こんにちは。ブランド弁理士®︎(@FHijino) の土野です。
これまで特に考えずに事業を走らせてきたけど、ここで改めてブランディングをしたい。
このところ事業が停滞しているので、ブランドイメージを刷新してサービスの価値を伝え直したい。
そういうとき、会社・商品・サービスをリブランディングをすることがあります。
そこで忘れがちだけど必ずついて回るのが「商標」の問題です。
リブランディングを進めるときに「商標」に注意を払わないと、大きな投資をしたのにリブランディングが思うように進まなかったり、最悪の場合プロジェクトが頓挫するおそれがあります。
にもかかわらず、リブランディングには商標に関してあまり知られていない特有の注意点があります。
この記事では、リブランディング時の商標の注意点を、事例や具体例を交えながら詳しく解説します。
目次
リブランディングとは -事例を交えて-
リブランディングとは、今あるブランドを、再構築し、改めてブランディングし直すことをいいます。
「ブランディング(branding)」+「再び(re)」=「リブランディング(re-branding)」
という意味ですね。
リブランディングは、何となく事業を走らせていて、意図しない「何となくのブランドイメージ」が作られてしまっているときや、一度明確なブランドを作ったものの、時代や事業環境の変化などに合わせてブランドイメージをシフトしていく必要が出たときなどに、行われます。
たとえば、以下のようなリブランディングにお気づきの方も多いのではないでしょうか?
- 湖池屋のリブランディング事例
- マスターカードのリブランディング事例
リブランディングの種類
リブランディングには、大きく2つの種類があります。
- ブランド・コンセプトから見直すリブランディング
- クリエイティブ(ロゴやパッケージなどのデザイン)だけ見直すリブランディング
1.ブランド・コンセプトから見直すリブランディング
単にロゴやパッケージなどのクリエイティブ・デザインだけではなく、商品やサービス、あるいは会社そのもののコンセプトを、「そもそも」という根本から見直すやり方です。
具体的には、たとえば
- 創業の理由(そもそも何をしたかったのか? それはなぜか?)
- 会社の歴史
- 自社の強み・弱み
- 市場のニーズ
- 競合との差異
- 環境変化
- 顧客変化
などを改めて深掘り・整理を行い、自分たちの存在価値や想いを再認識しながら、顧客に感じてほしいコンセプトから見直し、よりトガらせたり、少しズラしたりしていきます。
その結果として、必然的に、顧客が触れるロゴやパッケージ、Webサイトなどのクリエイティブ・デザインも刷新することが多くなります。
先ほどの湖池屋の事例は、これに当たります。
湖池屋は、日本で初めてポテトチップスを量産した老舗企業です。かつては、『カラムーチョ』『スコーン』『ドンタコス』などの斬新な商品で大きな支持を集めていました。ですが、後発のカルビーに圧倒的なマーケットシェアを奪われ、その後は業界2位に甘んじている状況でした。商品に他社との差がなくなってきており(コモディティ化)、価格で選ばれるようになってきていたといいます。
そんな状況を打破すべく、コーポレート・ブランドのリブランディング(特定の商品ブランドだけではなく、会社ブランド全体としてのリブランディング)に乗り出しました。
改めて目指したのは、まさに湖池屋のアイデンティティともいえる “ポテトチップスの老舗” という企業ポジション。創業社長である小池和夫氏が残していた「業界で最高のものをつくる」の言葉を思い出し、 “とにかくクオリティの高いポテトチップスをつくる” ことにフォーカスする方針を打ち出したとのこと。
その結果として、赤い楕円の形でおなじみだった「コイケヤ」のコーポレートマークは、六角形の中心に「湖」を配したマークに大きく変更されました。この新しいコーポレートマークは、老舗として “家紋” が意識されたものです。
もちろん、ロゴだけでなく、商品も変わりました。新たなフラッグシップ商品となったのは、『KOIKEYA PRIDE POTATO(湖池屋プライドポテト)』です。100%日本産のじゃがいもだけを原料にしたほか、従来のポテトチップスの工程をすべて見直し、揚げ方など製法も変えたそうです。品質の高さが伝わりやすいようにパッケージも一新されました。
