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商標の識別力とは? -識別力がない例や審査基準からポイントを解説-

「識別力」ってなに…?

商標登録に関わると、「識別力」という言葉に出くわして戸惑う方も少なくないのではないでしょうか。

「識別力」なんて言葉は日常生活ではまず目にしませんから、そうなるのも無理はありません。

一方で、「識別力」は、商標登録において極めて重要な概念の一つです。「識別力」をきちんと理解しているかどうかで、商標登録の成否だけでなく、ネーミング考案のコストやブランディングの効率にまで大きく影響します

そこで本記事では、このわかりにくいけど重要な「識別力」について、みなさんが気になるポイントを中心に解説していきます。

1. 商標の識別力とはなにか

商標の識別力とは、「誰の商品・サービスかを識別する目印となる力」のことです。

そもそも「商標」とは、単なる名称や記号ではなく、誰の商品・サービスかを識別できるようにするために使われるものをいいます。

そのため、商標登録の審査に合格するためには、似た商標がすでに取られているかだけでなく、商標として機能するだけの十分な「識別力」があるかどうかという基準もクリアする必要があるのです。

2. 商標の「識別力がない」例

商標の「識別力」を理解するには、「識別力がない」のはどのような場合かを考えるとわかりやすいです。

図1の2つのリンゴには、それぞれ『おいしい』と『甘い』の文字が印字されています。

図1

この場合、この2つのリンゴが同じ生産者のものなのか、それとも違う生産者のものなのか、直感的に判断できるでしょうか?

おそらく「できない」と思います。

なぜなら、『おいしい』も『甘い』も、消費者は単にリンゴの品質を説明している言葉として理解するのが普通で、まさか『おいしい』や『甘い』が生産者などを識別するブランド名だとは思わないからです。

このような場合、『おいしい』と『甘い』の文字は、「リンゴ」という商品との関係では商標としての識別力がないといいます。

では「識別力がある」例は?

では反対に「識別力がある」のはどのようなときでしょうか?

図2の2つのリンゴには、それぞれ『Toreru』と『ABC』の文字が印字されています。

図2

この場合は、左右のリンゴが別の生産者のリンゴであると直感的に理解できます。

なぜなら、『Toreru』も『ABC』も、リンゴに対して普通に使われる言葉ではないからです。普通には使われない言葉やマークがついているとき、消費者は「きっとこれはブランド名を表しているのだろう」と感じます。

このような場合、『Toreru』と『ABC』の文字は、「リンゴ」という商品との関係では商標としての識別力があるといいます。

3. 商標の識別力の審査基準

商標に識別力があるかどうかは、特許庁における商標登録の審査において、審査項目の一つになっています。

つまり、「識別力」の基準をクリアしていなければ、すでに似た商標が登録されていないことなどの他の審査項目をクリアしていたとしても、商標登録を受けることはできません

現に、日本の商標登録出願のうち約20%もの出願が「識別力がない」という理由で登録NGとなっています。商標の「識別力」は、これだけ重要なポイントなのです。

出典:特許庁「商標審査官が教えます 商標出願ってどうやるの?~これでわたしたちも商標登録!~」

もちろん、商標の「識別力」が適当に審査されているわけではなく、きちんと審査基準があります。

識別力の審査の基準となるのは、主に次の2つです。

  1. 商標法 3条1項各号
  2. 1の条文に対して特許庁が定める商標審査基準

①絶対的なルール:商標法 3条1項各号

商標法という法律の中に、商標の「識別力」について規定した条文があります。商標制度においては、商標法の条文がなによりも絶対的なルールになります。

商標法3条1項1号~6号にその条文があります。

条文を見てみましょう。

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 その商品又は役務について慣用されている商標

 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標

 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

「…次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる」とした上で、商標登録を受けることができない商標の類型が1~6号で列挙されています。

この1~6号は、いずれも「識別力がない」商標の類型が網羅されています。細かくいうと、1~5号までで具体的な類型が示された後、最後の6号で「その他の識別力のない商標」という趣旨の条文で包括的に規定されています。

