【写真×著作権】ネット上の写真はどこまで無断使用できる?~裁判例をもとに弁護士が解説!

スマホで写真を撮ってSNSにアップロードすることが、誰でも簡単にできる時代ですが、ネット上の写真にも、見知らぬ誰かの権利がくっついているかもしれません。

この記事は「写真×著作権」をテーマにして、前半では、写真の著作権に関する基本的な考え方を説明し、後半では、他人の写真の無断利用に伴うリスク等について、裁判例等も交えつつお話ししていこうと思います。

ゲスト紹介

安田健朗:大阪弁護士会所属の弁護士です。取扱分野としては、一般民事系、損保系、中小企業法務系の案件が多いですが、商標法、不競法、著作権法、ファッションロー等、知的財産法分野にも興味があります。

法律関係の記事をnoteでも投稿しています。

前回記事:フリマ出品での「ハッシュタグ」使用は、商標権侵害になる?~最近の裁判例を弁護士が解説します | Toreru Media

1. 「写真と著作権」の基礎知識

1.1. 著作権が与えられるための要件

1.1.1. 何らかの個性が表現されていること

今回は、写真にまつわる著作権のお話ですが、そもそも、「写真なんてスマホで簡単に撮れるのに、著作権なんて発生するの?」という疑問もあります。

たしかに、プロのカメラマンが撮影した写真なら何となく分かりますが、一般人がスマホで撮影した写真に権利なんて・・・・と思いますよね。しかし、著作権は、プロにしか与えられない権利ではありません。

著作権法で保護される「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)とされています。

この中でも特に大事な要素が、「創作的」という点です。
創作的というと、「独創的」「芸術的」といったイメージが連想されますが、概念としては別物です。

簡単にいうと、その人(表現者)の「何らかの個性」が現れていれば、創作性が認められます。

幼児が描いた絵であったとしても、有名な画家が描いた絵画であったとしても、作者の個性が現れていれば、著作権が与えられるということです。

1.1.2. ありふれた表現には著作権は与えられない

逆にいうと、没個性的でありふれた表現は創作的とはいえず、著作権が与えられません。例えば、

2022年のワールドカップカタール大会予選リーグにおいて、日本がスペインに2-1で勝利した

という表現は、過去にあった出来事を文章にしたのみで、誰が書いても同じような表現になるはずです。
このような、単なる事実の伝達にすぎない表現には個性が現れる余地がなく、創作的とはいえません。

著作権法においても、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は著作物に該当しないとされています(著作権法10条2項)。

このような、没個性的でありふれた表現を無断で複製・使用したとしても著作物ではない以上、著作権侵害にはなりません。

1.2. 写真に現れる「個性」とは?

そこで気になるのが、写真に現れている「個性」って一体何?という点です。

この点について、リーディングケースともいえる裁判例が、いわゆる「スメルゲット事件」(知財高判平成18.3.29 判タ1234号295頁)です。

この裁判例では、写真の表現に関し、以下の要素に言及されています(判決文6頁参照。)。

  1. 被写体の選択・組合せ・配置
  2. 構図・カメラアングルの設定
  3. シャッターチャンスの捕捉
  4. 被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等)
  5. 陰影の付け方
  6. 色彩の配合
  7. 部分の強調・省略
  8. 背景 等

つまり、ここで列挙されている要素において撮影者の何らかの個性が現れていれば、著作物性を肯定できるといったイメージです。

次に、この裁判例は続けてこのように判断しています。


「撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず,静物や風景を撮影した写真でも,その構図,光線,背景等には何らかの独自性が表れることが多く,結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ,創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。」


前記「スメルゲット事件」判決文6頁~7頁より引用

つまり、写真には人間が撮影するだけで自然と何らかの独自性(個性)が現れることが多い、とも解釈できます。

1.3. 写真の創作性が認められる分かれ目は?

創作性が認められない画像であれば、インターネットの画像を無断使用しても著作権侵害は成立しないため、「どういう写真に創作性が認められるか」という裁判所の基準を知っておくことは重要です。いくつかの事例をみていきましょう。

1.3.1. 創作性が否定された事例

裁判で「この写真は著作物じゃないよ」と判断されてしまったのは、以下のような写真です。

・版画を撮影した写真(東京地判平成10.11.30 判タ994号258頁
・チラシに使用する切抜き用に撮影されたメガネの写真(知財高判平成28.6.23

特に、版画は平面ですので、正面から撮影するほかなく、その意味で個性が現れる余地が極めて少ないという点が考慮されたものです。

1.3.2. ギリギリ創作性が肯定された事例

また、「この写真はギリギリ著作物」という限界事例が、前記「スメルゲット事件」です。

この事件では、シックハウス症候群対策品である「スメルゲット」等の商品をネット上で広告販売するために撮影された写真の著作物性が問題となり、裁判所は以下のとおり判断しました。


