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【有資格者必見!】「〇〇弁護士」はどこまで商標登録できる? ~八士業のセルフブランディングを商標ランキングで解説!

弁護士、弁理士、税理士、・・・

「サムライ業」とも呼ばれる、専門的な資格を有する士業者たち。中でも「八士業」と呼ばれる職業があります。

【八士業】

職務上、住民票や戸籍謄本などを請求することができる八つの職業。弁護士・司法書士・行政書士・弁理士・税理士・社会保険労務士・土地家屋調査士・海事代理士

「八士業」の意味  Weblio辞書より

ただ弁護士はドラマにもよく出てくるけれど、それ以外の士業は何をやっているのか良くわからない、という方も少なくないでしょう。

「自分とはあまり関係のない世界だし、近寄りがたいかも」
「もし仕事を依頼する機会があるとしても、誰を選べばよいのやら」

あまり身近ではない士業者の方々に、そういった印象を持たれる方も多いのでは。

では、例えば名刺交換などの機会に、士業者から以下のように自己紹介されると、どうでしょうか?

「はじめまして、私は『詐欺撃退弁護士』の〇〇です」
「はじめまして、私は『最後まで折れない弁理士』の〇〇です」

いかがでしょう。単に「弁護士の〇〇です」「弁理士の〇〇です」と自己紹介されるより、どんな仕事が得意なのか、どんな人柄なのか、なんとなくイメージがつくことによって、親近感が湧きませんか?

これこそ、士業者個人の価値を発信する「セルフブランディング」の一環といえます。

「△△+士業名」というブランドを用いることにより、予め自身のキャラ付けをすることができます。このキャラ付けは、外部に対する「こういうふうに私のことを見てくださいね」というメッセージとなり、例えば、初対面の方の対人ストレスを緩和することができると考えています。

これにより、自己の営業活動はもとより、いずれの士業サービスにおいても重要な「クライアントとの対話」をスムーズに行う効果が生じると考えられますので、セルフブランディングは士業者にとって重要な発信活動のひとつであるといえるでしょう。

さて、近年、このような「△△+士業名」という商標の出願件数は増加傾向にあります。例えば、後述の八士業でみますと、2015年から2019年には年間十数件だった出願件数が、2020年以降には年間25件以上に急増しており、このような出願、ひいては士業者によるセルフブランディングが一種の「流行り」であると考えられます。

「△△+士業名(八士業)」の商標登録出願件数(筆者調べ)

そこで本記事では、士業名に関する登録商標をランキング形式で紹介しつつ、士業者のセルフブランディングに際して、商標登録出願を行う際の注意点を読み解いていきたいと思います!

これから自身を売り出していこうとお思いの士業者のみなさまに、何かしらのヒントになれば幸いです。

※本記事は2023年1月31日時点での調査結果に基づきます。

ゲスト紹介

かねぽん:企業での知財業務および開発業務を経て、神戸の特許事務所で働く知財歴10年目の弁理士。現在育休中。専門は電気・制御系。特撮とカラオケと二人の娘をこよなく愛する。副業として資格予備校のチューターを担当し、弁理士試験受験生のお悩み相談を受けています。

Twitterアカウント:https://twitter.com/kkak_patc
noteアカウント:https://note.com/kkak

1. 士業別「△△+士業名」商標登録数ランキング

さっそく、士業別の「△△+士業名」商標登録数ランキングをみていきましょう!

以下の八士業を対象に、商標登録件数(※過去に商標登録され現在権利消滅しているものを含む)を調べました。

八士業:弁護士、司法書士、行政書士、弁理士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士、海事代理士

第1位:弁護士

やはり堂々の第1位は「弁護士」で、28件でした。

弁護士の業務が比較的多岐にわたるうえ、弁護士の人数も多く、個人向けの業務も多いことがランキング1位の理由のように思います。

登録例としては「闘う弁護士」「ブレーン弁護士」「パーフェクト弁護士」等の心構え・人柄を含む登録商標や、「福利厚生顧問弁護士」「AI弁護士」「DX弁護士」等の得意と思われる分野を含む登録商標、「パンダ弁護士」「画伯弁護士」等の目を引く登録商標がありました。

