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なぜ、ブランディング(ブランド)に商標登録が必要なのか深掘りしてみる

こんにちは。 ブランド弁理士®︎ の土野(@FHijino)です。

「商標登録はブランドを守るためのもの」

というのは、よく(特に知財業界では)言われるフレーズです。実際、商標登録制度の目的は、蓄積したビジネス上の信用=ブランドを守ることですので、これは事実です。

また、技術の進歩やグローバル化、市場の成熟などにより、「製品の機能が優れている」だけでは売れなくなり、感性的(情緒的)な価値や世界観などを伝え、共感してもらうブランディングの重要性が増してきています。

ですがその一方で、商標登録をすればブランドが創られるというわけではありません。これは自分でビジネスをしている方であれば、実感されていることでしょう。

そうだとすると、なぜブランディングに商標登録が必要なのか、よくわからなくなってきてしまうこともあるかもしれません。

そこで、ブランディングと商標登録が一体どのようにつながるのか、少し踏み込んで考えてみたいと思います。

そもそもブランディング(ブランド)とは?

そもそも ブランディング とは何をすることか?

端的にいえば、ブランディングとは、

企業自身や商品・サービスの独自の魅力を、届けたい相手に知覚してもらい、その魅力が無意識レベルでイメージされる状態にする。そのために継続的に行う活動

のことです。

ブランドは五感を通じて消費者に伝わる

世の中にあるたくさんの企業や商品の中から選んでもらうためには、当然ながら、消費者にとってその企業や商品が 他よりも自分にとって好ましいと思えるもの でなければなりません。

そして、そう思ってもらうため、多くの企業が機能競争や価格競争、あるいは一時的キャンペーンのようなマーケティング合戦を繰り広げています。確かにこれらは、競合に対して優位性があれば、大きな顧客吸引力となり得るものです。

しかしながら、こういったものは、より高機能・低価格なもの出てきたり、キャンペーンをやめればたちまち効果を失ったり、消費者に対して 毎回説明が必要 だったりするため、中長期的には脆いものとなりがちです。

一方、ブランディングは、魅力が無意識レベルでイメージされる状態をつくるので、その状態をつくるまでにある程度時間はかかりますが、その代わりブランドができれば、環境変化に強く長期的な持続効果があり、また、顧客とのコミュニケーションの中で魅力が伝わるスピードも速くなり、コミュニケーション効率が良くなります。

ブランディングの過程で企業や商品・サービスの情報は抽象化される

ブランディングとは、魅力が無意識レベルでイメージされる状態をつくることだと言いました。

では、この「魅力」と「無意識レベルでイメージされる」という点について、もう少し考えてみましょう。

「魅力」は「情報のかたまり」

「魅力」の中身は千差万別ですが、この「魅力」の正体は何でしょうか?

「魅力」が魅力として消費者に認識されるためには、魅力が事実として存在するだけではなく、魅力が説明(記述)され、それが伝わる必要があります。

言い換えると、「魅力」が「情報」の形に置き換えられ、その「魅力の情報」が届けたい相手にきちんと伝わら(理解され)ないといけません。

そして、この「魅力の情報」は情報量が多いはずです。

なぜなら、「魅力」が魅力として映るためには、細部にわたる他者との違いが(感覚的にであれ)認識されている必要があるからです。

たとえば、「あの人はお茶目なところが魅力なんだよ」と言うとき、たとえその場の言葉上では単に「お茶目」という言葉だけで表現されていても、その「お茶目」の中身にはいろんな意味が込められています。「お茶目」な人は世の中にたくさんいますが、他の人の「お茶目」とはまた一味違う「その人ならではのお茶目」を(たとえその人が言語化できていなくても)感じているからこそ、それが「魅力」として映るのです。

そうだとすると、受け取っている「魅力の情報」には、単に「お茶目」という文字以上のたくさんの情報量が凝縮されていると言えます。

つまり、「魅力」というのは「情報のかたまり」だと言うことができます。

たくさんの情報量が「無意識レベルでイメージされる」には?

「魅力」が「情報のかたまり」だとすると、魅力が無意識レベルでイメージされるようにするには、たくさんの情報量を消費者の脳内にインプットし、かつ、そのたくさんの情報量が無意識に脳内で再生される必要があります。

本来、「たくさんの情報量」を相手に伝え、覚えてもらい、思い出してもらうには、長い説明を聞いてもらい、時間をかけて思い出してもらうことが必要なはずです。

ですが、情報が溢れ、時間に追われる現代社会において、あるいは、スピーディーな意思決定が求められる商取引においては、魅力を伝える側にも受け取る側にもなかなかそんな時間と余裕はありません

そこで、「たくさんの情報量」を瞬時に伝え・記憶させ・想い起こさせるツールが必要になります。

残念ながら人間は、「言語化されたたくさんの情報(長い文章)」のままで瞬時に伝え・記憶し・想起することは苦手です。

なので必然的に、企業や商品・サービスの「魅力の情報」を抽象化(漠然としたイメージ化)して伝達しなければなりません。

つまり言い換えると、企業や商品・サービスの情報を抽象化して伝えるツールをつくりあげないといけないのです。

このように、ブランディングが、企業や商品・サービスの魅力(情報のかたまり)が無意識レベルでイメージされる状態をつくることである以上、ブランディングの過程においては、企業や商品・サービスの情報は抽象化されていくことになります