2.クリエイティブだけ見直すリブランディング
リブランディングのもう一つの形態は、ブランドのコンセプトそのものは特に変えることなく、主にロゴやパッケージ、Webサイトなどのクリエイティブ・デザインに変更を加えるものです。
この形態のリブランディングは、環境や顧客の感覚などの変化により、旧来のデザインが時代に合わなくなってきてしまった際によく行われます。
ブランドのコンセプトそのものの変更ではないので、 “さりげなく” デザイン変更が行われることも少なくありません。むしろ「 “違うブランドになってしまった” と思われないように変える」ことがキモになってくるケースです。
先ほどのマスターカードの事例は、こちらに当たります。
決済のデジタル化が進むなか、マスターカードのロゴもデジタル空間に適応できるものにする必要があったといいます。マスターカードの長年にわたる企業努力により、消費者は「重なり合った赤とオレンジの2つの円」だけでマスターカードを想起できるようになっていました。この前提があったからこそ、デジタル空間に対応しやすい、よりシンプルなロゴに変更できたと見られています。
リブランディングと商標はどのように影響し合うのか
コンセプトからの変更であれ、クリエイティブのみの変更であれ、リブランディングは最終的に、ネーミング、ロゴ、モチーフ、カラー、サウンド…などの「何らかの記号的要素」として表現されます。このブランドを象徴する記号的要素こそが「商標」です。
消費者や顧客は、リブランディングの「背景や意図」をいちいち認識してくれることはありません。あくまでも、商品・サービスや、会社の宣伝広告物などを通じて「商標」に触れることでしか、 “何が変わったか” を感じ取ることはできません。
つまり、リブランディングが成功する(=リブランディングが伝わる)ための大前提は、 “変わったこと” の最終表現である「商標」を一貫して使い、五感を通じて消費者・顧客の無意識に訴求し続けることであるといえます。
変更した「商標」を継続的に使えるようにするためには、そのための「権利」を取ることが必要です。なぜなら、ネーミング、ロゴ、モチーフなどの記号的要素は、 “物理的に所有” できない無体財産であり、自分が持っていればずっと自由に使えるものではないからです。「人の顔」であれば、当然ずっとその「顔」で生きることができますが、商標という「ブランドの顔」は『権利を取った人が権利者』なのであって、残念ながら当然にあなたの権利になるわけではありません。「ブランドの顔」で生きていくためには、 “わざわざ権利を取る” しかないのです。「権利」がなければ、「変更した記号的要素(商標)を継続して使う」というリブランディング成功の大前提が崩れてしまいます。
また、リブランディングが「伝わる」ことを促進するためには、自分たちが記号的要素(商標)を使い続けるだけでは足りません。もし似たような記号的要素(商標)を他人が使っていた場合、リブランディングで狙っているブランドイメージ形成が妨げられるおそれがあります。消費者がブランドに対して抱くイメージは、じわじわ形成されるものです。紛らわしい記号を複数の人が使っていると、印象が薄まり、その記号から想起されるイメージがあなたのブランドのものとして固着しにくくなってしまいます。これを防ぎ、よりリブランディングが「伝わる」ようにするためには、支障のある他人の行為を防止する「権利」が必要になってくるのです。
リブランディング時の商標の対策と注意点
ここでは、リブランディング時に押さえておきたい、商標に関する根本的な対策と、商標登録をするときの具体的な注意点を解説します。
商標に関する根本的な対策
対策は、リブランディングが次のどちらのパターンかによって変わってきます。
- ブランド・コンセプトから見直す場合
- クリエイティブだけ見直す場合
1.ブランド・コンセプトから見直す場合の商標対策
次の点を特に意識する必要があります。
- そもそも貯めようとする信用の「種類」が変わる
- その新しい信用の形成に寄与するコアな「記号的要素(商標)」は何になるのかを考える
- 逆に「コアじゃない商標」が何かも整理する
そもそも貯めようとする信用の「種類」が変わる
リブランディングによりブランドのコンセプトから見直す場合は、そもそも貯めようとする信用の種類が変わります。
