本記事は、世界的名著である「星の王子さま」の名言 / 教訓に関連して、商標やブランディングについて紹介していきます。本作品は名言や教訓が多く含まれ、解釈が難しい部分もあります。それ故に、様々な楽しみ方ができる作品です。
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そして名言 / 教訓に関連して、商標登録出願されている挿絵をストーリーに沿って挿入しています。物語を懐かしみながら、商標やブランディングについて考えるきっかけとしていただければ幸いです。
目次
- はじめに:「星の王子さま」の名言/教訓から商標やブランディングを学ぶ
- 「星の王子さま」名言/教訓①「時間をかけて可愛がるから価値がある」:ブランディング
- 「星の王子さま」名言/教訓②「最初に考えついたのは私」:先願主義
- 「星の王子さま」名言/教訓③「永久的なことだけを書く」:商標権は半永久的
- 「星の王子さま」名言/教訓④「船よりも遠くへ」:ブランドの毀損
- 「星の王子さま」名言/教訓⑤「大事なことは目に見えない」:無形資産
- 「星の王子さま」名言/教訓⑥「ぼくが水をやったのは他ならぬあの花」:愛着/信用
- 「星の王子さま」名言/教訓⑦「ぜんぶの星に花が咲く」:究極のブランド
- まとめ:「星の王子さま」の名言/教訓を意識したブランディングを
はじめに:「星の王子さま」の名言/教訓から商標やブランディングを学ぶ
まず初めに、商標やブランディングについてお話します。
商標とは、製品やサービスに関するロゴや名前といった、人の知覚によって認識することができるものです。我々は五感を通じて商標を知覚することで、その商標に紐付いた、企業(送り手)の価値観・想い・魅力等を自然と感じることができます。
商標は、「送り手の世界観を顧客に対して抽象的に伝えるもの」なのです。
なぜ、ブランディングに商標登録が必要なのか深掘りしてみる より
以下の図を見たときに、皆様はどんな印象を受けるでしょうか?
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そうです。象を飲み込んだヘビですね。
次です。この箱の中には何が入っているでしょうか?
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そうです。ヒツジの一択ですね。
「おまえは何を言っているんだ」という方は、是非「星の王子さま」をお読みください。(注:本作品は、決して中身を当てるなぞなぞゲームのお話ではありません。)
「星の王子さま」には様々な魅力が溢れており、その世界観・価値観を文字だけで簡便に認識するのは困難です。しかし、本作品の世界観が抽象化された上記商標を知覚することによって、私達の脳内にはヒツジや王子さまが再生されます。そして最終的には、勝手に愛や死について考えるまでに至るわけです。そう考えると、商標は、脳内の膨大な記憶を呼び起こすためのスイッチと捉えることもできます。
そして、商標とブランディングは密接に関わります。詳しくは以下記事をご覧ください。
端的にいえば、ブランディングとは、企業自身や商品・サービスの独自の魅力を、届けたい相手に知覚してもらい、その魅力が無意識レベルでイメージされる状態にする。そのために継続的に行う活動のことです。
なぜ、ブランディングに商標登録が必要なのか深掘りしてみる より
では、その様な商標 / ブランディングと世界的名著との間には、どの様な共通点があるでしょうか?ストーリーに沿って紹介していきます。
「星の王子さま」名言/教訓①「時間をかけて可愛がるから価値がある」:ブランディング
王子さまにとって大事な存在である、一輪のバラの花。この物語において非常に重要な登場人物です。(花ですが)
王子さまが住んでいた惑星には、一輪のバラが咲いています。
冷たい風に弱いこのバラを守るためについたてを用意したり、寒い夜をしのぐためにガラスの鉢を被せたり、王子さまは献身的にバラのお世話をします。
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そしてその小さな惑星では、放っておくと大きく成長して惑星を壊してしまう「バオバブ」があります。王子さまの日課は、小さいうちにバオバブを全て抜くことです。毎日せっせとバオバブを抜いて、惑星や大事なバラを守っているのです。
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「朝、自分の顔を洗って着替えを済ませたら、すぐに、丁寧に惑星ぜんたいの手入れをする。よくよく気をつけてバオバブをぜんぶ抜かなくちゃいけない・・」
「星の王子さま」池澤夏樹・新訳, 集英社文庫 P30
ブランディングも、これと同様です。
ブランドを育てていくためには、長い年月をかけて ”お世話” する必要があります。特に、直接消費者に対して製品やサービスを提供する B to C ビジネスにおいては、消費者がブランドを体験するあらゆるタッチポイントを好適に設計する必要があり、一朝一夕でブランドが構築されるものではありません。
見栄えだけ良い張りぼてのサービスに魅力を感じるでしょうか?
