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商標登録の効果を徹底解説! 独占権で侵害を排除しよう

商標を登録しましょう、と言われてもどのようなメリットがあるか、イメージが難しいのではないでしょうか。

商標権は ”ビジネスを守る防具かつ武器” であり、使いこなすことで事業を飛躍的に成長させられます。一方で、商標権を登録しておかなかったために、他人に相乗りされ、トラブルに振り回された上に、競争力を失った事業者も少なくありません。

この記事では、「商標を登録するメリット」、「商標登録でビジネスを独占できる範囲」、「実際にどう侵害を排除していくのか?」という3つのポイントを、わかりやすく解説し、商標を武器にする方法をお伝えします。

1、商標登録のメリットは?

商標とは、主に「自らが取り扱う商品・サービスを、他人のものと区別するために用いられる、名称・ロゴ」のことです。

自分(自社)が使っている・これから使いたい名称・ロゴを、国に対して出願し、その審査をパスすることで商標登録を受けることができるのですが、この登録には費用がかかる代わりに、「独占権」が与えられます。

この「独占権」こそが、商標を登録するメリットです。

商標を独占することで、他の事業者の類似品と、自社の商品を区別できるようにしたい!というニーズは、古くは室町時代から存在していました。

当時、京都では柳谷という酒蔵が造る「柳の酒」という銘柄が一番人気があったそうです。「柳の酒」には目印として、“六星紋”のロゴが付いていたそうなのですが、そのロゴをコピーし、関係ない酒に付けて高値で販売する悪い酒屋がたくさん出てきました。これでは商売あがったりです。

困り果てた当主が、室町幕府に対し、「他の酒屋の”六星紋”の使用を禁止し、柳屋にロゴの使用を独占させてほしい!」と申し出たところ、その申し出が認められ、奉行所のお達しで、柳屋のみが”六星紋”を使用できるようになりました。

その結果、柳屋はますます栄え、京都周辺にある全酒屋の納税額の1割以上を占めるまでに発展したそうです。(柳の酒について

このように、どんなに良い商品・サービスを開発したとしても、その名称・ロゴを独占することができなければ、他の人に相乗りされ、信用や売上を奪われてしまいます。

楽して儲けたいのは人間の本能ですから、他の人が儲かる商品・サービスを販売していたら、自分も参入しよう、あわよくば先行している事業者から市場を奪ってやろう、と考えるのは自然ではあります。

しかし、”額に汗”して商品・サービスを開発し、市場を開発してきた事業者にとっては、たまったものではありません。これではチャレンジする意欲がなくなります。また、消費者としても「ロゴを見てもどのメーカーが作った商品か、さっぱり分からない・・」ことになり、ブランドを信じて買ったら粗悪品を掴まされた、なんてトラブルが頻発してしまいます。

そこで、国に対して費用を払うことで、 ”商標”を登録できる制度が、明治17年に制定され、正式に商標権者に対し、法律に基づいた独占権が与えられるようになったのです。

2、商標を独占できる範囲は?

独占権といっても、実際に商標権にはどれぐらいの力があるのでしょうか?

効果を考える前に、まずは「射程距離(権利を主張することができる範囲)」がどれぐらいあるか、見ていきましょう。

時々、ニュースで「〇〇が商標登録されました」という話がでて、「じゃあ、もうその言葉は誰も、使えなくなったのか!?」と騒動になることがありますが、実のところ商標権には、そこまでの射程はありません。

商標を登録する際は、全45類の区分の中から、さらに自分が使いたい商品・サービスをピックアップし、”指定”する必要があります。

例えば、25類にあるのは洋服や靴類。32類にはビールや清涼飲料。35類には各種小売業といったカテゴリー分けになっています。

(2つ以上の区分にまたがって、たくさんの商品・サービスを選ぶこともできるのですが、その場合は料金が2倍・3倍と上がるシステムになっています)

何故このような仕組みかといえば、商標の”独占権”は効果が強く、社会に与える影響が大きいので、本当にその人が使っている・使いたい商品・サービスだけに独占権を与えよう!という発想によるものです。

