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凹みは何のため?森永ラムネ容器の立体商標とブランディングの関係とは


本記事は、「Toreruの日 2021 企画 思い入れブランド自由研究」リレーの第1弾です!

皆さんにとって「思い入れ」のある商品や出来事は何でしょうか?

4歳からプレイしていたファミコン(スーパーマリオⅢ)、小学生のときに始めた麻雀、部活の試合に負けてショックを受けているときに聴いた GLAY や L’Arc~en~Ciel の曲・・・人生の色々なタイミングにおいて触れた対象は、その後も良き思い出として残っていくものです。

そして筆者が今も継続的に触れている懐かしいものとして「森永ラムネ」があります。ラムネはブドウ糖を効率的に摂取するための有能な食べ物と言われており、ただの子供向けお菓子ではありません。子供時代はたまに何気なく食べていた商品であったものの、今や勉強や仕事のお供として欠かすことができないものです。

Toreru Media の記事についても、ラムネ摂取の有無によって執筆のスピードに違いが…。ネタ創出等の頭脳労働にはもはや必須のアイテムですね。

懐かしいラムネ達。パッケージの表情が数種類ある。

ところで森永ラムネといえば、パッケージ。皆さんもご存じのラムネ瓶を模した形は、店頭でもすぐに見つけられます。実はこのパッケージ、2021年4月に立体商標として登録されました。そして見た目だけでなく、その手触りにもブランディング上の秘訣があるように思えます。

そこで本記事では、「森永ラムネ」にまつわる立体商標、そして触覚に訴求するブランディング(以下、触覚ブランディング)について考えていきます。商標とブランディングは、自己と他者とを区別する点において共通します。そして特に立体商標においては、商品の触り心地に基づく触覚ブランディングと密接に関わってくるのです。

触り心地とブランディングがどう関わるのか?代表的な例はコカ・コーラです。2000年代に入り、缶や紙コップ等によるコーラの提供機会が増加。すると、あの特徴的な形状のガラス瓶時代と比べて皮膚感覚の優位性が低下したとの研究報告があります。

掴む感触のなくなったコークは認知度も掴めなくなった

「五感刺激のブランド戦略」マーチン・リンストローム著, ルディー和子訳 P134

触覚を通じて知覚する「らしさ」が薄れると、ブランド力も減少するという示唆です。

たしかに、紙コップに入ったコーラを目隠しして飲んだら、何処の会社の製品なのか判別困難でしょう。あの瓶の形状や重量感がコカ・コーラの認知と大きく関わっているという点、頷けますね。

商標登録第5225619号
瓶の形状は立体商標として登録されている。

では、私の生活の一部である「森永ラムネ」にはどういった特徴があるでしょうか?ラムネを食べて集中力を維持しながら検討していきます。

1.森永ラムネの容器が「立体商標」として登録

商標登録第6378638号

2021年4月。私にとっての思い入れ製品である森永製菓のラムネ容器に関する「立体商標」が登録となりました。これは大きな反響があるに違いない…!盛り上がりまくったらどうしよう。通知をオフにすればいいかな…などといった不安を持ちながらも、登録の情報をTweet。

すると・・・

1件! いいね💗が1件…..!!伝わりやすいように、森永製菓のリンクを貼ってサムネイル画像も駆使したのに!!!

でも冷静に考えてみると、「立体商標が登録…それが何か?登録されると美味しくなるのか?」といった声が聞こえてきます。ただ登録になっただけで盛り上がるなんて、おかしいですもんね。

商標の登録は私達消費者にとって何か嬉しいのか?そして「立体商標」にはどの様なメリットがあるのか?

