著作権と商標権。
違う権利だということは知っているものの、何が違うの?と問われるといまいちピンとこない、という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、著作権と商標権の違いについて詳しく解説していきます。
商標権を取っておいた方がいいのかな…?私のこの作品はセーフかしら…?などお悩みの方も、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 著作権と商標権の違い
著作権と商標権の大事な「違い」は次の5つです。
- 権利の保護対象の違い
- 権利の発生条件の違い
- 権利の効力の違い
- 権利の期間の違い
- 権利の主張の難易度の違い
ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
1-① 権利の保護対象の違い
著作権とは、ずばり『「著作物」を保護する権利』です。
というと、そもそも「著作物」とは?という疑問がわきますよね。
著作物とは
日本の法律では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と定められています。
具体的には、以下のようなものが該当します。
(著作権法10条1項各号の例示)
- 小説・脚本・論文・講演などの言語的創作物
- 音楽
- 舞踊・無言劇
- 絵画・版画・彫刻などの美術的創作物
- 建築物
- 地図・学術的な図面・図表・模型などの図形的創作物
- 映画
- 写真
- プログラム
あくまで「例示」ですので、これらに限りません。著作物であるかどうかは個別に判断されます。
ちなみに先ほどの落書きは、上記のうち「絵画」の著作物に該当する可能性が十分にあります。落書きではあっても、描き手の「思想又は感情を創作的に表現」したイラスト(絵画)には変わりないからです。
対して、商標権とは、すばり『「商標」の使用を保護する権利』です。
ということで、こちらも同じくそもそも「商標」って何?となりますね。
商標とは
商標とは、商品・サービスの提供主体を区別する目印になるものです。
具体的には「一定の独自性のあるネーミング(文字列)やロゴマーク」などが挙げられます。
そして、商標権は『「商標」の【使用】を保護する権利』なので、このネーミングやロゴ自体を独占する権利ではなく、ネーミングやロゴを『特定の「商品・サービス」の提供主体を区別する目印として使用する行為』を独占する権利です。
1-② 権利の発生条件の違い
著作権は、著作物を創作したら自然に発生します。著作権を得るために何らかの手続きをする必要はありません。
ただし、創作したものが「著作物」であると認められなければなりません。
対して商標権は、特許庁に商標登録出願をし、審査に合格して商標登録を受けることで初めて権利が発生します。
1-③ 権利の効力の違い
次の2観点で解説します。
- どういう行為を独占(制限)できるか
- 「たまたま被ってしまった」は通用するか
どういう行為を独占(制限)できるか
著作権は、著作物を複製・譲渡・貸与・公衆送信・翻案(特徴を残した改変等)などをする行為自体を制限できます。
一方、商標権は、商標を特定の「商品・サービス」の提供主体を区別する目印として使用する行為を制限できます。つまり、「他人の商標を複製(模倣)して、それを自分の商品につけて(その他人の商品であるかのように見せかけて)販売する」行為は制限できますが、「他人の商標を複製する」行為自体は商標権侵害にはならず、制限することはできません。
「たまたま被ってしまった」は通用するか
著作権は「相対的権利」であり、著作権の侵害を成立させるには「依拠性」を証明することが必要です。
相対的とは「他との関係、比較の上に成り立つこと」です。
依拠とは「あるものに基づくこと」です。
つまり、他人の著作物と似たものを作ってしまっても、それが自分のオリジナルであり、たまたま似てしまっただけなら著作権(複製権)侵害にはなりません。
「他人の著作物の内容を知っていて、その内容に基づいて作った」のであれば、著作権の侵害にあたります。
なお依拠性があるかどうかは裁判で客観的に判断されるので、「たまたま似てしまいました」と主張すれば万事オッケー!という話ではありません。
諸々の事情を踏まえて「これだけ似ていれば、たまたま似てしまったとは考えにくい」という状況であれば、依拠性があると認められることもありますので要注意です。
対して、商標権は「絶対的権利」です。
絶対的とは、「他と比べず固定した基準によって評価すること」です。
