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あしたの知財 Vol.01後編 知財塾が目指す「多様化」する学び( IPTech 湯浅 竜さん)

知財界で新しい取り組みをされている方々と対談し、一緒に知財の未来を考えていくインタビュー企画「あしたの知財」。前編ではIPTechの湯浅さんと、アフターコロナの働き方についてお話ししてきました。(第1回の記事はこちら)

後編では、アフターコロナの学び方について、新しい学びの場「知財塾」の取組みと合わせて、掘り下げていきます。

 

湯浅竜さんプロフィール
※ より詳しくはIPTechホームページよりこちら

 

リモート時代の学びは、今までとどう変わっていくのでしょうか?早速スタートです。

 

湯浅竜×ちざたまご

何で知財塾を立ち上げた?

―湯浅さんがやっている取組みだと、知財塾は面白いなと注目していまして。
特許事務所がPRのために無料セミナーをやるのはよくある話ですが、知財塾は費用をきちんと取り、週1回・3ヶ月程度のカリキュラムが組まれ、毎週の課題もしっかり出すガチの「塾」形式ですよね。

教える側も、教わる側も相当の負荷がかかると思いますが、本業が教育機関でもないIPTechさんが、知財塾を立ち上げた動機は何でしょうか?

湯浅さん:いくつか動機はあるのですが、1つはIPTechメンバーの学習の場としてです。もちろん、IPTech内部でも先輩弁理士によるOJTの指導や勉強会はあるのですが、それだけだと内輪の知識・発想にとどまりがちで、本当の意味でメンバーのレベルアップが図れるのか?という疑問がありました。

そこで、IPTechの外部から「この人の実務はイケてるな」と感じる人を連れてきて、それぞれの知見を実践形式でシェアしてもらい、参加者の学習を深める仕組みを作れば、学びの質が上がるだろうと。

なので、知財塾ゼミの大半はIPTechメンバー以外の専門家にお声がけし、 “ファシリテーター”として指導してもらってます。


―だからバラエティに富んだ方々が、知財塾でゼミを持っているのですね。

湯浅さん:2つ目は、知財業界全体に実践的な学びの場を提供したいなと。

知財業界は、弁理士会をはじめ色々な組織・企業がセミナーを提供していて他業界より充実しているものの、知財業界に入ったばかりの人や、商標は詳しいけど特許はやったことがなく・・とか、その逆の人に実践的な「実務スキル」を提供する場はあまりない・・と課題を感じていました。

知財塾は「実践スキル」を磨く場として企画しているのですが、それがIPTechメンバーだけに提供するのではもったいない、所外でも実践スキルを身に付けたい方に広く参加してもらい、お互いに研鑽する形にすれば、さらに学びが深くなるぞと。

3つ目は、それまでエンジニアをやっていた人が知財に興味を持ち、知財塾を受講してから知財業界に転職するような、知財業界への人材提供の場として機能させたいという思いがあります。その点で、1回ゼミを受けて終わりではなく、中長期的なコミュニティとして交流し合える仕掛けもしています。
 

知財塾

IPTech 知財塾 トップページより


―元々は所内の学習の場だったのが、業界全体での学びの場、さらには人材提供の場にしていきたいという思いがあるのですね。
先ほどから、講師ではなくファシリテーターという呼び方をしていますが、2つには何か違いがあるのでしょうか?

