大企業からスタートアップへ転職・・って不安じゃないですか?採用面接から野望まで全部聞きます!(ピクシーダストテクノロジーズ 木本&片山先生)あしたの知財 Vol.10

知財の仕事といえば、特許事務所か大企業の知財部がほとんど。一昔前はそんな環境でした。しかし近年ではスタートアップにおける知財の重要性が注目され、知財専門スタッフの活躍の場も広がりつつあります。

ただ、大企業からスタートアップへの転職・・は勇気がいるものですし、新たに知財スタッフを募集するスタートアップ側も、採用には不安が募るもの。

「この転職は正解なのか」、「マッチングしない人が来たらどうしよう?」・・転職・採用はどちらにも「不安と期待」が入り混じります。どうすればその不安を解消することができるのでしょうか。

会社により採用は千差万別とはいえど、「募集方法」、「採用面接」、「入社後の業務」など共通するファクターは多いです。実際にスタートアップの知財部門で採用に携わった方と、入社した方のエピソードを聞くことで、どちらの立場にとっても参考となる情報が得られるはず。

そこで前編に引き続き、 『IP BASE AWARD』第2回グランプリをスタートアップ部門で受賞した、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社(以下、PxDT)、IP & Legalファンクションチームの木本大介弁理士、片山晴紀弁理士の2名にお話を伺いました。

<前編はこちら>

PxDTは、アカデミアの研究成果を「連続的」に社会実装することを目的としたスタートアップであり、「知財」をビジネスモデルの中心においています。

そんなPxDTの知財部門を立ち上げた木本さん、PxDTに2人目の弁理士としてジョインした片山さん。2人はどのようにして出会い、業務を回し、未来への「野望」を抱いているのでしょうか?早速スタートです。

木本先生プロフィール>

2003年 上智大学大学院 電気電子工学専攻 修了後、(株)リコーに入社。知的財産部で、複写機を中心とした電気・機械分野の権利化業務に携わる。

2006年 弁理士登録と共に、協和特許法律事務所に入所。
2013年、グローバル・アイピー東京特許業務法人を経て、2018年、PxDTに知財マネージャとして参画。2021年より人事マネージャも兼務。

<片山先生プロフィール>

2014年 京都大学大学院 情報学研究科 修了後、キヤノン(株)に入社。知的財産部で、情報通信・画像処理関連の特許権利化業務に携わる。

2020年 弁理士登録と共に、PxDTに法務・知財担当者として参画。木本先生と二人三脚で知財実務を切り開く日々。

木本&片山さん × ちざたまご(聞き手)

 

1.採用はガチャ!?「良い知財担当者」と出会える3つの方法論

前編では木本さんがピクシーダスト(以下PxDT)に参画するまで、さらに知財の権利化と契約を一体として業務を切り開いた話を聞きました。それにしても、1人知財で権利化も契約も全部やるのは大変ですよね。

木本:まあ正直キツかったです。PxDT創業初年度は約20件の特許を出願し、自分が明細書も全件書いていましたが、ジョイン後は契約業務が増え、知財部門の管理体制の構築に手を付けたりしたので、出願のペースは落ちました。やはり1人でやれることには限界がありますからね。

2019年にはシリーズBの資金調達が行われたこともあり、社内でも「知財スタッフを早く採用せよ」という話になりました。

ピクシーダストテクノロジーズが約48.5億円の資金調達、技術ポートフォリオの拡充を図る

ただ、採用活動を始めてみると、一筋縄ではいかず・・。

 

ー全然応募がなかったのでしょうか?