たとえば、「毎日食べれる身近なお菓子」から『自分へのご褒美に食べるちょっと特別なお菓子』へとコンセプトを変更する場合、リブランディング後に貯めようとする信用の種類は、それまでの「普遍的」「親しみやすさ」「手が届きやすい」というイメージから、『プレミアム感』『上質』『おしゃれ』というイメージにシフトしていかなければいけません。
今後貯めようとする信用の種類=リブランディング後に伝えたいイメージが変わるということは、消費者に対しイメージを想起させる道具である「記号的要素(商標)」もガラッと変わるはずです。
新しいイメージ(信用)の形成にとってコアな記号的要素は何か
リブランディング後、「新しいイメージ」を担う記号的要素(商標)が何になるのか? それをゼロベースで考える、というのが最初にやるべきことです。
洗い出した要素のうち「新しいイメージ」の形成や蓄積にとって重要度が高いものほど、商標登録により「権利」を確保する必要性が高くなるからです。
たとえば、次のような要素が「新しいイメージ」の形成や蓄積にとって重要度の高いものになることが多いでしょう。
例:
①新しいイメージ(信用)を貯める「器」となる要素
- ブランドネーム
- ロゴマーク
- マスコットキャラクター
②新しいイメージ(信用)を感じさせる要素
- モチーフ
- カラー
- サウンド
- 価値観を反映した独自のワード
ここで特に忘れがちなのが②です。
商標登録というと、どうしても、ブランドを直接的に識別させる①の方だけを意識しがちです。でも、消費者の頭の中でのイメージ形成を②がサポートしていることを見逃してはいけません。
ブランドは、信用蓄積の「器」となる①だけでつくられるものではありません。②のような要素に消費者が触れることで何らかのイメージが喚起され、やがてそれが①と記憶の中で結びついていきます。それによって初めて、①を見た瞬間に特定のブランドイメージが想起されるようになるのです。
なお、モチーフやカラーは、デザイン的な要素としても用いられるため、商標登録だけでなく、デザイン保護の制度である意匠登録を活用することもあります。また、サウンドは、法改正により、一定の要件を満たせば「音の商標」として商標登録できるようになりました。
さらに、ブランドの「価値観を反映した独自のワード」も何かないか気にしておきましょう。たとえば、あるサービスにおいて、顧客との関係を「事業者と客」という関係ではなく「友人」のような関係として捉える価値観を持っており、それがそのサービス「らしさ」を支える要素の一つだったとしましょう。そしてその「価値観」の反映として、顧客へのサポートのことを「フレンドサポート」と呼んでいたとします。この呼び方に独自性があるなら、「価値観を反映した独自のワード」といえます。この「らしい」ワードも立派な「イメージを感じさせる要素」になりますので、リブランディングを支えるコアな商標として位置付けておくべきです。
逆に「コアじゃないもの」は何か
新しいイメージ(信用)の形成に寄与するコアな記号的要素(商標)は何になるのかを洗い出す過程で、逆に「コアじゃないもの」が何かも整理しておくのも大切です。
「コアじゃない記号的要素(商標)」は、新しいブランドイメージの形成への寄与が小さいものです。たとえば、ビールのリブランディングにおいて、新しく「コクキレ」というコピーを使おうとしていたとしましょう。でも、「コク」や「キレ」というキーワードはありふれており、他社と差別化された新たなブランドイメージの形成に効果的とはいえません。このように、独自性に欠け、競合他社も使っているようなワードやデザインは、わかりやすく伝えるために使った方がいい場面はあるとしても、ブランドをつくる「差別化されたイメージ」には寄与しません。
そのような「わかりやすくするために使いたいけど、独自性はない」ものについては、商標保護のコストをあまりかけなくて済むやり方を採るのも賢い戦略です。そこに商標保護コストを投じるくらいなら、「新たなイメージ形成に寄与するコアな要素」の商標保護に投資した方が、リブランディングの成功を後押しできるからです。
「商標保護のコストをかけなくて済むやり方」とは、あえて「誰も登録できないような商標」を採用することです。商品やサービスの性質や内容をダイレクトに説明したネーミングや、その業界でみんなが使っているような言葉は、原則として誰も商標登録することはできません。
