兼業作家のリアルな生活、その「犠牲」と「リターン」とは?~一冊は出版したい知財人への実践的処方箋|あしたの知財 Vol.15

日本は「出版大国」と言われています。

「出版指標年報」によれば、日本の書籍出版点数は6万6885冊(2022年)。いまだ多くの書籍が発行されており、これは世界でもTOP7に入ります。

一方で、紙の出版物の売り上げはピークであった1996年の半分以下まで落ち込み、「書店がない市区町村」が全国の25%を超えたりと、活字離れも深刻です。

1日1軒以上書店が消えた… 薄利や流通慣行の難題をどう乗り切るか | 経済産業省 METI Journal ONLINE

1冊あたりの販売数の落ち込みも著しく、知り合いの出版社の人間によれば「昔は付き合いで出した本もいっぱいあったけど、今はそんな余裕はない。1冊ごとに赤字化しないよう、企画を通す際の審査も厳しくなった」とのこと。

知財業界でも、昔なら通った企画が今は売り上げが見込めないのでお断り、筆者がまとまった冊数を買い取ってくれるなら何とか出せるけど・・・なんてせちがらい話も耳にします。

ただ、活字に慣れ親しんで育った者にとっては、「死ぬまでに1冊出版!」は夢なもの。自費出版・オンデマンド出版、いろいろな手段はありますが、やはり名がある出版社で物理の本が出るのは特別でしょう。実は私も「いつかは1冊」と思い馳せる1人です。

しかし、どんどん出版事情が厳しくなる中で、どうしたら「紙の本」をリアルに出せるのか?会社を辞める気はないけれど、自分でも作家になれるものなの?今回はそんな疑問を、兼業作家として活躍されるお二人に対談形式でぶつけていきます!

知財業界で本を出してみたい方、兼業作家にチャレンジしてみたい方、両立させることの「メリットと犠牲」について知りたい方は、必見です。

 ゲスト紹介

 ◆南原 詠(なんばらえい):東京工業大学大学院修士課程修了。エンジニアを経て、現在は企業内弁理士として勤務する傍ら、小説家としても活躍。
 近著:『シルバーブレット メディカルドクター・黒崎恭司と弁理士・大鳳未来』(宝島社)

 ※一作目の背景はこちらも参考:VTuberを弁理士が救う!?~『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』が生まれた訳( 南原 詠先生)あしたの知財 Vol.11 | Toreru Media

 ◆友利昴(ともりすばる):慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務知財業務に長く携わる傍ら、作家・セミナー講師としても活躍。一級知的財産管理技能士。
 近著:『企業と商標のウマい付き合い方談義』(発明推進協会)『江戸・明治のロゴ図鑑―登録商標で振り返る企業のマーク』(作品社)

 公式ブログ:ブログブログ by 友利昴

南原詠 & 友利昴 × 文責:ちざたまご(弁理士・インタビュアー)

1.サラリーマンが、どうして本を書きだした? 

ちざたまご(以下ちざ):今回は、「本を書く」というテーマで、サラリーマンかつ知財作家として活躍しているお二人に来ていただき、兼業作家のリアルについて赤裸々に聞いていこうという企画です。まずは、作家になったきっかけから聞いていきたいなと。

  

友利:じゃあ私から行きますかね。自分は小学生のころから、本を読むのも作文も好きで、国語の成績だけやたら良い子供でした。データの分析も好きで、高校生の頃には、学区のテスト情報を集めて、オリジナル教材を作って売ってたんですよ、「定期試験攻略本」的な。

  

ちざ:早熟すぎません?

 

友利:まあ書く仕事が生来好きなんですよね。それで大学でも出版社の下請けの仕事をしました。例えば「明治時代の偉人」とか、「女子高生の援助交際」とかテーマをもらい、調べてまとめるんです。国会図書館に行ったり、専門図書館に行ったり足でも稼ぐ。

学生の頃に大卒初任給ぐらいは稼げていたから、もう就職もしなくていいかなって、仲間と一緒に会社を立ち上げたんですね。今でいう学生ベンチャーかな。

  

ちざ:起業家から知財部へっていうのは大きな方針転換ですよね。

 

友利:小さい会社でしたが、意外と知財のトラブルが多かったんですよ。自分たちが提案したはずの企画が勝手に使われたとか、当時は知財に全然詳しくないけど「許せない!」と。

