本記事は、商標の情報に基づいて「きのこたけのこ戦争」を収束させます。明治が手塩をかけて出願&権利化してきた商標の情報を通じて、「きのこたけのこ戦争」に終止符を打ちましょう。
1.今年は「きのこたけのこ戦争」ではなく「大調査」
国民的お菓子である「きのこの山」と「たけのこの里」、皆様はどちらが好みでしょうか?「きのこたけのこ戦争」や「国民総選挙」などと称して、これまで白熱した議論が繰り広げられてきました。

しかし、
「たけのこの里はなんかちょっとパサパサするから嫌」
「きのこの山は見た目にバラツキがあって可愛いから好き」
など、どれも主観に基づく感覚的な主張ばかりです。今年は「争ってる場合じゃない」と、松本潤氏が言っています。(明治 Youtube動画 0:18付近)
もう「きのこたけのこ戦争」は終わりにしましょう。しかし、何らかの客観的情報に基づいてロジカルに決着を付けたいと考えるのは、おそらく筆者だけではないはず。
そこで本記事では、商標情報の観点から「きのこたけのこ戦争」を収束させます。商標の情報は、出願人が多大なコストを費やした結果が如実に炙り出される、信頼に足る客観的情報です。
もう、不毛な争いは終わりなのです。なお、私はきのこ派ですが、以下調査については勿論公平に進めて参ります。
2.きのこたけのこ戦争(商標登録出願:国内)
現在は権利が消滅している商標も含めて、古い案件から眺めていきます。(24件ヒット。検索条件は記事末尾に記載。)
「きのこの山」「たけのこの里」同日出願
「きのこの山」「たけのこの里」について、それぞれ1975年4月17日に商標登録出願されています。仲良く同日出願ですね。これらの商標は、「きのこの山」を1975年に販売することに伴って出願されたものと思われます。「たけのこの里」は1979年に販売開始されたものの、1975年の段階で既に「たけのこの里」の構想があったということが分かって面白いですね。
なお、1981年&1984年には仲良く両者ともパッケージがリニューアルされています。

明治 HP より
4年も早く販売されているし、もう「きのこの山」の勝ちでいいんじゃね?・・なんて思いもありますが、せっかくなのでもう少し商標を眺めていきます。
パッケージの出願(たけのこの里:無し)
発売から30数年経過し、2010年代に入ってきてからもチラホラと商標が出願されています。そして見つけてしまった、以下事案。

商標登録第5712015号(Toreru 商標検索)
「きのこの山」のパッケージに関する商標が2013年に出願されていました。では、「たけのこの里」についてはどうでしょうか?
あれれ、同日には出願されていない?
もう少し眺めていくと・・・
・・無い!出願されていない!
両者は今まで仲良く一緒にパッケージのリニューアルを重ねてきたのに、「たけのこの里」のパッケージについては商標登録出願がなされていない!
お菓子の様な B to C 商品にとって、消費者の目に留まる製品パッケージは超重要なはず。なのに「きのこの山」のパッケージしか商標登録されていないとは。
これはもう軍配が上がったかもしれません。
なお、パッケージデザインに関する重要性については以下の研究報告があります。お菓子のパッケージデザインは「慣れ親しんだ記憶とともに親近感が生まれやすい」とのことなので、購入に繋がる大事な要素と言えます。その大事な要素を半永久的に権利として保護できるのが、商標権なのです。
菓子や飲料のパッケージデザインは、目にする頻度や購入機会が多く消費者にとって慣れ親しんだ記憶とともに親近感が生まれやすい。そのため、ロングセラー商品などではデザイン変更に注意が必要となる。「いつもの商品」であるという認知・安心感とともに新鮮さの付加が求められる。
商品印象につながるパッケージ構成要素の重要度の研究, 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会
立体商標(きのこの山:登録済み)
次に、立体商標について紹介します。立体商標とは、その名の通り、立体的な形状からなる商標のことです。登録されている有名な立体商標として、ホンダのスーパーカブ、ポンジュース、レゴ、テトラポッドなどがあります。(関連記事:おもしろ商標をご紹介!え、アレも登録されていたの?)
では「きのこの山」「たけのこの里」の立体商標について紹介します。

