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YouTubeチャンネル始めたら、知財の輪が大きく広がった話  ~祝、知財実務オンライン1周年!~(加島広基先生)あしたの知財 Vol.08

コロナ禍で知財業界にも急速に広がった在宅勤務。会合・飲み会の大半も「自粛」となり、対面で人に会うことは激減しました。

一方、これまで対面だったコミュニケーションや情報発信をオンラインで補完しようとする動きはあちこちで見られ、特にYouTubeでは多くの配信チャンネルが立ち上がっています。

最近増えてきたから知財系YouTubeチャンネルをまとめてみた (独学の弁理士講座 -弁理士内田浩輔監修-)

こちらのブログで紹介されているだけでも、22チャンネル!(2021年6月時点)

各チャンネルそれぞれ特徴があるのですが、中でも知財実務家に熱く支持されているのが『知財実務オンライン』。毎週木曜日夜に生配信、毎週変わるゲストスピーカーという安定したフォーマットに加え、数か月に1回開催される「特別篇」では希望者立候補型のライトニングトーク回があったり、スタジオでの視聴者参加回があったりと、バラエティに富んで飽きさせません。

知財実務オンライン YouTubeチャンネル

私も時間が合うときは生で、そうでないときはアーカイブで毎週楽しみに視聴しているのですが、見ていて感じるのは、「良く続くなあ・・!」と。

YouTubeに限らず、ブログ、Noteなどなど始める人は多くても、一番難しいのは継続すること。最初は毎週更新でも、いつの間にか月1になり、更新が停止・・というのは良く見られる光景です。

情報発信が続かないのは、忙しくなった、ネタ切れ、反応がなくモチベーションが続かない・・など様々な要因がありますが、ここは「続けるコツ」を知りたいもの。

さらに、そもそも「情報発信を継続することで何が得られるか?」も気になるところです。

そこで今回は、『知財実務オンライン』モデレーターの1人であり、2021年4月に『日本橋知的財産総合事務所』を開設された加島 広基先生にお話を伺います。

<加島先生プロフィール>

1999年に東京大学工学部都市工学科卒業後、株式会社クボタに入社。
在職中は下水処理場のプラント設計に携わるとともに、次世代型の遠心脱水機(汚泥を水と固形物に分離する装置)の開発に従事する。

2002-2003年に大井特許事務所に勤務、2004年に弁理士登録し、2004-2012年に協和特許法律事務所に勤務。
2012-2021年にマクスウェル国際特許事務所を共同経営。
2020年より特許業務法人IPXの押谷先生と知財実務オンラインを毎週木曜日にライブ配信。

2021年に日本橋知的財産総合事務所を開設。

※ より詳しくは事務所サイトよりこちら
Twitter:@kashima510 
Note:https://note.com/kashima510

『知財実務オンライン』などの活動を通して、モデレーター自身にも訪れた知財の見え方の変化とは?早速スタートです。

加島先生 × ちざたまご(聞き手)

 

1、日本橋開業ストーリー

―本日は日本橋の新しい事務所にお邪魔しています。オフィスは日本橋でも兜町エリアにあり、鎧橋を渡ったすぐ先には「東京証券取引所」が見えますね。

加島さん:新たに事務所を立ち上げるにあたり、場所を色々と検討したのですが、日本橋は良いエリアだなと。東京駅に近いのに老舗の店舗も多く、ビジネスの中心地としての歴史もあります。特に兜町は株式取引の電子化により、一時は金融の街としての活気を失ったのですが、今は再開発プロジェクトが進み、新しい飲食店ができたり、ベンチャー企業が入ったりしています。

渋谷にはIT企業が集まって「ビットバレー」と呼ばれたりもしていますが、江戸時代から続く街である日本橋も、老舗企業とベンチャー企業が出会って刺激し合える新しいバレーになっていくのではと思い、この地をオフィスに選びました。

いま、日本橋兜町がおもしろい!~金融だけじゃない、新たな魅力を発掘~|さんたつ by 散歩の達人

―事務所名の『日本橋知的財産総合事務所』にもあえて今風の横文字を使わない、クラシックなこだわりを感じますね。そもそも加島さんが弁理士になったきっかけは何だったのでしょうか?