それで、『よくわかる音楽著作権ビジネス』の安藤先生の本で勉強したりして、理論武装して、結構大きい出版社やテレビ局にも乗り込んで。「企画パクるとは、著作権侵害です!」みたいな。

  

ちざ:怖いもの知らずだ。でもアイデアの使用だけだと著作権侵害とは言えないですよね。

  

友利:今考えたら、これって「エセ著作権」ですよね(笑)。でも、先方も話は聞いてくれたんですよ。少なくとも交渉のテーブルにはついてくれて、「まあ君たちに権利はないとしても、言いたいことはわかったから今度は別の企画やってみる?」みたいな展開もあり。

そこで「知財って、小さい会社でも十分交渉カードになるんだな」という実感があり、仕事としても興味が出てきたんですね。その後、立ち上げた会社が上手くいかなくなったこともあり、畳んで取引先の1つだった会社の知財部に入社しました。

 

ちざ:友利さんの処女作は2006年の『日本人はなぜ黒ブチ丸メガネなのか』ですね。

  

友利:そうそう。この本はちょうど会社を畳むころに出版の話が進んでいて、転職活動を進めるのと同時に書いてたんですよね。結局、入社後2か月ぐらいで出たのかな。

  

ちざ:なんか壮絶な1冊目ですね。サラリーマンになっても書くことはやめなかった?

  

友利:できるだけ定時に帰って、家で執筆するのを続けていましたね。2冊目の『お先に失礼するナリ:空気を壊さず定時に帰るテクニック』を書いたのがこの頃かと。

ちざ:この本、定時に回りの空気を壊さずスムーズに帰るためのテクニックが35個掲載されてるんですが、中に筆者自身が実際に使って失敗したネタも掲載されています。

友利:忘れてましたが、確かに使いましたね、この「ヒゲが伸びてきたから帰ります」。これでは帰れませんでしたが……。後に働き方改革が日本でも進みますが、当時はこういうこすっからいテクニックを駆使して早く帰るしかなかった! だいぶ時代を先取りした本ですよね(笑)。今は当時より大分帰りやすくなったと思います。

  

ちざ:この本で、定時で帰ってどうするの?という問いかけに対しては、「会社のためとは全然違う活動をする!」と言い切っていますが、その後書かれたのは知財関係の本が大半ですね。

  

友利:ライターには2種類あって、多様なテーマで何でも調べて書ける人と、1つの専門分野を掘り下げる人。自分は前者を志向していたんですが、やはり知財部で働き続けて専門性がついてくると、専門分野を掘り下げていった方が深い内容が書けることに気付いたんです。

あとは知財の本を書いて、好評だと他の出版社さんからも「うちでも出してみませんか」と声をかけてもらったり、その時の編集者と知財で別の切り口の企画をやったりと、繋がりができました。ただ、今でも知財以外のテーマでも書いてみたいとは思ってます。

 

ちざ:続いて南原さん、作家になったきっかけは・・。

  

南原:友利さんとは対照的ですが、自分は子供の頃にそんなに小説を読んでなくて、最初に記憶があるのは『坊ちゃん』。なんか『坊ちゃん』は最後に勝ったか負けたか書けという学校の課題が出されて、小説ってよくわからんなと。

でも、中学時代に『スレイヤーズ』とか、『魔術師オーフェン』などのライトノベルが流行っていて、エンタメ小説から読むようになっていったんですね。それでも高校では理系を選択しましたし、小説家志望では全然無かったです。

  

ちざ:そこからどうして、知財小説を執筆することに?

  

南原:電機メーカーに入ってエンジニアになったんですが、やっているうちに「これ、俺向いていないな」と思っちゃったんですね。それで知財部門に異動希望を出して、まあ知財を一生の仕事にするなら弁理士資格を取ろうかなと思ったんですが、これがきつくて・・・。

  

ちざ:働きながらの試験勉強は大なり小なり大変だと思いますが、特にどの辺が?

