鮭から奇跡の成分が!?本州最北端、青森の知財の魅力を語ろう

旅行はお好きですか。出張はしますか。旅行先の都道府県、出張先の都道府県、お住まいの都道府県、在勤、在学の都道府県でどんな知財が活用されているか意識したことはありますか?

日本には色々な知財が溢れています。その中でも私は、青森へ年2〜5回訪問していますが、青森は四季折々豊かな表情を見せてくれます。さらにお祭りや農産物、食生活、温泉、方言等に魅了され、行けば行くほど、知れば知るほどドツボにハマりました。

調べていくと青森には魅力的な知財もたくさんありました。そこで今回は本州最北端である青森の知財について紹介したいと思います。

ゲスト紹介

長江明奈:神奈川在住の弁理士兼旅人。地域の知財活性化を支援したい。人の生活や文化、土木を中心に国内外旅をしています。惹かれるキーワードは、未承認国家、国境、飛地、橋桁、橋梁、水門、円筒分水、温泉、麦酒、祭り等。

1. まずは青森の魅力を確認!

知財の紹介の前に、簡単に私が推している青森のスポットを紹介したいと思います。

青森のお祭りといえば、ねぶたを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

今年2024年の五所川原立佞武多! とにかく高さがすごい! 最長23mで重さ19t! これを人が押したり曳いたり回したりしながらコースを通ります。

同じく今年の青森ねぶた祭り! 立体的で躍動感溢れます。こちらも人が押したり曳いたり回したりしながらコースを通ります。来場者は6日間で98万人を超えたそうです。

続いて青森の温泉です。青森にはいろいろな泉質があり、少し車で走れば温泉があり、銭湯感覚で入ることができます。しかも早朝から営業しているところが多いんです。

田んぼアートで有名な田舎館村にある趣深い建物の温泉です。なんと入湯料150円で源泉かけ流し!! 

東北町にある玉勝温泉です。朝5時から営業していてサウナ代込み220円で源泉かけ流し!! 脱衣所で演歌が流れ、ロビーでは懐かしの遊具もありエンタメ要素強めです。

老朽化等で休業していましたが、今年青森にゆかりのある芸人あべこうじさんによって営業が再開された百沢温泉、写真は芸人で支配人のOGAさんです。

青森の魅力をざっと紹介したところで、次は知財情報を掘り下げていきましょう。

2.  青森県内、知財保有件数はどのくらいか?

まず「特許行政年次報告書2024」をもとに、特許・意匠・商標権のデータを確認してみます。

  • 2023年の国内特許の登録件数は、158,587件で、青森県内の登録件数は123件(筆頭出願人の住所を元に集計。PCT国内移行含む)。これは全国第34位の保有数です。
  • 2023年の国内意匠登録の件数は、18,733件で、青森県内の登録件数は15件。全国第43位の保有数です。
  • 2023年の国内登録商標の件数は、90,379件で、青森県内の登録件数は202件。こちらも全国第43位の保有率になります。

これらの青森の知財件数はどうでしょうか。日本の都道府県は47ですから、正直それほど順位が高いとは言えません。ちなみに青森は人口順位では全国第31位です。

ただ、具体的に権利の中身を見ていくと、魅力ある知財がいくつも見つかりました。特許・商標を中心に詳しく紹介していきます。

3. 青森県内にはどんな特許があるか?

①奇跡の発見! プロテオグリカン

プロテオグリカンとは、人間の皮膚や軟骨に存在する糖タンパク質の1つで、1970年代に発見されました。特性として高い保水力と弾性力を持ち、塗布・摂取することで保湿作用・美容作用・抗アレルギー作用・軟骨再生促進作用などさまざまな効果が期待できます。

今でこそ美容や医療業界で有名なプロテオグリカンですが、かつては1gを製造するのに3000万円もの費用がかかり、実用化は不可能といわれていました。青森県内では、青森県産業技術センターが中心となって農林漁業資源から新たな有効成分を探す研究が行われており、1990年にプロテオグリカンがサケ鼻軟骨に高濃度で存在することが発見されました。

青森県発!機能性素材 プロテオグリカン「あおもり PG」

ただ、ここで課題がありました。プロテオグリカンは熱に弱く、わずか50~60度で熱変性が起こってしまうのです。「加熱せずにプロテオグリカンをどう抽出するか」に開発者は頭を悩ませましたが、青森の郷土料理「氷頭(ひず)なます」にヒントがありました。