商標登録の審査において「識別力がないからNG」と言われる場合には、必ずこの1~6号のどれかに該当するものとして指摘を受けることになります。

②指針的なルール:商標審査基準

商標の識別力の審査が、商標法3条1項各号に基づいて行われることはわかりました。しかし、この条文だけでは「具体的に、どのような商標だと1~6号に該当するの?」という疑問が生じます。

そこで、特許庁が定める「商標審査基準」があります。この商標審査基準では、1~6号に該当する商標の具体例や、より突っ込んだ判断基準などが挙げられています。

たとえば、審査で引っかかることの多い「3条1項3号(特徴等表示)」に関しては、

  • 商標が、その指定商品又は指定役務に使用されたときに、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識する場合、3号に該当すると判断する。
  • 商標が、「コクナール」、「スグレータ」、「とーくべつ」、「うまーい」、「早ーい」等のように長音符号を用いて表示されている場合で、長音符号を除いて考察して、商品又は 役務の特徴等を表示するものと認められるときは、原則として、商品又は役務の特徴等を表示するものと判断する。
  • 商標が、図形又は立体的形状をもって商品又は役務の特徴等を表示する場合は、 商品又は役務の特徴等を表示するものと判断する。

のような内容が書かれています(他にもたくさん書かれています)。

もしかしたらまだ曖昧なルールに感じるかもしれませんが、商標法の条文よりは一歩具体的な内容になっているため、特許庁の審査官だけでなく、依頼された商標の識別力について見解を出す弁理士も、商標審査基準は大いに参考にします。

上記はあくまで極々一部ですが、商標審査基準には、このような細かい判断基準や事例が条文ごとに書かれています。商標の仕事をする弁理士は、膨大な量となるこの商標審査基準の内容を把握して、各種の専門的判断を行っています。

なお、この商標審査基準は、商標法の条文ほど絶対的なものではありません(絶対にこの商標審査基準通りに審査しないといけないというわけではない)が、特許庁の審査がなるべく一貫性のとれたものになるように、審査官がその審査においてよりどころとすべき「庁内ガイドライン」的なものとして設けられています。

そのため、特許庁の一次審査では、概ねこの商標審査基準に則した判断が下されますが、それに対して弁理士が反論をする際には、「審査基準にはたしかにこう書いてあるけど、この判断は本案件では商標法の趣旨に合致しないので、こう判断すべきではないか」のように主張して、商標審査基準とは若干異なる判断を引き出せることがあります。

このように、紹介した2つのルールは「商標法 > 商標審査基準」という関係にあります。ともに商標の識別力の審査には欠かせないルールです。

4. 外国語の商標の識別力

商標には、日本語だけでなく、英語をはじめとする「外国語」が用いられることがあります。

そうすると気になるのが、外国語の商標の識別力はどのように判断されるのか、という点です。

商標の「識別力がない」とされるとき、最も多いのは「商品やサービスの特徴を表すものと理解されるに過ぎない」(3条1項3号)というケースです。そしてこれは、その商品・サービスの「消費者」(正確には「需要者」といいます)がどう理解するか?を基準に判断されます。

この基準は、商標が外国語であっても変わりません。したがって、その商標に含まれる「外国語」が、その商標が使われている商品・サービスの特徴を表す(品質などを説明する)ものと「消費者」に理解するのであれば、その外国語の商標は「識別力がない」と判断されます。

たとえば、商品「ヘルメット」に使う英語の商標『SAFE』があったとします。「safe」は「安全な」を意味する英単語です。「ヘルメット」という商品に対して「安全な(safe)」という語が表示されていたとき、ヘルメットを購入する日本の平均的な消費者は、これを何のための表示だと理解するでしょうか?