つまり、著作権と違い「たまたま似てしまった」でもアウトです。
商標登録の情報は公開情報なので、たとえその商標が登録されていることを知らなかったとしても、勝手に同じ商標を(商標として)使ってしまえば、商標権侵害にあたります。
著作権の「依拠性があるかどうか」は判断が非常に難しく、裁判次第ともいえる部分です。その点、登録するための手続きは必要ですが、絶対権である商標権は強力な権利といえます。
(これについては「1-⑤ 権利の主張の難易度の違い」で詳しく説明します)
1-④ 権利の期間の違い
実は、著作権の権利は永久に続くものではありません。
著作権は原則、著作者の死後70年で消滅します。
無名の著作物(著作者が特定できない著作物)や、団体名義の著作物などは「著作物の公表後70年」で消滅します。
こちらの記事もぜひご覧ください。
商標権は原則、商標登録日から10年ですが、更新手続きをすることで半永久的に権利を存続させることが可能です。
これは、商標の創作性を保護するのではなく、商標に蓄積した信用を保護しようとする制度だからです。
更新手続きをすれば権利は存続できる、ということは、裏を返せば権利満了日までに更新手続きを行わないと権利が消滅するということです。
その商標をもう使っていないなど、すでに権利が不要な状況であれば、手続きを行わなくても問題ないですが、引き続き権利を保持したい場合はうっかり手続きを忘れないよう要注意です。
こちらの記事もぜひご覧ください。
1-⑤ 権利の主張の難易度の違い
著作権侵害を主張するためには、次の両方を主張・立証しないといけません。
- 著作権が発生していること
- 訴えた他人の行為が著作権侵害であること
1.を認めてもらうには、争っている創作物が、「1-① 権利の保護対象の違い」で説明したような法律上の「著作物」であること(著作物性があること)を認めさせなければなりません。真似された創作物が自分の創作物と似ているかの問題の前に、そもそも自分の創作物が著作物であるか(著作権が発生しているか)の問題からの争いになることが少なくないのです。
加えて自分が著作者(著作権者)であること(自分が創作した事実)も立証が必要です。
つまり、著作権で争うには、出発点として立証しなければならないことが多いので大変です。
一方、商標権は、商標登録の事実が特許庁に公式に記録されているので、商標権が発生しているか・自分が権利者であるかの立証が容易です。
そのため、真似された商標が似ているかどうか、などの論点に集中して争うことができます。
2. 商標登録した商標に他人の著作権があったらどちらが優先される?
商標権と著作権は別の権利なので、それぞれ別個に発生しますし、両立します。
また、商標登録は、自分自身で作っていない商標も自分の権利として登録できるので、一つの商標について、商標権と著作権がそれぞれ別人に発生することがありえます。
たとえば、デザイナーA氏が制作した「キャラクターのイラスト」を、発注者B社が商標登録した場合で考えてみましょう。著作権はA氏が持ち、商標権はB社が持つということになりますが、その場合どちらの権利が優先されるのかというのが気になりますよね。
原則としてそれぞれが有効な権利です。
ただし、商標法29条で『他人に著作権がある著作物を商標登録した場合は、その著作権者の許諾がなければ、商標権者はその登録商標を使用できない』とあります。
今回の例だと、発注者B社は、デザイナーA氏の許諾、または著作権の譲渡がなければ、商標登録した「キャラクターのイラスト」を使用できません。
ですが、商標の「使用」ができないだけで、商標権登録自体が当然に無効になるわけではありません。
商標登録の要件に「他人の著作物でないこと」のような制限はないからです。
(経緯が悪質な場合などは、公序良俗違反(商標法4条1項7号)などを理由に商標登録が無効となる場合はあり得ます。)
では、反対にA氏はB社の許諾なく「キャラクターのイラスト」を使用できるのでしょうか。それとも、たとえ著作権者であっても、他人に商標登録されてしまったら、その著作物を(商標権の権利範囲では)商標として使用することはできないのでしょうか。
これを定めた規定はありませんが、オリジナルの著作権者に対する商標権の行使は権利濫用であると解釈される可能性があると考えます。
また、法的に問題がなかったとしても、社会通念上良くない印象を持たれるような行為は、炎上などの大きなトラブルを招きます。
両者ともに大きなダメージを被ることもありえますので、商標権者と著作権者が別人になる場合は、事前に著作物等のライセンス契約を締結しておくなどの備えがあると安心です。
3. ネーミングは著作権で守れるか?