流行り言葉を着飾って喧伝する会社に共感できるでしょうか?
おそらく NO だと思います。
王子さまにとってのバラと同様、ブランドは、想いを持って手塩にかけてこそ構築されるものです。そしてその世界観に共感する消費者にとって、価値ある存在となるのです。
「星の王子さま」名言/教訓②「最初に考えついたのは私」:先願主義
自分の住む惑星を出た王子さまは、様々な惑星にて個性あふれる大人達と出会います。それぞれの大人は、人間誰しも持っている欲求や特性を顕著に表しています。
・第一の惑星:王様(権力)
・第二の惑星:自惚れ屋(名声)
・第三の惑星:飲んだくれ(快楽)
そして第四の惑星には、星を数えることに熱中している実業家がいました。この実業家は、数えることでその星を所有し、金持ちになれるということを主張しています。そして星は誰の所有物でも無い旨を王子さまが問いかけたところ、以下の発言があります。
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「ならば私のものだ。最初に考えついたのは私だから」
「星の王子さま」池澤夏樹・新訳, 集英社文庫 P68
「星が私のものなのは、これまで誰もそれを所有する考えに至らなかったからさ」
アイデアを考えただけで、その権利を所有することが出来ると言っています。
これは、商標権等の知的財産権の世界では成り立たない考え方です。アイデアを考えただけでは権利を取得できません。商標権を取得するためには、必ず特許庁へ出願する必要があるのです。そして、もし二者が同じ出願を行った場合は、出願が1日でも早い方が権利を取得できます。これを「先願主義」とも言います。
商標権の取得は早い者勝ちなのです。
「星の王子さま」名言/教訓③「永久的なことだけを書く」:商標権は半永久的
第五の惑星を経てたどり着いた第六の惑星には、地理学者の老紳士がいました。
この地理学者は、探検家から伝え聞いた海や山などの情報について、ノートに書き留めています。自分では決して現地に行くことなく、情報源は探検家のみです。
そして王子さまは、王子さまが住んでいる惑星について地理学者から質問を受け、一輪の薔薇について言及します。しかし地理学者は、「花のことはノートに書かない」とのことです。その理由は以下の通りです。
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「なぜなら、花ははかないから。」
「星の王子さま」池澤夏樹・新訳, 集英社文庫 P79, P80
「山がその場所を移すというのはめったに起こらない・・我々は永久的なことだけを書く」
地理学の本においては、海や山など、時代遅れにならない永久的なことだけを書く。
これは、実は商標権と通じるものがあります。
他の知的財産権である特許権や意匠権は存続期間が限られていますが、商標権は更新によって半永久的に保有することができます。
前述のとおり、ブランドを構築するためには長い年月が必要です。
自然界に安定して君臨する海や山の様な存在を目指してブランドを育て、そしてその世界観を商標権にて半永久的に保護し、ビジネスを進めていきたいものです。
参考情報:商標登録は更新可能-どんな場合に更新のメリットが大きい/小さいの?)