  

南原:論文試験が嫌だったんですよ。事前に覚えた要件・定義をもとに、問題文に当てはめ・論証をして出題者が想定した模範解答を書くというのが弁理士試験のスタンダードですが、自分には肌に合わなかった。スタートから合格まで6年かかっています。

でも自分が始めた試験ですし、択一試験までは受かっているから辞めたくない。一方で、試験用の論文を書いていると精神的に嫌で嫌で・・・そこで、「合格したら、小説家を目指して自分が好きなエンタメ文章を思いっきり書くぞ」と。

  

ちざ:論理が飛躍している気がしますが、南原さんにとっては、それが救いだったと。

  

南原:そうですね、なので弁理士試験に受かってから、すぐに小説を書き出しています。小説家になるためには何かしらの新人賞を獲るのが王道で、作品を書いては応募を続けました。ただ『このミステリーがすごい!』大賞を獲るまで、さらに7年かかってますね・・・。

  

ちざ:それ、弁理士試験より大変じゃないですか?報われるかどうか、全く保証がない。

  

南原:いや、それが「大変ではあるけど、苦ではない」という感覚なんですよね。少なくとも弁理士試験で自分が肌に合わない文章を書き続けさせられるのとは全く違います。「大変だけど楽しい」だから、続くんです。

それに自分にできることの消去法で、作家を選んだのがありまして。まず集団生活は得意なほうじゃないから、できるだけ1人で完結する仕事が良い。だから作家、ジャンルも自身の専門知識が生きる知財の分野で書こうと。

知財を題材とした小説では『下町ロケット』が有名ですけど、特許訴訟は出てきますが、あくまで町工場が大企業に意地を見せるというプロット中の素材の1つであり、知財制度自体を正面から取り扱ってはいなかった。であれば、「差別化」して小説家になれるチャンスがあるのかなと。計算もしつつ、自身がやりたい道にトライしたという感じですね。

  

ちざ:お二人とも全く違う背景でありながらも、「書きたい」という欲求からスタートしたという点は共通で、そこが原動力なんだなと納得できました!

☆収録はカラオケBOXでやってます

2.兼業作家の「リターン」と「犠牲」

ちざ:ここからは、兼業作家を目指す人向けに、良いところと悪いところを掘り下げていければと思います。メリット・デメリットという言い方もできるんですが、サラリーマン・作家という2つの仕事を1人でこなすのは並大抵ではないので、より直接的に「リターン」と「犠牲」という切り口でお話できればと。

  

友利:まずリターンについて、多少の収入につながること以上に、得意な、あるいは好きな仕事をダブルでこなすことで、興味関心の幅や人脈がより広がったり、知見が高まることに人生の豊かさを感じているように思います。

それから、どちらの仕事も決して楽しいことばかりではなく、時にはしんどいこともあります。でも、会社の業務の楽しさ・ストレスと、作家業の楽しさ・ストレスはそれぞれ種類が違うんですよ。

どちらかだけだと煮詰まっちゃうところが、片方の楽しさがもう片方のストレスを打ち消してくれる。ダブルワークのおかげで精神的に充実して過ごせている部分はあると思います。

  

南原:精神的な自由は広がりましたよね。会社に頼るだけだと、どうしても息苦しいじゃないですか。自分は、お金を稼ぐことで人生に「選択肢」という自由が増えるのがいいなと思っていて。

お金持ちになったときに何が変わるかというと、実はそんなに人生は変わらない。ただ、お寿司屋さんに家族でランチに行ってAコース2500円、Bコース3500円とあったとき、お金に余裕があれば「じゃあ、みんなBコースでいいよね」と言える、これぐらいがメリットだよって話を読んだのですが、そういう「選択できる自由」は大事だなと。

 お金だけじゃなくて、知り合いが増えるとか、こういうインタビューで色々な話ができるとか、人生の選択肢が増えたのが、兼業作家になった大きなリターンかなと感じています。

  

友利:あとは、会社員だと周りに忖度して、社内ではずけずけ言いにくいとかあると思いますが、自分には外部的な視点もあるので「ここは違うんじゃないですか」的なことを言いやすい。その立ち位置が、社内で重宝されることもあります。

  

ちざ:単純な収入増だけでなく、精神面・活動範囲での自由度が上がるのが「リターン」ということですね。一方で、「犠牲」についてはどうでしょうか?

