知財は、何だか小難しく、マニアック。
良くいえば、専門的・プロフェッショナルなのでしょうが、なかなか「一般受け」しない現実があります。
企業では、華やかな「企画・マーケティング部門」に新人の配属希望が集中、知財部門への配属希望はゼロなんてことはザラ。
弁理士業界も、平均年齢が52.19歳(2021年3月調査)と、今や「高齢化」まっしぐら。30代がもっとも多い弁護士と比べても、若者に人気がないことは歴然です。
・・・どうしたら知財が「一般受け」するのか?トライ&エラーするも答えが見えず、半ばあきらめかけていたところ、驚くべきニュースを目にしました。
第20回『このミステリーがすごい!』大賞受賞者は “企業内弁理士”
『このミステリーがすごい!』大賞は、これまで直木賞作家の東山 彰良氏や、『チーム・バチスタの栄光』シリーズで知られる海堂 尊氏を輩出してきた、歴史ある新人賞です。
第20回も応募が486作品もあり、そこから大賞はたった1作品。
「まあ、たまたま弁理士が書いただけで、内容は普通に死体が出るミステリかな?」と思いきや、内容も知財紛争を正面から取り扱った、「特許をめぐるリーガルミステリー」とのこと。
特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来|南原 詠|宝島社特設サイト
実は知財はエンタメとして成立するのか。一般受けしなかったのは料理法の問題だった?、それにしても作者はいったい何者なのか・・!?
そこで今回は、『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』の作者、南原 詠先生にお話を伺いました。
<南原 詠(なんばら・えい)先生プロフィール>
1980年生まれ、東京都目黒区出身。東京工業大学大学院修士課程修了。元エンジニア。現在は企業内弁理士として勤務。名前は作家としてのペンネーム。
南原さん × ちざたまご(聞き手)
弁理士、そして作家になったきっかけ、そしてVTuberを作品テーマに選んだ秘密とは?早速スタートです。
※ 筆者は作品を通読したうえで、インタビューを行っています。
ミステリ作品という性格上、本編のネタバレにならないように注意していますが、導入の事件と、公開されている「あらすじ」の情報には触れております。もし気にされる方は、先に『特許やぶりの女王』を一読されることをお勧めします!
1.弁理士試験「砂漠」が生んだ、作家への情熱
ー本日はよろしくお願いします。『特許やぶりの女王』は「現役弁理士が描く企業ミステリ」という点が話題になっていますが、そもそも弁理士になられた動機は?
南原:私は電機メーカー勤務の企業弁理士なのですが、最初はエンジニア配属。業務は企業向けのハードウェア設計が仕事でした。
新人ながら何とか技術を勉強して食らいつこうとしてはいたのですが、入社3年目のプロジェクトの打ち上げ中、いきなり素になって「俺、この仕事、向いてないな」と。
ーおお、ずいぶん尖ったタイミングですね。
南原:自分、酒が飲めないんですよ。その日は無理して飲んでいたのもあるんですが、設計は自分の専攻分野ではなく、上にはとても敵わないと感じるすごい先輩もいました。さらにハードウェアって設計に失敗すると1発1億円以上の損が出るというのもあり。
ーそれはリスクが大きい・・。
南原:ソフトウェアだと後からアップデートができるけど、ハードウェアは一発勝負。失敗すると、「どこの設計が悪い?」みたいな話になりますし、これを一生やっていくのはキツイなと。
ー弁理士って、資格をすぐに目指すのではなく、開発を1回やって、その挫折で目指す人も多いですよね。
南原:自分はまさにその流れです。エンジニア30歳の壁っていう言葉があるそうなんですが、「一生開発のプロフェッショナルで行く?」、はたまた「別の道を行く?」かと。
自分は大学院も理系だから、技術に関わること自体は嫌いじゃない。開発とは違う道で自分のプロフェッショナルなスキルを伸ばせて、一生やっていけそうな仕事・・と探していると、「どうも弁理士というのがあるぞ」と。
ー弁理士は「技術を権利化する」仕事だから、実は1回、開発経験があったほうが良い点も多いです。
南原:弁理士は「理系の裏の王道」ってちょっとカッコいいワードも聞いて、予備校のパンフ貰ったりして、チャレンジしてみようかなと。
会社にも「自分、エンジニア向いてないから異動させてください」って言っても、「じゃあ君、どこ行くの?」ってなるけど、「知財やってみたいから知財部希望しています」といえば、前向きじゃないですか。
ー社内転職ですね。そういう知財のキャリアも全然ありで、むしろ多いのかな。
南原:ただ、弁理士試験が、長くかかりまして・・。スタートから合格まで6年。
ー特許庁のデータでも合格者の平均受験回数は4.1回ですから、受験するまでの勉強期間を1~2年とすれば、それは平均ぐらいですよ。
南原:いやー、働きながらですし、体感ではめちゃくちゃ長かったです。1年2年で突破していく人もいますしね。しかも、社内で「知財やりたい」と言っていたら、途中で知財部に異動できたんです。
ーじゃあ、合格前に、目標は半分達成していたと・・
南原:でも、それまで投下した時間を考えたら悔しくて辞められない。ラストの数年は色々聞かれるのが嫌で、周りには「俺、試験、あきらめました」って言ってたんですが、実は家でめちゃくちゃ勉強してる笑。
ーめっちゃ負けず嫌いじゃないですか。当時は何時間ぐらい勉強してました?