たとえば、リブランディングにおいて、あなたのWebサイトに新たに「手間なく簡単に見積もりが取れる機能」を用意したとします。もしこの機能自体は特にあなたのサービスらしさを特徴づけるものではなく、単に利便性を高める目的だった。そんな場合を想定しましょう。
この機能は「リブランディングによるイメージ形成」にとっては「コアではない要素」になりますから、商標登録のコストをかけなくて済むように考えます。
そうすると、この見積機能にあえて直球の「説明的な名前」をつけ、たとえば『カンタン見積もりツール』という名前にすればいいのです。この名前なら、独自性が全くないので、誰かが先に商標登録してあなたがこの名前を使えなくなってしまう心配はありません。つまり、『カンタン見積もりツール』には商標登録のコストをかけなくて済む、ということです。
逆に中途半端に捻った名前をつけてしまうと、「商標登録できる」ようになってしまうので、もし誰かが先に商標登録してしまえば、あなたはその名前を使えなくなってしまうおそれがあります。先ほど挙げた「ビール」の例では、「コク」と「キレ」というありふれた訴求をするために、造語的な「コクキレ」を使おうとしています。「コクキレ」だと商標登録できるかもしれないので、もしこのコピーを使うなら、リブランディングへの寄与は小さいにもかかわらず、安全のために商標登録が必要になってしまいます。これは賢い商標コストのかけ方とはいえないでしょう。
以上のように、ブランド・コンセプトから見直す場合には、リブランディング後のイメージ形成にとってコアな商標とそうでない商標をしっかり選別して、コアなものに対してしっかり商標保護の投資をしていくということが、基本かつ根本的な対策になります。
2.クリエイティブだけ見直す場合の商標対策
次の点を特に意識する必要があります。
- 貯めようとする信用の「種類」は変わらないが、信用蓄積に使う「記号的要素(商標)」が変わる
- どこが変わって、どこが変わらないかを整理する
ロゴやパッケージ、Webサイトなどのクリエイティブだけ見直すリブランディングの場合には、ブランド・コンセプトから変えるわけではないので、貯めようとする信用の「種類」は変わりません。信用を貯めようとする「記号的要素(商標)」だけが変わります。
したがって、この場合には、どこが変わって、どこが変わらないかをまず整理することが大切です。
なぜなら、変わるところについてだけ、新たな商標登録が必要かどうかを検討すればいいからです。
(もちろん、そもそもリブランディング前も商標登録していないという場合には、変わらない部分についてもこれを機会に商標登録の検討をすべきです)
では、リブランディングの場合に「変わる」ことが多い記号的要素(商標)を挙げてみましょう。
※なお、ここで挙げる事例は、必ずしもクリエイティブだけ変更された事例とは限りません。
1.ロゴデザイン
ロゴデザインの変更はとてもよく行われます。
ただし、一口に「ロゴデザインの変更」と言っても、具体的にどこが変わるかはまちまちです。
典型的な例は次の2つです。
- ロゴのフォントが変わる場合
- シンボルマークが変わる場合
ロゴのフォントが変わった代表例の一つが BURBERRY (バーバリー)です。
これまでは、セリフ(ひげ)と呼ばれる飾りがついた「セリフ体」を使ったロゴでしたが、ロゴリニューアルにより、セリフ(ひげ)のない「サンセリフ体」のロゴに変更されました。
ちなみに、最近、この「ロゴをセリフ体からサンセリフ体へ変更する」という動きは、一種の流行りのようになっています。これは、主に「デジタルへの適応」を目的に行われている、と言われています。以前は「紙」の媒体にロゴが印刷されることがほとんどであり、紙の上では「セリフ体」が見やすいフォントでした。ですが、デジタル化が進み、PCやスマホなどの「画面」上にロゴが表示される機会が増えました。画面上では、「サンセリフ体」の方が見やすく、動画中に表示される場合も背景などに埋もれにくいため、「サンセリフ体」が好まれるようになっているようです。また、一般に「セリフ体」の方が「権威性」を感じやすいのですが、世の中の「権威性」というイメージに対する価値観が変わってきていることが影響している、という見方もあるようです。
いずれにせよ、時代の変化に対応するために「ロゴのフォントを変える」ことはよく行われます。
