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“デザイン経営”企業の商標出願動向 -株式会社良品計画-

1.はじめに:”デザイン経営” と知的財産権

2018年5月、経済産業省・特許庁から 「“デザイン経営“ 宣言」 についての取りまとめがありました。

『「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。』(特許庁HPより引用)

https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei.html

 “デザイン”という言葉を聞くと、ついモノのカタチや色のことを想像してしまいますが、ここで使われている“デザイン”は、「創造的設計」といった、より広い概念を意味するものです。故に、「デザイン経営=意匠権を活用した経営」ではなく、“デザイン経営“は、どの様な業種の会社にとっても関係する重要なテーマと言えます。なお、上記宣言において”イノベーション“についての明確な定義は出てきませんが、宣言の趣旨からすると、「技術革新」ではなく、「新たな価値の創出や、その仕組み」という意味であると推測しています。

知的財産権の観点から考えると、“デザイン経営”に資する重要な権利として、商標権があります。知的財産権の中には、他にも、技術を保護する特許権や、物品の外観を保護する意匠権などがありますが、デザイン(創造的設計)によって構築された製品・サービスの名称、そしてそれらを創造する会社が構築するブランドを権利として保護するためには、商標権が大事です。

2.知財功労賞(デザイン経営企業)

ところで、経済産業省・特許庁は、知的財産制度を有効に活用し円滑な運営・発展に貢献のあった企業等に対し、「知財功労賞」として表彰を行っています。そして平成31年度より、”デザイン経営”を取り入れながら知的財産を有効活用している企業についても表彰されることとなりました。記念すべき初代の“デザイン経営”企業は、以下の二社です。
 株式会社良品計画(経済産業大臣賞)
 株式会社スノーピーク(特許庁長官賞)
そして受賞理由の1つとして、いずれも商標権の有効活用という点があげられています。
(特許庁HP:平成31年度「知財功労賞」について

そこで本記事においては、平成31年度 知財功労賞(経済産業大臣賞)を受賞した株式会社良品計画(以下、良品計画)における、商標登録出願の動向をご紹介します。ビジネス展開に応じて、網羅的に商標権の保護を図っていることが見えてきました。

図1は、良品計画における1995.1.1以降の商標登録出願248件(国内)について、出願分野(区分)毎の件数推移を示した図です。ここで、縦軸に記載した「区分」とは、製品やサービスのカテゴリを示すもので、1~45の合計45分類あります。1件の商標出願に対して複数の区分が指定される場合もあり、例えば、ライドシェアサービスに関する商願2019-66555「UBER」については、以下の9類,12類,39類,42類が指定されて出願されています。

3.良品計画(無印良品)における商標登録出願:ビジネス展開に応じた出願

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商願2019-66555「UBER」で指定されている区分
 9類:科学用、電気制御用などの機械器具
 12類:乗物その他移動用の装置
 39類:輸送、旅行の手配
 42類:コンピューター、ソフトウェアの開発
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図1:無印良品による商標登録出願の区分毎の推移を示す図

図1を見ると、まずは1999年に件数多く商標出願していることが分かります。1999年には合計18件の商標出願があり、大半は「無印良品 com」に関するものです。良品計画HPによれば、1999年は無印良品 comKIOSK を展開した年のようです。「商標登録例:商標登録第4401316号(Toreru 商標検索ページ)」

そして1999年以降はポツポツと各区分にて出願があり、2016年以降は、各区分にて出願件数が増加傾向にあります。

ところで良品計画は、2018年1月にホテル1号店となる「MUJI HOTEL SHENZHEN」を中国・深センに開業しています。これは無印良品のブランド戦略の一環と思われ、これまで小売店舗にてビジネスを行ってきた良品計画にとって、新たな形態のビジネスを始めたと捉えることができます。前述の通り、商標はビジネス分野毎に1~45類の中から区分を指定して出願する必要がありますが、新たにビジネスを始めたホテル関係(43類)についての商標出願はあるでしょうか?以下、確認していきます。

図1の「43 飲食物の提供、宿泊施設の提供」をみると、2002年~2005年, 2013年に1件ずつ出願され、2016年以降は出願件数が伸びてきています。詳しく案件を見ていくと、例えば以下の商標出願があります。

・2004年出願:「商標登録第4814473号:カンパーニャ」(Toreru 商標検索ページ
 →商標に対応するサービス:「カンパーニャ嬬恋キャンプ場
・2013年出願:「商標登録第5663389号:木育ルーム」(Toreru 商標検索ページ
 →商標に対応するサービス:「木育ルーム
・2018年出願:「商標登録第6204677号:MUJI HOTEL」(Toreru 商標検索ページ
 →商標に対応するサービス:「MUJI HOTEL

2018年1月に深センにてホテルを開業したこともあり、日本国内においても「MUJI HOTEL」の商標が2018年に出願されていました。そして、日本においても2019年4月に「MUJI HOTEL GINZA」が開業されました。しかし、昔から使われてきた「無印良品」や「MUJI」については、43類(宿泊施設の提供)を指定した出願がありません。そこで、更に近年の出願を見ていくと・・

 
「商願2020-3099:J-PlatPatリンク

「商願2020-3100:J-PlatPatリンク

43類(宿泊施設の提供)を指定して、2020年1月に上記2件の出願がありました。これは、ホテルの名称である「MUJI HOTEL」だけでなく、長年使用してブランドを構築してきた「MUJI」や「無印良品」についてもホテル分野における商標権の取得を目指し、より手厚い権利保護を図っていることになります。

4.まとめ:商標権を適切に保護してブランドを守ろう

”デザイン経営”を推進する企業の代表として、平成31年度知財功労賞 デザイン経営企業(経済産業大臣賞)を受賞した株式会社良品計画の商標出願について紹介しました。MUJI HOTELの事例の様に、商標権を適切に保護してブランドを守るためには、ビジネス展開に応じた区分において商標出願を行う必要があります。過去に商標出願しているからといって、同じネーミング・同じロゴについてその後の商標出願が不要ということではありません。新たなビジネスを開始する際には、それまで築き上げてきた大事なブランドに関する商標権について、見直す機会・仕組みを設けるよう心掛けていきたいものです。

商標権の保護をより適切に行って”デザイン経営”を進めるにあたり、本記事が少しでも参考になりましたら幸いです。

(参考情報)
「デザイン経営」宣言(経済産業省・特許庁, 2018.5.23)
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kenkyukai/kyousou-design/document/index/01houkokusho.pdf
無印、銀座に「MUJIホテル」を開業した真意(東洋経済オンライン,2019.4.4)
https://toyokeizai.net/articles/-/274855
良品計画金井氏に博報堂デザイン永井氏が問う、「デザイン経営」の本質と実践法(Biz/Zine, 2019.11.5)
https://bizzine.jp/article/detail/3796

(商標検索)
検索日:2020.4.29
検索DB:J-PlatPat
検索内容:「?良品計画?」(出願人/権利者/名義人)
検索結果:国内248件(出願日1995.1.1以降の出願全件)

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