画像:Toreru商標検索より引用

画像:Toreru商標検索より引用

第2位:社会保険労務士

第2位は「社会保険労務士」で、21件でした。

社会保険労務士は、労働および社会保険に関する手続きの代理について専権を有します。また、年金相談など、企業向けだけでなく個人向けの相談も専門としており、業務の内容は広範囲にわたっています。

2021年度末における社会保険労務士の登録数は44,203名であり、八士業の中でも税理士・行政書士に次いで三番目に多い士業です。このように、弁護士と同様、士業者の人数が多く、さらに個人向けの業務も多いことが上位ランクインの理由であると考えます。

※社会保険労務士については、一般的な略称である「社労士」も併せて検索し、例えば「みんなの社会保険労務士」と「みんなの社労士」のように△△部分が同じで、かつ出願人が同じである登録商標は1件としてカウントしています。

登録例としては「ネット社労士」「クラウド社労士」「DX社労士」等、ITとの関係を含む登録商標が目立つ一方で、「主治医のような社労士」「電子申請を得意とする散歩好きな社労士」等の親しみやすさを出した登録商標もみられました。

画像:Toreru商標検索より引用

第3位:税理士

第3位は「税理士」で、18件でした。

税理士は税務代理や税務相談等をその業務としています。八士業の中では、個人の方も各種の税務処理において比較的お世話になる機会の多い士業のように思います。登録数も八士業の中では最も多く、2023年1月末日において8万人を超えています。

登録例としては「舞って謡える税理士」「聞き上手な税理士」「いつも絶好調の税理士」「シンガーソング税理士」「数字が嫌いな税理士」等、税理士自身の性格・人柄に関係しそうな登録商標が目立ちました。

画像:Toreru商標検索より引用

第4位:弁理士

第4位は「弁理士」で、17件でした。

弁理士は知的財産の専門家であるにもかかわらず、当ランキングでは4位に留まっています。

個人向けの業務や、弁理士の登録数が上位の士業と比べて少ないことの他、他の士業者と比べてインハウスの方や勤務弁理士の方、すなわち企業等にてサラリーマンとして働く方が多く、概して自己ブランディングの必要性が低いことも理由ではないかと考えます。

但し、弁理士の登録数が税理士の登録数と比べて6分の1未満(2022年度末において11,743名)であることを考慮すると、税理士と弁理士とで1件差である点で、弁理士は当ランキングにて善戦していると考えたいです…。

登録例としては「最後まで諦めない情熱家弁理士」「逆転弁理士」「一生懸命弁理士」等の仕事に対する姿勢を感じる登録商標のほか、「食の弁理士」「パエリア弁理士」等、なんとも美味しそうな登録商標もみられました。

画像:Toreru商標検索より引用

画像:Toreru商標検索より引用

第5位:行政書士

第5位は「行政書士」で、9件でした。

行政書士は官公署に提出する許認可等の申請書類の作成および提出手続代理や、相続関係・契約書類の作成等をその業務としています。

登録例としては「ドローン行政書士」「歌う行政書士」「ヲタク行政書士」「広告制作行政書士」等がみられました。

そういえば税理士にも「謡って舞える」や「シンガーソング」といった登録商標がみられましたね。士業者は歌うのが好きな方が多いのかもしれません。

画像:Toreru商標検索より引用

第6位:司法書士

第6位は「司法書士」で、3件でした。

司法書士は登記手続の代理等をその業務としています。家を購入するときにお世話になった方も多いのではないでしょうか。

登録例としては「相続うるなら司法書士」等がみられました。

画像:Toreru商標検索より引用

第7位:土地家屋調査士&海事代理士

第7位は「土地家屋調査士」および「海事代理士」で、いずれも0件でした。

この2つ、比較的知られていなさそうな士業のため、少し詳しく紹介してみます。

土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査、測量、申請手続等を行う専門家です。

例えば、亡くなった方の畑を相続する際、相続した畑と隣の畑との境界が不明な場合があります。このような場合に、土地家屋調査士に調査等を依頼しますと、土地家屋調査士が地図などの資料を確認したり、所有者等の立ち会いのもと畑を掘り起こして昔に埋められた境界標を探したりして、土地の境界を確認・測量してくれます。