木本:いや、ありがたいことに、応募はいっぱい頂きました。ただ、応募書類を何通見ても、良し悪しをジャッジできる気が全くしない笑。とはいえ、全員と会ってる暇はない。何か基準を持たないといけない。

そこで、出身企業でフィルタをかけてみることにしました。

元々、「キヤノンか、日立製作所の知財部で働いた経験がある人と仕事してみたい」と思っていたことを思い出しまして。

 

ーただ、2社にまで会社を限定しなくても、優秀な知財マンは世にたくさんいそうですよね。

木本:もちろんそれはわかっていたのですが、なにせ自分の企業経験が3年しかなかったので「優秀な知財マン」の定義が確立できていなかったですし、採用に割ける時間が限られていたので、単純に「確率」から考えました。

自分がリコーに勤務していた時代には、キヤノンの特許明細書を嫌というほど読んでいて、「もしキヤノンに入ってたら、自分はどうなってたんだろう」と思っていました。

日立製作所は、たまたまかもしれませんが、日立OBの知人が漏れなく優秀で、「もし日立に入っていたら、自分はどうなってたんだろう」とも思っていました。まあ就活のときに落ちたんですけどね笑。

幸いなことに、その2社に絞ってもそこそこの応募者数になったので、最初はその2社での知財部経験がある方と、採用担当者が「お!」と直感で感じた方とだけ会うことにしました。とにかく会ってみて、フィルタを少しづつ調整していくしかない。いわゆるPDCAですね。

PxDTには自分より若い人が多いし、どちらかと言えば、年下との方が会話しやすいタイプなので、年齢もある程度考慮していました。

いくら増員を許されたといっても、枠は1つ。しかも、抱えている業務量と業務範囲を考えると、「1から指導」はできない。会社の雰囲気に合って、権利化業務や契約業務を即戦力で回せて、スタートアップのロジックが理解できて、こんな自分についてこれる年下の知財人材・・、どれぐらいの確率で会えると思います?

 

ーうーん、確かにそんな人、100人応募があったら1人いるかいないかですよね。

木本:ですよねー。そこで、「もともと無理ゲーではあるが、どうせなら自分の感覚に素直に乗っかった方がPxDTに最適な知財人材が出る確率が高い気がする!」と思ったんです。時間も限られていたし、採用なんてやったことがなかったので、考えても仕方ないですしね。

いわば、「少しでもSSRが出やすそうなガチャ」を一生懸命引く作業です。まあ、当時「採用」を良く分かっていなかったわけなんですが、そのことに気づくのはもう少し後の話ですね。。

 

ーそれで最終的に採用されたのが、片山さんだったんですね。すいません、やっと話が回ってきましたが、PxDTに応募された動機はなんだったんでしょうか。

 

~片山さんはZoomで参加~

 

片山:自分がPxDTの前に勤めていたキヤノンの知財部はとても良い環境で、そこを離れたいという気持ちは全くなかったんです。PxDTの求人と出会わなかったら、いまでもキヤノンにいたのではと思います。

 

『キヤノン特許部隊』でも知られる知財最強軍団とも言われるキヤノン、どういうところが良かったのでしょうか?

片山:私は理系の大学院を出て、インターンシップを経てキヤノンの知財部に知財部採用枠で入社しました。キヤノンでは育成体制がしっかりしていて、マンツーマンのブラザーが付き、特許とは何なのか?から圧倒的に品質にこだわった明細書の書き方まできめ細かく指導してもらえる。入社初期から明細書を年間20件ほど内製で担当したので、On-the-Job Trainingという点でも力が付きました。

プロ意識の高い優秀な人材を多数抱え、かつそういう人材を継続的に生み出せる組織であるところが、キヤノンが一目置かれる所以なんじゃないかと思います。私が弁理士資格の取得を志したのも、すごい先輩がたくさんいる中で自分の武器を作りたいと感じたからで、向上心を刺激する点でも素晴らしい環境だったと思います。

 

ーそんな良い環境にいても、PxDTが魅力的に感じた理由は?