商標登録第6031305号(Toreru 商標検索)

商願2018-71264(Toreru 商標検索)
いずれも出願されていました!パッケージの様に「きのこの山」だけ出願されていたらどうしようかとヒヤヒヤしましたが、よかったです。でも、ん?何か様子がおかしい。。
「たけのこの里」の方は、番号について「商願2018-71264」とだけ記載されています。
そう、出願はされているものの、まだ登録されていないのです。なぜ「きのこの山」の方が先に登録されているのでしょうか?特許庁は「きのこの山」をひいきしているのでしょうか?
それぞれの案件の経過を時系列に眺めていきましょう。

上図を見ると、「きのこの山」の方が「たけのこの里」よりも1年近く早く出願されていることがわかります。「きのこの山」の方が出願日が早いため、早く審査が終了したというわけです。(特許庁がきのこびいきというわけではなかった!)
ところで、これらの様な「立体形状のみからなる商標」を商標権として登録するためには、我々消費者が「見ただけできのこの山だと分かる」といった、著名性が必要となります。「きのこの山」は、消費者アンケートによって約90%の認知度が得られたため見事登録となった旨が、以下特許庁のHPに記載されています。
東京と大阪で行ったアンケートで約90%の認知度を得られたことなどから商標法第3条第2項が適用され、今回の登録となりました。
「長く愛されるビジネス基盤を築こう商標活用とブランディング」(特許庁)より
*「商標法第3条第2項が適用され」= 長年使用したことでその商標が全国的に認識されたため、商標登録し得ると判断されたという意味。特別顕著性が発生したとも言う。
そして、商標登録を目指して、「たけのこの里」についても同様に消費者アンケートが実施されています。「たけのこの里」の認知度は何%程あるのでしょうか?明治から特許庁へ提出された書面(意見書)にて確認してみましょう。
(5)本願商標に係る商品の認知度
商標出願2018-071264 令和1年10月30日提出の意見書より
株式会社マクロミルが2019年10月2~3日に実施した「たけのこの里」立体想起率調査によると、関東圏及び関西圏在住の15~64歳男女1,246名を対象とした調査において、本願商標の画像を提示し、純粋想起で商品名を質問したところ、回答者の89%は、「たけのこの里」(カタカナ「タケノコの里」、平仮名「たけのこのさと」等を含む)と回答し、本願商標から商品名「たけのこの里」を認識、想起できたことが認められます(甲第13号証)。
本調査では、本願商標のみを調査対象者に提示して回答を求めており、対象者のうち89%という大多数の者が、出願人の商品名を認識出来ていることから、本調査結果からして、本願商標は、使用をされた結果、需要者が出願人の業務に係る商品であることを認識することができる状態に至っていると判断するのが妥当なものと思料されます。
ぁあ!89%!!「きのこの山」の認知度よりも低い!!!
図らずも、商標情報以外においても「きのこの山」に有利な情報を見つけてしまいました。やはり勝敗は明確であり、至るところにその事実が滲み出てしまっているということでしょう。
なお、いずれの案件においても、明治は権利化の過程で特許庁審査官との面接を実施しています。商標の権利化にあたり、多くの場合は書面のやり取りのみで完結します。しかし、より重要な案件については、Face to Face で対話を行って権利化を目指す場合があります。
現在、「たけのこの里」案件の審査官面接から約1年経過していますが、審査結果についてはその後情報無しです。今後の動向をウォッチしていきましょう。
以上、国内の商標登録状況を紹介しました。
「たけのこの里」の立体商標も、今後登録される可能性はあります。そして認知度の違いは、誤差の範囲かもしれません。しかし、「きのこの山」の立体商標の方が出願日が1年近く早いというのは無視できない事実。商標登録は早い者勝ちであり、出願日を早期に確保することは企業として非常に重要な姿勢です。故に、明治は「きのこの山」に傾注していると言わざるを得ません。
なお、以下特許庁の公式資料においても、「商標登録は早い者勝ち」である旨が複数回言及されています。
商標権は早いもの勝ち!商品・サービスに使用する商標が決まったら、出願しましょう!(P7)
事例から学ぶ商標活用ガイド, 経済産業省 特許庁 | 2019年
商標登録は早い者勝ちですから、他人の出願に先を越されないよう注意しています。(P19)
現在は権利が消滅している商標
国内商標における最後の観点として、現在は権利として登録されていない案件について確認します。もしかしたら、明治は「たけのこの里」関連でも、実は過去に注力して様々な商標登録出願を行っているかもしれません。
では、消滅している案件のみ眺めていきます。