●参考:日本土地家屋調査士会連合会ウェブサイト

※境界標を含め、地面に設置されている謎のボタンや、土地家屋調査士のお仕事についての解説動画が土地家屋調査士会より挙げられておりましたので紹介いたします。

土地家屋調査士の会員数は2021年では16,141名で、そんなに少なくはない印象です(弁理士の同年会員数は11,556名ですので、土地家屋調査士が弁理士よりも多いことに私個人としては驚いています)。

それにもかかわらず、商標登録数がゼロである理由はよくわかりません。

同じく「測量士」や「建築士」についてもセルフブランディングに関する商標登録の例がみられないため、土地家屋関係の界隈では顧客獲得の競争があまり激しくなく、セルフブランディングが進んでいないのかもしれません。

海事代理士は、海運事業者等の依頼者からの委託により、海事法令に基づく登記等の手続き及びその書類作成を代理する専門家です。海事代理士は、例えば、船舶の登記手続きや、船舶の検査に関する手続きを行います。

海事代理士の登録数は2020年において2,152名で、上記の八士業の中で最も少ないです。

さらに、Twitterにて「海事代理士」でユーザー検索をしますと、海事代理士の方はほとんど行政書士等の他の士業を併せ持っていらっしゃるようです。

海事代理士は、数の少なさに加え、有資格者が他の士業資格を有していることや、海事代理士としての顧客が海運事業者等と非常に限定されていることから、他士業と比べて海事代理士としてのセルフブランディングの必要性が低いと考えられます。このことが、商標登録数がゼロである理由かと考えます。

●参考:日本海事代理士会ウェブサイト

2. 「△△+士業名」商標で抑えるべき指定商品・指定役務は?

いきなり「指定商品・指定役務」という専門用語が出てきましたが、なじみがない方もいらっしゃると思います。そこで簡単に解説します。

<指定商品・指定役務ってなに?>

商標登録出願をする際、出願人は商標を使用する商品名や役務名(サービス名)を「指定商品」又は「指定役務」として指定する必要があります。

例えば、商標「クラウド弁理士」を使って弁理士業(商標登録出願の代理等)を行いたい場合には、指定役務に「工業所有権に関する手続の代理」等と記載して出願します。

また、商標「クラウド弁理士」を使って弁理士業をサポートするようなソフトウェアの製造販売を行いたい場合には、指定役務に「電子計算機用プログラムの提供」等と記載して出願することが考えられます。

商標権者は、他の人が、登録商標と同一又は類似の商標を指定商品・指定役務と同一又は類似の商品又は役務に使用する場合に限り、「その使用をやめてください」と請求することができます。

例えば、指定役務「工業所有権に関する手続の代理」とする登録商標「クラウド弁理士」の商標権者は、他者が商標「クラウド弁理士」を使って「工業所有権に関する手続の代理」という役務を提供している場合には「使用をやめてください」と言うことができます(商標・指定役務ともに同一)。

一方で、他の人が、商標「クラウド弁理士」を指定役務「工業所有権に関する手続の代理」とは全く類似しない「電子計算機用プログラムの提供」という役務に使っている場合、「使用をやめてください」と言えません(役務が非類似なため)。

このように、指定商品・指定役務は、商標権の権利範囲を定める重要な要素となっています。

※指定商品・指定役務について、詳しくはこちらの記事(商標の指定商品・指定役務とは?選び方や書き方をプロがご紹介!:Toreru Media)もご参照ください。

本記事では「△△+士業名」商標として、どのような商品名・役務名(サービス名)が指定されているかを調べてみました。

指定商品・指定役務の傾向としては、出願人が個人であるか、法人であるかによって、傾向が二分されています。

2.1 個人による登録の場合

個人による登録の場合、最も多いのは、やはり「△△+士業名」商標が表す士業が提供するサービスそのものを表す役務名です。

例えば、出願人が個人である「△△+弁護士」登録商標の場合、以下のように弁護士が提供するサービスそのものを表す指定役務が多くみられます。

・工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務  
・訴訟事件その他に関する法律事務
・登記又は供託に関する手続の代理
・著作権の利用に関する契約の代理又は媒介
・社会保険に関する手続の代理
・法律相談

同様に、出願人が個人である「△△+税理士」登録商標の場合、以下のような指定役務が多くみられます。

・税務書類の作成又は監査若しくは証明
・税務相談
・税務代理

この他、出願人が個人である「△△+士業名」登録商標において、「セミナーの企画・運営又は開催」等(第41類)が多くみられます。士業者の方々がその登録商標を掲げてセミナーを開催すること等を念頭において指定されているのでしょう。