  

南原:正直、圧倒的に時間は取られますよね。専業作家だと午前は執筆して、午後は調べものしてそのまま飲みに行くとか自分のペースで決められるでしょうが、サラリーマンは日中は会社の仕事があり、当然、執筆時間はアフターファイブか、土日しかありません。

  

友利:私は結婚しているんですが、妻には感謝しています。仕事終わってからの夜や、立て込むと土日もずーっと書いている訳なんで・・。これ言うと、イメージダウンかもしれませんが、私は家事はあんまりやらないんですよ。

結婚するときに、「自分は兼業作家でやってきて、今後もずっと書き続けるつもりだから、普通のサラリーマンのような時間は取れないし、家事もできない。また、子供も持たなくて良いと考えているんだけど、それで大丈夫?」という話をしました。

  

ちざ:関白宣言ならぬ、「兼業作家宣言」だ。

  

友利:相手も「子供もいなくていいし、他もそれで良い」と言ってくれたから結婚出来た感じですね。

ただ、完全に何もやらないわけじゃなくて、時間が取れるときは妻と一緒に1日出かけたりとかはしています。やっぱり年取ってくると、執筆の体力も続かなくなってくるし、疲れてくると何か加齢臭もしてくる・・・。妻にリンゴ酢飲んだほうが良いよとか言われたりして(笑)。

こんな自分にも寄り添ってくれる有難さって、他に代えがたいものがありますよ。改めて妻に感謝です。

  

南原:良い話からの流れで恐縮ですけど、私は小説家になる過程で離婚してまして。

  

ちざ:めちゃくちゃ重そうな話、来ちゃった。

  

南原:新人賞を目指して6年目、ちょうどコロナ禍の頃ですよね。プライベートな話なので詳細は控えますが、結局別れることになりました。

  

ちざ:結果が見えない中で、なかなかの逆境ですね・・。

  

南原:でも今考えたら、それが良かったんですよね。覚悟が決まりました。いつか小説家デビューしたいなんて気持ちじゃ永遠に無理。今年、何とかするんだと腹をくくりました。

具体的には、自分の筆力の弱さを見つめなおしましたね。キャラクターが弱い、物語性が弱い、今まで勉強はしていたつもりだったんですが、根本的には手を付けていなかった点を、参考書を読みあさって改善しました。

それまで進めていたプロットも全部1から作り直して、自分1人でできる今の限界がこれだ!って応募し、「このミス」大賞を獲れたのが『特許やぶりの女王・大鳳未来』です。

自分は弁理士試験でも、友人に「俺が落ちたら、お前を自費で沖縄旅行に連れていくぞ」とか言って、見届け人の書面に無理やりサインさせていたんですよ。逆境で追い込まれると力を発揮する、これは絶対あると思います。

3.執筆時間って・・・どう確保してる?

ちざ:犠牲の話からつながりますが、やはり兼業作家は時間の確保が一番難しいなと思っていて。お二人とも、いつ執筆されているんですか?

  

友利:私はリモートワークの勤務日が多いこともあり、平日もできるだけ業務を18時までに切り上げ、自宅で夕飯を食べて、風呂に入ってから執筆しています。だいたい20~25時ぐらいかな。

  

南原:すごい、平日に毎日5時間!?自分はもう平日は睡眠・体調優先で、土日に集中して書くスタイルになってきています。結局疲れていると筆が進まないんですよね。

  

ちざ:でも、土日にやるつもりが気持ちが乗らなくて全然なにも進まない!朝からPCの前に座っているのに、夕方まで1行も書けてない、みたいなことはないですか?まあ自分の話なんですけど。

  

南原:あるあるですね。気分変えてネットカフェで執筆する日もあるんですが、朝10時に入店したのに、なんかネット見てて、あれ、「16時なのに1行も進んでないぞ?」みたいな時は絶望します。

  

友利:でもこれ、何もやってないように見えて、実は脳がちゃんと動いてると思うんですよ。自分も、今月の原稿の締め切りが迫っていて、朝から「書くことなんもない、ネタ無くて終わった」と絶望していたら、15時ぐらいに突然何か降りてきて、ぶわーっと書けて明るいうちに原稿が完成したとかありますもん。 

  

ちざ: 人間の脳は、意識しないバックグラウンドで情報処理を行っており、必要な情報だけ意識下に浮かび上がってくると脳理論でも言われてますから。でも、前提になる情報をインプットがないと処理してくれませんから、やっぱり日ごろの取材活動が生きてるんじゃないですか。

  

友利:確かに執筆よりも取材に時間をかけている部分はありますね。例えば、『エセ著作権事件簿』『エセ商標権事件簿』の2部作は何年もかけてコツコツ集めた資料をもとに書いてます。その辺は実用書ならではなのかな。

  

南原:小説の世界だと、プロットが固まれば一気に書き上げられる部分はありますね。ただ、編集側からプロットのOKがなかなか出ない場合の苦しさはあります。

小説も商品ですから読者が読みたい、伝わりやすい物語でないと編集者もGOを出してくれない。ダメならもちろん書き直しますが、編集側も言いにくいのか、NGの場合は連絡が遅い傾向があるなあと。