加島さん:大学は工学部でして、卒業後は株式会社クボタに入社し、下水処理場のプラント設計や、次世代の遠心脱水機の開発に携わっていました。遠心脱水機というのは汚泥を水と固形物に分離する、下水処理では欠かせない装置ですね。

部門には「発明ノルマ」があり、そこではじめて弁理士という仕事を知りました。自分なりにアイディアを書いた提案書を弁理士に見せると、「こういう価値もあるんじゃないですか」と向こうから提案してくれたり、明細書としてきちんとした書面に仕上げてくれたりと、頼れる仕事だなと。

弁理士は技術の知識が生かせる法律職であり、理系と文系のクロスロードに位置するというのも面白い仕事と思いました。そこで、社内で知財部へ異動希望を出したのですが、残念ながら認められず。

―知財部の人員体制や、若手の枠があるのかなど、タイミングもありますからね・・。

加島さん:クボタでは機械の分解・組立など色々なことを学んだのですが、「弁理士って面白そう」という気持ちは変わらず、異動するチャンスがいつか分からないならと、3年で退職し、特許事務所に転職しました。

その後は明細書作成を学びつつ弁理士試験に合格し、米国の知財系法律事務所のサマープログラムを受講するなどの経験を積んだのちに、2012年にマクスウェル国際特許事務所を高村先生と共に練馬に開設し、共同経営していました。

マクスウェル国際特許事務所では、パートナー弁理士がそれぞれ独立してクライアントとお仕事をしていたこと、コロナ禍になり自分が練馬オフィスまで通う頻度が落ちたこと、また、自分の中で知財の新しい価値に向けてチャレンジしたいことが出てきたことなどが重なり、話し合ったうえで別の事務所としてやっていこうという話になりました。

元々、私はこの『日本橋知的財産総合事務所』で4所目、クボタをいれると5つ目の組織で、1つの組織に居続けることへのこだわりはないんですよね。逆に、組織が変わることによって人間関係が広がり、新しい人々や仲間と出会えるという喜びも大きいと思います。

事務所は変わってもマクスウェルのメンバーはずっと仲間だと思っていますし、実際、今でもやり取りが続いています。

―なるほど、そう言われたら「1つの組織に居続けることが普通であり、安心」という先入観が、自分の中にあったことを逆に気づかされました。

加島さん:まあ実際に1人で「再」独立してみると事務など思っていたより全然大変で、自分が周りのメンバーに支えられていたことが身に沁みているのですが、それも含めて日本橋から新しいチャレンジをしたいと考えています。

 

2、知財実務オンラインの舞台裏

―『知財実務オンライン』が始まったのは2020年6月からでしたが、ちょうどコロナ禍が広がり、緊急事態宣言が出たのが2020年4月でしたよね。やはりコロナ禍を受けて始まった番組だったのでしょうか?

加島さん:きっかけは3月にIPXの押谷先生と行うはずだった1日がかりの意匠法改正セミナーでしたね。2人で気合を入れて300枚以上のスライドを準備していました。

すでにコロナ禍が広がり始め不穏な雰囲気だったのですが、主催者からは「絶対に開催します」と言われ何とかやれるかなと考えていたところ、開催数日前に無期延期の連絡が・・。

―おお、不可抗力とはいえショックですね。。

加島さん:我々も最初落ち込んだのですが、せっかくスライドもあり、話す準備も終わっているのだからオンラインで公開しようと。YouTube配信の準備をして、4月末より週1ペースで『改正意匠法オンラインセミナー』を実施しました。

このセミナーがクローズに関わらず毎週20~30名の方に視聴いただき、評判も良かったので、「コロナ禍も続くようだし、テレワークの方向けにセミナーを引き続きできないかな」と2人で話し合って生まれたのが『知財実務オンライン』です。なので、セミナーが無事開催できていれば誕生してない番組なんですよね。

この辺の顛末は私のnoteにも書いておりますので、ご興味あれば読んでみてください。

―素朴な質問なんですが、『知財実務オンライン』の配信ではモデレーターの加島さん・押谷さんは同じ場所にいるんでしょうか?