その疑問について、本記事にて少し考えていきたいと思います。

立体商標が登録されることで、商品の味が美味しくなるわけではありません。しかし登録によって、私達消費者の大事な体験やこだわりが護られます。以下川柳が示すとおり、商標の保護は、商標権者のみならず、我々消費者(需要者)を保護することにも繋がるのです。

川柳で学ぶ商標とブランド -知的財産を吐く①- より

私達はただ商品を買って独善的に楽しんでいるだけなのに、利益を保護してもらえるんです。幸せなことです。

では、その「利益」とは一体何か?「触覚」に注目して掘り下げていきましょう。

2.立体商標で護られる消費者の利益=凹みの触り心地!触覚ブランディングとは

ここで、商品やサービスを売るための工夫(以下、マーケティングという)を行うにあたり、顧客の知覚を奪う必要があるとの教えがあります。認識してもらえれば勝ち、ということです。

マーケティングとは商品の戦いではなく、知覚の戦いである。

マーケティング22の法則 -アル・ライズ/ジャック・トラウト共著, 東急エージェンシー, 1994年, P37

知覚とは五感に基づく感覚であり、味覚、視覚、聴覚、嗅覚・・・そして触覚があります。つまり商品やサービスのマーケティングを行う1つの手段として、触覚への訴求が有効となる場合があるということ。

どの感覚への訴求が有効打となるかはビジネスの種類によります。ことお菓子分野においては、どうでしょうか。味覚や視覚が重要であるのは言うまでもありません。そして、誰しもほぼ必ず手を使ってお菓子を食べますよね。つまりおやつタイムは、手の触覚でそのブランドを印象付ける絶好のタイミングということです。

ここで、森永ラムネを食べるときにどの様な「触覚」が関わるかを振り返ってみましょう。

ラムネや立体商標がたくさん….!

さて食べてみます。
蓋開封時に森永マークを視認するところからこの体験が始まります。

商標登録第2083306号 等
森永のシンボルであるエンゼルマーク。

開けました。このちょっと薄めの蓋も好きです。

ストップ!!!

ここです。ラムネ自体ではなく、容器によって素敵な触覚体験が。

ちょっとした凹みが指にフィットして、なんとも言えない感触です。ラムネを味わう直前に必ず訪れる感触。これはラムネの味以上に、脳内に刻まれます。

容器中ほどにある凹み

こういうものは何故かやみつきに…!触覚ブランディングを通じて消費者をこの様な状態にしてしまえば、味や価格といった合理的世界から離れることにも繋がりそうです。仮にちょっと価格が高くなっても味が少々落ちても、私はこの容器(に入ったラムネ)を非合理的に買ってしまうことでしょう。

そしてもしかしたら、全く異なる凹みに触れることによって森永ラムネを想起することもありそう。触覚ブランディングの効果は恐ろしいものです。

どんなに非合理的であろうと、商品のフィール(感触)はブランドに対する私たちの知覚を形成するのに欠かせないものなのです。

「五感刺激のブランド戦略」マーチン・リンストローム著, ルディー和子訳 P131

この凹みには、他にも「ラムネが一気に出てくるのを防ぐ」「持ちやすい」といった機能があるかもしれません。しかし私は、この凹みの感触に心を奪われました。エンゼルマークで出迎えてくれた後の、この凹みがたまりません。

では、購入の決定打ともなり得る容器について、どの様な権利で保護するのが良いのか?そこで「立体商標」が関わります。

3.立体商標と触覚ブランディングは相性が良い?

容器の形状については、特許権や意匠権での保護も検討の余地があります。例えば容器が凹みを有することによって「持ちやすい」「ラムネが一気に飛び出てこない」といった何らかの新たな効果があれば、その技術的内容は特許権で保護し得ます。そして物品の外観を保護することが得意な権利といえば、意匠権です。

しかし後述のとおり、歴史ある森永ラムネについて現在も権利保護するには、特許権や意匠権では少々相性が悪いです。そこで、森永は「立体商標」を保護の方法として選んでいます。

1973年当時の森永ラムネ
森永製菓 HP より

では、権利者の目線で、立体商標による権利保護のメリットは何でしょうか?