シンボルマークが変わった代表例の一つはスターバックスです。
以前は「STARBUCKS COFFEE」のブランド名が入った緑・黒のツートンカラーのシンボルマークでしたが、大胆にもブランド名を外し、緑のセイレーンだけのシンプルなシンボルマークに変更されました。
スターバックスの認知度が高まり、ブランド名がなくてもスターバックスとわかるようになったことや、「コーヒー」以外の商品も多く扱うようになり「コーヒー」ブランドを超えたものになる必要が出てきたことから、このような変更がされたと言われています。
シンボルマークは、ブランド名のロゴ(ロゴタイプ)よりも与える情報が抽象的・概念的なので、使用場面の応用が効きやすい性質があります。そのため、ブランドの認知が高まり幅広い領域に展開されるようになってくると、情報量を落としてシンプルなシンボルマークに変更し、より汎用性の高いものにすることがよくあります。
2.ブランドネーム
ブランドネームそのものが変更される場合もあります。
たとえば、アパレルECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは、コーポレートブランドネームを「ZOZO」に変更しました。
これは会社名の変更(商号変更)になりますが、会社名(商号)も多くの場合「ブランドネーム(商標)」にもなります。そのため、会社名の変更も、ブランドネームの変更の一類型です(コーポレートブランドネームの変更)。
このZOZOの例もそうですが、コーポレートブランドネームの変更は、会社のメインサービスの認知度が高まったときに、その認知を会社名に転用する目的で行われることがよくあります。
松下電器産業からパナソニックへの変更など大企業でも行われますが、最近では、スタートアップ企業でも、急速にメインサービスの認知度が高まったときにこのタイプのブランドネーム変更が行われることがあります。
3.Webサイトデザイン
Webサイトのデザインも、リブランディングにより変更されやすい要素の一つです。
これは、オンライン証券サービス「folio(フォリオ)」のWebサイトデザインの変更例です。ブルーを基調としたものからレッドを基調としたものに変更されています。
Webサイトデザインの変更の場合、新しいWebデザインを支える「特徴的なモチーフ」があれば、それを図形商標として商標登録をすることで、Webサイトデザインを構成する一要素を保護できる場合があります。
(ものによっては、商標登録ではなく、意匠登録を検討すべき場合もあります)
4.パッケージデザイン
デジタルではなくリアルな「物」がある商品ブランドでは、リブランディングに伴い、商品パッケージのデザインが変更されることがあります。
これは、食品宅配「Oisix(オイシックス)」のPB(プライベートブランド)商品「さんま飯の素」のパッケージデザインの変更例です。「OisixのPB」という認知を確立するために変更が行われたそうです。
このような商品パッケージのデザインについても、商標登録や意匠登録の対象になります。
以上のように、リブランディングによりクリエイティブが見直される場合、さまざまな要素が変更されますが、必ず「全体像」を把握し、どこが変わって・どこが変わらないか、をしっかり整理することを心がけましょう。
商標登録をするときの具体的な注意点
リブランディングに伴って商標登録をするとき、具体的には次の点によく注意しましょう。
- 商標登録をし直す必要があるもの・ないものを見極める
- 商標登録をする優先順位を決める
- 変更後の商標が社内で確定する「前」に必ず商標調査をする
- 旧バージョンの商標登録を維持すべきかよく検討する
1.商標登録をし直す必要があるもの・ないものを見極める
リブランディングに伴い、商標登録をし直す必要があるもの・ないものを見極めるのが第一です。
まず、リブランディングにより「変わる記号的要素(商標)」と「変わらない記号的要素」を選別します。
変わらないものについては、(過去に商標登録を検討済みであれば)改めて商標登録を検討する必要性は低いといえます。
一方、変わるものについては、このタイミングで新しく商標登録をし直す必要性を検討しなければなりません。
その検討に当たっては、「どのくらい変わるか」をしっかり確認しましょう。