  

ちざ: それは生殺しですね。。

  

南原:OKのときはそれこそ翌日に「これで行きましょう!」とお返事が来たりするんですが、一向に返事が来ないと、こちらからも勇気をふり絞って、「あれ、どうですかね・・」と問い合わせすることも。

何が良くないかを言語化するのは結構難しいってことはこちら側も分かるので、もう全ボツのときは、「細かいコメントとかはいいんで、一言二言だけ伝えてくれれば、あとは全部書き直しますんで」とか言ってますね。

  

ちざ: 厳しい世界だなあ・・・。気分転換とかどうしてるんですか?

  

南原:踏み台昇降が趣味で、もう延々と1時間ぐらいやってますね。仕事終わって、寝るまでに1時間あるけど、書く意欲が湧いてこないときは、そうだ踏み台やろう!みたいな。ずっとやってるうちに心が「無」になるんですね。体も疲れるから、終わったらすっぱり寝て、翌日スッキリという気分転換です。

  

友利:私はリモートワークが多いので、油断すると全く歩かない日が続いちゃうんですよね。ウォーキングアプリをスマホに入れているんですが、下手したら5日連続で1000歩以下とか。歩くとキャラのアイコンが元気になるんですが、自分のはずっと寝てる(笑)。

なので、最近ではなるべく遠くまで歩くようにしていますね。まぁ、行き先は図書館とかですが……。あとは絵を描いてデザインフェスタに出展したり、飲み会はそれほど行かないんですが、飲んだ後は仕事は一切やらないようにして気分転換の日にしたりと、意識しています。

  

ちざ:やっぱり書くこと自体を「習慣化」させるのと、寝る時は寝つつ、メリハリ付けて活動する!ってことですね。

4.やっぱり気になる印税のハナシ

ちざ:このあたりで、「リターン」で大事なお金の話を聞いてみたいんですが、ぶっちゃけ印税ってどれぐらい貰えるものなんでしょうか?

  

友利:今は出版社や企画によっても多様ですが、単著の印税は本の上代の10%がひとつの基準です。なので、何冊刷ったか×本の価格×10%で計算できますよ。部数と単価のバランスは著者の収入を左右しますが、どちらも専門書と一般書とではかなり変わってきます。

知財業界の人をターゲットにした専門書なら、単価は3~4000円でも珍しくないですが、部数は1000とか2000部。一方で『エセ著作権事件簿』みたいな業界外の人もターゲットとした一般書なら1~2000円代で、その分数千部刷って、重版も目指すとかね。

  

ちざ:印税10%の場合、4000円の専門書なら1000部で40万円、2000部で80万円ですね。副収入としては嬉しい金額だけど、たくさん調べて書く労力に比べたら割には合わないですかね・・。

  

友利:業界向けの専門書は、その業界の人しかほぼ買わないですから、どんなに良い本でも部数の天井が決まっていることは意識する必要があると思います。法改正に左右される内容だと、寿命もあるでしょう。その場合、改訂版で長く読まれることを目指したい。

ただ、本の印税だけでなくて、雑誌の連載なら1ページあたりの毎月の原稿料がありますし、専門家として認知されて有料でのセミナーの依頼が来ると、それも収入になりますね。

   

ちざ:副業として取り組むなら、名を上げて色々お声がかかるようにするのも大事ってことですね。一方、小説の世界だと部数の上限がなくて、もっと浪漫はありそうですが。

  

南原:確かに、ライトノベル全盛の時代は、例えば『スレイヤーズ!』の神坂一先生が高額納税者のリストに毎年お名前を連ねていたりと夢がありましたが、最近はかなり落ち着いてますよ。文庫の小説が定価800円として、全国の本屋に行き渡る冊数では12000部ぐらい。

今のライトノベルだと5000~8000部が一般的、1万部刷るとなるとかなり期待の作品と聞いています。もちろん名が通った大作家になれば、全くケタが変わってきますけど。

あと小説の世界では、昔は文芸誌で連載という収入方法もありましたが、出版不況で現在はほぼ消滅してます。

  

ちざ:文庫で12000部でも約100万円、5000部だと40万円。これだけで生活していくのは無理な感じですね・・。だからこその兼業なのかー。電子書籍はどうなんでしょうか?