氷見なます(wikipedia写真より)

氷見なますは鮭の頭部の軟骨を酢締めにした郷土料理です。酢で漬けることで柔らかくなるのですが、それは軟骨の成分が溶けだしたためでは?と弘前大学の高垣啓一教授が気付いたのです。

古くから鮭の産地で⾷⽂化もあった⻘森という⼟地と、糖タンパクの研究を⻑年続けてき た歴史と技術のある弘前⼤学だったからこそ、この奇跡は⽣まれたのである。 ⻑い間、⼈々が実際に⾷べていた⽅法で抽出ができる。費⽤の⾯でも、安全性の⾯でも、 この奇跡と呼べる発⾒の意味は⼤きかった。

不可能だったプロテオグリカンの実⽤化

この酢酸による抽出法が発見されたことで研究は飛躍的に進み、とうとう2000年、弘前大学が人体に安全な食用酢酸とアルコールだけを使い、低コストで大量かつ高純度のプロテオグリカンを抽出する技術を確立しました。

特許庁のデータベースでは、高垣教授を発明者とする「軟骨型プロテオグリカンの精製方法」の特許権が見つかりました。

特許3731150号

本発明は、「有害な試薬を使用することなく簡単で低コストの軟骨型プロテオグリカンの精製方法を提供する」ことを目的とし、権利範囲は

【請求項1】
サケ鼻軟骨から粗プロテオグリカンを溶出するに当たり、粗プロテオグリカンの溶出溶媒に酢酸を用いることを特徴とするプロテオグリカンの精製方法。

と記載されています。

この特許権は20年の存続期間が満了したため、2020年に権利消滅していますが、プロテオグリカンの実用化という面でエポックメイキングな発明でした。

プロテオグリカンは、長年の研究の成果もあり、美容・健康に関する数百種類以上の製品で使われるようになっています。そこで安全性や信頼が低下しないよう、一定の基準を満たした商品にだけ使用が認められる「あおもりPGブランド認証制度(あおもりPG)」という制度も導入されています。

例えば、下記の商品のPKGには「あおもりPG推進協議会認証商品」のロゴが表記されています。 

 

Amazon | 【公式】機能性表示食品 DyDoヘルスケア ロコモプロ プロテオグリカン配合 30日分

このロゴは一般社団法人あおもりPG推進協議会により商標登録もされており、許諾がある商品のみが使用可能となっています。

商標第5604379号

青森では美容に健康、医療と活用の場面が広がるプロテオグリカンを特許だけでなく、認証マーク制度など多方面から保護することで高水準の品質を保っています。これからの青森の産業の発展にも期待が高まります。

②地場産業を支える特許技術の話

青森県の特産物といえば、ニンニクを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ニンニクに関しては後ほど紹介する登録商標のほか、ユニークな関連特許があります。

青森県十和田市にあるササキコーポレーションは、創業120年を超える歴史ある農業機械や環境機械メーカーで、ニンニク根切除装置の特許権を保有しています。

特許6970960号(株式会社ササキコーポレーション)

上図ではニンニクが順番に装置に流れてきているのが見て取れます。この特許図面のうち、510番は「切削刃」であり、ニンニクの根を効率的に切除し、その根は740番の「排出ホース」から排出されます。

この装置の発明では、ニンニクの根部の切除が容易にでき、切除した根を1か所にまとめて排出できるので、周囲の場所および環境を清潔に保つことができます。

また、畑からの収穫機についても特許が見つかりました。

特許6941854号(株式会社ササキコーポレーション)

この発明は、「ニンニク等の地下茎作物の掘り取り装置に利用すると効率的な作業が行える」と説明されています。

このような地場産業を支えるメーカーとその発明があるのも、青森の知財の魅力といえるでしょう。

4. 青森県内にはどんな商標登録&地理的表示(GI)があるか?

特産品が多い青森には地域団体商標が多く、「大間まぐろ」や「嶽きみ」、「大鰐温泉もやし」等が登録されている他、地域団体商標登録第1号である「たっこにんにく」も登録されています。

このうち「大鰐温泉もやし」は、地域団体商標だけでなく地理的表示(GI)にも登録されています。

そこで商標の章では「地域団体商標」と「地理的表示(GI)」の違いを簡単に解説しながら、私がおススメの青森の名物を紹介していきます。

①地域団体商標とは?