片山:キヤノンで働いていた当時は、いかに競合他社を排除して市場を自社独占状態に近づけるかを常に意識して特許の権利化に取り組んでいました。ちょっと極端な言い方をすると、他社製品の価値向上を妨害して自社製品に追いつけなくするのが使命みたいにも感じていて。

ただ一方、一企業の知財部員という立場から視点を変えて社会全体を見渡したときに、せっかく社会に生まれ落ちた技術はもっと積極的に多数の人に使われた方が、イイ世の中になるんじゃないかというモヤモヤした気持ちも抱えていました。

特にここ数年、「日本の大学は高い研究成果を上げてきたのに、その成果をビジネス化するのが下手なせいで他国に遅れを取っている。そのため大学の研究費が削減されたり、短期的な成果が出にくい研究への投資がしづらくなったりしている。このままでは日本の技術力は低下の一途を辿るしかない。」みたいな話をよく目にするようになり・・。

日本大好きな私としてはこの状況は悲しく、もっと積極的に技術を世の中に広げる方向で自分の知財スキルを活かせたらいいのにということをぼんやりと考えていました。

 

そんなときに、PxDTの村上の基調講演のネット記事を見つけました。そこには、「このままだと日本のアカデミックが死んでしまうのではないか」という課題感と、先ほど話に出た筑波大学との連携スキームを含め、その課題を解決するためにPxDTが取り組んでいる内容が書かれていました。

PxDTが自分と同じ課題感を持ってその解決に取り組んでいることに共感を覚えましたし、そのやり方はいままで聞いたことがないが「確かに上手くいくかもしれない」という予感がしました。当時はPxDTがシリーズBで大規模資金調達に成功した時期で、「勢いのある会社が、自分の興味ど真ん中のことをやっている!」と興奮したのを覚えています。

 

ーキヤノンという恵まれた環境を飛び出すことに不安はなかった?

片山:正直ありましたね。どちらかというとリスクを取ることには消極的な性格でしたし、ベンチャー企業で働くというのは完全に未知の世界でしたし。なので最初は、「この会社に今すぐ入りたい!」という気持ちではなく、「興味があるからもっとこの会社のことを知りたい。深く知ったら入社したくなるかもしれないなあ。」くらいのテンションでした。

 

ーやはり最初は探り探りだったのですね。具体的にどのようにコンタクトしたのでしょうか?

片山:PxDTのことを知りたくてググって調べていたらWantedlyにPxDTの求人が出ていて、素直な気持ちで「少しだけ興味があります」ボタンを押してみたら、木本さんから連絡を頂きました。

木本:最初はいわゆるカジュアル面談という形で、会社の紹介とかプロダクトのデモを見せつつ、雑談する。そこで本番の面接に来てもらいたいなと感じる方に「良かったら履歴書を出してください」と次のステップの水を向けます。

ただ、片山には水を向けたのに、全然履歴書の連絡はありませんでした。

 

ーなぜですか、木本さんが怖かった?

片山:そういうわけではないんですが笑、その年は弁理士試験の論文式試験を受けていた年で、そんな時期に環境を変えると仕事も試験も中途半端になるなと。お話を聞いてPxDTの知財の仕事には心惹かれましたが、日々抱えている業務もあり、しばらくそのままになりました。

木本:正直、「面接にも来てくれないのかー」と、ちょっとガッカリしましたね笑。

ほかの候補者の方にも何人も会ったもののなかなか決まらず、業務が忙しくなったこともあり、「採用は手間がかかる割には全然成果が出ない。これなら自分自身が知財の仕事を頑張ったほうが良い」と感じて、一時は採用活動を半ば中断していました。

しかし、仕事は忙しくなるばかり。「やっぱりこのままじゃだめだ!」と思い直して、採用をリブートしたのが同年の冬ぐらいからでした。この時は「出身企業でフィルタをかけるやり方ではうまくいかない」ことに気づいていたので、少しでも感じるものがあった人には片っ端から会いました。

片山に関しても、最初に会った時は「キヤノン出身の候補者」として見ていたと思いますが、2回目に会った時は純粋に一候補者として見ていましたね。

 

ーそこで片山さんがあらためて面接に来たと。

片山:PxDTのことはずっと気になっていました。弁理士試験にも無事最終合格して、落ち着いた時期にネットを見ていたらPxDTの求人があり、「まだ募集しているんだな」と。そこで改めて連絡し、面接に臨むことになりました。