  

友利:電子書籍は印税が紙の本より高かったり、絶版になっても読みたい人にいつでも本が届いたりと筆者にはメリットが多いですよね。ただ、作品が何回ダウンロードされて、その何%を印税として還元するかという計算と配分を著者ごとに毎年行う必要があり、小さい出版社ではとても手が回らず、対応していないところが多いです。

  

ちざ:そのあたりは出版業界の課題なのかな。JASRAC的な組織が、代わりに電子書籍の印税を配分してくれる仕組みがあれば良さそうですね。

5.近著のみどころ!

ちざ:話は尽きないところですが、最後はお二人の近著の見どころを紹介して行ければと思います。まずは南原さん。

  

南原:「特許やぶりの女王」シリーズの3冊目、『シルバーブレット メディカルドクター・黒崎恭司と弁理士・大鳳未来』が出ました!

Amazon.co.jp: シルバーブレット メディカルドクター・黒崎恭司と弁理士・大鳳未来 (宝島社文庫 Cな 17-3)

ちざ:インタビューの前に読了してきましたが、今回は医薬がテーマで、これまでなかった「人の生死」というミステリの王道を衝いてきましたね。個人的にはシリーズ3作で一番面白かったなと。

個人的にはプロローグの治験の事件も好きですね。医薬の揉め事がどういう形で起こるのかの導入になっていて、かつページ数も25P ほどと短編小説的な面白さがありました。最後はミステリとしての満足感もありましたので、お勧めの1冊です!

  

南原:ありがとうございます。プロットが決まるまでかなり難航したのですが、今回は「ヒューマンドラマ」の面を強く出しています。バディものの要素もありますので、楽しんで頂ければ幸いです。

  

ちざ:そして友利さん。今日持ってきていただいたのは2冊ある新刊の1冊、『江戸・明治のロゴ図鑑:登録商標で振り返る企業のマーク』ですね。これはどんな本なんでしょうか?

Amazon.co.jp: 江戸・明治のロゴ図鑑: 登録商標で振り返る企業のマーク : 友利 昴

友利:商標制度が誕生したのが1884年で、今年はちょうど140周年に当たるんですよね。まあそれを祝っている人はほとんどいないんですが(笑)、明治時代のロゴデザインは今見ると新鮮でビジュアルとして面白いし、デザインの変遷や、歴史を辿っていくと興味深いエピソードもたくさんある。それを図鑑的に集めて整理した本ですね。

  

ちざ:中身を見てみると、興味深いデザインがたくさんありますね。例えば「毒滅」おじさんのロゴ(登録商標16070号)、インパクトがすごい。

毒滅おじさん

書籍234Pより

友利:この肖像は、ドイツ帝国の初代宰相ビスマルクをモデルにしているんですよ。当時の広告で「ビ公(ビスマルク)は知略絶世の名相、毒滅は駆梅唯一の神剤」とうたわれていて、要は梅毒の薬なんですね。それでめちゃくちゃ売れたと。

  

ちざ:他国の宰相の顔を、性病薬のロゴマークに使うとはすごい度胸だ。

  

友利:今は知られざる昔の興味深いロゴマークを多数掘り起こしてますから、商標業務に関わる人だけでなく、デザインに関心がある方にも広く楽しんでいただければ嬉しいです。

  

ちざ:そしてさらにもう1冊、『企業と商標のウマい付き合い方談義』が刊行されますね。

企業と商標のウマい付き合い方談義 | 友利昴 |本 | 通販 | Amazon

友利:こちらは雑誌「発明」での11年間の連載をベースとした書籍ですが、「企業における商標業務はどうあるべきか」をテーマに、ノウハウや考え方、ヒントを一冊にまとめました。

書籍化にあたって、例えば「キャッチフレーズは商標登録すべき?」とか、「商標出願で炎上しないための企業担当者の心構え」など、なるべく普遍的で時間経過でも古びないテーマを選んでいます。全面改稿した記事も多く、半分以上は書きおろしになっており、普段連載を読んで頂いている方にもお勧めです。

  

ちざ:巻末の「企業商標担当者による覆面座談会」も面白いですね。私も商標業務に携わる1人として、楽しみながら読みたいと思います!

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インタビューを終えて、兼業作家は大変で「犠牲」も大きいが、人生が豊かになるリターンも大きいと感じました。お二人とも波乱万丈ありつつも、経験を積み上げて作家の道を歩まれており、結局は自らの「書きたい本能」に忠実になることが道を拓くのでしょう。

南原さん、友利さん、改めてありがとうございました!

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