2.2 法人による登録の場合

法人による登録の場合、総じて以下のような指定役務がみられます。

・広告
・職業のあっせん
・求人情報の提供

上記の指定役務を鑑みるに、法人による「△△+士業名」という登録商標の取得には、法人自身のブランディング目的というよりも、登録商標に示されている士業に対する営業、又はその士業を利用する人への営業という目的があると考えられます。

3. 「△△+士業名」商標登録に立ちはだかる壁

ここまで見て、「△△+士業名」を新たに商標登録出願してみようかな?と思われた方もおられるかもしれません。

ただ、今回「△△+士業名」を調べていくと、登録できなかったケースも複数あることがわかりました。そこで本章では、登録にあたっての注意点を具体的に見ていきます。

3.1 出願人に注意!

「株式会社」等の明らかに士業法人でない法人が、「△△+士業名」という商標登録出願を行うと、指定役務との関係で、「公の秩序を乱すおそれがある」として商標登録を受けることができない場合があります(商標法第4条第1項第7号)。

============
商標法第四条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
七  公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
============

例えば、明らかに弁護士でない出願人が、弁護士が通常提供する役務(例えば、法律事務)に「△△+弁護士」という商標を使用すると、その役務の提供を受ける需要者が、弁護士資格を有する者による役務であると誤認するおそれがあります。

弁護士又は弁護士法人以外の者は、「弁護士」を名乗ることができないという標榜禁止の法令があり(弁護士法第74条)、上記のような誤認は、同法令の趣旨にも反することになると考えられます。

このため、そのような商標の使用態様が予測される商標登録出願は、公の秩序を乱すこおそれがあるとして、登録を受けることができません。

具体例でいいますと、商標を「遺言弁護士」とする商標登録出願(商願2018-165408)や、商標を「いまでしょ弁護士」とする商標登録出願(商願2020-067540)は、出願人が株式会社であり、弁護士とは認められない法人であることから、上記の理由により拒絶されています。

このうち「いまでしょ弁護士」については、その後に出願人を株式会社から個人(弁護士)に名義変更することによって、上記の拒絶理由を解消しています。

これに対し、例えば「広告」「職業のあっせん」など、士業者が通常提供する役務との結びつきが弱い指定役務については、上記の拒絶理由はなされていません。これは、その役務の提供を受ける需要者において、その役務が士業者により提供される役務であると誤認するおそれが少ないためであると考えられます。

このように、士業者が通常提供する役務を指定して商標登録出願を行う場合、その士業の資格を有する個人又は法人を出願人とする必要があるため、注意が必要です。

例えば、士業者が株式会社を起業している場合、その株式会社から出願するのではなく、士業者個人から出願する必要があるでしょう。

3.2 △△はその士業にとって一般的?

商標登録を受けるには、指定商品や指定役務との関係で、その商標が他人の商品役務と区別できるもの(=識別力を有するもの)である必要があります。

平たく言えば、商標登録を受けるには、「この商標は誰かのブランドだな」と思われるような商標である必要があります。

例えば、指定役務「法律事務」について、文字商標「正確な法律事務」を出願しますと、「正確な」という部分は単に法律事務の質を表すものであり、法律事務の提供を受ける需要者(クライアント)が「正確な法律事務」という商標を見たとしても、誰か特定人のブランドとは感じないでしょうから、商標の自他商品等識別機能が無いとして拒絶されるでしょう。

============
商標法第三条(商標登録の要件)
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を 受けることができる。
(略)
三 (略)・・・その 役務の提供の場所、質、・・・(略)・・・その他の特徴、数 量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
============

「△△+士業名」という商標についても、単に「△△する士業」「△△な士業」というように、その士業が提供する役務との関係で一般に質や特徴を表すにすぎない場合には、商標の自他識別機能が無いとして拒絶されてしまいます(商標法第3条第1項第3号及び第6号)。

すなわち、士業名と組み合わせる「△△」というブランドが、その士業において一般的な表現である場合、拒絶されるおそれがある点について、注意する必要があります。

それでは、どのような場合に拒絶され、どのような場合に登録されるのでしょうか。

以下の事例により、具体的に見てみましょう。

 3.2.1 登録できなかった例

  (a)相続弁護士(※指定役務:訴訟事件その他に関する法律事務 etc.)

