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「お取り寄せ」商標ブランド 徹底調査 (1)~何故淡路島たまねぎは2倍の値段でも売れるのか?

「良いものが売れるとは限らない」、気持ち的には認めがたくても、現実では良く起こることだったりします。

何日も試作を重ね、「会心の出来、爆売間違いなし!」と関係者一同でたたえ合った商品が、なぜか思うように売れない。競合よりコスパも質も上回っているはずのサービスが、思うように受注されない・・。

社内の雰囲気も悪くなりますし、何より事業を継続できませんから、当然「売れる」に越したことはない。どうしたら「売れる仕組みを創れるか」は、マーケティング業界でさまざまに研究されていますが、その中でも商標が貢献できそうな分野として“ブランディング”があります。

ただ正直、我々知財関係者の多くは、ブランディングの専門家ではありません。

事業サイドが提案した商標を調査し、出願して登録するまでが主業務。登録後はだいたい蚊帳の外で、更新・ライセンスのときにまたお呼びがかかるぐらい。

でも、商標の価値って、登録しただけで発生するものではないですよね。

登録された商標を実際に使用・宣伝し、世の中に広く受け入れられてこそ、はじめて価値がある商標(=ブランド)までに成長する。

では、どうやったら価値があるブランドまで育てることができるのか?その過程で、知財の専門家がお手伝いできることはあるのか?

この点、あらゆる分野で適用できる『特効薬』はなくても、成功例から学び、自らのブランディングに応用していくことはできそうです。

そのための第一歩として、ToreruMedeiaでは、「ブランディングに成功している商品」に学ぶ企画をスタートさせます!

第一回のテーマは『淡路島たまねぎ』。実物も取り寄せて多角的に分析し、ブランディング成功の秘訣に迫ります。

地域団体商標も登録済み ~Toreru商標検索より

1、まずは価格を見てみよう

『淡路島たまねぎ』といっても、「甘くて美味しいらしい」ぐらいしかイメージがありません。そこで、まずは百貨店系列の品ぞろえが良いスーパーに行き、淡路島以外のたまねぎと価格を比べてみました。

たまねぎの価格の違い

どちらも「新たまねぎ」なんですが、価格が違う。『サラたまちゃん』はセール品っぽいことを差し引いても、2倍以上の価格差です。

「入り数が違うのかな?」と手に取って見ても、どちらも3個入りで、大差なし。

「いや、これは安い『サラたまちゃん』一択やろ」と思って眺めていたところ、生活に余裕がありそうなマダムがすっと『淡路の新たまねぎ』を手に取り、レジに持っていきました。

マジか・・。

どうやらたまねぎ界の「淡路島」は、牛肉でいう但馬・神戸・松坂ぐらいのブランド力があるみたいです。

2、淡路島たまねぎは、なぜ旨い?

店頭調査では、ブランド力があり、価格競争力も高いことはわかりました。しかし、淡路島たまねぎの魅力って一体どこにあるんでしょうか?

とりあえず「淡路島 たまねぎ」でググってみます。すると出るわ出るわ、多くのサイトが淡路島たまねぎの魅力を紹介しています。普通のたまねぎとは、甘さに大きな違いがあるようです。

淡路産直コスモス 特徴紹介ページより

google 検索上位の10件中、6件がネットショップだったので、「淡路島たまねぎに興味を持った人がすぐに買える」導線ができていました。

 

「淡路島 たまねぎ」検索結果1

「ふーん、お取り寄せで買う人が多いんだな・・・」と見ていたところ、たまねぎで検索したのにかかわらず、「観光スポットの紹介サイト」が3件も上位に。

 

「淡路島 たまねぎ」検索結果2

溢れだす・・・玉ねぎ愛が止まらない♥ 「うずの丘 大鳴門橋記念館」が面白すぎる!

オフィシャルサイトによれば、「おっタマげ!淡路島」をキャッチフレーズに、SNS映えをプッシュするなど、たまねぎを観光資源化しているようです。

 

株式会社うずのくに南あわじPRページ

【公式】株式会社うずのくに南あわじ  PRページより

 

比較のため、「北海道 たまねぎ」でも検索してみたのですが、こちらは「10キロ3000円!たまねぎ・じゃがいもセット」のような “お得感” を前に出す販売ページが多く、ネット民に受けそうな面白いガイドは見つからず。

代わりに「北海道産たまねぎの展望(ホクレン営農技術情報誌)」とガチの農業専門誌が上位に来る状況で、他の地域とはプロモーション戦略に大きな差がありそうです。
 

3、実際に取り寄せて食べてみる

ここまでで「淡路島たまねぎは美味いらしいし、観光資源化もしているみたい」と分かりましたが、本当にどこまで凄いか良く分かりません。そこで実際に取り寄せ、検証してみます。

 

「うずのくに」ロゴ

数あるサイトから、「うずのくに公式通販サイト」さんを選びました。先ほどのウェブ調査で、巨大たまねぎ 撮影スポットがある「道の駅 うずしお」が運営しているサイトとわかり、関心を持ちました。
道の駅の運営サイトであれば、商品も間違いがなさそうですよね。

サイトを見ていくと、売上1位は『蜜玉』でした。商品名から、いかにも甘そうです。生産者の迫田 瞬さんが顔出しでPRされていることも、さらに安心感が高まります。「日本一おいしいたまねぎ」というキャッチフレーズも気に入りました。

 

「蜜玉」公式販売ページ

うずのくに「蜜玉」公式販売ページより

せっかくなのでドレッシングなども合わせて注文し、待つこと数日・・・

「蜜玉」到着

届きました!

「蜜玉」開封

たまねぎ3kgです!

