目次
1.はじめに:知財功労賞(デザイン経営企業)
令和2年度の「知財功労賞」経済産業大臣表彰(デザイン経営企業)として、株式会社TOTO(以下、TOTO)が表彰されました。
経済産業省・特許庁は、知的財産制度を有効に活用し円滑な運営・発展に貢献のあった企業等に対し、「知財功労賞」として表彰を行っています。そして平成31年度より、”デザイン経営”を取り入れながら知的財産を有効活用している企業についても表彰されることとなりました。
”デザイン経営”や、平成31年度の知財功労賞(デザイン経営企業)を受賞した株式会社良品計画・株式会社スノーピークの商標出願動向については、以下記事をご参照ください。
本記事では、”デザイン経営”企業である TOTO の知財出願(商標、意匠、特許)について紹介していきます。TOTO においては、デザイナーさんも発明者として特許出願を行っていることや、技術を通じて得られる機能的価値に関連する名前での商標登録を行っていることが分かりました。
2.デザイナーによる特許出願 / 意匠出願事例
まずはじめに、実製品に関連する特許出願・意匠出願を紹介します。2009年度 グッドデザイン金賞を受賞した多機能トイレパック「RESTROOM ITEM 01」に関する案件です。
・多機能トイレパック「RESTROOM ITEM 01」2009年度 グッドデザイン金賞
RESTROOM ITEM 01(TOTO HPより)
特許第5865574号 図1 (J-PlatPatリンク)
意匠登録第1329767号 【使用状態を示す参考図】 (J-PlatPatリンク)
上記特許文献や製品HPの記載によれば、本製品は、車椅子使用者やオストメイトにとっても使い勝手のよいトイレユニットのようです。例えば TOTOのHP には、特許番号とともに、車椅子使用者にとって洗面器部が使用しやすい旨が記載されています。
RESTROOM ITEM 01(TOTO HPより)
ところで、上記特許出願における発明者と、上記意匠出願における創作者は、同じデザイナーさんのお名前が記載されていました。一般的に、デザイナーさんのアウトプットに関して意匠権を取得することはよく行われるかと思いますが、特許権も取得するケースは珍しいのではないでしょうか?デザイナーさんのアウトプットにおいても、技術的内容については特許権が取れるという良い実例かと思います。
我々日本人は、どうしても「デザイン=意匠」という印象を強く持ってしまいますが、「デザイン=創造的設計」といったより広い概念でデザインを捉えれば、デザインの成果として特許権を取得するのはごく当たり前のことかもしれませんね。
なお、Webにてお名前が確認できる TOTO のデザイナーさん(元社員含む)18名について特許出願案件を検索したところ、38件の出願(内、登録20件)がありました。図1は、デザイナーさんが発明者である特許出願件数の推移を示す図です。上記の2009年度グッドデザイン金賞受賞製品に限らず、デザイナーさんが定常的に発明者として加わり特許出願されていることが分かります。
図1:特許出願数の推移
3.機能的価値を表す商標登録事例
次に、商標出願について紹介します。
ここでいう「機能的価値」とは、特許発明の様な「技術」を通じてもたらされる価値のことを指します。例えば TOTO においては、黒ずみなどの汚れを抑える「便器きれい」という機能があります。これは便器を使用する前に水滴を噴霧する技術(特許第4968635号:J-PlatPatリンク)によって得られる価値であるため、「機能的価値」と捉えられます。
では、機能的価値に関連して、どの様な商標出願&商標登録があるでしょうか?・・・なんと、上述の「便器きれい」は商標登録されています。
「便器きれい」:商標登録第5827378号:Toreru商標検索リンク
そして他にも探してみると・・・
「ノズルきれい」:商標登録第5931420号:Toreru商標検索リンク
「歯ブラシきれい」:商標登録第5877607号:Toreru商標検索リンク
「排水口きれい」:商標登録第5988227号:Toreru商標検索リンク
「空気きれい」:商標登録第5737729号:Toreru商標検索リンク
「においきれい」:商標登録第5745548号:Toreru商標検索リンク
「まな板きれい」:商標登録第5795361号:Toreru商標検索リンク
「ふきんきれい」:商標登録第5877622号:Toreru商標検索リンク
「〇〇きれい」シリーズで多くの商標が登録されていました!以下 HP に各機能についての説明があります。「みずからきれいに」という表現も、「水から」と「自ら」をかけておりオシャレですね。
みずからきれいに (TOTO HP より)
表1は、「〇〇きれい or きれい〇〇」という文字についての商標出願の一覧表です。まだ登録前である出願案件も含めると、合計26件あります。
表1: TOTO による「〇〇きれい」「きれい〇〇」の商標出願一覧
これらの「〇〇きれい」といった機能的価値を実現する技術については特許権での保護が可能ですが、その価値を消費者へ伝える場合には、当然、その技術・機能に関して消費者に認知してもらう必要があります。そのときの技術と消費者との接点を快適にするためには製品名やロゴが重要であり、その製品名やロゴを競合他社に使わせないためには、商標権の取得が有効です。
図2は、「便器きれい」という名前によって機能的価値を消費者へ伝わりやすくするとともに、その名前を商標権で保護しているイメージ図です。
図2:製品と消費者との接点において機能的価値を示す名前を商標権で保護している図
少なくとも衛生用品分野において「きれい」という単語は多くの消費者にとってポジティブな認識があるので、「〇〇きれい」という名前で製品の価値を訴求するとともに商標権で保護を図るというのは、効果的なマーケティング方法なのではないでしょうか。
4.まとめ:デザインの意味を広く捉え、適切な権利保護を目指そう
以上、”デザイン経営”を推進する企業の代表として、令和2年度 知財功労賞 デザイン経営企業(経済産業大臣表彰)を受賞した TOTO の知財出願(商標+意匠+特許)について紹介しました。ポイントは以下のとおりです。
・デザイナーのアウトプットについて、意匠権だけでなく特許権でも保護
・機能的価値に関連する名前についての商標権の保護
知財権の保護をより適切に行って”デザイン経営”を進めるにあたり、本記事が少しでも参考になりましたら幸いです。
5.参考情報
・デザイナーは発明をもデザインする―昨今のデザインブームを知財の観点で考察する―
・空調と調和するデザイン ― 美しさを追求する「ものづくり」 ―― TOTO株式会社 ―
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