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藤井聡太棋士のおやつ「ぴよりん」達に学ぶ、立体商標の世界

将棋の藤井聡太棋士がタイトル「叡王」を獲得しました。これで「10代三冠」となり、前人未踏の記録をまた一つ刻んだこととなります。

メジャーリーガーの大谷翔平選手と並んで、日本に活気を与えてくれる英雄ですね。将棋界のレジェンド棋士である羽生善治棋士の記録(タイトル獲得数:通算99期)に何処まで近づくのか?それを阻止する好敵手は現れるのか?楽しみは尽きません。

将棋と言えば「オジサンやご高齢の方の趣味」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし昨今では、初心者や若者でも気軽に楽しめる対象となってきています。AIによるスコアリング結果を眺めることで形勢を把握できるようになったり、棋士が昼食として注文する「将棋めし」のメニューで楽しんだり。

「将棋めし」という漫画やTVドラマもあります。
フジテレビ HP より

勿論、藤井聡太棋士が注文する「将棋めし」はいつも注目の的。そして大きなタイトル戦の場合、全国を周って対局が行われます。つまり、棋士の昼食やおやつを通じて「ご当地グルメ」が脚光を浴びる場合があるのです。例えば名古屋名物「ぴよりん」。藤井聡太棋士の注文によって筆者もその存在を知ることとなりました。

そこで本記事では、そんな「ぴよりん」をきっかけとして「立体商標」について紹介していきます。最近では「たけのこの里」の立体商標が苦労の末に登録された旨がニュースとなりましたが、決して「立体商標=登録が難しい」ではありません。その点を「ぴよりん」から教わっていきましょう。

~「商標」についての基本情報 ~

1.藤井聡太棋士が食したおやつ「ぴよりん」の立体商標

2011年「ぴよりん」誕生 → 2013年 通算30万個販売&立体商標登録出願

「ぴよりん」は2011年に名古屋で誕生し、今年で10歳になるお菓子です。

ぴよりん 公式 HP より

実に可愛らしい…!ハロウィンぴよりんやバレンタインぴよりん等の季節ものも多数存在する様子。名古屋駅構内でしか購入できないというのがもどかしいものです。

そんな「ぴよりん」は、販売から2年が経過した2013年7月に販売個数30万個を達成。そして同月には、その愛くるしい外観形状が「立体商標」として商標登録出願されています。

商標登録第5663067号

製品外観がほぼ忠実に再現されていますね。正面以外の角度から眺める「ぴよりん」も可愛い…。手が羽ばたいている感じ、うっかり落ちそうなくちばし、ひよこにしては妙に大きな鶏冠。全てにゆるさがありますね。以下の「ゆるキャラ」三か条の要件を満たしてそうです。

一、郷土愛に満ち溢れた強いメッセージ性があること。 
一、立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること。
一、愛すべき、ゆるさ、を持ち合わせている事。 

みうらじゅんインタビュー 「最近、俺自身がゆるキャラになってる?」

そもそも商標とは?そして立体商標って何?

商標とは「商品やサービスを区別するための目印」です。(参考:「商標とは?」Toreru Media)

例えば「ぴよりん」という名前自体も、お菓子分野において商標登録されています。登録により、他の会社は「ぴよりん」という製品名のお菓子を製造販売することが出来なくなります。

商標登録第5471647号

商標権者が「ぴよりん」を独占的に使用できる結果として、パクリ品が抑制され、商標権者にとっても私達消費者にとっても、安心した取引を行うことに繋がるのです。

そして立体商標とは、読んで字のごとく「立体的な商標」を意味します。つまり、三次元的な形状による目印です。(2021年9月17日 現在、計2,760件の立体商標が登録されています)

どの様な立体商標が登録されているのでしょうか?「ぴよりん」以外の登録例も見ていきましょう。

「たけのこの里」は、何故立体商標の登録に苦労した?

最近の登録例として大きく話題になったのが「たけのこの里」です。2018年5月 に出願されたものの、特許庁の審査において「たけのこのお菓子として普通の形状だよね(=識別力無し)」という拒絶を受け、なかなか登録には至りませんでした。そこで(株)明治は Web アンケート等を通じて「全国的に著名である(=普通の形状だとしても、十分に識別力が備わっている)」旨をアピールし、2021年7月 に見事登録されています。(参考:『「たけのこの里」立体商標登録 特許庁の“拒絶”を覆した明治の底力』SankeiBiz, 2021年8月30日)

商標登録第6419263号

立体的形状が「その分野で普通の形状だね」と判断されてしまうと、「たけのこの里」程の有名なお菓子であっても登録には苦労することがわかります。審査過程でどの様な主張がなされたのか?等は以下記事にて紹介していますので、もしご興味ありましたらご覧ください。

ところで、「ぴよりん」の形状は特許庁の審査においてどう判断されたのでしょうか?藤井聡太棋士のおやつによって注目を浴びたものの、その認知度は決して全国区とは言えないはず。