加島さん:「広島出張収録回」などのスペシャル回を除いて、2人とも別々の場所からですね。お互いオフィスや自宅など、雑音が入らない場所からアクセスしています。ちなみに押谷さんは良く配信のときに着心地が良いといってToreru Tシャツを着ていますよ。たまに映ってますから、皆さん探してみると面白いかもしれません。

―結構フリーダムな感じで配信してるんですね笑。それにしても、毎週必ず配信し続けるのは大変でしょうが、どうやって継続しているのでしょうか?

加島さん:これは逆に「毎週木曜日18時30分~20時」とプログラムを最初に固定したのが良かったと思います。押谷さんも私もあらかじめ予定表にいれてありますから、ブッキングもないですし、2人とも欠席したことは1年間1度もないです。

あとはコロナ禍の中、飲み会やリアル会合もほとんどないので、他の予定が入りにくい環境はあるかもしれません。どちらにせよ、「まず番組の予定を決めて、習慣化する」ことで継続できています。

―配信スケジュールはそれで対応できるとしても、ネタ切れ対策も厳しそうですよね。

加島さん:こちらも企画立ち上げ時に、「基本的に自分たちでコンテンツを作っていくのではなく、話が面白そうな知財業界の方にお声がけし、ゲストスピーカーとして得意分野のお話をしてもらう」という設定にしたので、通常回ではそこまで手間はないんですよね。

最初は我々が直接面識がある方に依頼して出演頂いていましたが、途中からゲストスピーカーがさらにゲストを推薦してくださったり、配信を見て興味を持った視聴者から出てみたいとご連絡いただいたりと、元々あった人脈に頼らない運営になってきています。

それでも50回もやっているとさすがにゲストスピーカー選びも大変になってきていますので、「自分も出てみたい」という方は遠慮なくTwitterなどでお声がけいただけると助かります。最近は企業の知財部の方にも積極的に出て頂いていますね。

―配信における2人の役割分担はどのようになっているのでしょうか?

加島さん:2人のうちゲストスピーカーにお声がけした人がオープニング資料を作って冒頭のオープニングトークを行います。もう一方の人は、コーヒーブレイクタイムで視聴者からの質疑応答を取りまとめる形で役割分担していますね。モデレーター同士で互いにゲストスピーカーへの質問を促すこともあります。

―なるほど、モデレーターの役割も回ごとに入れ替わるんですね。それぞれ性格が異なるお2人が掛け合い形式でゲストと話を広げていくのが、『知財実務オンライン』の飽きさせないところだなと感じます。
また、生配信の際、チャット欄に記入したコメントを積極的に拾っていますが、これも番組作りで意図的にやっている?

加島さん:チャットで質問が来ますと、視聴者の反応があることがゲストの方にも分かりやすく伝えられますし、我々とは違った視点での意見があるとさらに話が広がりますから、コメントは本当に大歓迎です。むしろチャットが少ないと、運営側が少し焦ってしまいますね笑。

ー視聴者サイドでも「ガヤ隊として盛り上げよう」と言っている方もいて、視聴者と一体となった番組作りになってますね!視聴者と配信側の距離が近いのも、番組の魅力だと思います。

ちなみに、これまでの配信で加島さんが一番印象に残っているのはどの回でしょうか?

加島さん:通常回は、自分がまだ知らない知財のさまざまな分野を各ゲストに教えてもらうというスタンスで参加しているので、毎回発見があり、「全てがベスト回」という気持ちですね。

これまで全部の回を視聴されている方はいないのではと思いますが、押谷さんと私は配信者という立場でゲストと向き合い、直接お話を頂いているのでまさに特等席。知財の世界の視野を広げるという点で、一番得をしている立場と感じています。

ーなるほど、ではご自身でコンテンツを作られている「特別編」で特に印象に残っているのは?