「ヘルメット」にとって、「安全性」はその商品の品質的な特徴の一つですから、消費者はおそらく「この『SAFE』はブランド名じゃなくて安全性をアピールする表示だな」と理解するでしょう。

そうすると、この英語の商標『SAFE』は、商品「ヘルメット」との関係では「識別力がない」と判断されます。

このように、どのような外国語であっても「消費者がそれをどのような意味で理解する(できる)か」に基づいて識別力を判断することは変わりません。しかしながら、日本の平均的な消費者にとって、英語以外の外国語はあまり馴染みがない場合が多いため、一般的に、英語よりもその他の外国語の方が、同じ意味の単語でも識別力が認められる可能性は高くなります。極端な話、先ほどの『SAFE』を「アラビア語」で表した場合には、日本の平均的な消費者は単語の意味がわからないため、単なる特徴表示だとは理解されないからです。

ただし、商品・サービスの分野によっては、英語以外の外国語であっても、消費者にその意味が理解されやすい(=識別力がないと判断されやすい)場合があります。たとえば「化粧品」分野では、「Beauté(ボーテ)」など、フランス語の単語を商品名やキャッチフレーズなどに採用することがめずらしくありません。そのため、消費者もフランス語の商標が表す意味を理解しやすい下地があると考えられます。

このようなケースでは、英語以外の外国語の商標であっても、英語と同様に識別力が否定されることが増えてきますので、商標を考案するときは注意しましょう。

5. 結合商標の識別力

商標の「識別力」には、大きな注意点がもう一つあります。それは、識別力が商標の「類似」にも影響を与える場合がある、ということです。

それは、商標が2つ以上の要素がくっついて構成されている場合です。ちなみに、2つ以上の要素がくっついて構成されている商標を「結合商標」といいます。

たとえば、「Toreru Media」という登録商標を例に取ってみましょう。この商標は、「Toreru」の単語と「Media」の単語がくっついて構成されているため、結合商標です。

この「Toreru Media」という商標。実はよく見ると、「Toreru」と「Media」で識別力の強さが違います

「Toreru」は、造語(固有名詞)ですから、サービスの特徴や性質などを直接表す言葉ではなく、「識別力が強い」語であるといえます。

一方「Media」は、ウェブメディアとの関係では、正に「メディア」であるということを表すに過ぎない語です。よって、「識別力がない(弱い)」語であるといえます。

つまり、「Toreru Media」という商標は、識別力の点で見ると、次の図のような構成です。

この場合、商標の類否判断(似ている・似ていないの判断)にどのような影響があるのでしょうか?

商標の類否判断のルールの一つに、「商標中に識別力の弱い部分があるときは、その部分を除いて他の商標と比較してよい」というものがあります。

そうすると、「Toreru Media」の商標が他の商標と類似するかどうかが問題となるシーンでは、識別力の弱い「Media」の語を除いた「Toreru」の部分だけを抜き出して、他の商標と似ているかを比較検討してよいことになります。

たとえば、「TOLELU」という商標を使うウェブメディアの存在を見つけたとします。「Toreru Media」は登録商標なので、もし「Toreru Media」と「TOLELU」が似ているとなれば、「TOLELU」商標の使用を止めさせることができます。

そこで「Toreru Media」vs「TOLELU」を比較すると、まず商標全体を比較したときには「全然違う」ということになります。後半の「メディア」の音の有無という大きな違いがあるからです。

しかしながら、先に書いた通り、商標「Toreru Media」は「Toreru」部分のみを比較してよいので、「Toreru」vs「TOLELU」で比較して似ているかどうかで類否を判断することができます。

そうすると、「Toreru」vs「TOLELU」ではともに読み方が「トレル」で同じなので、両者は「類似する」と判断される可能性が高いといえます。

このように、商標の識別力は、商標の類否判断においても大きな影響を与えるため、この意味でもとても重要なポイントなのです。

6. 商標の「識別力がない」と言われたらどうすればいい?

商標登録の審査や、弁理士に依頼した事前の商標調査で、商標の「識別力がない」と言われたら、主に次のことを検討しましょう。「識別力がある」に変わるチャンスがあるかもしれません。

  1. 反論できるか考える
  2. 商標の言葉を変える
  3. ロゴ化する

①反論できるか考える

まずは、商標を変更することなく「反論」で判断を覆せる可能性があるか検討しましょう。

ここで言う「反論」とは、特許庁審査官に対して行う反論であり、特許庁の審査で「この商標は識別力がないので登録は認められません」と言われたときに「意見書」という手続きで行うものをいいます。