すでにキヤノンの知財部で6年ほど働いていたので、大企業とベンチャー、全く違う経験ができるというのは、自分のキャリアにとってリスクが増えるだけではないなという考えになっていました。また、弁理士試験に合格したことにより、もし転職後に上手くいかなかったとしてもどうにか食っていけるんじゃないかという気持ちもありました。

 

ー面接ではどのようなことを聞いたんでしょうか。限られた時間の面接で、実力や性格を見極めるのは難しく、悩ましいところです。

木本:見ていたポイントは3つです。実務能力、カルチャーフィット、そして何よりパッション。

まず実務能力は、前職で書いた明細書のサンプルと、「どの点に工夫してその明細書を作成したか」のコメントをセットで出してもらう。これで基本的な文書作成能力と、着眼点を把握します。

次に、PxDTの特許公報を自由に1つ検索して選んでもらい、その公報に対し「自分なりに考える改善点」を5点ほど出してもらいます。自身で公報を選ぶというのと、5点改善点を挙げるというのがポイントです。例えば、5つの改善点が、表現や用語の修正というレベル、要は記載要件の指摘に意識を向けすぎてしまう方は、スピードに付いてこれないだろうと・・。

一方で、「発明者とのヒアリングで聞けた情報かどうかはわからないが・・」とか、「本権利の出願の目的が〇〇だと仮定すると・・」というように、明細書作成の前提条件を推定し、そこから改善点を導くような発想を示す応募者もいて、その方には「総合的な権利化の能力が高く、発明者対応から1から任せられそう」と感じていました。もちろん、示唆に合理的な理由があり、単なる想像ではないことが大前提ですけどね。

会社の状況によってどのような実務スキルを求めるかはバラバラでしょうが、その時のPxDTでは案件が多い中での2人目の知財担当者の採用だったので、自律的にハイレベルな権利化業務がこなせ、忙しいエンジニアを自らリードしていくフットワークが必須要件でした。

 

ーなるほど、実務能力を具体的に測れる質問ですね。2つ目のカルチャーフィットはどう見ていたのでしょうか。

木本:カルチャーフィットは、僕について来れるかどうかを見ていました。僕と会話したことがある人はすぐに気づくでしょうが、めちゃくちゃしゃべるタイプなので、相手も多弁だとキャラかぶりするし、かといって寡黙過ぎると僕がピン芸人のようになるので、うまくバランスを取ってくれる人がいいなー、と思ってました。

自分は創業前からコミットしていたので、僕についてくることができれば、会社全体にもマッチするはず、と決めつけていました笑。だって、知財人には、知財人同士でしか共感できないモノがあるじゃないですか・・。

 

ー確かに今日もめっちゃしゃべってる・・!最後のパッションはどうでしょうか?

木本:パッションについては、「5年後にPxDTを辞めるとして、どうなっていたいか」を聞いていました。

 

ー入社面接なのに、辞める時の話をするんですね、意外です。

木本:PxDTに限らず、スタートアップは、5年も経てば大きく変容しているはずです。5年後の姿なんて誰にも分かりません。「長く勤めたい」というモチベーションもありがたいですが、それは入ってから自分の意思で醸成して欲しい。

採用時点で大事なのは、PxDTでどのような足跡を残したいかという「情熱」と「覚悟」だと考えていました。僕自身、転職に際しては毎回、「情熱を注げるか」、「後悔しない覚悟を持てるか」という観点で自ら決断しています。決断の圧力が日々の業務の燃料になるし、自分にそれだけの熱量があったればこそ、落合・村上という有数の経営者に誘ってもらえたと思っていました。この点で共感しあえないと、入った後にお互い不幸になるだろうと。

 

ーなるほど、足跡を残す覚悟がある人だからこそ、戦友として一緒にやっていけるということなんですね。

 

~会社ロゴの角度のこだわりを紹介する木本さん~

 

2.知財2人体制になり広がった世界!