南原:週で25時間、月で100時間ぐらいですね。土日は8時間ぐらいやるとしても、平日も2~3時間は勉強時間を確保する必要があるので、できるだけ定時で帰って夜に勉強する感じです。
ー仕事しながらだと、定時で帰るのは気が引けたりしますよね。
南原:最初は「本当に帰っていいのかな?」と思うけど、意外にみんな気にしていない。それに、続けているうちに「気にされても別にいいか」と思うようになり。
ー確かに、会社に貢献するのは大事でも、時間を長時間捧げること自体が大事ってことではないですからね。周りを見ても帰る人は普通に帰っている。
南原:ただ、そうやって何とか勉強時間は確保したとしても、弁理士試験の答案を書くのが苦しくて・・。答案は「個性」を出しちゃいけないんですよ。独自の理論とか書くと絶対に落ちる、と予備校ではことあるごとに指導されました。
ーある程度「正解」があって、再生できれば合格というのは楽な点もあると思いますが、南原さんには・・。
南原:まったく合わなかったですねー。「俺は答案再生ロボットじゃない!」と。ただ、試験に受からなければ負け犬の遠吠えです。そこで、最後は、「この1年で合格して、俺は小説を書く!」と。
答案で書くこと自体を嫌いになって終わるのは嫌。この思いで、何とか弁理士試験を突破することができました。
ーおお、小説家になるのが試験合格の原動力だったんですね。
だがその先、プロの小説家になれるかどうかはまったく「答えがない世界」。弁理士試験より、キツい世界じゃないですか?
南原:冷静に考えるとそうなんですが、小説を描くのって私にとって絶対的に「楽しい時間」なんですよ。試行錯誤すること自体が楽しい。
それに、がむしゃらに書き出したわけじゃなく、小説も塾に通いました。弁理士登録のための修習が終わったその日に、若桜木 虔さんの「プロ作家養成講座」に申し込んだんです。
プルーフと南原さん(髪は切ったそうです!)
2.死体の代わりに「知財紛争」を転がせ!?
ー小説というと個人のセンスで書くもので、講座や塾では教えられないものというイメージがありました。
南原:小説の正解は、読み手が「面白い」と感じるかどうかですから、正解は読み手の数だけありますが、一方で「読者の読む気を起させない」書き方というのは間違いなくあります。
そこで、養成講座では、読み手に関心を持って作品に入り込んでもらうための「小説の文法」や、プロットやキャラクターの立て方といった「セオリー」を教えてもらいます。自分が実際に書いた作品を添削してもらうことでだんだんに身に付けていきました。
『特許やぶりの女王』にたどり着くまで、10本ぐらいボツ作品を書いています。書きまくって文法やセオリーを学んでいくのは、弁理士の論文式試験と相通じるところはありますね。
ー意外なことに、弁理士試験の学習体験も生きているんですね。養成講座では、具体的にどういうことを指導されるんですか?