湯浅さん:講師は一方通行で上から教える立場ですが、ファシリテーターは受講者の力を引き出し、双方向に議論し合える存在です。例えば明細書作成だと、クレームの書き方も正解は1つではなく、様々な書き方があって良いと思うんですよ。

講師型のゼミだと、「先生の書き方が絶対」という形になりがちなんですが、ファシリテーターだと、受講生が出してきたアウトプットについて議論し、「こういう書き方もアリだよね」とか、「外国出願を考えると〇〇という書き方にすれば、対応しやすい」とか、より具体的にスキルを伸ばす方向でアドバイスできます。

もちろん、まったく書き方が分からない未経験の受講生も多くいるので、ファシリテーターが持っている “型” を提供し、それに沿って実際に明細書を作成する・調査をしてみるという実体験ができるようにも工夫しています。


―確かに、普通のセミナーだと一方通行になり、「このやり方ではダメなのかな?」とモヤモヤが残る事があります。双方向で意見交換できれば、納得度も変わってきますね。
一方で、単に自分が持っている知識を伝えれば良い講師よりも、ファシリテーター方式のほうが教える側には負担がかかるのでは?

湯浅さん:そこは運営側による人材のセレクトですね。

2020年1月のスタートから、明細書作成ゼミ・中間応答ゼミ・先行技術調査ゼミ・商標権利化ゼミを開講していますが、ファシリテーターの選定においては、「実務家として一流」であることに加え、「コミュニケーション能力が高く、受講者のアウトプットを引き出せる」ことを重視してお声がけしています。

 

何で知財塾を立ち上げた?

―私も知財塾のファシリテーター制度は面白そうと感じ、第1期 明細書作成ゼミ(2020年1~3月、全12回)にプライベートで参加していました。商標分野が専門で、なかなか業務で特許にかかわる機会がなく、何とかしたいと感じていたんです。

実際に受講して一般のセミナーと違ったのは、やはり「演習」形式で、3ヶ月で3通、明細書を書き上げるのは負荷がかかりましたが、特許明細書に対しての苦手意識が払しょくされたように感じています。

湯浅さん:そう言ってもらえると嬉しいです。正直なところ、3ヶ月のゼミだけで明細書がバリバリ書けるようになる、という所までは無理ですが、実際に3ヶ月・3本書いてもらうことで、「アウトプットとして明細書が形になる」という成功体験まではできるかなと。

例えば、スキーを始めるときにインストラクターに来てもらっても、話だけで「板はこうやって靴に付ける」とか、「板をハの字にして滑りましょう」とか言われても、まったく滑れないじゃないですか。

この点、インストラクターに最初の動作を教えてもらい、初級コースであっても何回か上から下まで1人で滑る体験ができれば、後は自分でも練習できるようになる。

滑り降りる体験

   実際に「滑り降りる」体験ができるのが知財塾!


知財塾では、ファシリテーターのアドバイスの元、特許庁へ実際に出願でき、審査請求後、補正した上で権利化できる」レベルの明細書の完成までを体験してもらっています。

もちろん、明細書の細部を見れば、もっと実施例を書き込んだ方が良いとか、クレームでより適切な用語を選択した方が良いという課題は残るでしょうが、それは実務を経験していくうちにご自身でもブラッシュアップしていけるかなと。


―確かに、全くわからないゼロの状態を1まで持っていくのが一番大変ですからね。未経験だと、教える方も手間がかかりますから、異動とか就職もしづらい・・。

湯浅さん:ただ、知財業界って、エンジニアやマーケティングの経験を経て、技術やビジネスを理解した上で権利化の業務に取り組んだ方が、ピントが合った、いわゆる「強い」権利を取りやすくなるじゃないですか。

そう考えると、大学卒業してからすぐ知財業界に入ってもらう必要はなく、むしろ様々なバックグラウンドがある多彩な人材に来てもらった方が、業界は活性化する。

RPGで言えば、知財マンは赤魔導士や風水師に相当する、戦士とか魔法使いとかの基本ジョブを経験した上で転職できる「玄人系」ジョブなんじゃないかなと(笑)。

ただ一方、30歳過ぎて、まったく経験も知見もない業界に飛び込み、「明細書も調査も分かりません」と言われても、なかなか大変ですよね。

そこで、知財塾で実際に明細書を作成してもらい、未経験者にも「やれそう感」を感じてもらったり、異動先・転職先の初期教育の手間を省けたりしたら、もっとマッチングしやすくなるのかなと。