ー鋭い質問ばかりの面接ですが、片山さんはどのように答えたのでしょうか。

片山:実務系の質問は、自分がフルドラフトしたキヤノンの公開公報を提出し、こだわったポイントを添えました。

PxDTの明細書を1つ選ぶ質問に対しては、超音波スピーカーに関連する特許を「こんな広そうなクレームで登録になっているなんて、どんな技術が書かれているんだ」と興味がわいたので、選んだ記憶があります。

5つの改善提案は、「せっかくだから色々な観点でツッコミを入れてやろう」と思い、製品の構成を予想したうえでのクレーム改善から、数式の誤記だと思った部分の訂正までバリエーションを持たせて提案しました。

木本:5つの改善点は題意把握ができていて、提案に説得力もあった。重箱の隅をつつくような小手先の改善提案に留まらなかったのが良かったです。さらに「この発明自体に興味がある」というエモーショナルな部分も高く評価しました。やはり、知財の仕事は根底に技術に対する関心がないと続きません。

 

ーそれで採用になったと。入社してどうでした?キヤノン時代とギャップはありましたか。

片山:キヤノン時代は契約部門、特許権利化部門が明確に分かれていて、1人で同時に担当することはなく、部署移動が必要でした。しかし、PxDTはクライアント担当制で、大学や企業との契約交渉もやるし、同時に権利化業務もやる。ギャップというより、新鮮でした。

木本:片山は飄々としていますが、新しい知識・経験を身に付けることを含め、自らの「成長」に貪欲です。採用面接で聞いた5年後のビジョンも「大企業、ベンチャー両方の知財実務ができるプロフェッショナルになりたい」と言われました。僕は大企業の知財実務の経験を3年しか積んでいないので、僕とは違ったプロフェッショナルになりそうだなと。

多種多様な知財プロフェッショナルが生まれるようなチームができた暁には、「5年後のPxDTはきっと社会に胸を張って誇れる会社」になっているだろうなと思いました。

 

片山:権利化業務には「強い権利を作る」という目的、契約業務には「自社及び関係者にとってより良い条件、より良い座組みを作る」という目的がありますが、別々の部門がやっていると2つがかみ合わないことがどうしても出てきます。

大企業であればリソースが豊富なので大量の特許権を作っておき、束でのライセンスや権利行使を行うことも可能ですが、スタートアップはリソースが限られており、権利化・契約をうまくかみ合わせて最適化することが必然的に求められます。

「権利化と契約は両輪であり、担当も切り離さない」というやり方は、PxDTのようなスタートアップに適した方法論だと、私自身も実感しています。

 

ー2人体制になって、「相乗効果」はあったでしょうか。

木本:特許明細書の作成は、すでに社内である程度「定型化」していましたが、片山の意見を取り入れ、より広い権利が効率的に取れるようにアップデートしました。これは自分1人だけでは限界を感じていた部分で、ありがたかったです。

また、PxDT社内のコミュニケーションはSlackが中心ですが、知財的な突っ込みどころがあると、これまで自分1人で「これ、特許になりますよ」とか、「事前に調査しましょう」、「契約に反映!」と都度コメントしていました。今は、片山も一緒に拾うようになってSlack内の突っ込みどころが減ってきた。丹念に社内のやりとりを見てくれている証だと思います。

片山:特許実務はいろいろなやり方・考え方があり得るので、1つの正解はありませんそこで2人で話し合いは良く行っています。PxDTに適したやり方を見つけ、それをブラッシュアップしていくのが大事だと思います。

 

ー人員が増えて、どのように業務に余裕が出てきました?