指定役務を「訴訟事件その他に関する法律事務」等、商標を「相続弁護士」とする商標登録出願(商願2019-066138)は、特許庁審査官により商標法第3条第1項第3号によって拒絶されました。

特許庁審査官は、「相続弁護士」は「全体として『相続の分野を専門とした弁護士』ほどの意味合いを容易に理解させるもの」であり、「単に役務の質・特徴を普通に用いられる方法で表示したに過ぎない」として、商標「相続弁護士」には自他商品等識別機能が無いと判断しています。

特に、審査官は、上記判断の根拠として、様々な法律事務所のウェブサイトから「相続弁護士による充実の相続相談」や「当事務所の相続弁護士は」といった記載を引用し、相続分野を専門とする弁護士が「相続弁護士」を称することは普通であると指摘しています。

このため、「△△+士業名」という商標を、その士業者の通常業務に関する役務について商標登録出願をする際には、同一又は類似の登録商標があるか否かの商標調査(商標系データベースに基づく閉じた調査)の他に、同業者によってその「△△+士業名」という表現が既に用いられているか否かの調査(Google等による開かれた調査)を行うことも重要です。

そして、狙いの「△△+士業名」が他事務所等のウェブサイトで既に使われている場合には、この△△の部分を変更することも考慮に入れる必要があるでしょう。

例えば、役務「訴訟事件その他に関する法律事務」について、上記のように商標「相続弁護士」とする商標登録出願は拒絶されましたが、同役務に関する商標「想族弁護士」は登録されています(登録第6598786号)。

このように、当て字を使うことで登録可能性を上げるのも1つの方法です。

  (b)日本一裁判しない弁護士

指定役務を「訴訟事件その他に関する法律事務」等、商標を「日本一裁判しない弁護士」とする商標登録出願(商願2020-039129)は、特許庁審査官により商標法第3条第1項第6号によって拒絶されました。

商標「日本一裁判しない弁護士」は、指定商品「訴訟事件その他に関する法律事務」等との関係では、全体として「我が国でもっとも裁判しない弁護士」ほどの一義的な意味合いであり、単なる宣伝文句のように認識されるために拒絶されたものと考えられます。

本件出願人は「日本一裁判しない弁護士」という語は一義的ではなく、「我が国でもっとも裁判をしない弁護士」のほかにも「国中でもっともすぐれている、裁判しない弁護士」などの複数の意味合いを認識させるものであるから、本願商標は一種の造語であり、自他役務識別標識として機能するとの旨を反論しましたが、その主張は受け入れられませんでした。

このように、「△△+士業名」について他事務所等のウェブサイトでの使用実績がなくとも、「△△+士業名」が単にその士業の宣伝文句のように認識される場合には、登録されません。

これに対し、役務「労働保険に関する手続きの代理」に関する商標「電子申請を得意とする散歩好きな社労士」は登録されています(登録第6583192号)。

例えば商標「電子申請を得意とする社労士」というように「散歩好きな」の語を抜いて出願した場合、もしかしたら商標「日本一裁判しない弁護士」と同じく「その士業の宣伝文句として認識、理解するのが相当」であるとして拒絶されていたかもしれません。

しかし、本件は、「散歩好きな」という語が加わることにより、商標が単に「電子申請を得意とする」という役務の品質や優位性を表す宣伝文句にとどまらず、造語等としても認識できる商標となったことで、拒絶されなかったものと考えられます。

このように自らの特性を示す形容詞を付け加え、登録可能性を上げるとともに、クライアントからの親近感も高めるというのも上手い作戦でしょう。

 3.2.2 登録できた例

  (a)相続弁護士(※指定商品:電子定期刊行物,新聞 etc.)