南原:まず第1は「視点ブレ」を無くすことです。
小説を書くときは主人公など、特定の登場人物の視点で書き、その人が見たり聞いたりしたものだけを描写する。最初にやりがちだったのが、第三者の心理描写を入れてしまったり、その人自身からは見えないはずの「神様視点」での場面描写を入れてしまうことでしたが、読者を混乱させ、感情移入もしにくくなるので避けなさいと。
2つ目はなるべく指示語を入れない。
「それ、これ」とか「彼、彼女」とか、入ると文章が長ったらしくなり、それでいて意味は変わりませんからテンポが悪くなる。今回の『特許やぶりの女王』では、初稿ではあまりにも指示語を削りすぎ、改稿のときに読みやすいように逆に入れたのですが、必要最小限にとどめています。
ー確かに「指示語」の多用は、ビジネス文書でも読みにくくなりますからね。ストーリー面での工夫のポイントはあるでしょうか。
南原:良く言われるのは「最初に死体を転がせ」。実績がない新人作家は、読者も「本当に面白いの?」と懐疑的な目線で見ますから、つかみが特に大事です。
ー最初からクライマックスで行けと。ただ、「知財ミステリ」で死体を出すのは逆に不自然ですよね。
南原:はい、私が書いた作品は、ボツ作品も含めていまだに死体は出てきていません。そこでどう最初を盛り上げるかですが、『特許やぶりの女王』では、メインとは別の知財紛争を用意することにしました。
ー本作は主人公である大鳳 未来が、三重県多気町のクライアント「亀井製作所」に急行するところから始まります。
南原:三重県多気町にはシャープディスプレイテクノロジーズの液晶ディスプレイパネルの工場が現実にあるんですよ。作中の「亀井製作所」はシャープとは比べ物にならない小さなメーカーですが、その液晶テレビの工場・倉庫が同じ多気町にあるという設定です。
ー「亀井製作所」に特許権侵害の警告状が届いた翌日、いきなりライバルメーカーの特許権者である社長が殴り込んで来ます。
南原:現実の知財紛争ではまずありえないシーンですよね。だからこそインパクトがあると思いました。主人公は「特許権侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所の弁理士なので、クライアントの危機に急行させることでキャラクター紹介にもなるなと。
ー特許権者が「なぜ、急に殴り込んできたのか」の理由もちゃんとあり、それが問題解決の糸口に繋がるのは上手いと感じました。最初の事件で争点になる特許技術は「電源を投入したら、テレビ放送より先にインターネットブラウザが立ち上がるテレビ」ですが、これは現実にあるのでしょうか?
南原:「電源を入れるとブラウザが立ち上がるテレビを大手電機メーカーが開発しようとしたところ、テレビ局が反対し、お蔵入りになった」という話を聞いたことがあり。そんなテレビを売られてしまったら、ますますテレビ放送離れが進んでしまうと。
話のネタとして面白いなと思い、「ブラウザが立ち上がるテレビを製造していたら、実は他の電機メーカーの特許権侵害だった」というシチュエーションに仕上げました。
ー特許調査がおろそかで、いきなり警告状が届く・・というシチュエーションは、特に中小メーカーでは現実にありますからね。リアリティがあります。
南原:ちなみにこの特許ネタを冒頭に持ってきたのは、メインストーリーにかかわる「特許権侵害を警告され、窮地に陥る人気V Tuber “天の川トリィ”」をちらっと出しておきたかったんですよね。
ーああ、亀井製作所のテレビが特許権を侵害しているのか確認するときに、YouTubeが立ち上がって、天ノ川トリィの姿が映りますね。
南原:ちょっと強引な出し方じゃない?と審査員の方にも言われたのですが・・。
ともあれ、オープニングで「特許権を知らずに踏むと、えらいことになるんだな」とか、「弁理士って知財の専門家か」と、自然に読者に理解してもらえるように苦心しました。
3.「VTuber × 特許」という、組み合わせの妙
ーブラウザテレビの事件のあと、小説はいよいよ V Tuber をめぐる特許紛争に入っていくことになります。
南原:実は、VTuberをネタにするかどうかは結構悩んだんですよ。時事ネタを取り扱うと後で色褪せてしまいがちですし、「底が浅い」と評価されてしまうリスクもある。
ただ、自分が書きたい「知財ミステリ」は、まずは知財という専門分野があり、自分が弁理士として学んだり情報を集めたりしてきた「下地」をしっかりと使って書くので、そこに流行りっぽい VTuberを掛け合わせてもフワフワした内容にはならないだろうと。
参考:VTuberとは