加島さん:1つ選ぶなら、やはり第3回の「前代未聞!自分たちの商標登録出願に対する情報提供を題材に、 商標の登録可否を検討する」でしょうか。

番組開始に先だって出願していた『知財実務オンライン』の商標登録願に対し、第三者から「登録させるべきではない」という情報提供が特許庁に寄せられました。

J-PlatPat 検索ページより

これを題材にして、4人の商標弁理士の方々に集まって頂き、「情報提供の内容を前提にしたうえで、『知財実務オンライン』商標は登録になるか、否か?」という討論会をしたのです。

(特別編第3回)知財実務オンライン:「前代未聞!自分たちの商標登録出願に対する情報提供を題材に、 商標の登録可否を検討する」

ーこの回、私も視聴しましたが「情報提供されたことが、動画コンテンツのネタになるんだ!」と目からウロコでした。普通は情報提供されたことを積極的に言わないところ、視聴者にもアンケートを取ってましたよね。

加島さん:以前、企画した『特許の鉄人』も、明細書のクレーム作成を競うという対戦形式でしたが、この企画もディベート形式で4人の弁理士の方に「なぜ登録になる・ならないと考えるのか」を主張していただき、最終的に視聴者に「どちらの意見が説得的か」を判断してもらう形式を採りました。

対決形式を採るのはエンタメ化しやすいという理由もあるのですが、お互いのアウトプットや意見をぶつけ合うことで、見ているほうも2つの違いが明確になり、考えが深まるというメリットがあります。

知財の世界はどうしても「内」にこもりがちになりますが、このようにオープンに議論する機会が増えれば、もっと面白く、広がっていくのではと感じています。

 

3、知財は「妄想」と組み合わせると面白い!?

―『知財実務オンライン』だけでなく、加島さんは『特許の鉄人~クレーム作成タイムバトル~』イベントの企画・立案など精力的に活動されていますが、その原動力は何なのでしょうか。

 

加島さん:まず、自分自身は必ずしも「情報発信をやりたい」と考えている訳ではないんですよ。『特許の鉄人』のイベントの動機は、

『弁理士の仕事は明細書のようなアウトプットで評価されるのが通常。ただ、弁理士の能力はアウトプットだけでなく、依頼人から寄せられたアイディアをどう咀嚼して、特許となる文章を磨き上げるかという過程にこそ、能力と凄みが反映されるものである。
ただ残念ながら、その過程を普段は「動的」に確認することはできない。どうしたらこの魅力を伝えることができるのだろうか?

方法として、依頼人から寄せられたアイディアを2人の弁理士がどうクレーム(特許請求の範囲)に落とし込むのか、作業過程を対戦形式でライブで見せるのはどうか。お客さんもどちらが良いクレームと感じるか投票できることにすれば、真剣に対戦を観てくれて盛り上がるのではないか?』

という課題と解決案からスタートし、多くの仲間の協力を得て実現しました。その意味では、「自分自身が見てみたいもの」を企画としてやっているのかもしれません。

―確かに、『知財実務オンライン』もバラエティに富んだゲストが、それぞれの専門分野から多面的に知財を語るという企画ですからね。「送り手が一番楽しんでいる感」も配信からは感じます。

自分が見てみたい企画をやることが結果的に情報発信になっているとして、企画を実行するうちに自分自身が影響されて変わっていく・・なんてこともあるんでしょうか?

