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商標の重要なポイント6選

商標は出願すれば必ず登録できるというわけではありません。せっかく出願しても、特許庁の審査で登録できない理由が見つかった場合は、商標登録できず、権利を手に入れられない可能性もあります。似た商標がすでに取られていた場合は、商品パッケージや販売ページを急いで変えなくてはいけないなど、大変な状況になってしまうこともあります。

また、商標には他にも、きちんと知っておけば、料金や権利の効力など、いざというときに驚いたり慌てたりしなくてすむポイントがあります。

そこで、本記事では商標に関する重要な6つのポイントをピックアップしました。具体例も交えながらわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

重要ポイント1:似た商標が登録されていると登録できない

商標制度では、「商標」を以下のように定義しています。

  • 商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。
    (引用:特許庁 商標制度の概要

言い換えれば、商標はブランドを識別するための目印です。
たとえば、同じ商品分野で似た商標を使うとどのようなことが起きるか考えてみましょう。

(例)A社は、「 Toreru 」という商標をアパレルの分野で商標登録しています。A社の Toreru シリーズはそれなりのお値段はするものの、素材や品質の良さからじわじわと人気を獲得し、今では知る人ぞ知るこだわりブランドとして成長しました。
かたや、B社は新しく立ち上げたばかりのアパレル会社です。A社とは全く関係のない会社なので、商品に使う素材も製作工程もまったく異なります。

このような状況で、以下の商品が売り場に並んでいたらどうでしょうか?

最近良い評判を聞いた「 Toreru 」の商品のつもりで、Tシャツを購入した方がいます。そして、残念ながら購入したTシャツの着心地がイマイチ気に入りませんでした。「なんだ、 Toreru たいしたことないじゃん。」とがっかりしてしまい、もう Toreru の商品を買わなくなってしまいました。
が、このTシャツは実はB社の商品でした。

A社の心中はいかばかりか……。このように、同じ商品分野で似た商標を使ってしまうと

  • 消費者が混乱し、間違った商品を買ってしまうなど消費者の利益を害する可能性があります
  • すでにブランド力のある商標に別人が後からタダ乗りすることができ、ブランドを築いた事業者の利益や信用を害する可能性があります

ですので、あなたが取りたい商標とまったく同じ商標もしくは似た商標を、他の人がすでに商標登録している場合は、商標登録することができないのです。
(※注:ただし同じ商品分野でなければ、同じ商標でも登録できます。これについてはポイント3で詳しく説明します。)

商標登録をしようとするときは、まずは「すでに登録(出願)されている商標」の調査(=商標調査)を行い、商標登録できる可能性をあらかじめ確認することが非常に大切です。

詳しくはこちらの記事も参照ください。

重要ポイント2:特徴がない商標は登録できない

あなたが取りたい商標にもし「特徴」がない場合、商標登録することができません。

ここでいう「特徴」とは、専門用語では「識別力」といいます。
平たく言うと「独自性」です。
商標はブランドを識別するための目印です(ポイント1)。単なる名称や記号ではなく、「誰の商品・サービスか」を識別できなければ、そもそも目印として機能しませんよね。
そのため、「特徴(識別力)」のない商標は登録できないのです。

「特徴(識別力)」が無いと判断される商標の例をいくつかご紹介します。

例1)商品:たこ焼き 商標:大阪たこ焼き 

『大阪たこ焼き』は、「地域名+商品の普通名称」です。単に「大阪で提供されるたこ焼き」であることを表示しているだけで、事業者自身のブランド名を表示するものだとは消費者は思わないためNGです。

例2)商品:スマートフォン 商標:AC386

『AC386』のようなローマ字と数字を組み合わせた文字列は、商品の品番としてよく用いられる文字です。消費者は「スマートフォン」に付された『AC386』の文字が、ブランド名なのか、単に「品番」の表示なのか、がよく分からないためNGです。

つまり、商品「たこ焼き」と『大阪たこ焼き』、商品「スマートフォン」と『AC386』の関係では、商標(=ブランドを識別するための目印)としての役割を十分に果たせないおそれがあるため、「商標」として法的な保護を与えるべきではない、ということになります。

ちなみに、特徴があるか否かは商品と商標の関係によっても判断が変わります。たとえば、商品「スマートフォン」に商標「大阪たこ焼き」であれば特徴があると判断される可能性が高いです。

なお上記の例は「文字商標」での判断であり、たとえば図形やフォントで特徴を出したロゴ商標の場合は登録できる可能性があります。(ただしその場合は、あくまでデザイン込みの商標登録であり、その単語自体の独占権は発生しません)

このように、たとえ「似た商標」がまだ誰にも商標登録されていなかったとしても、「特徴」がなければ商標登録できないため、商標登録する前には、「似た商標」があるか調べるだけでなく、十分に「特徴」がある商標かどうかも判断する必要があります。

詳しくはこちらの記事も参照ください。

重要ポイント3:商品・サービスによって権利が違う

あなたが取りたい商標とまったく同じ商標もしくは似た商標を、他の人がすでに商標登録している場合は、商標登録することができませんが(ポイント1)、商品・サービス分野が違えば、話は変わってきます。

商標権は、「商標」と、「その商標を使用する商品・サービス」の組み合わせで一つの権利になります。そのため、たとえ「商標」がまったく同じであっても、その商標を使用する商品・サービス」が似ていなければ、それぞれ別人が商標登録することができるのです。

