ビジネスの「意味」が変わるとき、考えるべき商標のこと

 COVID-19の登場により、我々人類は ”ニューノーマル” を目指した行動変容・意識変容が必要となりました。業界によっては従来通りのビジネスが成り立たず、別の観点で新たな価値提供を行う必要に迫られています。

 本記事では、「既存企業がちょっと視点を変えて新たなビジネス展開を図る場合に、商標の観点で気を付けるべきこと」を紹介します。本記事においては、ちょっと視点を変えて新たなビジネスを展開することを『ビジネスの「意味」が変わる』と捉えています。

ビジネスの「意味」が変わる 

 例えばタクシー業界においては、人を運ぶ → 飲食物を運ぶ という変化が起きており、タクシーに求められる機能や意味性が変わってきています。

タクシーで飲食宅配、コロナ特例の恒久化検討 国交省(日本経済新聞 2020.6.13)

 他にも、カラオケ業界においては、歌う場所を提供する → 仕事場を提供する という変化があります。

1日たったの200円!? カラオケボックスに「テレワークの鉄人」が集まるワケ(Asagei Biz 2020.6.5) 

 どちらも環境に合わせて柔軟に変化することで新たな価値を提供する試みですが、このとき、商標の観点で気を付けるべきことがあります。以降、実際の商標出願の情報や想定事例をふまえて紹介していきますが、その前にまずは商標権について説明いたします。

商標権とは

 参入障壁を築いてビジネスをより良く進めるためのツールの一つとして、知的財産権があります。知的財産権の中で、製品・サービスに関する名称やロゴについての権利が「商標権」です。商標権については以下記事をご参照ください。

 ここで、商標出願を行う場合は、どの分野でその名称・ロゴを使用するかを表す「区分」と、その区分内における具体的な製品・サービス(役務)を示す「指定商品・役務」を指定する必要があります。

 ビジネスの「意味」が変わるとき、この「区分」や「指定商品・役務」について考える必要があります。既に社名やサービス名について商標登録していたとしても、場合によっては他社の商標権を侵害してしまうリスクがあります。

「意味」が変わると、商品・役務が変わる

 例えば上記のタクシーの事例を考えてみます。

 元々は人を運ぶという役務であるため、タクシーに関する商標出願の「指定商品・役務」としては「車両による輸送」「タクシーによる輸送」などがふさわしく、区分は39類(輸送、旅行の手配)です。一方、例えば飲食物の提供サービスを手掛ける Uber Eats は、同じ39類にて「食品の配達」が指定されています。(商標登録第5862658号:Toreru 商標検索リンク)故に、タクシーに関する商標出願においても、「食品の配達」といった役務を指定しておくのが好ましいです。

 上記は39類という同じ区分内で役務が変わる例でしたが、次に、「意味」の変化に関連して、区分が変わる想定事例を紹介します。

 ロウソクは長らく「光を灯すための油脂」として活躍しましたが、光を灯すという機能的な軸のみで考えると、現代において、ロウソクはLED電球という代替品と比べて見劣りしてしまう商品です。しかしロウソク産業は、グローバルの市場規模がUSD 3.28 Billion(2018年)、USD 6.11 Billion(2026年予測)であり、2019年から2026年における CAGR(年平均成長率)が 8.06% ある成長産業と捉えることができます。(出典:Verified Market Research

 ロウソクの歴史を紐解いてみると、古代エジプトの時代から使用されていたとのこと。紀元前から存在する製品が現代においても求められているのは、何故でしょうか?

 それは、人々がロウソクに求める「意味」に変化があったためです。

 ロウソクは、当初は「光を灯す」という意味を求められていましたが、現代においては、香りを付与したアロマキャンドルによる「癒し」や、揺らめきによる「雰囲気づくり」といった意味が求められています。故にロウソクは、「光を灯す」という軸においては LED 電球に敵わないものの、今もなお市場が成長し続けていると考えられます。

 では、そんなロウソクの「意味」の変化により、商標の観点で考えるべきこととして、どの様な点が考えられるでしょうか?老舗ロウソクメーカー A 社が、新規ビジネスとして「電池式ランタン」を手掛けることを想定事例として説明していきます。

 A 社は、ロウソクの区分である4類(油脂)にて「ゆらめき」という商標を取得しています。小さな炎の揺らめきによって醸し出される雰囲気はとても情緒的であり、そのネーミングもあいまって、他のロウソクと比べて少々高額でも A 社の「ゆらめき」ロウソクを購入するファンは多いです。そんな折、A 社は、安全性もふまえて「電池式ランタン」を新製品として手掛けることにしました。A社は、この新製品の名前を、これまでロウソクにて長年使用してブランド力を培ってきた「ゆらめき」にしたいと考えています。何か問題となるでしょうか?

「電池式ランタン」の区分は11類(照明用器具)であり、ロウソクとは異なる区分です。故に、仮に A 社がロウソク分野(4類)にて商標を取得していたとしても、電池式ランタン分野(11類)にてその名前の権利を保護できている訳ではありません。つまり A 社は、他社によって登録されている商標権を侵害するリスクがあります。(実際、11類にて「ゆらめき」という商標登録があります:商標登録第4327962号 Toreru 商標検索リンク

 この様に、従来使用してきた名前を他の製品やサービスにおいて横展開する場合には、他社の商標権について注意が必要です。不要なトラブルを避けるためにも、新たなビジネスを行う場合には早めに弁理士に相談するようにしましょう。

まとめ

 以上、ビジネスの「意味」が変わるときに気を付けるべき商標のことを紹介しました。これまで築き上げてきた大事なブランドを保護するためにも、自社ビジネスと商標権との関係を定期的に見直す機会を設けるよう心掛けていきたいものです。

 従来とは異なるビジネスを手掛ける際に新たな商標出願を行っている事例については、以下記事もご参照ください。

 商標権について意識した上でより好適にビジネスを進めるにあたり、本記事が少しでも参考になりましたら幸いです。

おまけ:意味のイノベーション

 『ビジネスの「意味」が変わる』というのは、昨今の日本においても話題となりつつある「意味のイノベーション」と通ずるものがあります。意味のイノベーションとは、ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ教授が提唱する考え方です。その考え方の根本として、問題解決による価値提供(アウトサイドイン)ではなく、創り手のビジョンに基づいた新たな価値提供(インサイドアウト)という点があります。

 詳しくはベルガンティ教授の著書「突破するデザイン(Amazonリンク)」や、以下参考情報をご覧ください。知的財産の観点から、いずれこちらの記事でも取り上げたいと思います。

(参考情報)

 ・アイディアが溢れかえる世界における意味あるイノベーション | ロベルト・ベルガンティ | TEDxPolitecnicodiMilanoU
 ・イノベーションとデザイン・ブランドの関係(特許研究 No.61, 2016/3)
 ・「意味」のイノベーションと知的財産(1)(特技懇 no.288, 2018/1)
 ・「意味」のイノベーションと知的財産(2)(特技懇 no.289, 2018/5) 
 ・「意味」のイノベーションと知的財産(3)(特技懇 no.290, 2018/9)
 ・「意味」のイノベーションと知的財産(4)(特技懇 no.291, 2018/11)

以上