―育成塾のゼミで作成した明細書を提出し、「これぐらいは講座で書いたことがあります」と異動先・転職先に見せるのもアリかもしれませんね。

湯浅さん:演習にこだわっているのは、明細書作成ゼミに限らず各ゼミでも同じです。

「業務で必要とされる各ドキュメント=成果物」を自分自身で作れることが、知財のプロフェッショナルとしての入口と考えているので、どのゼミでも受講後に自分が作った成果物が残るように構成しています。

企業サイドだと自分では明細書を作らず、チェックするだけということも多いですが、1度でも実際に1から明細書を書き上げる体験をすれば、チェックする能力も格段に上がりますから、知財塾で学んでいただく価値はあると考えています。
   

知財塾ゼミ一覧

知財塾がこだわる「演習」形式

―知財塾の明細書作成ゼミ(第1期 20年1~3月)を受けている最中、コロナ問題が発生して、本来は渋谷のIPTechオフィスで週1講義だった予定が、後半からZOOMによるオンライン講義に移行しましたよね。あれは狙っていたんでしょうか?

湯浅さん:いやー、それは全く想定外です。そもそも、「通学講義」という要件で受講者を募集していましたから、合意がなければ変更はできないですよね。第一期ゼミの受講者に相談をし、全員に賛成してもらったので実現することができました。

ただ、知財塾を「オンライン形式を駆使した学びの場」にしていきたいとは最初から考えていましたね。
  

―最初は、自分も話を聞くだけのセミナーならいざしらず、オンライン形式のゼミなんて、本当にちゃんと演習できるの?と半信半疑だったんですよ。でも、実際にやってみて、思った以上に演習できるし、メリットも大きいなと。

湯浅さん:オンラインゼミが可能になったのは、ITツールの力が大きいです。

明細書作成ゼミでは、受講生に書いてもらった課題の明細書をGOOGLE ドキュメントで共有し、それをファシリエイターがZOOMで画面共有しながら、その場で「こういう書き方がより分かりやすいんじゃないかな」と添削しています。

今まで郵送やら返送やらで1週間かかったところが、リアルタイムで添削できるのは正に革命ですよね。
  

―平日夜の渋谷通学だと終わって22時、家に帰って23時過ぎ。風呂に入ったりするとすぐ0時過ぎて、翌日かなり辛かった。

オンラインゼミだと、まず家に帰って食事してからゼミに参加。22時に終わったあとは、復習しても良いし、プライベートでくつろいでも良いと、全然疲労度が違いましたね。

湯浅さん:地方の人も気軽に参加できるようにしたいというのは自分の中でずっとテーマとしてありまして。

知財のセミナーは、東京が一番多くて、次が大阪、他のエリアとなるとずっと少ない。弁理士会のオンラインセミナーも弁理士向けが大半ですし、地方在住でゼロから知財の世界に飛び込むルートがほとんどない。

在宅勤務の方とか、お子さんが小さいので夜遅くまで家を空けられない方にも、どんどんオンラインゼミを利用してもらいたい。学びももっと多様化して良いと思うんです。

リモートワーク
通学時間がないのは幸せ!

 

―ほかにユニークだと感じたのは、他のゼミ生がやった課題ファイルも共有されるから、優秀な生徒の書き方を参考にしたり、それこそコピペしたりするのも可能なんですよね。

湯浅さん:まず自分で1回書いてみるのは大切ですが、頑張って書いた上で詰まる・言葉が出ないところは、1人でうんうん悩むんじゃなく、良いお手本を積極的に真似て良いと思うんですよ。レベルアップして自分が書けるようになったら他の人へフィードバックしていけば良い。