なぜなら、もし商標が変わるとしても、その変化の程度が小さい場合、すでに登録済みの旧バージョンの商標登録で権利的にカバーできることがあるからです。
たとえば、日本でも若い会社を中心に多く使われるようになってきたチャットツール「Slack(スラック)」は、2019年にロゴをリニューアルしました。
このロゴリニューアルでは、シンボルマーク(図形部分)が大きく変更されていますが、ロゴタイプ(文字部分)も書体が少し変更されています。
では、商標登録の状況はどうなっているか見てみましょう。
「Slack」の文字については、日本では2016年に普通の書体で商標登録されています。
しかしながら、ロゴマーク中で使用されているロゴタイプについては、もともと商標登録されていません(本記事執筆時点)。また、2019年に行われたロゴリニューアルの際にも、リニューアル後のロゴタイプは商標登録されていません。
これは、当時すでに持っていた「普通の書体の Slack 」の商標権があれば、「リニューアル後のロゴタイプ(文字部分)」に対しても実質的に権利が及び、保護することができる可能性がとても高いため、ロゴリニューアルに際してわざわざ新しいロゴタイプを商標登録し直すことはしなかった、と考えられます。
このように、リブランディングよって商標が変わるときでも、「どう変わるか」の程度によっては、すでに登録済みの商標登録で権利的にカバーできる場合があるのです。
一方、新しく商標登録し直さないとリニューアル後の商標がきちんと保護できない場合もあります。
先ほどの Slack の例では、シンボルマーク(図形部分)については、リニューアルに伴い新しく商標登録がされています。
これは、たとえ旧シンボルマークを商標登録していたとしても、その商標権ではこの新しいシンボルマークを保護することは難しく、新しく商標登録し直す必要があったためです。
このように、古い商標登録ではカバーしきれない場合には、新しく商標登録をしなければなりません。
リブランディングに伴い新しく商標登録をする必要があるかどうか=すでに持っている商標登録でカバーしきれるかどうかの判断は、商標権の効力範囲を見極めるという専門的な判断となります。そのため、この点については、信頼できる弁理士などの専門家の判断を得て進めることをおすすめします。
2.商標登録をする優先順位を決める
商標登録する必要があるものを選定したら、次に登録の優先順位を決めます。資金力があり、商標登録のための予算を潤沢に取れる場合は別ですが、多くの場合、予算は限られていますので、必ずしも一度に全ての商標を登録する余裕はありません。
商標登録の優先順位を決めるにあたっては、
- もしそれが使えなくなったときに事業継続へのダメージが大きい商標
- もしそれが使えなくなったときにブランドイメージ形成へのダメージが大きい商標
の優先順位を上げる、という基準を持つと良いでしょう。
たとえば、売上比や利益率の高い主力プロダクトのブランドネームや、すでに信用が蓄積された会社名(コーポレートブランドネーム)などは、事業継続への影響が大きい商標です。もしこれが法的に使えなくなってしまうと、そのネーミングを押し出してビジネスができなくなってしまいます。そうすると、大幅な売上低下や、認知や信用回復のためのリカバリー対応などにより、下手をすると事業継続が危ぶまれる事態にもなりかねません。
また、リブランディングにより訴求しようとする「新しいブランドイメージ」を消費者に感じさせる役割の大きい要素、たとえば、シンボルマークや、情緒的かつ独自性の高いモチーフ、独自の価値観を反映したワードなどは、ブランドイメージ形成への影響が大きい商標です。もしこれらが使えなくなったり、他人に似たものを使われてしまうと、効果的な「イメージ訴求」がしにくくなってしまいます。ブランドイメージ形成へのダメージは、事業継続へのダメージよりは緊急性は低いですが、中・長期的には、強固なブランドイメージ形成が事業成長を大きく後押ししますので、ここを軽視しないことがリブランディング上のポイントになります。
このように、事業やブランドイメージへの影響度を基準にして、商標登録の優先順位を決めていきましょう。
3.変更後の商標が社内で確定する「前」に必ず商標調査をする
これは非常に重要なポイントです。
リブランディング・プロジェクトが進み、めでたく新しい商標が社内決定した! じゃあ商標登録の準備に進もう!
