 

―まさに「義憤スパイラル」。Twitterと炎上は相性が良いですね。。

稲穂:ただ、別に一般的な商標登録出願が何でもかんでも話題になり、炎上する訳ではないので、過剰に警戒することはないですよ。

気を付けるべきポイントは「他人の財産や皆の共有財産をかすめ取って独占しようとする出願」という印象を持たれるかどうかです。炎上に加担する人の60~70%が、「間違っていることをしているのが許せなかったから」「その人・企業に失望したから」という『正義感』で行動しているというデータもあります。(山口真一『炎上と口コミの経済学』より)

 

―自分の出願に炎上リスクを少しでも感じたならば、第三者的な視点で「ずるい商標登録出願」に見えるかどうか、社内でも周囲にでも、意見を聞いてみると良さそうですね。

 

3、いざ、炎上したときの対処法

―気を付けるべきポイントはわかりましたが、それでも炎上しちゃうことはありますよね。その場合、どうすれば良いでしょうか。

稲穂:過去、炎上してしまった商標登録出願人の対応を見ていけばヒントがあるかなと。一般的に有効な手段としては、大きく以下の3つがあります。

  •  ① とりあえず謝る 
  •  ② 意図を説明する
  •  ③ 出願を取り下げる

3つが組み合わさることも多いですが、順に説明しましょう。

①の「謝る」は定番ですね。前述した『ギコ猫』の騒動で、商標登録出願したメーカーは自社のWebサイトに「商標出願取下のお知らせ」を掲載し、文中で

「お客様並びにお取引先様に多大なご迷惑をおかけしておりますことをお詫び申し上げます」

と記載しました。

 

―これ、少し違和感があるのですが、商標登録出願をしただけでお客様や取引先には特に迷惑は発生していないんじゃないかと。謝るなら2ちゃんねる(当時)のコミュニティーで怒っていたネットユーザーに向けてでは。

稲穂:幅広い範囲を対象に謝っておけば、ネットユーザーから更に追撃されることもないだろうと考えたのかもしれませんね。

ともあれ、炎上で糾弾する側は「正義感」や「義憤」で動いていますから、素直に謝る姿勢を見せるというのは、火消しには有効だと思います。謝っている人をさらに叩くのは自分が悪者になってしまいかねないですからね。

 

―このケースでは③の出願取り下げをすでに行っていたことも、鎮火に有効だったかなと。

稲穂:取り下げをせずグダグダ謝っても、「結局出願はそのままじゃないか!ふざけるな」と火に油を注ぎますからね。謝る方向であれば、取り下げとセットが基本でしょう。

そのほか、②の「意図を説明する」という対応も多いのですが、これは結構難しいんですよ。例えば、2018年の流行語『そだねー』を帯広の製菓メーカーが商標登録出願していることが話題になりましたが、メーカーが自社のウェブサイトに掲載した声明は

「商標制度の特性上、独占という印象は避けにくいのですが、弊社で申請中の商標「北加伊道」は、他社様からご利用の申し出をいただき、是非お使い下さいと、先日ちょうど御返事させていただいたところでした」

というものでした。ただ、この説明では納得しないネットユーザーも結構いましたね。結局、この出願について取り下げはなされず、特許庁における審査で拒絶査定が確定しています。この製菓メーカーの出願は、実は最先の出願ではなかったことから、先願との関係でも拒絶される運命にあったんですよね。

 

―菓子について最先だった「北見工業大学生活協同組合」の出願も、特許庁から拒絶理由が通知され、いまだ登録できておりません。

「そだねー」商標
Toreru商標検索より

 

この出願の拒絶理由通知で、「『そだねー』は広く使用されている流行語であり、指定商品に利用しても、需要者は宣伝・広告的な意図を含んだ語であると理解し、何人かの業務に係る商品表示であると認識し得ない(商標法3条1項第6号違反)」と理由付けされているのは、珍しいなと思いました。

稲穂:2013年に流行した『じぇじぇじぇ』は岩手県久慈市のお菓子屋さんが商標登録していますが、このときの審査では、先ほどの商標法3条1項第6号違反の拒絶理由は通知されていません。

「流行語を特定の企業・団体に独占させるべきではない」という社会の空気が、特許庁による審査運用も変えた事例と言えそうですね。

 

―結局、商標登録できないのなら、無理に突っ張って炎上している出願を維持し続けるメリットも少ないような・・。

稲穂:炎上してしまった際に、「出願したデザインに著作権はない」とか、「商標は先願主義で、選択物でもあるから法律的に問題ない」など、正論をかざすことも可能ですが、糾弾する側は正義感に燃えて怒ってますからね。

「法律はどうあれ、モラルに反してるだろ!」とか、「法の不備を突いたあくどい奴だ!」などと火に油を注ぐことになる。法律上問題がないことの説明は堂々とすればよいと思いますが、「かすめ取って独占しようとしている」という疑念に対する正当化にはならないことは留意したほうが良いでしょう。