バーチャルYouTuberの略で、「2Dまたは3Dのアバターを用い、自らの姿を見せないで活動するYouTuber」を指す。2016年に活動開始したキズナアイさんがはじめて「バーチャルYouTuber」を名乗り、それが爆発的に普及。2021年にはVTuberとして1万人以上が活動しているとされる。
ー確かに、知財ネタは何と掛け合わせるかが大事ですよね。Toreru Media でもスターバックス×知財のように「世の中の人気者」を知財視点で探る記事が良く読まれています。
南原:さらに、自分的には「VTuber は一過性のブームじゃなく、世界的な日本発コンテンツに育つ」という思いもあり。
2020年10月にはVTuber コンテンツが1.5億回/月も再生されたというデータがあります。
ー右肩上がりで伸びていますね。日本でもカバー(株)が運営する「ホロライブプロダクション」のように、VTuber を事業化する動きが加速しています。
南原:VTuberは世界でも注目されていますが、まだ8割以上が日本産ということもあり、「これは日本が世界的に覇権を握れるコンテンツじゃないか?」と。
しかも、二次元のアバターには背景に「演者」、つまり「人間」がいるんですよね。ドラマが描けるので、小説のネタになるなと思いました。
ー確かに、小説でも特許権侵害を警告された人気VTuber側として、演者やプロダクションの社長、いろいろな登場人物が出てきます。
南原:はい、人気VTuber “天ノ川トリィ”の演者は、「巨大な才能」を持ついわば超人として描いていますが、たとえ超人であっても、「特許権侵害」という現実には勝てない。
映像技術の特許権侵害を警告され、技術が使えないなら「活動停止」するしかないという状況に追い込まれていきますが、それを「特許権のルール」の中でいかにひっくり返すかというのが、読ませどころになっています。
ーこの「特許権のルール」で逆転するというのが、今回新しいなと。弁理士が書いた本格知財ミステリは、本作が初めてではなく、『ブルーベリー作戦成功す(池上 敏也著)』とういう先人の作品もあります。
南原:『ブルーべリー作戦成功す』は名作ですよね。新薬開発をめぐる、特許戦争をテーマにされていて、私も本作を執筆するときはかなり意識していました。
ー私も『ブルーベリー作戦成功す』は読んでとても面白かったのですが、「特許をつぶす先行文献(プライヤー・アート)」を見つけ出す戦いなんですよね。主人公はドイツに飛んで文献探しをするのですが、特許制度自体で逆転するというより、ドキュメントを探すスパイ小説のような戦いになる。
南原:はい、そこに後発である自分も「差別化」できる余地があるなと思いました。
つまり、特許制度自体をトリックとして用いる。密室ミステリであれば「どうやって犯人が密室を作り出したか」という部分を読者が推理する、作者との駆け引きがありますが、自分は「特許制度」そのもので読者に挑戦したい。
実際に知財業界の人に読んでトリックを当ててほしいのですが、知識がある人には「その条文でひっくり返すのか!」と膝を打ってもらえるように仕掛けています。
ーちょっと驚いたのは、本作ではややこしい知財用語や、条文は全く出てこないですよね。これは意図的に言い換えをした?
南原:そこは審査員の方に、厳しく指摘されました。応募時原稿では、権利行使を受けるV Tuber 特許の内容、つまり請求項をしっかり書いていたんですよ。ただ、「分かりません」、「分かりにくいです」とコメントされ、意図的に削ってます。特許用語も、できるだけかみ砕いた用語に置き換えました。
ー弁理士としては正確に描写したいけど、小説としてはそこで読者が投げ出したら終わりですもんね。
南原:弁理士の人が見たら「こんな言葉遣いはおかしい」と怒る人もいるかもしれませんね笑。そこは割り切って「分かりやすさ」に振り切りました。言葉を置き換えても、「知財制度をめぐる戦い」の面白さは損なわれないし、ならば一般の人に広く読んでもらいたいですから。
ーあと、本作でグッと来たのは、「才能を守るために、主人公である弁理士が戦う」点でした。
南原:それは自分の弁理士になるまでのルーツが影響しているかもしれません。凄い先輩を見て「自分はエンジニアとしてやりきれないな」と感じ、知財の道に進んだ。そこには「才能」に対する憧憬というか、リスペクトがあるんですよね。
ー特許は独占のルールだから、権利者は差止も損害賠償も自由なんだけど、それで本当に VTuber “天ノ川トリィ” という才能が潰されてよいのか?という。
南原:警告書一通で、才能を潰すこともあり得るのが「知財の重さ」です。