それは2点あります。

① 権利保護可能な期間が長い。

特許権は出願から20年、そして意匠権は出願から25年しか存続できない一方、商標権は半永久的に保有することが可能です。(参考:「商標登録は更新可能-どんな場合に更新のメリットが大きい/小さいの?」Toreru Media)

② 製品販売後でも出願&権利化が可能。

権利保護したい内容が出願前に世の中に知られてしまうと、その内容で特許権・意匠権を取得することは原則として不可能。権利を取得する要件として、出願時の新しさが求められるためです。一方、商標権であれば、既に世の中に知られているものであっても権利化が可能です。故に、1973年に初代製品が販売された「森永ラムネ」について現在も何らかの権利保護を行うにあたり、商標権が最も適していたと言えるでしょう。

そして各権利の価値について、一般的な経年変化のイメージは以下のとおりです。特許権や意匠権の価値は時間経過とともに低下する傾向にあります。その価値は時代の流行や市場ニーズによって左右されやすいためです。(医薬分野における特許権など、市場の独占を保護するような場合は除きます)

各権利における価値の経年変化イメージ

一方、商標権は時間が経つにつれて価値が増してきます。商標を使い続けることによって顧客の「信用」が商標に貯まっていくためです。(参考:「商標とは?」Toreru Media)

長い年月をかけて行うブランディングを安全に進めるため、「目印」である商標を保護することは重要なことです。そしてロゴや名前を商標登録することは一般的ですが、さらに顧客の「触覚」に訴求する立体形状を保護するために活用し得るのが「立体商標」です。

立体的な形状を保護することで、その形状に基づく触覚体験をも、間接的に保護し得るのです。

「体験を間接的に保護」については、こちらの記事のぬいぐるみの事例がイメージしやすいかもしれません。(参考:「藤井聡太棋士のおやつ「ぴよりん」達から学ぶ、立体商標の世界」Toreru Media)

そして、先ほど投げかけた『立体商標による保護は、消費者にとっても「利益」がある』というお話。この利益とは「顧客体験」です。私はラムネの容器に対してある種の “快感” を覚え、修羅場を乗り切る相棒として愛しています。そんなユニークな体験を提供する形状を立体商標として登録し、そのブランドを育てあげることは、消費者にとっても「豊かさ」になります。

ブランディングはメーカーの想いだけで成り立つものではなく、顧客と一体になって育てあげるもの。顧客にとっても「利益」だと感じてもらってこそ、真の「愛されブランド」なのでしょう。

以上、ラムネを食べながら色々と考えてみました。

☆「立体商標」と「触覚ブランディング」についてのまとめ

  • 特徴的な立体形状は「立体商標」として権利保護し得る
  • 商品の「触り心地」は、ブランドを認識する大事な要素である
  • つまり「立体商標」の登録により、立体形状に基づく触り心地、そしてその触り心地に基づくブランド価値を保護することに繋がる(触覚ブランディング)

おまけ:立体商標を触りながら考える、ラムネと留年と知的財産

集中力維持のためのラムネ。森永製菓の HP においても、仕事と勉強のシーンにおいての利用を勧めています。

森永製菓 HP より

そして大人向けのこんな製品も登場しました。

真ん中が通常サイズのラムネ

粒が大きい!しかし私にとって何より大事なのは、あの容器。あの凹み。これでは私の欲求は満たされません。やはり容器が一番であり、大きさや味は二の次三の次です。この大粒ラムネのおかげで、凹みの重要さを再確認しました。

ところで唐突ですが、私は大学の卒業に必要な単位を5年間かけて取得しました。周りに流されることなく、コツコツと歩んでいったのです。勉強机すら無い6畳のアパートで毎晩インターネット。昼間はテニスやアルバイト。そして効率的な単位取得のための友達があまりいない・・・留年は当然の結果です。そして何より、大学時代はその重要さを知らずにラムネを摂取していませんでした。

ラムネを摂取していれば、勉強が捗り留年せずに済んだのだろうか?そんな考えもよぎります。

キャラクターの顔が付いたラムネもいます。

しかし、です。その留年時代に色々とネットサーフィンをした結果、「知的財産」やそれに関連する職業を知ることとなったのです。これは大きかった…!もしラムネを摂取して勉強を頑張ることによって留年していなかったなら、今ここで知財の記事を書いていなかったことでしょう。

私はお菓子をよく食べるただの中年男性。ラムネに関する商標権者でも事業者でもありません。

でも、ラムネは私にとっての素敵な知的財産です。

ある晴れた日に

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