商標権では守れますが、著作権では原則守れません。
ネーミングは基本的には著作物に該当しないためです。
商品のネーミングは非常に重要な要素です。
時間をかけて、頭をひねって、センスの効いた素敵なネーミングを生み出す労力を考えると、ネーミングも立派な創作物のように感じますが、ネーミングは一般的に短い語の組み合わせから構成されるため、(著作権法的な意味では)創作性が欠如するから著作物に該当しないと考えられています。
4. ロゴは著作権で守れるか?
ではロゴだったらどうでしょうか?
ロゴの場合は、商標権では守れますが、著作権ではロゴによります。
文字のみからなるロゴは、原則、著作権では守れません。
シンボルマーク(図形・絵柄のマーク)は、著作権でも守れる余地があります。著作権で保護される「イラスト」に近いものだからです。
ただし、著作物だと認められにくい応用美術(=鑑賞用ではなく実用目的の美術)に近いので、著作物かどうかの争いになる可能性が高いです。
有名な裁判例)「Asahiロゴマーク事件」(東京高判平成8年1月25日判決)
そもそも著作物かどうか(著作権が発生するかどうか)からの争いになる可能性が高いので、ネーミングやロゴマークは、商標権でないとスムーズに守れないと考えておく方がよいでしょう。
まとめ
最後にまとめです。
- 著作権と商標権の違い
著作権 | 商標権 | |
保護対象 | 「著作物」を保護する権利 | 「商標」の使用を保護する権利 |
発生条件 | 著作物を創作したら自然に発生 | 特許庁に商標登録出願をし、審査に合格して商標登録を受けたら発生 |
効力 | ①複製・譲渡・貸与・公衆送信・翻案(特徴を残した改変等)などをする行為自体を制限 ②「相対的権利」であり、たまたま似てしまっただけなら著作権(複製権)侵害にならない | ①特定の「商品・サービス」の提供主体を区別する目印として使用する行為を制限 ②「絶対的権利」であり、「たまたま似てしまった」でもアウト |
権利期間 | 原則、著作者の死後70年 | 商標登録日から10年 *更新して半永久的に権利を存続させることが可能 |
主張の難易度 | 著作権が発生していること、自分が著作者であることなど、出発点として立証しなければならないことが多いので大変 | 商標登録の事実が特許庁に公式に記録されているので、真似された商標が似ているかどうかなどの論点に集中して争える |
- 商標登録した商標に他人の著作権がある場合、商標権と著作権は別の権利なので、それぞれ別個に発生するし、両立する
- 原則としてそれぞれが有効な権利だが、著作権者の許諾がなければ、商標権者はその登録商標を使用できない(商標法29条)
- 商標の「使用」ができないだけで、商標権登録自体が当然に無効になるわけではない
- 反対に、著作者が「商標として使用」することについて定めた規定はないが、オリジナルの著作権者に対する商標権の行使は権利濫用であると解釈される可能性がある
- 商標権者と著作権者が別人になる場合は、事前に著作物等のライセンス契約を締結しておくなどの備えが大切
- ネーミングは商標権では守れるが、著作権では原則守れない
- ロゴは商標権では守れるが、著作権ではロゴによる
- 文字のみからなるロゴは原則、著作権では守れない
- シンボルマーク(図形・絵柄のマーク)は守れる余地があるが、著作物かどうかの争いになる可能性が高い
- ネーミングやロゴマークは、商標権でないとスムーズに守れないと考えておく方がよい
著作権と商標権の権利の違いについて、少しスッキリできたでしょうか?
権利関係について無頓着でいると、大きなトラブルに巻き込まれることもあります。
知財に関する正しい知識は、創作活動やビジネスにとって強力な武器になりえます。
ぜひこれからも Toreru Media を活用してくださいね!