加島さん:知財に対する自分の視点が広がっていく効果は間違いなくありますね。

例えば、『知財実務オンライン第39回』では株式会社知財図鑑 編集長の荒井さんをお招きしました。
知財図鑑は特許公開公報をはじめとする既存技術があっても、文字情報がポンとあるだけでは技術の魅力や活用法は専門家以外には伝わらない。そこで、既存技術を基点にして、こんなこともできるのでは?という「妄想プロジェクト」イラストを作成し、イラストを見た人がさらに他の事業分野への活用を自由に考えてもらうという方法論を採っています。

具体例として、株式会社タイカが開発するαGEL(αゲル:シリコーンゲル)というエッジが効いた素材がまずあり、この素材の「触り心地が良い」、「気持ち良い」という特長を出発点に妄想を膨らませ、動物を見るだけではなく、その触感までも体感できる『さわれる動物園』という妄想プロジェクトが作られています。

 

知財図鑑ウェブサイト 『さわれる動物園』(妄想家 松岡 真吾 / 妄想画家 其中カズヒト)より

―イラストでは子供たちがパンダやクラゲの模型を触っていますね。実物には触れないが、αGELで触感を再現することで、展示として疑似体験できるという提案、面白いです。

加島さん:すでにある技術や特許を出発点に、『妄想プロジェクト』というある意味突っ込みどころがある奔放なイラストを作成し、そこからさらに自由なアイディアや利用方法を引き出していく、というアプローチですよね。

依頼人からアイディアを聞いて、書面に落とし込んで良い特許権を取る、という伝統的な弁理士の業務フローとはまったく異なるのですが、知財の可能性を広げる新たな手法として、とても刺激的でした。知財図鑑以外でも、「妄想力」を利用するアプローチは知財の世界ではもっと生かせるのではと考えていまして。

―すいません、おっしゃる「妄想」と「想像」はどう違うのでしょうか?

加島さん:「想像」はいまある常識の延長線上にありますが、「妄想」は実現可能性が見えない、突飛な発想という位置づけです。日本で「妄想」というと絵空事、何言っているんだと眉をひそめられ、下手をすれば嘲笑されてしまいますが、欧米のエリート層の中ではむしろ「妄想」は価値が高く、肯定的な意味で捉えられると言われています。

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN(佐宗 邦威 著) 第2章 すべては「妄想」からはじまる、参照

なぜ妄想の地位が海外では高いかというと、「本当に価値があるものは、妄想からしか生まれない」ということが経験的に知られているからです。既存の常識の延長線上にあるものは、手堅くても世界を変えることはありません。

―言われてみれば、iPhoneも「アップルが電話を再発明する」という、スティーブ・ジョブスの大言壮語から始まりました。当時のスマートフォンといえば、BlackBerry端末のような大量にボタンがついた複雑な機械が主流で、「ただの板」というデザインアプローチは実現不可能に見える「妄想」の世界でしたね。

加島さん:その後の快進撃はご存じの通りです。ただ、妄想は一度カタチにならなければ、広がらない。iPhoneもアップル社が実際に動く端末を作りだしたからこそ、世界を変えることができました。これは、妄想と知財の関係でも、近いものがある。

すなわち、「妄想」の状態では単なるアイディア・直感の世界に留まっているのですが、弁理士のような知財の専門家が関わることで、「妄想」を特許という論理的かつ具体的なアウトプットへ変換できる。
そのアウトプットはさらに「知財図鑑」のようなクリエイターと出会うことで、最初の「妄想段階」では考えつかなかったような利用法も提示され、面白いと感じた人々の手によって実用化へ進んでいく・・・という流れが作れないか。

「妄想」が現実世界を変えるまでのプロセスで、知財がキーパーツとして使えるのではという発想ですね。

―確かに、伝統的な特許の世界ではまず「発明品」があり、その物を出発点として出来るだけ広く権利を取るのが普通でしたが、最近では技術的に実用化はまだ無理でも、未来を予想すると必ずニーズがあるから、先に権利化しておくアプローチも増えてきています。

加島さん:未来ビジョンを見定め、あらかじめ特許を押さえておこうという方法論は、TechnoProducer株式会社の楠浦代表の著作『新規事業を量産する知財戦略』でも提唱されていますね。

また、LINE社に「ふるふる」の特許侵害訴訟を提訴し、1審勝訴したフューチャーアイ社の塚本豊弁理士も、実用化した技術を特許化したのではなく、10年以上前に未来予想をして、「実現はまだ先でも必ずニーズがある」と考えて出願した特許で勝訴したと聞きます。

すでにある技術をトレースして出願するだけでは知財の仕事も広がりが少ないのですが、未来を自由に「妄想」してもらい、その妄想を具体的な特許権に落とし込んで将来の武器を作り出す、というのが今後弁理士の大きな役割になるのではと考えています。

 

4、おわりに ~これからの加島さんが目指すもの!

