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コピーバンドを始める前に!絶対押さえておきたい著作権&商標権のツボ

こんにちは。ドラマー弁理士のMIと申します。

ドラムは趣味ではありますが、年甲斐(40歳手前)もなく、RADWIMPSやBLUE ENCOUNT、ONE OK ROCKとかの割と激しい曲をやってます。年に1,2回、小さいライブハウスを借りて、友達呼んでライブもやります。最近は、コロナ禍で集まれず辛いですが、在宅で練習は捗っています。

コロナ禍を機に楽器を始めたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。こんな「在宅バンド」動画もステキです。

 

ONE OK ROCK – 完全在宅Dreamer [Official Home Performance Video] – YouTube

youtubeでは「オンラインでみんなで演奏してみた」系の動画も盛り上がっているようですね。

ただ、音楽の世界と切っても切れないのが著作権。作詞家・作曲家・レコード会社、そしてアーティストとさまざまな音楽に関わる人々が著作権や著作隣接権を有しています。

参考リンク:一般社団法人 日本レコード協会「音楽に関わる人々と著作権」

完全オリジナルバンドであれば、あまり著作権を気にしなくてもよいかもしれませんが、「在宅バンド」のほとんどは「コピーバンド」であり、『あの曲を自分もやりたい!』という衝動からスタートするはず。言ってみれば、他人の著作権にガチ依拠するところから始まる訳です。

憧れのアーティストサイドから最初に来たのが警告状だった、なんてことは避けたいですよね。。。

ということで、今回は、コピーバンドを始める前に押さえておきたい、バンドやライブに関する知財(著作権&商標権)について考えてみたいと思います。

ゲスト紹介:IP RIP ~チザイの雑談~ (hatenablog.com) MIさん

『知的財産(Intellectual Property)の「かゆいところに手が届く(Reach the Itchy Place)」お話』をテーマにブログを書いている弁理士4人組です。

今回は私、MIが「Toreru Media」さんに出張させていただき、趣味の話からの知財のお話をさせていただきます。
「IP RIP」ではキャラの異なる4人がいろいろな視点でブログを書いています。楽しんでいただけると思いますので、そちらも是非よろしくお願いいたします。

1 コピーバンドと著作権

(1) 楽譜のコピーは著作権侵害!?

趣味でやっているバンドの多くは、他のアーティストの曲を演奏する「コピーバンド」ではないでしょうか。そして多くの場合、まずはやりたい曲をみんなで決めた後、楽譜を購入して練習に励むことになります。

ここで注意したいのは、原則として、「複数人数でバンド演奏する場合は、人数分の楽譜を購入する必要がある」ということです。要するに、メンバー一人一人がそれぞれ楽譜を購入する必要があるということです。

著作権には、著作物(楽譜)の複製(コピー)をする権利が含まれます。

「とは言っても、楽譜はちゃんと買ったんだから、それをどうしようが自由なのでは?」と思われるかもしれません。ポイントは「物としての楽譜」(所有権)と、「情報としての楽譜」(著作権)の違いを理解することです。

要するに、、、

  • 楽譜に書かれた「情報」には著作権がある
  • 楽譜という「物」を買っても、その「情報」の著作権が購入者に移転するわけではない
  • そのため、買った楽譜の「情報」をコピーすると、「コピーバンド」ならぬ「違法コピーバンド」になってしまうのです!