木本:私が仕事を他の人に振るときには、アウトプットで「呼吸するように70点を取ってくれる」ことを期待しています。90点もあるが、50点もある(ムラがある)と、安心して任せられず、チェックにも時間がかかります。

何も考えなくても、目をつぶって70点はクリアしてくれると、忙しい時にざっと見るだけであとは任せるという選択肢が生まれ、お互いに余裕が出てきます。阿吽の呼吸というやつですね。

これは任せる相手の能力ももちろん大切ですが、どういうアウトプットが求められるのかの相互理解、実績やコミュニケ―ションの蓄積による「信頼貯金」も大切です。

 

ー木本さんがはじめて特許事務所で、クライアントに切られたときは・・

木本:信頼貯金を逆に減らしていましたね笑。

採用はロジックで詰められる点も多々ありますが、最終的には会社に合うか、一緒に働きたいと思えるかという感覚的な要素も無視できません。結果的に、採用活動は1年以上にわたり、苦しい時期もあったけど、良い仲間を見つけられて良かったです!

 

~スクリーンを通して集合写真~

 

3.IP BASE AWARD受賞の先にあるもの

ーこれまでの知財活動が評価され、2021年にPxDTはIP BASE AWARDのグランプリに輝きました。次の目標は何でしょうか。

木本:元々、新しいことにどんどんチャレンジしたい性格です。知財の人員が増えて、少しは余裕が出てきて、PxDTの知財を次のステージに進ませる時がきたな・・と思っていたところで、人事責任者も兼務で引き受けることになりました。

 

ーえっ、知財と人事、両方やるのは大変ですよね?

木本:前任の人事責任者が退職したときに、後任をどうするかという話になり、自分の名前が候補に挙がっていることを知りました。落合や村上が「キャラ的に木本がいいんじゃない?」と言っていたそうで、「あーキャラ採用だ、これ」と思って引き受けることにしました。能力を理由にされたら「素人だから無理です」と言えたんですが、キャラを理由にされたら断れないじゃないですか笑。

一方で、自分は知財のスペシャリストでなければならないという想いでキャリアを形成してきました。スペシャリストとジェネラリストの間で迷っていたときに、落合に相談したことがあるんです。すると落合が僕にかけた言葉が、

「スペシャリストは特定のニーズがあるときだけ出番があるが、ジェネラリストはいつでも出番がある。あらゆる時に声がかかる存在の方が、社会に価値を提供しやすいじゃん」

と即答されました。これは目から鱗でしたね。なるほど、「落合陽一」はそう考えるのかと。

人事という新分野にもチャレンジすることが、「ジェネラリスト」への道にも繋がるのではと考えました。

片山:木本が人事責任者もやるという話になったときに、「何でも拾うプレイが大事とはいつも言っていたけど、本当にそんなところまで拾うんだなあ」と思いました笑。木本が忙しくなった分、自分もしっかりと知財の権利化・契約領域両方をカバーしていきます。

スタートアップは人が少なく、1人何役もやるのが「普通」であり、刺激的。その点は楽しんでやっています。

 

ー最後に木本さん、知財業務について今後の目標はありますでしょうか。

木本:やや抽象的な話になるのですが、「特許がいらない理由」を正しく語れるようになりたいなと。

 

ーおお、知財部門なのに、特許がいらないと言う?

木本:スタートアップでは、「特許の権利化」より、別のアクションにリソース(人材・資金)を回したほうが良いケースもあります。特許を出願することも出願しないことも、全ての選択肢は等価です。

「特許を取ったほうが良い理由」を説明するのは簡単です。特許には競合との差別化、投資家へのPR、ライセンスの材料などさまざまな用途があり、何かしら説明がつきます。

でも、特許の権利化以外のアクションと比較した時に、最適な選択肢が常に権利化であるとは限りません。リソースが限られている以上、特許の権利化より投資対効果の高い選択肢があれば、それを選ぶべきかなと。

つまり、そのときそのときで何に力を入れるべきかを事業全体のバランスから俯瞰し、権利化の必要性が低い時は「まだ出願しなくても大丈夫です。他の選択肢に注力しましょう」と知財担当者が言えるかどうか。その上で権利化した方が良いと判断すれば、全力で良い特許を取りに行けばいい。

 