ああああん!もう、「?きのこ?」だらけっ!!!!
「きのこの山」は、1975年当時のパッケージについても商標登録出願(商標登録第1330076号:J-PlatPat リンク)がありました。しかし、1979年に販売開始された「たけのこの里」のパッケージについてはやはり商標登録出願がありません!(1979年に明治から商標登録出願された全313件も確認済)
そして、他には例えば以下の出願もあります。
「きのこのさと」(商標登録第1935565号:J-PlatPat リンク)
2016年に「きのこの里」「たけのこの山」が仲良く同日出願されていますが、実は1985年には「きのこのさと」だけ出願されていました。
「きのこたん」(商標登録第1935569号:J-PlatPat リンク)
明治はゆるキャラでも検討していたのでしょうか?仲間外れにせず、「たけのこたん」も出願してあげてほしかったです。
ここまでのところ、「きのこの山」の圧勝ですね。
3.きのこたけのこ戦争(商標登録出願:海外)
次は、海外における商標登録出願について見ていきます。
きのこの山(Kinoko no yama)
44件ヒットして、韓国とフィリピンでも商標登録されていました。(44件:現在は権利存続していない案件や、ノイズも含む。検索条件は記事末尾に記載。)
TMView 検索結果画面
韓国:KR5020000007231(TMView リンク)
フィリピン:PH502011000006441(TMView リンク)
たけのこの里(Takenoko no sato)
10件ヒットしましたが、いずれも日本国内の案件でした。筍を食べる文化が無い欧米においては出願が無いのも頷けます。しかし、韓国などのアジアにおいても出願されていないのは、どういうことでしょうか??やはり、「たけのこの里」は・・ry
TMView 検索結果画面
なお、米国においては、きのこの山 = Chocorooms、たけのこの里 = Chococones として商品展開されています。これに伴い、それぞれ米国にて1件ずつ商標が登録されていました。(Chocorooms, Chococones)
以上、海外における商標登録出願について紹介しました。
4.商標情報における「きのこたけのこ戦争」結論
国内に限らず、海外においても明治は「きのこの山」の商標を手厚く権利化している事実が分かりました。海外にて商標を権利化して権利を維持するには、費用や手間が当然かかります。明治が、「きのこの山」に対してその様なコストをかけているという事実は揺るぎないものです。
これはもう、「きのこの山」に勝負があったと言わざるを得ません。たけのこ派は、ぐうの音も出ないのではないでしょうか。
商標の情報は、企業が多大なコストを費やした結果が如実に炙り出される、信頼に足る客観的情報です(← 二回目)。明治は「きのこの山 vs たけのこの里」を煽ったマーケティングをこれまで繰り広げてきました。明治にとってはどちらも大事な商品であり、おそらく双子の様に両者を愛でてきたのではないかと思います。
しかし、明治が商標権でより手厚く保護を図ってきたのは「きのこの山」だったのです。
争いはもう終わりです。商標の観点においては、「きのこの山」の完全勝利 (( ? )) なのです。
5.その他情報で見る「きのこたけのこ戦争」
以下の参考情報1~3は、何か「たけのこの里」に有利な情報は無いものか・・と考えて、商標以外の情報を色々と調べてみた結果です。
Googleトレンドによる検索数
Google 検索における人気度(=検索回数)を Google Trends にて調べてみました。

Google Trends 検索結果(2020.9.29 検索)
なんと、Google での検索回数に関しても「きのこの山」の勝利。一応ローマ字でも確認してみると・・・