 

―「他の人に独占されると困るので、ビジネスの安全のため出願しました」という意図を説明するパターンも多いですよね。これは本音であることも多いと思いますが・・・

稲穂:難しいのは、防衛目的だったと出願意図を説明するのが炎上後となった場合、どうしても言い訳に見えちゃうんですよね。出願人がビジネスで成功している会社なら、よりバイアスがかかります。

 

―いっそ、出願時点でリリースを出し「〇〇を商標登録出願しますが、独占の意図はなく、もし登録できても第三者による使用は自由です」と示すのもアリかも。

稲穂:出願時点から言うのは難しいかもしれませんが、炎上しかけたらいち早く「独占の意図はない」と表明するのは有効でしょうね。『そだねー』は出願から1か月も経たずに大騒ぎとなりましたから、少しでも「危ないかもしれないな・・」と感じる商標を出願した場合は、ネットの動向にも注意を払っておくべきでしょう。

第三者に登録されてしまうリスクと、炎上によるレピュテーションリスクを比較衡量し、出願するべきかどうか、合理的に判断することも大切です。
 

 

―本当に保険や自己防衛目的であっても、商標が登録されれば出願人に独占排他権が与えられることには違いなく、「急に豹変して権利行使しだしたらどうするの?」という不安は生まれますよね。その出願が、他人や社会にとって『迷惑』にならないかどうかは、これからの時代、商標出願人が意識すべきポイントだと思います。

 

4、おわりに ~炎上を避けるには!

―商標と炎上の関係について様々にお話を伺って来ました。まとめとして、炎上を防止するためのポイントを改めて教えて頂けますか。

稲穂:簡単に注意点をまとめると以下の通りですね。

  • ① 自らの「立ち位置」に注意!
  • ② 社会の「共有財産」に注意!
  • ③ 出願の「タイミング」に注意!

①については、普段から自社や団体がどのように社会から見られているか、客観視することが必要です。大企業でずいぶん儲けている・・とか、権利を盾にごり押しする・・みたいなネガティブイメージがあれば、炎上リスクは自然と上がります。「正義感」に燃える人たちの攻撃の対象になりやすいですから。

②については、流行語やネット上の自然発生的なキャラクターなどに安易に手を出すのは危険です。商標権の効果は、指定商品・役務についての商標的使用の「独占」ですから、「皆が自由に使って楽しんでいるものを横から独占しようとする悪者」という図式が成立しやすい。

 

―業界で慣用されている一般名称をダメ元でわざわざ出願するのも、リスクが生じそうですね。

稲穂:③については、やはり話題になる時期ですよね。みんなが注目しているタイミングで出願するからSNSでも拡散され、炎上するわけです。小手先のテクニックとしては、出願した事実をすぐに把握されないよう、オンラインではなく郵送で出願する方法もありますが、いずれはバレます。注目が集まっている時期に「共有財産」っぽい商標を出すのは、かなりリスクがありますよ。

 

―とはいっても、今さら『そだねー』とか出願しても、独占するメリットはほぼないですよね。流行っているときに出願したい。

稲穂:ただ、商標登録出願は、最近だと登録までに通常は1年程度かかるじゃないですか。拒絶理由通知が来るともっと時間がかかる。流行しているから出願したい!気持ちは分かりますが、この先もずっと使用したいという気持ちが続いているかどうか。冷静に判断した方が良いですね。

 

―逆に炎上を味方に付ける・・・なんてことは可能なんでしょうか。

稲穂:炎上マーケティング的な観点なら、止めておいた方が良いかなと。

そもそも、商標の炎上は「知財」と「社会」のギャップによって発生する訳ですが、結局ベースにあるのは「感情」なんです。出願人側の多くが商標登録出願をうまく利用して儲けたい、独占したいという「私欲」を持っているのに対し、それを批判する側は独占させること自体に「負の感情」を持っているので、上手くいかないのですよ。

このような構図があることから、他者に抜け駆け的な商標登録出願をされて困ったというときでも、相手が「炎上」して出願を取り下げざるを得なくなった・・というラッキーなことは起こり得るでしょう。

 

―知財側が盾にする「法律」、社会側が振りかざす「モラル」、どこまでも平行線を辿るものかと感じていましたが、背景にある「感情」に配慮すれば、着地点を見つけることもできそうです。知財と社会のずれを知る意味でも、私自身も今後、さらに「炎上事例」に注目していこうと思います。

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☆ 2回にわたってお話を聞かせて頂いた稲穂先生、ありがとうございました!

前編:あなたも夢の印税生活?知られざる 『知財作家』の世界、解き明かします!(ロボジョ!著者 稲穂 健市先生)あしたの知財 vol.04

 

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ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ | 稲穂 健市, 456 |本 はこちら

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