専門用語では、商品・サービスのことを「指定商品(指定役務)」といいます。

ここでは、実際に登録されている商標の例を挙げてみます。

例)商標『MITSUBISHI』

『MITSUBISHI』の商標権を、「筆記具」の商品分野では「三菱鉛筆株式会社」が保有し、「自動車」等の商品分野では「三菱商事株式会社」が保有している(※「三菱鉛筆株式会社」と「三菱商事株式会社」は無関係の会社)

三菱鉛筆株式会社の登録商標(登録第0467622号)

三菱商事株式会社の登録商標(登録第4319478号)

このように、ある商標が誰かに登録されているからといって、すべての分野でその商標が独占されているとは限りません。
自分が取りたい商標と同じ・似た商標がすでに他人に登録されていることがわかっても、どの「指定商品(指定役務)」で登録されているかを確認するまでは、その登録が自分に影響するかどうかがわからないのです。

逆に、自分の商標を広い分野で守りたいなら、該当する区分で「指定商品(指定役務)」を広く指定して商標登録しておく必要があります。

したがって、商標登録では、「指定商品(指定役務)」として何をどこまで指定するかや、他人がカバーしている「指定商品(指定役務)」とバッティングするかどうかなどについても判断しなくてはならず、専門知識と経験、そして戦略が必要になります。

指定商品(指定役務)について、詳しくはこちらの記事も参照ください。

重要ポイント4:区分によって料金が変わる

商標の「区分」とは、簡単に言うと商品・サービスの「カテゴリ」のことです。

商標権は、「商標」と、「その商標を使用する商品・サービス」の組み合わせで一つの権利なので(ポイント3)、商標登録をするときには、出願書類には必ず「指定商品(指定役務)」の項目を記載して、その商標を使用する商品・サービスを指定します。

この「指定商品(指定役務)」は、特許庁が取り決めた「区分」というグループに属します。「区分」は1類~45類の全45区分あります。
(例:「洋服」は25類、「かばん」は18類)

商標登録の料金は、登録しようとする指定商品(指定役務)の「区分」の数が増えるほど高くなります。
「区分」の数が増えると、その商標の権利範囲が広くなるため、広い権利範囲がほしいならその分多くのお金を払ってね、という仕組みです。

1区分 → 2区分になると、特許庁に支払う印紙代は約2倍になります。
また、弁理士に依頼する場合、弁理士に支払う手数料も多くの場合は区分数に応じて加算されます。

以下の表は、商標登録出願に係る印紙代と、登録料の印紙代の金額表です。

※引用:特許庁「産業財産権関係料金一覧」2022.10.19現在

幅広い分野で商標を守りたいなら、料金を多く支払って広い権利範囲を確保する必要があります。まずは25類で「洋服」について権利を取り、3年後に18類の「かばん」についての権利も追加で取る、ということもできますが、3年待っている間にもし他人が「かばん」についての権利を同じ商標で取ってしまったら、もうあなたは18類「かばん」の権利は取れなくなります

このように「一度に料金を多く支払って早めに広い権利を確保 vs 他人に権利を取られてしまうリスクをとって当面の出費を抑える」というトレードオフになるため、慎重な判断が必要です。

商標登録の費用について、詳しくはこちらの記事も参照ください。

重要ポイント5:先に商標を使っている人より先に出願した人を保護

商標登録は「きちんと商標登録をした人を優先して守る」制度(登録主義)です。

たとえ先にその商標を使い始めた人がいたとしても、別の人がその商標を登録したら、商標登録した人の方が保護されます。原則として「自分の方が昔からこの商標を使っていました」という主張は通用しません

なぜこのような制度になっているのでしょうか。

登録(出願)した商標は、特許庁に記録され一般公開されるため、誰がいつどのような内容で商標権を持つか、調べれば誰でも知ることができます

一方、商標登録をせずに使われている商標は、他者がすべてを調べ上げることは難しいでしょう。

もし「先に商標を使っている人を優先して守る」制度(使用主義)だったら、これから新しく商標を使い始めようとする人にとっては、誰が権利を持っているかわからず非常に怖い状況になってしまいます。

登録主義なら、権利を持つためには商標登録の手続きが必要になりますが、商標権の情報は必ず公開されているので安心できます。

したがって、登録主義を採用している日本では、商標を使うときは必ず商標調査を行い、重要な商標はきちんと商標登録しておくことがとても大切になるのです。

重要ポイント6:言葉の使い方全てを独占できるわけではない

商標登録すれば、その商標を独占使用する権利を得られることになりますが、その商標についての「あらゆる使い方」を独占できるわけではありません

たとえば、『Toreru』という商標が登録されていたとしても、日常会話で「トレル」という言葉を発することができなくなるわけではありません。

なぜなら、商標権は、「商標」と「指定商品(指定役務)」がセットの権利であり(ポイント3)、商標をその指定商品(指定役務)との関係で使用する行為を独占できる権利だからです。

このように、商標権は「言葉やマーク自体の独占」ではなく、「あるブランド名やマークを、ある商品・サービスに使うことの独占」ができる権利です。
ここを誤解せず正しく理解しておけば、誰かの商標登録に対して無用に慌てたりしなくてすみますし、自分にとって必要な権利を正しく取る助けにもなります。

商標権の効力について、詳しくはこちらの記事も参照ください。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

今回取り上げた重要なポイントの厳密な判断は専門家でないと難しく、中には専門家でも苦労する部分もあります。
とはいえ、本記事で解説した内容だけでも押さえられれば、商標登録への道はグッと開けます。

あなたの大切な商標を登録し、必要な権利を獲得するための一助になれば幸いです。

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