※どのように抽象化すべきかを考えるにあたっては、魅力を具体的に検討することは必要です。

ブランドの情報がネーミングやロゴマーク(商標)に抽象化される

これまで見てきたように、ブランディングの過程で、その企業や商品・サービスの情報を抽象化して伝えるツールが必要になります。

このツールこそ、ネーミングロゴマークなのです。

企業自身や商品・サービスを指し示すネーミングは、そのネーミングの文字自体の情報量はごく限られていますが、優れたネーミングからは、その文字自体が本来持つ情報量を超えた漠然としたイメージが喚起され、そのイメージと合わせて魅力を相手に伝えます。

同様に、図案化されたロゴタイプやシンボルマークといったいわゆるロゴマークからも、その視覚的な印象から何らかのイメージが想起されます。

あるいは、初見では特定のイメージが喚起されなかったとしても、ネーミングやロゴマークに触れながら商品やサービスを体験したり企業活動を見聞きすることで、次第にその体験時の印象や記憶がそのネーミングやロゴマークと結びついていきます

たとえば、革製バッグなどを手がける株式会社マザーハウスの「MOTHERHOUSE」というブランドがあります。

同社は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる。」を理念として掲げ、「その国にあった素材、生産方法を最大限尊重したモノづくりを行います。」「働くみんなにとって『第二の家』のように感じられる環境づくりを目指しています。」という2つの大きな軸を持っています。このようにバックグラウンドを持ちながら、バングラディシュやネパールなどの現地の素材を使い、現地の人々の手によって作られたバッグなどを世界中に販売しています。

また、代表兼チーフデザイナーの山口絵理子さんはマザーテレサの活動に憧れていたそうです。

この「MOTHERHOUSE」というブランド名には、同社やその製品の魅力であるこのような情報が詰まっており、それが端的に表された優れたネーミングの一つと言えるでしょう。そして、このネーミングに接しながら、消費者もその魅力と一貫した体験を同社の商品や活動を通じて受けることで、「MOTHERHOUSE」と結びつくイメージがより強化されていきます。

MOTHER HOUSEの商標登録第6065837号

商標登録第6065837号

このようにネーミングやロゴと結びついたイメージは、再度そのネーミングやロゴに触れたとき、瞬時に、かつ、無意識レベルで再生されるという特長があります。

そのため、魅力の情報をスピーディーに伝え、イメージとして記憶し、瞬時に想い起こさせるために非常に有効なのです。

商標によりブランドの情報が抽象化されると遠くに届きやすくなる

企業や商品・サービスの魅力を抽象化して伝えるネーミングやロゴマーク。実は、ネーミングやロゴマークにより情報が抽象化されると、その情報が遠くに届きやすくなります

既に挙げた「MOTHERHOUSE」の例ですが、上記のようなバックグラウンドをより多くの人に説明して伝えようとすると、大変なことです。ですが、「MOTHERHOUSE」というブランド名から漠然と感じる「あたたかさ」や「優しさ」のようなイメージは、このネーミングに触れた瞬間に伝えることができます

また、たとえば、ナイキのロゴマークは、以下のようにだんだんとシンプル化(抽象化)されていっています。

NIKEの1971年頃のロゴマーク

1971年頃のロゴマーク

NIKEの1978年頃のロゴマーク

1978年頃のロゴマーク

NIKEの現在のロゴマーク

現在のロゴマーク

ナイキの現在のロゴマークのように、抽象化が進んだマークは、さまざまな媒体やノベルティー、他のブランドとのタイアップなど、使用場面の汎用性が高まり、結果として、目に触れる機会も増え、ロゴマークに化体したイメージや信用は、より遠くに届くようになります。

ブランドの情報を抽象化したもの(ネーミングやロゴマーク)は商標登録の対象となる

ここまでで、ブランディングの過程で企業や商品・サービスの情報(魅力の情報)は抽象化され、その抽象化された情報伝達ツールとしてネーミングやロゴマークが有用であることがわかりました。

ここで注目すべきは、次の2つです。

1つは、このブランディングに欠かせない優れた情報伝達ツールであるネーミングやロゴマークは、商標登録の対象となる=独占権を持つことができるということです。

つまり、意図的にネーミングやロゴマークに魅力の情報を化体させることで、その魅力の効率的・効果的な伝達手段を独占する道が拓けることになります。ネーミングやロゴマークを「育てる」のは大変ですが、育てることができれば、中長期的に独自の強力な武器になるのです。

そしてもう1つは、逆に、抽象化されていない具体的な魅力の情報(直接的・説明的な情報)は権利化=独占できないということです。

ブランディングを通じた情報の抽象化に努めず、直接的・説明的な情報伝達(単なる宣伝)に終始することの落とし穴はここにあります。

事業(ブランド)を継続するには商標権を確保する必要がある

上記のように、ネーミングやロゴマークは、それらを商標登録することで、優れた情報伝達ツールを独占し、顧客とのコミュニケーションを円滑かつ有利にすることが可能です。

ただし、商標登録は「早く出願(申請)した者勝ち」の制度なので、逆の見方をすれば、もし他人が先に商標権を取ってしまったら、その優れた情報伝達ツールが途端に使えなくなってしまうおそれがある、ということです。

ネーミングやロゴマークが、優れた情報伝達ツールであると同時に、消費者の頭の中でその企業や商品・サービスの魅力が再生される強力なトリガーになる以上、ネーミングやロゴマークが育てば育つほど、急に使えなくなったときの事業へのダメージは計り知れません。

まとめ

このように、ビジネスを有利に進めるためにはブランディングを取り入れることが重要であり、ブランディングを実行するツールとしてネーミングやロゴマークが欠かせません。そして、そのツールを永続的かつ独占的に使えるようにするのが商標登録であり、それはすなわちブランディングによってドライブされた事業継続に繋がっていきます。

なぜ、ブランディングに商標登録が必要なのか?

この疑問の解消の一助になれば幸いです。

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