Google Trends 検索結果(2020.9.29 検索)
やはり、「kinoko no yama」の勝利です。
韓国 Orion 社 ”Choco Boy / 초코송이”

Orion 社 HP より
人気者の宿命か、「きのこの山」に風貌が似ていると思われる製品 「Choco Boy」 が、韓国 Orion 社より販売されています。そして本記事の執筆にあたり「この Choco Boy を是非とも体験せねば!」との謎の使命感に駆られたため、購入してみました。
きのこの山と比べると、パッケージのサイズは同程度です。

開封して中身を比較してみます。

左:きのこの山 右:Choco Boy
「Choco Boy」の方は、チョコ部とビスケット部の接合具合に多様性があるようです。1箱に22個入っていましたが、チョコ部とビスケット部が垂直に交わっているものは見当たりませんでした。

1個だけ「きのこの山」
上の写真には、「きのこの山」が1個だけ入っています。「Choco Boy」との見分けはつくでしょうか?気品が溢れて風格が漂っているものが「きのこの山」です。

全て「Choco Boy」
正解はこちら。

こうして見ると、「きのこの山」のビスケット部は若干細いですね。「きのこの山」は、スラっとした細いビスケット部にて、チョコ部をしっかりと支えています。そして肝心のお味の方は、チョコ部の味に差異がありました。「きのこの山」には、「Choco Boy」にはない深みが感じられます。(舌音痴な筆者の個人的感想です)

ところで、「Choco Boy」の方は形状に多様性があるので、「きのこの山」より積み上げやすいです。お菓子を積み上げてアート作品を創る場合には、「Choco Boy」の方が向いてそうですね。
なお、Web で検索する限り、「たけのこの里」に類似する製品は見当たりませんでした。
米国版 きのこの山 “チョコルームズ / Chocorooms”
上述の通り、米国においては、きのこの山 = Chocorooms、たけのこの里 = Chococones として展開されています。そして明治ホールディングスによる株主総会資料によると・・

第7回 定時株主総会(平成28年6月29日)資料 P52 より PDFリンク
エクセレント!
なんと、売れ行き好調な代表製品として「チョコルームズ」が紹介されていました。一方、その他 IR 資料を眺めても、「チョココーンズ / Chococones 」について触れられた資料は見当たりません。
ところで、「チョコルームズ」のパッケージは赤色を基調としており、「きのこの山」と比べてエレガントな印象を受けますね。では、Chococones はどの様なパッケージなのでしょうか?
最後に明治アメリカのHPで Chococones のパッケージを確認して、本記事は終了としましょう。

トップページではハローパンダが出迎えてくれました。「Products」へと進んでいきます。

あれれ?「CHOCOROOMS」しか項目が無い!
「ALL」に含まれているのかな?と考えて全て眺めたものの、残念ながら Chococones は掲載されていませんでした。販売中止となってしまったのでしょうか?
Chococones のパッケージが気になる方は、Webで検索してみてください。
6.まとめ:きのこたけのこ戦争は「〇〇〇〇〇」の圧勝
以下理由により、「きのこの山」の圧倒的勝利です。商標情報以外の参考情報をふまえても、「たけのこの里」に有利な情報は見当たりませんでした。これで、きのこたけのこ戦争に終止符が打たれました。
・パッケージの商標登録
・立体商標の出願時期
・現在は権利消滅しているものの、きのこ関連の商標登録出願が多数存在
・フィリピンや韓国でも商標登録
・Google 検索数
・似た風貌の韓国お菓子
・株主総会資料で紹介される
以上、宜しくお願いいたします。
【検索条件】
検索日:2020.9.29 検索DB:J-PlatPat(国内)、TMview(海外)
検索条件:
(国内)
① 称呼(単純文字列検索):?キノコ? ?タケノコ?
② 出願人/権利者/名義人:?明治?
③ ステータス:全て (出願却下含む)
→ ①×②×③ = 24件ヒット
(海外)
商標名(部分一致検索):Kinoko no yama → 44件ヒット
商標名(部分一致検索):Takenoko no sato → 10件ヒット
<オススメ記事>