審査でいちどNGを喰らっても、この「反論」に説得力があれば、「やっぱり登録OKです」というように審査結果が変わります。

そのため、「この商標の識別力がある」と言える客観的なロジックを立てることができるかを検討することは非常に大切です。

意見書による反論については、こちらの記事でもポイントを解説していますので、ぜひご参考ください。

②商標の言葉を変える

反論ではなかなか判断を覆せそうにない場合、残念ではありますが、登録しようとする「商標」自体を変えることを検討する必要があります。

「商標を変える」と言っても、必ずしも全く別のものに変えなければならないわけではありません。少しのアレンジで「識別力がある」に変わる可能性もあります。

そのやり方の一つとして「商標の言葉を変える」方法があります。

たとえば、商品「ヘルメット」に使う商標『SAFE』が識別力NGだったら、『SAFE』を『SAFY』に変更(語尾をアレンジ)すれば、識別力の問題はクリアできる可能性が高くなります。

この例では1文字変えただけですが、造語(にもかかわらず安全性も暗示させる)になったことで、消費者はこれを単なる特徴表示ではなくブランド名と理解するとみるのが妥当だからです。

元の商標案のイメージを踏襲しながらネーミング変更するのは簡単ではない場合もありますが、識別力の対策の一つとして覚えておきましょう。

③ロゴ化する

「商標を変える」もう一つのやり方に、「ロゴ化する」という方法もあります。

先の例でいうと、たとえ商標の文字としては『SAFE』のままだとしても、そのロゴデザインに十分な独自性があれば、そのロゴデザインを前提とした識別力が認められるからです。

実際に、ロゴデザインに独自性があるからこそ「識別力あり」として商標登録が認められたであろう事例を見てみましょう。

商標登録第5937445号(小林製薬株式会社)

この商標は、「除菌効果のある消臭剤」などに使用されるものであり、構成文字としては「消臭」と「除菌」です。対象商品との関係では、「消臭」も「除菌」も単に商品の効能(特徴)を表すに過ぎないため、このような特殊なロゴデザインを伴っていなければ、登録は認められなかったと思われます。

逆にいえば、「識別力がない」とされたネーミングや文字列であっても、この例のような「ロゴ化」を施せば、識別力をクリアして商標登録できる可能性が出てきますので、この方法も頭に入れておきましょう。

ただし、ネーミングや文字列自体に識別力がなく、ロゴデザインの独自性によって登録をした場合の注意点があります。それは、そのロゴデザインを適用した商標の使い方以外には、商標権の効力が及ばないことです。

たとえば、上記の「消臭」「除菌」のロゴを例にとると、この登録商標があるからといって、他の人が消臭剤などに単に普通の文字で「消臭」「除菌」と表示する行為が制限されるわけではありません。また、全く別のデザインの「ロゴ化」をしたものに対しても制限されません。

しかし、文字そのものには識別力がないにもかかわらず、「ロゴデザイン」に独自性があるからはじめて登録(独占権の付与)を認められたのですから、そのデザインを適用したもの以外は独占できないのは当然の仕組みといえます。

このように、商標権の効力に制限があることも踏まえた上で、「ネーミングを変えずにロゴ化で対処」が良いのかどうかを検討することが大切です。

まとめ

最後にまとめです。

  1. 商標の識別力とは、「誰の商品・サービスかを識別する目印となる力」のこと
  2. 『おいしい』という商標があったとしても、これが「リンゴ」に使う商標だったとしたら、「識別力がない」ことになる。なぜなら、消費者はこれを単にリンゴの品質を説明している言葉として理解するだけで、まさか『おいしい』がブランド名だとは思わないから
  3. 識別力の審査の基準となるのは、主に次の2つ
    1. 商標法 3条1項各号
    2. 1の条文に対して特許庁が定める商標審査基準
  4. 外国語の商標の識別力は、その外国語の意味を日本の平均的な消費者(需要者)が理解できるかどうかがポイント
  5. 結合商標の場合、商標の識別力が商標の「類似」にも影響を与えることがある
  6. 商標の「識別力がない」と言われたら、次のことを検討しよう
    1. 反論できるか考える
    2. 商標の言葉を変える
    3. ロゴ化する

商標の識別力は、捉えどころがなく難しい概念ですが、理解が深まれば深まるほど、商標の本質や登録のコツがわかってきます。

この記事が、そのための助けになれば幸いです。

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