地域団体商標制度とは、「地域名」と「商品(サービス)名」からなる地域ブランドを保護することにより、地域経済の活性化を目的とした制度です。
地域団体商標制度とは | 経済産業省 特許庁

地域団体商標は特許庁が管轄し、「地名」+「商品名」の組み合わせで構成されます。登録できる者は商標法で定められた団体(例えば事業協同組合や商工会議所)に限定され、その団体の構成員に使用させる商標である必要もあります。

また「一定の地理的範囲の需要者間である程度有名であること」という要件もあり、販売数量や新聞報道といった客観的なデータで知名度を証明する必要もあります。

このように通常の商標より登録のハードルが高い地域団体商標ですが、登録することで第三者の無断使用を防いだり、ブランド力をPRしやすくしたり、ブランドに対する誇りにより団体の結束力も増大するとされています。

<より詳しくはこちら>

地域団体商標ってなに?メリットや事例を解説!-地域ブランドの強い味方- | Toreru Media

いくつか青森の登録例をみていきましょう。

・青森の黒にんにく

登録5777236号(協同組合青森県黒にんにく協会)

最近はスーパーでも見かけることが多くなった黒ニンニクです。

白いニンニクを一定の環境下で3~4週間おいて熟成させます。味は甘酸っぱいドライフルーツのようで美味しいです。胃への負担も少なく、臭いも通常のニン二クより控え目なので食べやすいです。

・津軽海峡メバル

登録6022365号(小泊漁業協同組合/下前漁業協同組合)

中泊町にある2つの漁業協同組合が共有している地域団体商標です。

中泊町はストーブ列車で有名な津軽鉄道の終着駅がある町で、メバルの県内水揚げ量1位を誇ります。この地で漁獲されたウスメメバルだけが「津軽海峡メバル」と呼称できるのです。

メバル膳

こちらは私が中泊町で食べたメバル膳です。刺身、煮付け、潮汁だけでなく、箸置きやお皿までメバル!味は勿論おいしかったです。ぜひ皆さんも現地に行って食べてみてください!

食べられるお店 「中泊メバルの刺身と煮付け膳」公式サイト

中泊駅に停車する津軽鉄道

②地理的表示(GI)とは

青森県内には、地理的表示(GI)の登録産品も数多くあります。

「地理的表示保護制度」とは、その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する農林水産省の制度です。

地理的表示(GI)保護制度:農林水産省

地域団体商標との主な違いとして、GIの管轄役所は農林水産省であり、保護対象は農林水産物、飲食料品等に限られること、登録できると国による不正使用の取締り対象になること、更新手続がなく取り消されないかぎり登録が存続することが挙げられます。

登録には「特性を維持した状態で概ね25年の生産実績があること」という要件もあるので地域団体商標以上に登録は難しいといえるでしょう。なお、地域団体商標として登録しつつ、別途GI登録を行うことも要件を満たせば可能です。

 

地域団体商標と地理的表示(GI) の活用Q&A(特許庁)より

2024年8月時点では全国148産品がGIとして登録されています。青森には7つのGI登録がありますが、その1つを紹介します。

・小川原湖産大和しじみ

温泉が豊富な東北町にある県内最大面積で汽水湖の小川原湖は、シジミが獲れます。こちらが地理的表示(GI)に登録されています。

第52号:小川原湖産大和しじみ:農林水産省(登録産品パネル)

特長として大粒であり濃厚な出汁が出て、さらに身もしっかりと味わえるヤマトシジミと説明されています。

県内のスーパーには小川原湖産のシジミも多く見かけます。

しっかりとGIマークも表示されています。それにしても大きいシジミ、青森の自然の恵みです。

お土産にも最適ですので、是非青森に行かれたときはチェックしてみてください!

しっかりとGIマークも表示されています。それにしても大きいシジミ、青森の自然の恵みです。

お土産にも最適ですので、是非青森に行かれたときはチェックしてみてください!

5.おわりに

青森にはプロテオグリカンの抽出法という奇跡の発見から生まれた特許もあれば、その地域の生活に欠かせないニンニクの収穫に関する特許もありました。これらの発明はその土地に根付いているからこそ生まれたものだと思います。

さらに地域団体商標や地理的表示(GI)といった制度もしっかりと活用されており、青森の魅力ある産品をブランド化する取り組みも行われています。

今回紹介した青森の知財や特産品はほんの一部です。お祭りや農産物、食生活、温泉、方言等に魅力がたくさんの青森県へ是非訪れてください!

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