「確かに,本件各写真は,ホームページで商品を紹介するための手段として撮影されたものであり,同じタイプの商品を撮影した他の写真と比べて,殊更に商品の高級感を醸し出す等の特異な印象を与えるものではなく,むしろ商品を紹介する写真として平凡な印象を与えるものであるとの見方もあり得る。しかし,本件各写真については,前記認定のとおり,被写体の組合せ・配置,構図・カメラアングル,光線・陰影,背景等にそれなりの独自性が表れているのであるから,創作性の存在を肯定することができ,著作物性はあるものというべきである。他方,上記判示から明らかなように,その創作性の程度は極めて低いものであって,著作物性を肯定し得る限界事例に近いものといわざるを得ない。


前記「スメルゲット事件」判決文8頁より引用(太字は筆者によるものです。)

「限界事例に近いものといわざるを得ない」という表現からも、ギリギリ感がすごく伝わってきます・・。

この事件は、商品を広告販売するために撮影された写真についての事例ですが、そういった写真の性質上、商品の特徴を忠実に表現する必要があり、撮影における選択の幅が広くない(個性を発揮しにくい)という側面があるのかもしれません。

なお、余談ですが、こちらのウェブページから、「スメルゲット」の写真を見ることができます。

1.3.3. 創作性の判断は難しい

創作性の判断は本当に微妙で、「これは著作物ではない」と断定することは困難です。

また、先ほど紹介した、スメルゲット事件(知財高判平成18.3.29 判タ1234号295頁)と、メガネの写真の事件(知財高判平成28.6.23)は、いずれも商品の写真を撮影したものですが、裁判所の判断は異なっています。

ただ前記のとおり、写真、特に立体物を撮影したものについては、著作物性が比較的認められやすい傾向にあるので、よっぽどありふれた(誰が撮っても同じようになる)写真でない限りは、他人の著作権が認められると思っておいた方が安全です。

2. ネット上の写真の無断使用が問題となった裁判例

2.1 はじめに

以上を踏まえ、実際にネット上の写真を無断で使用したことが、著作権との関係で問題となった裁判例を紹介していきます(東京地判令和5.5.18アパレル画像事件。以下「本事件」といいます。)

判決文によると、訴えた人(原告)はモデル兼経営者で、自身が経営する会社においてアパレルを販売していた人です。他方、訴えられた会社(被告)はアパレル企業です。

2.2. 無断使用が問題となった写真

そして、本事件で問題となった写真はアパレル商品の写真であり、商品単体の写真も、商品を着用して撮影したものも含まれているようです(以下「原告写真」といいます。)

しかも、被告による無断使用が主張された写真の枚数は、なんと300枚を超えています

これらの写真を、被告が自身のウェブサイトやインスタグラム、ツイッター(現X)に掲載したことが、原告の写真の著作権を侵害するものとして、訴えが提起されました。

2.3. 著作物性についての判断

本事件で、被告は原告写真の著作物性を争いましたが、裁判所はその著作物性を簡単に認めています。裁判所の判断は以下のとおりです。


「原告写真は、原告の取扱商品の販売促進目的で撮影されること以外には明確な制約がなく撮影されたものとみられ、また、撮影対象とされる商品の種類は多数に上ることを踏まえると、商品そのものを単体で撮影するか、被写体の人物に身に着けさせて撮影するか、後者の場合、1 点の商品のみを着用させるか、複数の商品を組み合わせて着用させるか、また、撮影を被写体の人物自らが行うか、第三者に撮影させるかといった観点からだけでも、その組合せは相当多数に上ることは多言を要しない。これに、着用する商品のコーディネートや撮影場所の選択、被写体の人物の体勢や物の配置、背景といった構図等の要素をも加味すると、原告写真において、撮影者がその思想又は感情を創作的に表現し、その個性を表す余地は相当に広いというべきである。」


東京地判令和5.5.18 判決文15頁より引用(太字は筆者によるものです。)

アパレル商品の写真の場合、商品の組み合わせ(コーディネート)や被写体のポージング、背景等の要素が組み合わさって1枚の写真となるのであり、その組み合わせには無数のパターンがあり得るため、個性を表す余地(選択の幅)が相当広いという点が重視されたものといえます。