わかりやすいよう、「Toreru 商標検索」で、メジャーな商標である「アップル」を検索してみました。(検索結果はこちら

たくさんの登録が見つかりましたが、最初に表示された商標を見てみます。

Appleの商標画像
Appleの商標登録の詳細情報

登録番号:1758671は、かのApple社の商標です。指定商品は「電子計算機」、つまりコンピューターでした。これに対して、登録番号:4080817ではどうでしょうか。

appleの商標画像2
アップルウェアーの商標登録の詳細情報

こちらはアップルウェアー株式会社の商標です。植木鉢・プランターなどを製造・販売されている会社なので、20類に含まれる「植物の茎支持具」、21類に含まれる「植木鉢」などを主な指定商品とし、登録したと考えられます。

「電子計算機」と「植木鉢」・・・。指定されている商品は、全然違うジャンルです。

これであれば、消費者にも混乱は生じないですよね。

そのため、「同じAPPLEという商標であっても、指定商品が違うので、違う会社の商標登録が認められている」のです。

・・・では、実際に登録した名称・ロゴや、指定した商品だけにしか、商標権の射程範囲は及ばないのでしょうか?

キーワードは、「似ているものは、排除できる」です。

先ほどの〝APPLE”。表記は、APPLE、apple、アップル、あっぷる、色々と考えられますが、読み方が同じであれば、原則として射程範囲に入り、自分が選んだ商品・サービスの範囲内であれば、他人の使用を排除することができます。

それだけではありません。

例えば、「アップルー」や「applu」というような名称は、見るからに「apple」と紛らわしいですよね?同一の商標ではないからといって、他人の使用を認めていては、混乱が生じてしまいます。そのため、原則として「アップルー」や「applu」なども類似の範囲として、排除が可能になっています。 ※ 類似かどうかの実際の判断は、取引上、実際に混同のおそれがあるかで判断されるので、ケースバイケースです。

この「似ているものは、排除できる」という考え方は、名称やロゴの類似に限りません。類似している商品・サービスに対しても、権利が及びます。

ただ、商品同士が似ているかどうかの判断は、なかなか難しいです。そこで、国が「この商品同士は似ている・似ていない」というルールブック(審査基準)を出しています。

こちらには、

商標審査基準の内容例

みたいな例がたくさん書かれており、どの商品・サービス同士が似ているのか?判断する材料になります。このルールブックを活用することで、あらかじめ選択した商品・サービス以外に対しても、「類似しているから使用するな」と説得力をもって主張できるのです。

射程範囲についてまとめると、

「同一の商標、指定商品・サービスに対し、他人の使用を禁止できる!」 

            + 

「さらに、類似の商標、指定商品・サービスに対しても、他人の使用を禁止できる!」

効果があります。この幅広い独占権が、商標を登録する強みです。

3、商標権を侵害されたら何ができる?

あなたは商標を登録し、自社のビジネスにその商標を使用していたとします。ビジネスは好調、売上も伸びています。

しかし、ある日、自分が登録した商標が競合他社の商品に使われているのを見つけました。その商品は、自社のものより価格が安いうえ、品質が悪く、このままではお客が離れていってしまいます・・。

そんな時こそ、商標権の出番です!

第三者による商標の使用が見つかり、2でみた射程範囲に入っていれば、以下の対抗手段を採ることが可能です。

商標権侵害発生時の対応手段

このうち、利用されることが多い(1)~(3)について詳しく見ていきましょう。

(1)警告状を送る!

 商標権の侵害を見つけた場合、最初によく使われるのは警告状です。

相手が、こちらの商標を知りながら確信犯的に使用してきたのか?はたまた、偶然に使用しただけなのか?最初の段階で知ることは難しい事が多いですが、警告状をまずは送ってみることで、相手の出方を探ることが可能です。

日本では、警告状を無視する業者はほとんどおらず、警告状が届いたら、まずは本当に登録されているのか?検索して確認します。

検索して商標登録が見つかれば、あわてて使用を止める人も多いですし、「何とか使い続けられないか?」と考えて法律事務所に相談したとしても、侵害が成立していれば「いや、これは使用を止めるべきですよ」と専門家もアドバイスするのが通常です。

数十万円~数百万円の費用がかかる民事訴訟(裁判)に比べ、警告状の送付は法律事務所に依頼しても数万円~で済むことが多く、おすすめの対処法です。

警告状を送付する際ですが、悪質そうな相手なら厳しく、偶然侵害をしてしまったと思われる相手であれば軽めにと、相手に合わせた文面のさじ加減が大切です。

もし、相手がたまたま侵害してしまったと感じられる場合は、商標登録者の名前で、使用中止を依頼する申入書を送るだけで、あっさり解決することもあります。

一方、相手が悪質な相手と感じられる場合は、警告状を無視されないように

 ① 弁護士・弁理士の名前で法律事務所から、内容証明郵便で発送する 

 ② 回答期限は受領後1週間以内など、明確にスケジュールを示す

 ③ 誠意ある回答がない場合は、さらなる法的措置を採る用意があることを明記する

ことをおすすめします。

(2)ECサイト(Amazon, メルカリなど)に、出品削除を求める!