―これまで色々とお話を伺ってきましたが、最後の今後の加島さんの活動プランについて教えてください。まずは『知財実務オンライン』、今後もずっと継続されるのでしょうか?

加島さん:先ほどお話しした通り、コロナ禍で無期延期になったセミナーが発端で始まった企画で、テレワークを余儀なくされた方々に在宅でも番組を楽しんでもらおうというコンセプトがありました。そこでコロナ禍が収まった時点でどうするか、押谷さんともお話しすることになると思います。

もしかしたら『知財実務オンライン』の商標登録出願の拒絶が確定したら、そこで番組終了になるかもしれませんが笑、ちょうど1周年、第50回を迎えたところなので、100回の大台を目指してみたい気持ちはありますね。

―1周年記念の公開録音、私も参加したのですが、やっぱりリアルで集まれる企画は良いなと。『知財実務オンライン』はコロナ禍の期間だけと言わず、番組ブランドとして残ってほしいです。

 

(特別編 第4回)知財実務オンライン:代官山”BESS MAGMA”から生配信!”建築物/内装意匠+画像意匠の最新動向”

加島さん:そう言っていただけると有難いです。1周年の公開録音は代官山の“BESS MAGMA”という、(株)アールシーコアさんの住宅展示場をお借りして行いました。アールシーコアさんは日本ではじめて住宅建築(組立家屋)の意匠権の訴訟で勝訴した住宅メーカーですが、訴訟の対象になったWONDER DEVICEだけでなく、様々な独創性がある住宅デザインを開発し、積極的に知的財産権も取得されています。

買う側も気をつけたい「住宅の意匠権」。初の勝訴事例から、建築・住宅デザインの権利を考える

ーログハウス見学と公開生配信という一見違うものが、実は知的財産の側面でつながっていたのが「知財の広がりの可能性」を示す、象徴的な出来事でした。これは『知財実務オンライン』第1回ゲストの中村先生の受け売りなんですが笑。

加島さん:見学会パートでは「誰がログハウスを買うんだ!?」とかずいぶん盛り上がってましたね。やはり、単に知財の知識を一方的に提供するだけではなく、双方向で視聴者とも盛り上がれるのが参加型企画の醍醐味です。その点では、『特許の鉄人』でも『知財実務オンライン』もブレてはないですね。

 

これからの抱負としては、今までお世話になった知財業界のクライアントの方々を大切にしつつ、さらに今まで知財と接点がなかったクリエイティブ畑の方とも新たにお仕事をすることで、知財と社会の垣根を無くし、新しい発想・価値を生み出すような仕事をしていきたいと考えています。

その点では『日本橋知的財産総合事務所』も、『知財実務オンライン』も、『特許の鉄人』も、全部1つに繋がっているのかもしれません。

日本橋周辺にお越しの際は、是非兜町近くのオフィスまで足を伸ばしていただければ嬉しいです!

画:大樹七海先生  

―YouTubeチャンネルを始めた話を出発点に、「妄想」を「知財」で具体化する方法論まで、知財の新たな可能性を教えて頂きました。『知財実務オンライン』の100回イベントも今から楽しみにしております。

加島さん、ありがとうございました!

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☆『日本橋知的財産総合事務所』ホームページ:
https://www.nihonbashi-ip.jp/

☆『知財実務オンライン』YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UC9wUmfwG0y4sYYGh5GApneA

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