同じく商品写真の著作物性が争われた前記「スメルゲット事件」において、「創作性の程度は極めて低いものであって,著作物性を肯定し得る限界事例に近い」と判断されたのと対照的ですが、アパレル商品の場合には、前記のように、商品を良く見せるための工夫の余地があるという点で、単に商品の写真を撮影する場合とは異なる事情が考慮されたものといえます。

やはり、写真については創作性の基準を満たし、著作物と認定されやすい=無断使用を著作権侵害と裁判所に認定されるリスクが高いと言えるでしょう。

2.4. 著作権、著作者人格権の侵害

2.4.1. 複製権、翻案権等

本事件では、被告が、原告写真をそのままの形で(複製)、又は、文字を加える等の加工を施して(翻案)ウェブサイト等に掲載していたため、原告写真の複製権翻案権公衆送信権送信可能化権の侵害が認められています。

2.4.2. 著作者人格権

また、被告は、原告写真を自身のSNS等に掲載する際、①原告写真の一部を切除しており、②著作者である原告の氏名を表示していませんでした。
よって、①について同一性保持権、②について氏名表示権という、著作者人格権の侵害も認められています。

2.5. 損害の額

2.5.1 気になるのは損害額~「いくら賠償しなければならないのか?」

著作権を侵害する行為は不法行為(民法709条)になりますので、権利者に対する損害賠償責任が発生します。また、著作者人格権の侵害に対しても、別途、損害賠償責任が発生します。

そこで気になるのが、「いくら賠償しなければならないのか」という点ですが、基本的には、著作権侵害がなければ、権利者が得られていたであろう利益(=逸失利益)が損害として考えられます。

著作者人格権の侵害に対しては、別途、慰謝料が発生します。

なお、逸失利益の証明は一般的に困難であるため、著作権法には、簡単に逸失利益を計算することを認める規定(損害の推定規定)もあります(著作権法114条)。

2.5.2. 本件で認められた損害額(ライセンス料相当額+慰謝料)

本事件において、裁判所は、請求額全額ではないものの、ライセンス料相当額の損害が発生したことを認めました。金額としては、201万円に上っています。

ここで、写真のライセンス料がどのようにして決められるのか?という点が気になりますが、本事件では、この点に関しても興味深い判断がなされています。

裁判所は、ウェブ上に掲載されているものも含め、原告と被告が主張した、「写真利用に関する料金表」から、本件に適した料金表を当てはめて、写真1枚あたりの利用料を認定しました。

判決文で言及されている料金表は以下のようなものです(判決文25頁参照)。

  1. 株式会社アマナの「amanaimages 料金表」
  2. 画像・動画の素材サイト「PIXTA」の「画像定額制プランのご案内」ページに記載の料金プラン
  3. 個人の制作者によると見られるウェブサイトの「画像のご使用について」と題するページに記載の料金表示
  4. 株式会社西日本新聞社のウェブサイト「西日本新聞社コーポレートサイト」の「記事・写真の利用案内」のページに記載の料金表

判決文から推測するに、①は原告が主張した料金表です。原告は同料金表に基づき、写真1枚あたり35,200円で請求を組み立てました。

②~④は、被告が「①の料金表は高すぎる!」と反論するために主張した料金表だと思われます。これに対し、裁判所は、本件で参照すべき料金表について、以下のように判断しました。

①は利用目的を「出版・報道・教育」とする画像に関する料金表であること、③は商用目的で作成された画像を対象とするものではないこと、④は新聞に掲載された写真等の使用料金を定めたものであることから、いずれも、原告写真のライセンス料を算出するにあたって参考にすることが相当でないとしました。

そのうえ、裁判所は、②の「PIXTA」の料金表を採用し、結論としては、原告写真1枚あたりのライセンス料を6,000円(税込)とし、被告によって無断使用された原告写真の枚数(335枚)を乗じた、201万円が損害額であると認定したのです。

判決文では明示的に言及されていないですが、著作権法上の損害額の推定規定として、最低でもライセンス料相当額の損害が推定されるという規定(著作権法114条3項)がありますので、裁判所も当然、これを念頭に置いているものと思われます。

さらに、著作者人格権侵害に対しては、ライセンス料とは別に15万円の慰謝料が認められています。

3. 【応用】ネット写真を参考にして新たに撮影すれば、著作権侵害にならない?

3.1.  写真の著作物の保護範囲は狭い?

本事件(先ほどのアパレル画像事件)は、被告が原告写真をほぼそのままの形で複製(若しくは翻案)していた事案ですので、著作権(複製権、翻案権)侵害は簡単に認められています(前記2.4.1参照)。

では、被写体となったアパレル商品を使って、似たような別の写真を撮影した場合、写真の著作権の侵害となるでしょうか?