…「あるある」のパターンですが、この手順はは絶対に避けるようにしましょう。
せっかく社内決定しても、その後に行う商標調査や商標登録出願の審査結果により、実はその商標は登録できない・使えないものだったとわかる、ということが十分あり得るからです。
会社にとって重要なプロジェクトであるほど、「変更後の商標を決定する」という社内プロセスは大変なものです。デザイナーに多くのの案を出してもらい、様々な意見調整を行いながらいくつかに絞り、役員会に上げ…などなど。正式リリース前に、社外のパートナーと調整することもあるでしょう。そういった社内外のコンセンサスを取った後に「やっぱりこの商標は使えませんでした」となると悲劇です。
また、もしそうなってしまったときに、きちんと関係者と再度話し合って「巻き戻す」ことができればまだ良いのですが、「今さら社内決定を覆したくない」という心理が働いてしまうのが人間というもの。この心理が冷静なリスク判断を妨げ、「専門家には商標登録できず権利侵害のリスクもあると言われたけど、何とかなるだろう」とバイアスのかかった意思決定をしてしまうこともあります。そうなると、「社内決定を覆すリスク」から「他社の権利を侵害するリスク」に肥大し、事態を悪化させかねません。
これを防ぐためにも、変更後の商標について社内決定をする前に必ず商標調査をかけて「その商標を採択するリスク」を確認することが大切です。
できれば、複数の商標「案」が出されている段階で商標調査にかけることが理想です。複数の「案」から候補を絞るときには、デザインやブランディング上の効果を主に気にしながら絞ることになりますが、せっかく絞っても、デザイン云々の前に「法的にアウト」というものもあるかもしれないからです。
もっとも、複数「案」の段階で商標調査をかけるとなると、調査数が多くなりますので、調査費用の問題が生じます。リーズナブルかつ信頼性の高い商標調査サービスを利用することもポイントになってくるでしょう。
4.旧バージョンの商標登録を維持すべきかよく検討する
リブランディングで何の商標がどのように変わるかによって、すでに持っている「旧バージョンの商標登録」の権利を維持すべきかどうかが変わってきます。
商標登録を長年維持するには権利期間の更新費用がかかります。そのため、権利を維持すべきかどうか整理するのは大切なことです。
旧バージョンの商標登録を維持すべきか判断する際のポイントは、次の通りです。
- 復刻する可能性があるか
- 信用がどのくらい貯まっているか
- 旧バージョンの商標権の効力が新バージョンの商標に及ぶか
- 商標登録の維持費用(更新費用)はどのくらいかかるか
1.復刻する可能性があるか
一度廃止したブランドでも、後に再度復活させたり、一時的に「復刻版」キャンペーンを行う場合があります。
たとえば、日本の有名スポーツブランドの一つであるアシックス。現在の同社のブランド名は「アシックス(asics)」ですが、1977年にこれに変更されるまでは「オニツカタイガー」というブランド名でシューズを販売していました。
「アシックス」に変更された後、しばらく「オニツカタイガー」ブランドは使われていませんでした。しかし、その後のヨーロッパでのレトロブームをきっかけに、2002年に「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」ブランドを復活させました。映画『キル・ビル』で主演のユマ・サーマンがオニツカタイガーを履いたこともあり、再度注目を集めるブランドとなりました。(ちなみに筆者も、アシックスよりスリムなデザインが気に入り、オニツカタイガーを履いています)
このように、リブランディングにより一度は使わなくなった商標でも、後に復活・復刻するとしたら、その際には商標登録されていることが必要になります。
旧バージョンの商標登録を維持せずに一度失効させた場合であっても、その間に他人が似た商標を登録してしまっていなければ、必要になったときに改めて商標登録をし直すことはできます。
ですが逆に、もし他人が登録してしまっていたら、権利は他人のものとなっているので、その商標問題を解決しない限り、その旧ブランドを復活させてビジネスをすることはできません。
これではオニツカタイガーのようなチャンスがあってもそれを活かすチャンスを失ってしまいます。このようなことを防ぐためには、旧バージョンの商標登録を捨てずに維持しておくことが重要になってきます。
オニツカタイガーも、昭和47年に出願された古い商標登録を維持していました。
2.信用がどのくらい貯まっているか
旧バージョンの商標にどのくらい信用が貯まっているかも、商標登録を維持するかどうかの判断には重要です。
信用が大きく貯まっていると、その旧バージョンの商標を、他の商品・サービスに転用できる可能性もあるからです。このようにブランドを他の商品・サービス領域にまで拡張させることを「ブランド・エクステンション」といいます。自社で他の領域に拡張させる場合もあれば、他社にライセンスをして拡張させる場合もあります。
たとえば、「ディズニー」ブランドは、ブランド・エクステンションの好例です。ディズニーは、ディズニーランドなどのテーマパークや映画だけでなく、「子供向けの教材」にもブランドを転用し(ライセンスし)ています。