ただ、じゃあ特許をはじめ知財制度自体がダメなシステムかというと、そんなことはなくて600年以上、人間の社会で続いているシステムなんですよね。
ー主人公の大鳳未来は元、パテントトロール。
パテントトロールとして、第三者から集めてきた特許を利用し、企業から大金をふんだくってきた人物が、今度は特許権からの攻撃を守る側に立つという、どちらの立場もあり得るのが「知財の面白さ」かなと。
南原:特許権は結局「財産権」だから、譲渡は自由だし、特許を使って儲けるのも全然アリだと思っています。ただ、パテントトロールを完全に自由にするのがルールとして適切かというと、それは違う。
例えば米国では訴えた側が、特許を実際の事業で使用していなければ、差止はほぼ認められない。ライセンス料を請求できるだけです。「それでもパテントトロールにお金が渡るじゃないか」と批判する人もいるかもしれませんが、パテントトロールの権利も元々は特許権者から譲り受けたもので、発明者や特許権者の労に報いる必要はあるでしょう。
ー知財制度そのものを否定するのではなく、改正や裁判所の判例によって時代に合った形に修正していければ、ちゃんと機能するということですね。
南原:自分はカードゲームも好きなんですが、新しいカードが毎年出る中でバランスが崩れてくると、強すぎるカードが運営側の判断で、大会で使用禁止になったり、1枚制限になったりするんですよ。
ーいわゆる「禁止・制限カード」ですね。そうか、パテントトロールに対する制限も「制限カード」みたいなものだ。
南原:特許法って産業立法だから、産業の在り方が変わると自然に法律も変わるよと。それこそ毎年ルール改正があるから、知財はダイナミックで面白いんです。ルールをうまく時代に合わせていければ知財制度はまだまだ有用だし、才能を守ることだってできる。
なので、『特許やぶりの女王』でも、特許制度のルールの面白さを感じてもらえれば嬉しいです。
4.おわりに…これからの作家活動!
ー今日は弁理士・作家になられた軌跡から、『特許やぶりの女王』の見どころについて色々とお聞きしてきました。最後に次回作や、これからの展開について教えてください。
南原:自分は弁理士なので、やはり「知財ミステリ」にこだわっていきたいです。デビューするまでに書いた約10作品も、全て知財をネタにした小説でしたしね。知財業界で仕事をしていると、「これ、小説のネタとして使えるんじゃない?」という素材が自然に入ってくるのがありがたいです。
1つ書いてみたいなと考えているのは商標の紛争です。例えば、フランスの有名な靴ブランド「クリスチャン・ルブタン」は、ハイヒールのソールに赤い色を使用していますが、そのデザインを米国で商標登録していました。
米国商標:No.3361597
この商標権を根拠に、ルブダンは「イヴ・サンローラン」の真っ赤なハイヒールに対して差止訴訟を起こしたのですが、判決では
「商標登録自体は有効であるが、その効力は靴のソール以外の部分が赤色ではなく、コントラストを形成している靴に対してのみ及ぶので、赤一色のハイヒールは権利範囲外である」
https://www.tmi.gr.jp/uploads/2020/09/23/TMI_Newsletter_Vol_13.pdf 本事件の参考記事
として差止を認めませんでした。
もちろんこの事件をそのまま小説のネタに使うわけではないのですが、商標のブランド間の戦いや、「現実にユーザーが誤認混同するかどうか?」というデータも踏まえた説得バトルは、エンタメとしても成立するんじゃないかなと。
ー確かに商標の紛争は、裁判での「論理力」が試されるから、ドラマチックになりそうですね。続編は、やはり、主人公の“大鳳未来弁理士”が主役になるんでしょうか?
南原:もちろんシリーズ物として書いていきたいですが、それは1作目の・・
ー売れ行き次第と・・
南原:はい、なので、応援をよろしくお願いいたします!
ー知財関係者でなくても楽しめる知的エンタメ小説ですし、知財関係者なら「ここで、その制度が生きてくるか~」とニヤニヤしてしてしまう本作、私もぜひ続編を読んでみたいです。
自分も周りに布教していきたいと思います。本日はありがとうございました!
~取材にご協力いただきました宝島社様 正面にて撮影
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『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(宝島社)
1月7日発売/価格:1540円(税込)
詳しくは宝島社ホームページをチェック!