そもそも出願されたのは2013年であり、今以上に無名だったことでしょう。

商標登録第5663067号
いくら可愛くても、残念ながらまだ全国レベルではない。

こちらのぴよりん案件について、特許庁の審査過程を調べてみました。

商標登録第5663067号 の審査記録(J-PlatPat リンク

出願から4ヶ月後の 2013年11月 に「拒絶理由通知書」が確認できました。すんなりと登録には至らず、1度拒絶されていたのですね。そしてその後「意見書」「手続補正書」等を提出して反論を行うことにより、無事 2014年2月 に「登録査定」の運びとなっています。

拒絶の内容としては、たけのこの里と同様に「お菓子として、普通の形状だよね(=識別力無し)」というものでした。

こんなに可愛いのに、無慈悲な。。

しかし特許や商標の出願は、1度くらいは拒絶されるものです。特許権や商標権は独占的で強力な権利なので、そう簡単に付与されるものではありません。そこで本件の出願人は、「権利範囲をもうちょっと狭くするよ」といった補正や、「普通の形状ではない!」という意見の主張を行いました。(2013年12月11日付 「手続補正書」「意見書」)

本願商標は、全体を黄系色で統一した本体の正面に目と口ばしを、頂点部分にはトサカを、左右両側には小さな羽をそれぞれバランス良く・・・・即ち、当該立体形状は「プリン」や「ケーキ」の形状としては極めて斬新で特徴あるデザインであって、需要者等が単なる商品の一形状であると認識する形状レベルを遥かに超えるものといえ、特定の業者の製造等に係る商品であるに違いないとの印象を抱かせる形状となっております。

商願2013-054537 意見書 (受付日:2013年12月11日)より

主張のポイントは可愛さではありません。商標権の取得を希望している「プリン」や「ケーキ」分野において、いかに特徴的な形状であるか、です。また、他の登録例として、以下のカステラに関する立体商標が登録されている旨の言及もありました。

商標登録第5580613号

「このカステラが登録となるのに、何故ぴよりんはダメなんだ!」という主張ですね。

これらの主張が実り、ぴよりんの立体商標も晴れて登録になりました。

審査においては可愛さのアピールではなく、当該分野においていかに特徴的な形状であるか、すなわち識別力があるかを主張するのが効果的なのですね。

<たけのこの里とぴよりんの比較>

  • 「たけのこの里」:筍風のお菓子の形状として普通である(=識別力が無い)と判断された。故に、立体商標の登録に苦労した。
  • 「ぴよりん」:ひよこ風のプリン・ケーキとして、普通の形状ではない(=識別力がある)と判断された。故に「たけのこの里」程の苦労は要さずに登録された。

次に、立体商標としてすんなり登録された他の例として「お~いお茶」の事例を紹介しましょう。

2.王位戦における藤井聡太棋士のおやつのお供「お~いお茶」パッケージの立体商標

藤井聡太棋士が 2021年9月 現在保有するタイトルの1つが「王位」です。そしてその呼称から、2021年度・2022年度においては「お~いお茶杯王位戦」という表記が採用されています。(特別協賛:伊藤園)

商願2021-17509

「お~いお茶」と言えば、あの黄緑色のパッケージ。そして「お~い」という平仮名のゆるいフォントが想起されることでしょう。実はこのパッケージは「立体商標」として登録されているのです。

商標登録第4943432号

本件は、拒絶されることなくすんなりと登録されています。緑茶飲料が世の中にたくさん存在する中で、本商標は「お~いお茶」という文字が目立つことによって「識別力」があり、問題無く登録されたということです。

この様に、文字を入れることによって識別力を有して「立体商標」として登録された事例は他にもあります。

例えばテトラポッド。文字入りの立体商標(左図)は1998年にすんなり登録。一方、形状のみの立体商標(右図)は、「消波ブロックの分野では普通の形状だよね」として拒絶され、5年遅れの2003年に登録となっています。

こちらも「たけのこの里」のケースと同様に、販売実績等の具体的数値に基づき全国的に著名である旨をアピールした結果、登録を勝ち取りました。

次は、藤井聡太棋士の3つ目のタイトルとして先日獲得したばかりの「叡王」に関連する内容です。実はここにも「立体商標」が関わっているのです…!

3.藤井聡太叡王が誕生!おやつは、看板娘「ペコちゃん」有する不二家のお菓子

先日、藤井聡太棋士が獲得した3つ目のタイトル「叡王」。四天王の1人である豊島将之竜王からの奪取となりました。そしてこの叡王戦におけるおやつは、スポンサーである不二家のお菓子が提供されます。

不二家と言えば・・看板娘「ペコちゃん」ですね。藤井聡太棋士のインタビュー時にもしっかり横で見守っています。

不二家ONOFF 公式チャンネル より

実はこのペコちゃんは、我が国における立体商標の登録例の先駆けでもあります。登録例第一号はケンタッキーのカーネルサンダースさん銅像(商標登録第4153602号, 登録日:1998年6月5日)。そしてその登録から2週間後である1998年6月19日には、ペコちゃんの立体商標も登録となりました。