「物としての楽譜」(所有権)と、「情報としての楽譜」(著作権)との違いについては、以下も参考になるかと思います。

Q.1つの楽譜の所有権を複数人で主張している場合、所有権を主張する人数分に複製することは出来ますか。

A.楽譜を”物”として所有権を複数人で主張(楽譜の共有)しても、楽譜の著作権(書き記された情報の権利)は著作権者にあるため、著作権者の許諾を得ずに所有権を主張する人数分に楽譜を複製することは出来ません。


引用元:音楽著作物の複製(楽譜のコピー)について | YMDミュージック (ymdmusic.jp)

 

(2) 楽譜をコピーできる場合

それにしても、買った楽譜は全くコピーできないのでしょうか。練習スタジオへの持ち歩き用にコピーしたい場合があるでしょうし、今ならデータとしてスマホに入れておきたい場合もありますよね。

この点、著作権法では「私的使用のための複製」をOKとしています

(私的使用のための複製)

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

要するに、個人練習のために楽譜をコピーして利用するのはOKということです。楽譜をスキャンしてデータ化し、タブレット端末等に入れて利用することもOKです。

ただ、Twitter等のSNSをメモ代わりに使用している場合、個人練習のためとは言え、そのSNSに他のユーザーがアクセス可能な状態で楽譜のデータをアップロードするのは著作権侵害になってしまうので、避けましょう。 

 

(3) いざライブ!となった時の著作権

一生懸命練習した曲を人前で演奏する!これはとても楽しいですよね。

ただ、「コピーバンド」の場合、演奏するのは他者が著作権を有する曲になります。

著作権には著作物(楽曲)を演奏する権利が含まれます。

原則として、他者の曲(他者が著作権を有する曲)を人前で演奏する場合は、著作権者の許諾が必要になるということになります。

「コピーバンドでライブしたいけど、なかなかハードルが高いな、、、」と思いますよね。ここで、演奏に関しては以下の例外規定があります。

(営利を目的としない上演等)

第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

要するに、「非営利」+「無料」+「無報酬」の場合、他者の曲を人前で演奏してもOKということです。

趣味の「コピーバンド」の多くは、この範囲でライブができるのではないでしょうか。「無料」の範囲としては、著作物の提供に対する対価ではない「入場料」や、ワンドリンク分の料金を入場時に徴収する等のレベルであれば大丈夫です。

そして、ライブハウスを借りてライブをやる場合、ライブハウスとの信頼関係は大切にしましょう。というのも「コピーバンド自体が著作権を侵害しなくても、ライブハウスが代わりに著作権を侵害する」場合があるんです。

【参考】平成28年(ネ)第10041号「ライブバー事件」(元爆風スタンプのドラマー「ファンキー末吉」氏がJASRACと争った事件として有名)

参考URL:JASRAC、第二審でもファンキー末吉氏に勝訴(栗原潔) – 個人 – Yahoo!ニュース

えっ?と思われた方も多そうですね。どういう理屈なのでしょうか?

要するに、ライブハウスが、

  • 演奏設備(マイク、アンプ、スピーカー、ドラムセット等)を整え
  • それらを客に利用させて利益を得ている

場合、ライブハウスが著作権侵害を問われるという理屈です。

このような事情もあるため、ライブをやるに当たりライブハウスから聞かれることには、正確に答えてあげましょう。特に、

  • セットリスト(当日演奏する曲のリスト)
  • 「入場曲」等として使用する音源(CD等)

については、正確に伝えることが必要です。ライブハウス側はその情報を基に、必要な対応を取ります。

 

(4) 演奏動画を動画サイトにアップロードする!時の著作権

一生懸命練習した曲の演奏動画をアップロードする!これもとても楽しそうですし、「在宅バンド」ブームでは、こちらの方法がメインになってくるのでしょうか。

これについては、過去にIP RIPの記事としてまとめたので、こちらを参照ください。

著作権「動画サイトでの音楽等の利用」【MI】 – IP RIP ~チザイの雑談~ (hatenablog.com)

要するに、youtube等のJASRACと利用許諾契約を締結している動画サイトの場合、

  • 当該アーティストの楽曲がJASRAC管理楽曲である
  • 楽譜どおり自身が演奏している

のであれば問題ないと思います。

 

2 コピーバンドと商標権

バンド業界にも多くの「商標」が存在しています。例えば、楽器だと分かりやすいですね。ギターなら「Gibson」(登録1522430等)や「FENDER」(登録1071901等)は皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。私もドラムペダルは「TAMA」(登録1044726等)のものが相性がよく、今までに同ブランドのものを3つ買っています。