「星の王子さま」名言/教訓④「船よりも遠くへ」:ブランドの毀損
王子さまは、第七の惑星として地球に降り立ちます。そこで出会ったのが、黄色い蛇。
個人的には、この物語の中で最も解釈が難しいシーンです。王子さまとの会話の中で、黄色い蛇から以下の発言があります。
「私は船よりも遠くへきみを連れていける」
「星の王子さま」池澤夏樹・新訳, 集英社文庫 P87, P88
「私が触れば、誰でも自分が出て来た土地へ送り返される」
上記発言やその後の展開等から、この黄色い蛇は「死」を暗示する登場人物なのではないかと推測できます。(蛇ですが)
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人は蛇に噛まれると簡単に死ぬ。人の一生は儚いもの。
これは、ブランドの毀損と通じるものがあります。
長い間信用を積み上げてきたブランドにおいても、その世界観・価値観と反する不祥事や不適切な言動が明るみになることで、ファンが離れてしまうケースがあります。
上述の通り、ブランドの構築は時間がかかるものです。
大事な存在であるバラを守るためにバオバブを毎日抜くように、想いをもって手間をかけて育てていく必要があります。そして事業を行う限り、ブランディングは常に必要な活動です。
ブランディングは一生。ブランドの毀損は一瞬です。
「星の王子さま」名言/教訓⑤「大事なことは目に見えない」:無形資産
これは、おそらく本作品の中で最も有名な教訓ではないでしょうか。王子さまが、地球にて出会ったキツネから教わる教訓です。
商標登録第4947059号(Toreru 商標検索)
大事なことは目に見えない。
商標権等の無形資産は、目に見えないものの、企業にとって大事な資産です。そして、
・ブランドに接して得た体験(ブランド体験)
・商標の知覚をきっかけとして脳内で再現される、そのブランドの世界観 / 価値観
これらは決して目に見えるものではありません。しかし、疑いようが無く「大事なこと」です。目に見えないブランド体験を、目に見える商標で顧客へ届ける。そして、その商標権を保護する。
キツネを思い浮かべながら、より良いブランド体験の提供、そして商標権の保護を図っていきたいものです。
「星の王子さま」名言/教訓⑥「ぼくが水をやったのは他ならぬあの花」:愛着/信用
その後、王子さまは地球にて大量のバラを発見し、ひどく落ち込みます。自分の惑星に咲いている一輪のバラは、宇宙で唯一の存在だと考えていたためです。しかし、上述のキツネとの会話を通じて、自分がお世話をしてきたバラは、地球に咲く5,000本のバラとは異なるという点に気付きます。
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「あれはきみたちをぜんぶ合わせたよりももっと大事だ。なぜって、ぼくが水をやったのは他ならぬあの花だから。ぼくがガラスの鉢をかぶせてやったのはあの花だから。」
「星の王子さま」池澤夏樹・新訳, 集英社文庫 P103
この描写からは、ブランドへの「愛着」や、商標を用いることによって蓄積される「信用」、そして「顧客吸引力」に関する示唆が得られます。
私達は、愛着のあるブランドに対しては、唯一の価値を感じます。
・そのブランドは人生の転機において良い体験を提供してくれた。
・そのブランドに触れるだけでなんとなく気分が良くなる。
・そのブランドの世界観に共感する自分が好き。
など、理由は様々ですが、そこには個人の人生に深く関わり代替不可能な「愛着」があります。
王子さまが時間をかけて可愛がった1本のバラは、地球にある5,000本のバラでは代替されません。それは、王子さまには1本のバラへの「愛着」があるためです。
ブランドへの「愛着」は、商標権者側から考えると、商標を使用し続けることによって「信用」が蓄積されたと言い換えることもできます。消費者が商標の知覚を通じてブランドや過去体験を想起することで、「信用」が溜まっていくのです。
そして、その蓄積された「信用」の作用によって、我々消費者は、その商標が付された商品やサービス等への購買意欲が向上します。すなわち、愛着が湧き信用が溜まることで、自然と購買に向けて引き寄せられる力(顧客吸引力)を受けているということです。
また、地球における5,000本のバラは、商標権者にとって頭を悩ませる「模倣品」についても示唆を与えてくれます。信用が蓄積されたブランド / 製品のニセモノである模倣品は、一見、本物と見分けがつかない場合もあります。しかしそれは、長年育て上げてきたブランドへのタダ乗りであり、許容されるものではありません。
ブランドの育成とともに、模倣品への対策案の1つとして、商標権での保護も図っていきましょう。
ここで、ビジネスにおいて顧客へ提供する価値として、以下2種類の価値を考えてみます。
情緒的価値:あらゆるタッチポイントにおける体験を通じて提供する、感性的な価値
機能的価値:機能面や品質面において、技術を通じて提供する価値
顧客吸引力がより効いてくるのは、提供する価値の中で「情緒的価値」の割合が大きいビジネス分野です。これは、種々雑多に情報や選択肢がある中で製品 / サービスを選ぶにあたり、当該分野においては技術スペック等の客観的指標が乏しく、情緒的価値が顧客吸引力へと転化されやすいためです。機能的には最低限の要求が満たされ、様々な選択肢が存在する分野と捉えることもできます。
では、「機能的価値」の割合が大きいビジネス分野においては、商標はあまり大事ではないのでしょうか?