商標登録第4157614号

こちらも特許庁における審査過程を眺めてみると、拒絶を受けることなく登録されていました。ペコちゃんであれば当然の結果のようにも思えます。しかし上述のとおり「識別力」さえあれば、ペコちゃん程の ”著名人” でなくても立体商標として登録されるのです。

例えば最近では以下の登録例があります。

商標登録第6307912号

こちらは東京都中野区の公式キャラクター「中野さん」。(参考:「中野大好きナカノさんプロジェクトについて」中野区)立体商標として登録されています。

そしてこんな食べ物の登録例も。

商標登録第6033061号

美味しそうなマスクメロン…!千疋屋による登録商標です。千疋屋のロゴマーク等の部分について識別力があると評価され、登録に至りました。

上記2つの登録例については、いずれも全国的に著名とは言い難いもの。しかし、当該製品分野において他の物と明確に区別できる「識別力」を備えていれば、このように立体商標として登録することが可能なのです。

自社のブランドを代表するような看板商品・キャラクターは、実は立体商標で権利を守れるかもしれません。もし気になったら、身近な知財関係者や弁理士に相談してみるのも良いでしょう。

さらに立体商標は、商品ではなくサービスを提供する業種でも活用できます。最後に、ホテル業における登録例&活用例を1つ紹介します。

4.藤井聡太棋士もいずれは入手?ホテル業における「オルタン」ぬいぐるみの役割と、立体商標で保護できる体験とは

将棋のタイトルマッチは全国のホテル/旅館にて行われ、例えば 2021年10月5日 の第69期王座戦第4局は「ホテルオークラ神戸(公式HP)」にて開催予定です。このホテルオークラ神戸には、マスコットベア「オルタン」がいるのをご存知でしょうか?

ホテルオークラ神戸限定 ホテルオークラ神戸限定 マスコットベア マスコットベア マスコットベア「 オルタン 」誕生 より

ホテルにて宿泊者を出迎えてくれる新米ベルボーイのオルタン。その制服姿のぬいぐるみは立体商標として登録されています。「ぴよりん」とは異なる種類の無難な愛くるしさを備えていますね。

商標登録第5667396号

そしてホテルオークラ神戸には、このぬいぐるみ付の宿泊プランもあります。藤井聡太棋士がいずれ王座戦のタイトルマッチを行うときが来れば、当該場所での対局&「オルタン」ぬいぐるみの入手も実現するかもしれませんね。

では最後に、ホテル業におけるぬいぐるみの役割と、立体商標の登録によって何を保護できるのか?について考察していきます。

ホテル業においてまごうことなく重要なのが、リピーターの獲得。どの様なホテルであっても、価格に見合った合理性のある内容以上の体験を提供できれば、顧客は再度そのホテルを利用したくなることでしょう。そのときの宿泊体験が特別なものであれば、何年後であっても再度同じ体験をしたくなるものです。ただ悲しいことに、その特別な体験は年月を経るとどんどん曖昧なものになっていきがちです。

では、ホテルで入手した「ぬいぐるみ」が手元にあるとどうでしょうか?ホテルでの体験やそのとき感じた想いがぬいぐるみと紐付いて記憶され、その後もぬいぐるみを見るだけで、宿泊体験を想起するでしょう。

このとき、もし競合のホテルがオルタンと似たぬいぐるみを提供し始めたら、どういう事態が起こるでしょうか?オルタンの存在自体や、そのぬいぐるみと紐付いた記憶の印象が薄れてしまいますよね。それは、オルタンと紐付いた体験や信用について、競合のホテルが「ただ乗り」することにも繋がります。

つまりオルタンの立体商標登録は、競合他社による似たぬいぐるみの活用を防ぎ、間接的に宿泊体験をも保護しているといえます。しかも商標権は何度でも更新できるので、その保護は半永久的です。(参考:「商標登録は更新可能-どんな場合に更新のメリットが大きい/小さいの?」Toreru Media)

製品や会社のロゴ・名前に関する商標権でも上記効果はありますが、立体商標であればその効果は尚更。三次元的な形状には情報が多く含まれており、例えば「触り心地」といった触覚にも訴求することができます。

ホテル業に限らず、顧客の気持ちや信用が関わる情緒的な価値が鍵となるビジネスにおいて、本事例から学べる要素がありそうですね。

5.まとめ

  • 藤井聡太棋士が食した名古屋名物「ぴよりん」が可愛い
  • 「識別力」があれば、有名でなくても立体商標の登録が可能
  • 自社製品/サービスの信用が蓄積された立体形状について、半永久的な権利保護が可能

以上、藤井聡太棋士のおやつ「ぴよりん」をきっかけとして、立体商標の登録例や活用事例を紹介しました。自社サービスの信用を蓄積する対象として、会社名、製品/サービス名、ロゴ・・・そして「立体的形状(立体商標)」も検討してみてはいかがでしょうか。

そして、藤井聡太棋士のさらなる活躍からも目が離せません!

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