ファシリテーターから各ゼミ生へのフィードバックを全員に共有しているのは、「こういう書き方や表現があるのか」と発見してもらいたいからなんですね。

ゼミ生同士でも刺激し合い、効率的に成長できる仕組みを作っていきたいです。
  

―あと、知財塾で面白いなと感じたのはコミュニティ作りにもなるなと。

知財塾のSLACKグループがあり、そこで別講座の受講生やファシリテーターともゆるやかに繋がっていて、「最近のリモートワークはどうですか」と雑談したり、ZOOM飲みでおススメのワインを教えてもらったり。対面やTwitterとはまた少し違った距離感ですよね。

湯浅さん:知財塾をオンラインサロンとして機能させたいという思いもありまして。ゼミが終わっても、知財の仕事に係わる限り、疑問に思うことは出てくるじゃないですか。

その時に、知財塾のSLACKグループで繋がっていれば、雑談チャンネルで聞いてみたり、ダイレクトメッセージで質問したりできる。

その上でゼミ生が成長したら、今度はファシリテーターになり、得意分野でゼミを持ってもらう。ファシリテーター側であっても、「自分はこの領域はそれほど詳しくないな」と感じたら他のゼミで学習し、知財実務の幅を広げていく。

知財塾自体が1つのエコ・システムとしてぐるぐる回るようになり、知財界に継続的に人材を提供できるようになれば理想的ですよね。

無限に学べるエコ・システム

 

オンラインで広がる「学習体験」

―以前の湯浅さんのインタビュー記事で、「最強の知財マン」ってキーワードが印象に残っていて。今の湯浅さんの中で、さらに「最強観」は深まっているんでしょうか?

湯浅さん:「知財マン」の最強像は属する組織によっても違うでしょうが、弁理士という立場は、やはり「明細書作成のプロフェッショナル」であるべきかなと。

最近、「明細書だけではダメだ」的な声も聞くのですが、自分はちょっと考え方が違っていて、明細書の周りにこそプロフェッショナルスキルが眠っているんだと。

徹底的にクオリティが高い明細書を作るためには、発明発掘やヒアリングのみならず、業界の技術動向・パワーバランス・経営戦略などなど、理解すべき要素が山盛りで、それをどう明細書に落とし込むか・逆に書かないのかという、書面作成の周辺でやるべきことは沢山あります。

これらを把握し、本当にクオリティが高い明細書を提供できるようになれば、コンサルティングスキルが身に付き、結果的にビジネスになるという流れで、全てのコアは明細書に集約される。

その点でも、ドキュメントを作り上げるトレーニングの場は大事だなと。
  

―以前は個人としての最強を追求されていましたが、その点は変わってきている?

湯浅さん:あるべきプレイヤーの理想像は今も追求していますが、それ以上に特許業務法人としての「最強の知財集団」を目指す方向にシフトしてきていますね。

あらゆる知財分野で最強、というのは現実的でなく、本当に最強を目指そうと考えたら分野を絞らざるを得ない。そこで、IPTechでは自分達が本当に好きな業界で、知識やスキルの蓄積もあるIT業界に特化しています。

IT業界の「最強の知財集団」になるとすれば、単に日本で受任できるだけでなく、例えばヨーロッパのITベンチャーがグローバルで知財を取りたいと考えたとき、依頼先の選択肢として名前が上がり、実際に受任できるレベルが必要です。

そのために、IPTechのチームはもっと強くしていきたいですし、知財塾が面白そうと感じて学んだ方が、IPTechにジョインする、という流れも作れれば最高ですよね。

コロナで環境が激変しましたが、自分が目指したい方向はブレていないので、これからも色々と仕掛けていきたいと思います!
 

湯浅竜×ちざたまご対談時画像

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―リモートワークの話からスタートし、知財塾での新たな学びから、最強の知財集団まで、知財の「これから」の話が尽きない対談で、元気を頂きました!

5年後、湯浅さんの「最強」像がさらにどう進化しているか?も、またインタビューしてみたいです。

☆知財塾の公式ページはこちら:https://chizaijuku.com/

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