とにかく1個1個がデカいです。スーパーで見た『淡路の新たまねぎ』の倍ぐらいある。持ち上げるとズッシリ重く、密度も十分。さすが『蜜玉』と名乗るだけのことはあります。

「蜜玉」とドレッシング写真

しかし…たまねぎは食品、肝心なのは「味」。そこでいろいろ料理してみました。

「蜜玉」ふろふき玉ねぎ

丸ごと1個、ふろふき玉ねぎ

「蜜玉」オニオンスライス with たまねぎドレッシング

オニオンスライス with たまねぎドレッシング(ダブねぎ)

「蜜玉」フォー

フォーにドバドバ入れてみる

「蜜玉」オニオンジャム

オニオンジャムはハムに合う

結論・・・生でも加熱しても、めちゃくちゃ甘い!柔らかく、辛みなし!

小学生の息子も「このたまねぎなら食べれる」と言ってパクパク食べています。

正直、注文するときは「送料込みでたまねぎに2000円超はどうなん?」と迷ったのですが、実際に届いてみて、「このクオリティならアリ」と気持ちが変わりました。

 

4、地域 × 個人のダブルブランド戦略

期待以上だった『蜜玉』ですが、同梱のチラシに気になる表記があります。

 

「蜜玉」同梱チラシ

・・・どうやらたまねぎの品種名は『七宝』のようです。じゃあ、商品名の『蜜玉』とは?と疑問に思い、商標を検索してみました。

 

「蜜玉」登録商標

Toreru商標検索より 

『蜜玉』は、迫田さん個人のオリジナルブランドでした。改めて、商品に同梱されていたパンフレットを読み直すと、

「日本一おいしい淡路島たまねぎ」を作るため、2012年から有機肥料を使い、減農薬の特別栽培で淡路島たまねぎの栽培を開始。年々栽培量を増やし、酵素や海藻エキスなどの有機肥料100%で栽培し、甘さと旨みを追求・・・2016年にはたまねぎの自社ブランド「蜜玉」の商標を取得。

と説明されています。

すなわち、『蜜玉』とは、すでにブランド化した『淡路島たまねぎ』の中でも、迫田さんが生産するたまねぎだけに使える独自ブランドだったのです。

商標登録の効果として、迫田さん以外の人が『蜜玉』を名乗るたまねぎを販売すれば、権利侵害として “差止” ができますから、ブランド保護の戦略として非常に有効です。

個人的には、たまねぎの甘さに絶対の自信があるから、『蜜玉』というネーミングセンスも気に入りました。やるなあ。

 

5、『淡路島たまねぎ』ブランド価値のまとめ

店頭調査からスタートし、ウェブ調査・実物の分析に進みました。どうやら、たまねぎ業界ではブランドが階層化しているようです。

 

たまねぎのブランド階層

上位のブランドに行けば行くほど、たまねぎ1玉あたりの「単価」が上昇していることがわかります。

“ブランドたまねぎ” を育てるためには通常より生産単価も上がるでしょうが、上代が2倍・3倍と上がり、しかも中間流通を通さずにユーザーに「直販」できていることで、確保できる利益率も大幅に上昇していると考えられます。

では、どうやって『淡路島たまねぎ』や『蜜玉』はブランディングに成功したのでしょうか。

 

淡路島たまねぎのブランド価値の構造

今回の調査を通して、3つのキーワードが見つかりました。それは、『味』『作り手』『土地』です。

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① 『味』

生のたまねぎは辛いものという一般認識に対し、「淡路島産のたまねぎなら甘い」という分かりやすい ”差別化”があります。単純に甘いとPRするだけでは説得力も薄いですが、「普通のたまねぎは糖度5%だが、淡路島たまねぎは糖度10%」という具体的な数値も示されています。

なぜそれほど差が出るかも、「淡路島は日照時間が長く、土壌にミネラルが豊富」、「普通は4ヶ月のところ、淡路島では6~7ヶ月かけてじっくり育成」、「収穫後、たまねぎ吊り小屋に入れて糖度を高める」というストーリーがあり、思わず納得させられました。

② 『作り手』

淡路島たまねぎという強いブランドに寄りかかることなく、各生産者が自ら生産するたまねぎの独自ブランド化に取り組んでいます。今回購入した『蜜玉』以外でも、他の生産者の方が『熟れっ玉』という独自ブランドを登録していました。

生産者が前に出て「どうしてそのブランドが美味しくて、安心・安全なのか」を語る姿勢が、信頼感に繋がっています。

③ 『土地』

淡路島の観光資源として「たまねぎをフル活用しよう」という明確な戦略があります。しかも、「たまねぎチェア」、「たまねぎキャッチャー」といった思わずSNSで拡散したくなるユニークな設備があるためにメディアに取り上げられやすいです。

いくら良い商品を作っていても、その良さが消費者に伝わらなければ意味がありません。

消費者の好奇心を刺激することで、「淡路島=たまねぎ」という認知が自然と広がる仕組みが成功の大きなカギと言えそうです。

たまねぎキャッチャー

「道の駅うずしお」のたまねぎキャッチャー

 

6、おわりに

単体でも強い『味』『作り手』『土地』の魅力がミックスされ、淡路島たまねぎの「強いブランド価値」が作り上げられていることが分かりました。

価格競争には身を投じず、商標をブランド化することでしっかりと差別化し、ユニークな施策で様々なメディアに取り上げられてユーザー認知を高める・・・。

『淡路島たまねぎ』にはブランディングの王道がありました。

今回は、日本中どのスーパーにでもあるたまねぎという商材であっても、やり方次第で強いブランドが築き上げられることに勇気をもらいました。

あと、高くても美味かったので、来年も『蜜玉』、リピしようと思います!

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