今回は、少し趣向を変えてバンド名や歌手名に関して見ていきたいと思います。

 

(1) 「バンド名」を付けるときに気をつけること

バンドをやろう!となった後、やる曲を決めるのと同時にまず「バンド名」を決めます。最初の打合せでは、やる曲よりもこの「バンド名」を決めるのに苦労したり。。。でも、「バンド名」がバシッと決まると、何か一体感が出てその後の活動に張りが出ます。

そして、この「バンド名」は商標登録の対象になります。「バンド名」を冠したライブに行ったり、「バンド名」が入ったグッズを買ったこと、あるのではないでしょうか。と言うことは、他のバンドと同一・類似したバンド名を付けて活動すると、そのバンド名が商標登録されていた場合、商標権侵害になるということです。気を付けましょう。

 

(2) 「バンド名」に関する事件

「バンド名」については、仲良く活動しているときはいいのですが、解散後などに揉めることがあります。一部のメンバーが「バンド名」を使って他のビジネスをする場合や、メンバーを一部入れ替えて再結成する場合などです。また、バンドと関係のない第三者に「バンド名」の商標権を取られてしまった場合も問題ですね。以下、いくつかの事例を挙げて簡単に説明します。

※「バンド名」が少し古いですが、これは事例ということで、、、皆さんの好きなバンド名に置き換えて読んでいただくといいかもしれません。

・事例1:クリスタルキング事件(平成21年(ワ)第1992号)

バンド「クリスタルキング」を脱退したメンバー(A)が、「クリスタルキング」の名称をチラシ等に表示していたことについて、同じく「クリスタルキング」のメンバーである商標権者(B)が訴えた事件です。結果としては、その表示はAの過去の経歴を示すだけである(商標的な使用ではない)として、商標権侵害は認められませんでした

しかし、このように過去に所属したバンド名を表示することについて商標権侵害として訴えられるリスク(商標権侵害となるリスク)があります。

参考URL:判例評釈クリスタルキング事件 (jpaa.or.jp)

・事例2:「黒夢」&「KUROYUME」の公売

ロックバンド「黒夢」に関する、「黒夢」(商標登録5106735号)&「KUROYUME」(商標登録5339371号)の商標権が、それらの商標権を所有していた所属事務所の事業清算に伴い、国税庁によりオークションにかけられたものです。結果としては、善意の者に落札され、黒夢メンバーによる商標の使用については権利行使しない、ということで事なきを得たようです。

しかし、バンド名に関する商標権が第三者の手に渡った場合、そのバンド名を使用できなくなるリスクがあります。

また、商標権を管理する者の不手際(事業の失敗等)により、意図せず商標権が他人の手に渡るリスクについても覚えておきましょう。

参考URL:「黒夢」の商標権、ネット公売にかけられていた。税金滞納で差し押さえか | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

参考URL:黒夢の商標権オークションの落札者について(栗原潔) – 個人 – Yahoo!ニュース

 

(3) 有名になり過ぎると商標登録できない!?

近年、面白い事例として、「LADY GAGA事件(平成25(行ケ)10158)」がありました。結論としては、CD等について商標「LADY GAGA」の登録が認められませんでした。

どういうことか?主な理由は以下の2つです。

・識別力がない

⇒商品(CD等)に「LADY GAGA」と表示されている場合、買う人は,その収録曲を歌唱する人として(=そのCDの品質(内容)を表示したものとして)認識するから、本願商標「LADY GAGA」は、自他商品の識別標識としての機能を果たさない。

・品質誤認を生じる

⇒本願商標「LADY GAGA」を、「LADY GAGA本人」が歌唱しない品質(内容)の商品に使用した場合、「LADY GAGA本人」が歌唱しているとの誤解を与える可能性があり、商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。