指定役務「訴訟事件その他に関する法律事務」について、商標「相続弁護士」とする商標登録出願は上記のとおり拒絶されましたが、指定役務「電子定期刊行物,新聞」等について商標「相続弁護士」は、登録されています(登録第6259118号)。

商標の登録可能性は、指定する商品や役務との関係を考えることが重要です。商標自体が比較的一般的な語であったとしても、指定商品・役務との関係が遠ければ、自他役務識別標識として機能するものであると認められ、登録できる場合があります。

例えば、指定商品「りんご」について商標「APPLE」を出願しても、指定商品「りんご」の普通名称であるとして拒絶されるでしょう。これに対し、指定商品「電子計算機」についての商標「APPLE」は、皆さま御存知、米国のアップル社により商標登録されています(登録第1758671号)。

そして、このような登録商標があるとしても指定商品「りんご」と指定商品「電子計算機」は類似しませんから、指定商品「りんご」に「APPLE」という札を貼って販売することは、同商標登録との関係上なんら問題ありません。

したがって、仮に他者によって「△△+士業名」という商標登録がなされているとしても、その登録がどの指定商品・指定役務についてなされているか、に注意する必要があります。

  (b)AI弁護士(※指定役務:訴訟事件その他に関する法律事務 etc.)

商標を「AI弁護士」とする商標登録出願(商願2018-105456)は、「訴訟事件その他に関する法律事務」等の役務について上記の「相続弁護士」と同様に、「単に役務の質を普通に用いられる方法で表示した」商標であるとして一旦は拒絶されました。

このとき、審査官は、「AI」が人工知能(Artificial Intelligence)の略であり、「AI弁護士」が大手法律事務所の導入したAIシステムを表現する語として雑誌に掲載される等、「AI弁護士」の実際の使用実情を上記の拒絶の根拠として指摘しています。

これに対し、出願人は、「AI弁護士」が「AIを用いた法律事務」のような役務の質を表すという審査官の解釈は、「AI弁護士」についてのあまたある解釈ないし評価のひとつにすぎず、必ずしも役務の質を表すものでないから、上記の拒絶理由は妥当しない旨の反論し、その結果、本願には登録査定がなされました。

この反論の中で、出願人は以下のような意見を述べています。

i)「AI弁護士」は「AI」と「弁護士」とが結合してなる造語であり、その造語には様々な意味が含まれる

ⅱ)例えば「AI弁護士」は、単に「AIを活用する弁護士」という意味合い以外にも「AIに関する法分野に精通した弁護士」や「AIのように機械的な事務処理を得意とする弁護士」といった意味を見出すことが可能である

上記のように、「△△+士業名」という商標について、その△△がその士業による役務の質に近い語である場合であっても、「△△+士業名」に数多くの解釈が成り立つといえる場合には、造語性が高まり、その役務に接する需要者にとって特定の者の出所を表す商標として認識されうるため、登録可能性が高くなると考えられます。

このため、「△△+士業名」という商標を出願する際には、△△と士業名が並んだ場合に、その意味が一義的になるか、多義的になるか、多義的になる場合にはどのような解釈が可能か、について予め考慮しておくと良いかもしれません。

4. まとめ 

今回は、士業ランキングにおいて、下位に甘んじることの多い(※筆者の感想です)弁理士をランキング上位に押し上げるために、あえて弁理士の得意分野である商標の土台で勝負を挑んでみました。

するとそこに現れたのは、歴戦の雄たる弁護士と、社会保険労務士という伏兵(※筆者の感想です)でした。普段、あまり接することのない他士業の方々のブランドに触れて、私自身も、どのようなキャラ付けで今後の士業ライフを生き抜こうかと色々な妄想が膨らんできています。

登録商標において、士業名と組み合わせる語は、完全な造語である例は少なく、士業者の人柄や、その士業による役務の質を含む語が多くみられました。特に、その士業による役務の質を含む語を士業名と組み合わせる場合、識別力との関係で拒絶されるおそれがあります。

このため、士業名と組み合わせるブランドを考える際には、役務の質等を示唆しつつ絶妙に造語化したり(e.g. 想族弁護士)、プラスアルファの特徴を追加したり(e.g. 電子申請を得意とする散歩好きな社労士)、士業名と組み合わせることについて未だに一般的とはいえず多義的な解釈が可能な語を選んだり(e.g. AI弁護士)、といった工夫を是非とも考慮にいれてみてください!

また、他の士業の商標登録実績を参考にしてみるのも有効です。例えば、「クラウド弁護士」、「クラウド社労士」という商標登録があるため、他の士業でも「クラウド〇〇士」という商標登録ができるのでは、と推測できます。もちろん出願時期や事業分野、先行登録の有無で登録可能性は変わりますが、1つの目安になるでしょう。

士業ブランディングの広がりとともに、様々な士業がより身近な存在になればいいなと思います。

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