ー知財は、経営において複数あるプレーの選択肢の1つにすぎないということですね。

木本:変化の激しいスタートアップの事業環境では、弾力性のある「知財戦略」が必要だと考えています。「特許を出さない知財戦略」の下でプレゼンスが求められる局面もあるはずです。

複数の選択肢を常に念頭に置き、どの選択肢でも責任を持って実行できるかどうか。経験や知識もさることながら、強い「覚悟」が求められます。そのためには知財のスペシャリストであるだけでは足りない。

知財の論理だけで知財を語っても、期待値は最大化しません。村上からは「ビジネスネゴシエーションのできる弁理士になってくれ」とことあるごとに言われています。しかし、「ビジネスとは何か」「ネゴシエーションできるとはどういうことか」。この命題が僕の脳裏から消えたことは、一度もありません。

自分なりに模索した結果、たどり着いた解がジェネラリスト。知財に専門性を持ちつつも、高いレベルのジェネラリストでありたい。知財領域でアウトプットを出すのは当たり前。その上で、知財から離れた領域にも顔を出し、そこで得た知見を知財に還元する。

「知財の内と外の往復運動」をただただ繰り返す。思考体力が求められますが、裏を返せば、必要なのはそれだけです。今考えると、自分が人事責任者を兼務で引き受けたのも、オールラウンドでプレイできるようになりたいという想いが根底にあったからのような気がします。

実際に人事業務に触れてみると、知財業務の経験を適用できることもあるし、知財業務へ還元できる学びもあります。異分野で知財経験を活かすことは、R&DスタートアップであるPxDTのスピリットに通じると思っています。個人レベルでR&Dスタートアップを実践している感覚です。

今の僕には「落合陽一の弁理士」という看板がついて回ることもありますが、これを「知財のパーフェクトオールラウンダー」に書き換えることが目標です。

 

ーなるほど、人事業務を引き受けたことも、知財業務のNEXT STEPに繋がっているんですね。片山さんのNEXT STEPは何でしょうか。

片山:IP BASE AWARDのグランプリを受賞できた要因としては、やはりPxDTが現在までかなりの特許出願件数を積み上げてきたことが大きいと思います。ただ、先ほど木本が語っていたように、良い特許をたくさん取ればそれだけでスタートアップが成長できるわけではありません。

今後はこの積み上げた特許と、特許以外に蓄積されている広義の「知財」を今まで以上に様々なやり方で活用し、しっかりと会社の成長につなげて行きたいと考えています。

PxDTという会社自体が常に変化し新しいことに挑戦し続けているため、知財の最適な活用方法も変化し続けます。知財の専門家としての能力を更に磨きつつ、常に事業の現場に張り付いて、現場の人間と一緒に知財の活用方法を柔軟に検討し、事業を成功に導いていきたいです。

PxDTの事業が成功して技術の社会実装の流れが加速すれば、近しいビジョンを持つ他のスタートアップがPxDTを1つのモデルケースとして追随してくれるのではないか。

そんなスタートアップが増えていくことにより、「PxDTだけでは実現できない規模で、世の中が良い方向に変わってほしい」というのが今の私の夢です。

PxDTがそのようなお手本になれるように、まずは目の前の課題に1つ1つ全力で当たっていきます。

 

~会社入口にはIP BASE AWARDのトロフィーが飾られていました~

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ー企業インタビューではどうしても「会社の話」が中心になりますが、今回はお二人の個人のエピソードに自然と引き寄せられて行ってしまいました。個人のパーソナリティが合わさり、PxDTの知財体制が形作られているのだと、実感しました。

また、知財業務は「権利化」に偏りがちですが、契約業務や、さらには知財以外の分野にも目を向けることで、本当にビジネスに貢献できる知財が実現できるとの話、心に残りました。

木本さん、片山さん、ありがとうございました!

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☆こちらも合わせて読むと、より深く理解できます:スタートアップは知財部出身者を雇え PxDT落合氏(IP BASE)

<インタビュー前編はこちら>

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