要するに、「歌手としてのLADY GAGA」が有名過ぎるため、「CD等の出所としてのLADY GAGA」の登録を認めないということです。

なお、「LADY GAGA事件」では、登録を認めてもらうために、数々の過去の登録例を挙げています。要するに、「あいつらは登録になったんだから、自分も認めてくれよ」論法です。挙げられた過去の登録例は以下のようなものです。

「MICK JAGGER」(登録第4408433号)

「BRITNEY SPEARS」(登録第4548392号)

「ALICIA KEYS」(登録第4859462号)

「BEYONCE’」(登録第4955673号)

「BILLY JOEL」(登録第5071743号)

「JIMI HENDRIX」(登録第5321067号)

「ユーミン/YUMING」(登録第2458831号)

「倉木麻衣」(登録第4569287号)

「UTADA HIKARU/宇多田ヒカル」(登録第4427007号)

これらを見ると、「LADY GAGA」も登録してあげてもいいのにな、と思ってしまいますよね。。。実際、引退してからレーベルを立ち上げる可能性もあるんだし、登録を認めてもよいのでは、という意見も多く聞きます。

一方で、「有名ではない」として登録になった例として国際登録1264002号「BLACK SABBATH(ブラック・サバス)」(イングランドのロックバンド)があります。

参考URL:特許庁が「ブラック・サバス」は日本では著名ではないと判断(栗原潔) – 個人 – Yahoo!ニュース

 

(4) バンド名を商標として登録・管理するコツ

「バンド名」について、これから売れる予定の方(!?)は、ぜひ商標出願を検討することをオススメします。「バンド名」をスムーズに登録・管理するための対策は以下の通りでしょうか。

① デビュー前や売れる前に商標出願・登録する

 ⇒「LADY GAGA」事件の反省に学んで、有名になる前に出願しておく!

② ロゴ(≠標準文字)として商標登録する・他の文字や図形と組み合わせて商標登録する

 ⇒有名になってしまった後、または「バンド名」がありふれた言葉である場合は、ロゴ化したり、他の文字や図形と組み合わせると登録されやすくなります。例えば、昨年末活動休止になった「嵐」について、ジャニーズ関連会社の「株式会社エム・シィオー」は以下の登録商標を持っています。

 

商標登録第5374056号

引用元:商標登録第5374056号公報

③ 誰が商標権を管理するか、出願前にメンバー内で話し合い決めておく(必ず文書に残す)

文章の残し方はメールなどでもかまいませんので、後で揉めないようにすることが大切です。商標を出願する際には名義を決める必要があるのと、出願・登録・更新のタイミングで費用が発生するので、誰がどのように管理し、費用を負担するかを決めておくのが良いでしょう。

バンド名は自分たちの「顔」。個人名義ならリーダーなどバンドの中心メンバーの名前で登録し、たとえメンバー変更があっても安定して商標権を管理できる体制にすることをお勧めします。

 

3 おわりに ~コピーバンドをやる時はここに気を付けよう!~

最後までお読みいただきありがとうございました!ラストは、バンド仲間の皆さんに著作権・商標権に関する注意点をまとめてみます。

① 違法コピーバンドにならないように!

 ⇒楽譜を買っても、自由にコピーはできません。必要な楽譜はしっかり買って、楽譜業界を支えましょう。

② ライブをするときはライブハウスのスタッフと情報共有を!

 ⇒ライブハウスが著作権侵害者になってしまいます。素人バンドを受け入れてくれる小さなライブハウスを守りましょう。

③ 「バンド名」は商標として保護できます!

 ⇒他者の商標権に注意&メンバー間で揉めないようにしましょう。

 

コロナ禍で大変ですが、逆に新しいことを始めるにはいい機会だと思います。今回お話ししたことを頭の片隅に、是非バンドを始めてみましょう!

今後も知財を広く知ってもらうために、楽しく分かりやすい記事を書いていきたいと思いますので、『IP RIP ~チザイの雑談~』ともども、よろしくお願いいたします!

 

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