これは「ディズニー」ブランドに大きな信用が貯まっているからこそできることですが、もしこのように貯まっている信用を活かせる可能性があるなら、商標登録を維持しておくと、別領域でのビジネスチャンスやライセンス収入の機会になります。
ただし、リブランディングの場合には、ブランド・エクステンションには注意が必要です。古いブランド・イメージを刷新させるためにリブランディングを行うのであれば、「古いイメージを与える旧バージョンの商標」は不用意に使う(使わせる)べきではありません。他領域での使用とはいえ、旧バージョンの商標が世に出ることにより、せっかくのリブランディング後のイメージに悪影響が及ぶおそれもあるからです。
3.旧バージョンの商標権の効力が新バージョンの商標に及ぶか
旧バージョンの商標はもう使わなかったとしても、その商標権の効力が新バージョンの商標にも及ぶ可能性があるなら、旧バージョンの商標登録を維持しておくメリットがあります。
なぜなら、古い(出願日の早い)商標権の方が権利として強いからです。
この「権利として強い」の意味は、権利範囲が広いという意味ではなく、権利が潰されにくいという意味です。
商標登録は、特許庁の審査を経て登録されるものですが、審査も完璧ではないため、まれに「本来は登録を認めるべきではなかったのに登録させてしまう」ということが起こります。たとえば、非常に有名な商標が先にあったのに、審査官がそれを知らずにあなたの似た商標の登録を認めてしまったというケースです。非常に有名になった商標は、たとえ商標登録されていなくても一定の保護がされるのですが、「登録されていない商標」は審査官も見つけにくいため、このようなことがどうしても起こります。
この場合、「その著名商標が有名になった時期」と「あなたの商標の出願日」のどちらが早いかで、あなたの商標登録が生かされるかどうかが決まります。有名になった時期より「あなた商標の出願日」が早ければ、あなたの商標登録は無効にならずに済みます。
このような意味で、古い(出願日の早い)商標権の方が強い=権利が生き残りやすいのです。
そのため、もし旧バージョンの商標権が、新バージョンの商標を保護するにも役立つ場合には、旧バージョンの商標登録を捨てずに維持しておくとメリットがあります。
旧バージョンの商標権の効力が及ぶ場合の典型例としては、ロゴタイプの書体のみが変わった場合です。(参照:上に挙げた Slack の例)
このようにマイナーチェンジの場合には、旧バージョンの商標権を維持しておいた方がいい場合がありますので、気に留めておきましょう。
なお、旧バージョンの商標権の効力が新バージョンの商標にも及ぶ可能性があるかどうかの判断は、言い換えると「商標の類似範囲」の判断になります。これはとても専門的な判断になるので、専門家の判断を得ることをおすすめします。
4.商標登録の維持費用(更新費用)はどのくらいかかるか
旧バージョンの商標登録を維持するのはタダではありません。定期的に権利の更新費用がかかります。
そのため、やはり「権利維持のメリット vs 維持費用」を比較してコストパフォーマンスを検討することは必要です。
旧バージョンの商標登録を維持するメリットが一応あったとしても、そのコストパフォーマンスが悪いようであれば、思い切って捨ててしまうのも一案です。
そこで浮いた費用を新しい商標の保護のための投資に回せるからです。
まとめ
最後に、この記事のポイントをもう一度おさらいしましょう。
- リブランディングとは、ブランドを象徴する記号的要素である「商標」を通じ、消費者・顧客・従業員に新たなイメージを伝えるもの。そのため、商標が安全に継続使用できなければ、リブランディングは成功しない。商標権を得れば他人の使用を防止し、ブランドイメージの固着を促進することもできる。
- リブランディングによりブランド・コンセプトから見直す場合とクリエイティブだけ見直す場合とで、商標の対策は異なる。
- 登録をし直すべき商標とそうでないものを選別し、事業やブランドイメージ形成へのインパクトの大きさを考慮しながら商標登録の優先順位を決める。その過程では、旧バージョンの商標権の効力範囲を判断する必要もある。また、変更する商標の「案」の段階で商標調査をかけることが重要。
- ブランド復刻のように、現時点では使わなくても、旧バージョンの商標登録を維持しておくと将来良い場合がある。ただし、コストパフォーマンスをよく考えよう。
リブランディングはそれだけでとても大変な工程です。
それに加えて商標面の対策を行うのはかなり大変ですが、怠るとリブランディングそのものが頓挫するリスクがあるため、欠かすことはできません。
ただ一部門でこれを担うことは難しいので、リブランディングを主導する事業部門・マーケティング部門などが、リブランディング・プロジェクトの初期段階から知財部や外部専門家と情報共有することが、並行して進めるためのキーポイントになります。
この記事がその一助になれば幸いです。
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