それは違います。
機能的価値は技術スペック等によって定量的に評価しやすく、他社と比べて突出した機能を実現できれば、短期的には優位性を保ちやすいです。しかし、競合他社の製品開発によって、自社と同等又はそれ以上の機能的価値を有する代替手段が出てきてしまう恐れがあります。機能的に優位に立ったとしても、長期的には追いつかれてしまうのが常なのです。これは、昨今の国内製造業の衰退からも学ぶことができます。
機能的価値の割合が大きいビジネス分野においては、機能的価値で築いた優位性を情緒的価値へと徐々に転化させていくことが肝要です。そして、その信頼を商標に蓄積していくのです。これにより、長期的な優位性を意図的につくることが期待できます。
加えて、「役に立つ」ための機能がコピーされやすいのに対して、製品やブランドが持つ固有の「意味」はコピーできず、その価値を維持しやすい。
「価値デザイン社会」に向けて知的財産に求められる役割
そして前述のとおり、商標は「送り手の世界観を顧客に対して抽象的に伝えるもの」です。
その世界観が機能的価値によって成り立っているとしても、それを適切に届けるための商標、そして商標権での保護を図ることは、紛れもなく重要です。もし機能や品質が劣る他社製品の名前が自社製品名と同一だと、消費者は誤認 / 混同してしまいます。
提供する価値の種類に限らず、自社のブランドを守るためには商標権の保護が大切なのです。
「星の王子さま」名言/教訓⑦「ぜんぶの星に花が咲く」:究極のブランド
最後は、王子さまが元の惑星に帰る(と思われる)シーンです。地球にて出会った主人公に対して、以下のコメントを残します。
「どこかの星に咲いている花が好きになったら、夜の空を見ることが嬉しくなる。ぜんぶの星に花が咲く」
「星の王子さま」池澤夏樹・新訳, 集英社文庫 P125, P126
作画:筆者
ここでは、究極のブランドについての示唆が得られます。
ある星に咲いている花が好きになったら、全ての星にその花が咲いていることを期待して、夜空を見上げることが楽しみになる。これは、星という商品 / サービスに付された花(商標)に対する愛着 / 信用から発生する顧客吸引力により、その他すべての星に対して価値を感じているということです。ある星の中のごく一部の存在である花によって、夜空に浮かぶ星全体の存在価値が向上しているのです。
ここから、信用が蓄積された商標が付されていれば、どの様な製品 / サービスにおいても価値を感じることができ得るということが示唆されます。仮に機能的価値が競合製品と比べて劣っていたとしても、そのブランド力によって情緒的価値が増し、顧客に選ばれる場合があるかもしれません。それは、究極のブランドと呼べるのではないでしょうか。
長年のブランディングによって究極のブランドイメージが醸成されれば、機能的価値とは別の軸を売りにしてビジネスを進めることができるのです。
まとめ:「星の王子さま」の名言/教訓を意識したブランディングを
以上、「星の王子さま」の名言 / 教訓をヒントに、商標 / ブランド / ブランディングについて紹介しました。
冒頭でも紹介のとおり、商標は「送り手の世界観を顧客に対して抽象的に伝えるもの」です。
本作品における最終シーンの挿絵は、星が一つと、サラッとした曲線が二本です。本作品について体験を有する人は、たったこれだけの情報で様々な記憶が脳内再生され、想いを馳せることができます。
大事なことは目に見えない。
しかし、その大事なことを思い起こすためのツールである商標は、目に見えます。(音商標は目に見えませんが、聴覚によって知覚はできます。)
黄色い蛇の存在を意識しながら、一輪のバラの様に手塩をかけてブランドを育てていき、そのブランドや世界観を想起させるために商標を使用し、そして海や山の様に半永久的な存在である商標権にてその世界観を保護し、「ぜんぶの星に花が咲く」を少しでも実現させたいものです。
本記事が、見えない大事なことを感じるきっかけになれば幸いです。
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