自社ブランドの商品を、大手のECサイトで販売している事業者の方は年々増えています。ECサイトで商標権の侵害品が見つかった場合、その取扱い業者全てに警告状を送るのは、手間がかかりすぎる場合も多いです。

大手のECサイトでは、利用規約で「知的財産権を侵害する商品を販売する業者は、権利者の申請に従って出品を削除し、必要に応じてさらにペナルティを与える」ルールを定めています。

この、「知的財産権を侵害している」かどうかの判断は、一般に「商標権を登録しているかどうか」が鍵となります。

商標があらかじめ登録されている場合、ECサイトで販売されている商品名・タグ・商品本体などに商標が使用されていることを指摘すれば、その出品が削除されます。

申請の際にどのような資料が必要か?はサイトによってそれぞれ異なりますが、 申立人の名前(又は法人名)、連絡先、商標登録番号が求められることが多いです。詳しくは、申立窓口の先からご確認ください。

 <参考:大手ECサイト 知的財産権侵害の申立方法>

  Amazon        :フォームから削除を要請

  楽天                 :フォームから削除を要請

  メルカリ       :メルカリアプリから、侵害商品を「事務局に報告」

             (別途、権利者保護プログラムもアリ)

  Yahoo!        :プログラムBに加入し、フォームから削除を要請

大手サイトの場合、通報から数時間~数日以内には侵害品が削除されます。

商標権の侵害を繰り返し行っているような悪質な業者に対しては、アカウント凍結などのより厳しいペナルティも課されますので、費用がかからない・スピーディな対策手段として、削除申立はおすすめです。

(3)警察に取締りを求める!

 ・警告状を送付しても無視された・・・。

 ・ECサイトで出品削除をしても、名前を変えて復活してキリがない・・・。

 ・悪質なコピー品で、他の業者の見せしめにも厳しく対処したい・・・。

色々なケースがあり得ますが、商標権の侵害は法律に罰則の規定があります。

商標権侵害の罰則

と、かなり厳しい処罰です。

実際に商標侵害罪が成立するためには、”故意”が必要とされていますが、警告状を送付しても無視された・・・、削除しても削除しても復活する・・・、というようなケースでは、「知りながら侵害を継続している」として、故意性が認められるでしょう。

 相談先は、①侵害品が売られた場所の警察署、②侵害品を販売している業者の本店所在地の警察署、③被害者(つまり自社)の本店所在地の警察署から、相談しやすいところを選ぶことが可能で、通常なら③が一番利用しやすいです。

 実際に警察が捜査に動いてくれるかは、ケースバイケースではあるのですが、侵害が相談時点でも継続しており、侵害品の在庫が日本国内にありそうな場合は、相談してみるのも良いと考えられます。

 警察に相談する際は、登録した商標の登録証、これまでに送った警告状、真正品・侵害品の比較サンプル(侵害品が手に入らなければ写真でも可)、侵害品を販売する業者の情報(ECサイトで販売しているならその画面のプリントアウトなど)、自社の事業情報(法人であれば全部事項証明書のコピー)などを持参すると、検討がスムーズでおすすめです。

4、商標の最強のチカラとは?

ここまで、「侵害を見つけたときに、商標登録があれば様々な手段で対抗できる!」という話をしましたが、実は、商標を登録する一番強い効果は、別にあります。それは、

 「戦わずして、勝てる」ことです。

商標登録は、誰にでも公開されており、特許庁のホームページでも、「Toreru 商標検索」のような民間のサービスでもカンタンに検索することができます。

少し注意深い業者なら、ブランドをコピーする前にまず検索をし、登録商標を見つけたなら

「やべーな、コピーするのは他の商標にしとくか・・」

と判断するでしょう。商標権を侵害されたあと、警告したり、削除申立をしたりすることは大切なのですが、当然手間がかかります。

商標を登録しておくことで、トラブルを未然に防げる。この予防効果こそ、商標の最強の力といえるでしょう。

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