他にも、例えば、素人が撮影した富士山の写真に著作権が認められるとして、他の人が同じ場所から富士山の写真を撮ってSNSにアップロードしたら、著作権侵害になってしまうのでしょうか?

つまり、ネット上の画像をそのままコピーして自分のHPなどにアップしたケースではなく、ネット上の画像を「参考」にして自分が新たに写真を撮影・アップした場合にも、著作権侵害は成立するのか?という論点です。

この新たに作品を創作(今回は撮影)した場合は、元になる著作物と新たな著作物が「類似」しているかどうかの判定が行われます。類似性の判断基準は複雑になるため、本稿では深く触れないですが、創作性が低い写真、すなわち、誰でも撮れるようなありふれた写真については、仮に著作物たり得るとしても、著作権侵害が認められる範囲(保護範囲)は狭い=類似性が認められにくいとされます。

そして、単に「富士山を撮った」写真はありふれていますので、その写真をそのままコピーした(いわゆるデッドコピー)ような場合は別として、同じ場所から同じように富士山を撮ったというだけでは、著作権の侵害にはあたらないという結論になるでしょう。

例えば、東京高判平成23.5.10では、「廃墟」を被写体として、同じような角度、構図で撮影された写真について、類似性が否定されています。

3.2. 被写体に工夫がある場合

富士山等の風景は所与のものですので、これを撮影する場合に個性が表れにくく、著作物として保護される範囲も狭いという結論になりました。

逆に、被写体自体に選択・工夫の余地がある場合はどうでしょうか。この点に関して有名な事件が、「みずみずしいスイカ」事件(東京高判平成13.6.21)です。

この事件で問題となった写真は以下のとおりで、スイカや背景のグラデーション用紙を人為的に配置して撮影されたものです。

 裁判所HP(東京高判平成13.6.21)「添付文書1」より引用

左側の「別紙 写真一」が原告(控訴人)、右側の「別紙 写真二」が被告(被控訴人)の写真ですが、裁判所は、写真二が写真一に類似するものと認めました。

3.3. アパレル画像事件で別途撮影していたらどうなった?

アパレル画像事件の場合、問題となった写真は、商品自体の写真、商品を着用して撮影した写真でしたが、同じ商品を用いて別の写真を撮影したとしても、著作権の侵害となる(類似性が認められる)ケースは限られるものと考えられます。

よって私見ですが、新たに撮影していれば著作権侵害にはならなかった可能性が高いと思います。

もっとも、例えば、商品の配置や着用する商品の組み合わせ等に工夫が凝らされ、創作的表現が色濃く表れているといえる場合においては、そのような配置、組み合わせを模倣して撮影した写真について、類似性が認められる可能性が高まるといえるでしょう。

4. まとめ

<押さえておきたいポイント>

  • 著作物性がない写真であれば、複製しても著作権侵害にはならない。ただ、写真の著作物性のハードルは低く、カタログ商品写真でも著作物性が認められた裁判例は複数ある。
  • 損害賠償金としてライセンス料相当額が201万円(画像1枚あたり6000円)、別途慰謝料も15万円認められた裁判例がある。
  • 写真をそのままダウンロード・HPなどに使用するケースだけでなく、独創的な写真を参考にして配置・組み合わせをそのまま模倣すれば、新たな撮影写真も著作権侵害になる場合はある(但し、限定的)。

以上、見てきたように、写真には著作権が比較的認められやすく、しかも、ウェブ上の写真を保存してアップロードすること(複製等)は容易であるため、無意識のうちに他者の著作権を侵害していないか、注意が必要です。

しかも、最低でもライセンス料相当額の損害の発生が推定されます(著作権法114条3項)ので、特に本件のように、無断で使用した写真の枚数が多いと、損害額もかなりの金額になってしまいます。

そのため、インターネットにアップロードされている写真を安易に複製して用いることにはリスクがあり、①著作権フリーとなっていることを確認したうえで使用するか、⓶著作権者にコンタクトをとって、使用許諾を受けることが肝心です。

なお、著作権フリーになっているかどうかの「利用規約」を確認すると、「商用は対象外」と書いてあったり、「その写真を使用した新たな著作物も、フリー素材として誰でも使用できるようになる」といった、ビジネス利用には影響が大きい規約が設けられていたりすることがあります。

利用規約はしっかりと確認し、不明点があればサイトの利用元に問い合わせたり、法律事務所に見解を聞いたりして利用していくことをお勧めします。

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