その課金仕様、本当に大丈夫?~セガ vs LINEツムツム特許訴訟から学ぶ知財リスク(suiP知財Works vol.06)

最近、スタートアップ界隈でも、次のような声を耳にすることが増えています。

  • 「投資家から“特許は?”と聞かれた」
  • 「競合が知財の求人を出していた」
  • 「リリースした直後に類似サービスが出てきた」

いずれも、珍しい話ではありません。
一方で、特許については、次のような認識もまだ根強い印象があります。

  • 「スタートアップで関係あるのはディープテックだけでしょ?」
  • 「ウチが提供しているのはエンタメアプリだから」
  • 「訴訟や紛争まで起きるのは稀では?」

確かに、「特許=最先端技術」というイメージで考えると、AIアルゴリズムや半導体、バイオといった分野と比べると、エンタメ系・ゲーム系のサービスは、特許と距離があるように感じるかもしれません。

しかし実際には、一般にイメージされる先端技術とは少し違う領域でも特許訴訟が生じています。すなわち、ユーザーにとっては「ごく当たり前」に見える仕様が、後になって特許の問題として浮上し、訴訟にまで発展するケースがあるのです。

今回取り上げるセガ vs LINE(ディズニーツムツム)の特許訴訟は、まさにその典型例です。
争点となったのは、ゲームの「課金仕様」。すなわち、有償・無償の仮想通貨をどのように管理し、どの順序で消費させるか、という内部ロジックでした。

この訴訟は、いくつかの意味で非常に示唆に富んでいます。

  • ゲーム開発・運営に関わる方であれば、実務上知っておくべき課金仕様に関する論点であり、決して他人事ではありません。
  • スマホゲームをプレイしたことのある方であれば、ユーザー目線でも、問題となった仕様の挙動を具体的にイメージすることができるでしょう。
  • また、たとえゲーム業界に直接関わっていない方であっても、「仕様が特許になるとはどういうことか」「裁判所は実装のどこを見て判断するのか」といった、特許訴訟の“勘どころ”を理解する題材として、適しています。

言い換えれば本件は、「身近なゲームの仕様を題材に、特許訴訟の本質的な難しさと面白さ、そして怖さまでを学べるケース」だといえます。

本稿では、このセガ vs LINE(ディズニーツムツム)特許訴訟を題材に、どのような仕様が特許として問題とされ、裁判所がどの点を重視して結論に至ったのかを、判決文に即して整理していきます。

出典

東京地方裁判所 令和7年9月11日判決(令和6年(ワ)第70223号 損害賠償請求事件)
原告:株式会社セガ 被告:LINEヤフー株式会社 
判決文URL:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94988.pdf


ゲスト紹介

豆乳:suiPに所属する匿名の知財マニアです。


1. ソーシャルゲームの「経済構造」

多くのスマホゲームでは、次のような仮想通貨設計が採用されています。

  • 有償石(課金して購入する仮想通貨)
  • 無償石(ログインボーナス、プレイ報酬、イベント参加などで付与される仮想通貨)

この二種類の仮想通貨を組み合わせることで、

多くのゲームは「無課金でも遊べるが、課金すると快適になる」というバランスを実現しています。

また、課金をすると、強力なキャラクターを手に入れやすい設計になっています。

たとえば、スマホゲームをプレイしたことのある方であれば、次のような体験には心当たりがあるのではないでしょうか。

Nanobananaで生成

このとき、ユーザが意識しているのは「ガチャを回せるかどうか」ですが、
ゲームの裏側では、どの石が、どの順序で消費されるのかという処理が行われています。

  • まず無償石が消費されるのか
  • それとも有償石が優先的に消費されるのか
  • 両方を持っている場合、残高はどのように管理・表示されるのか

この“石の扱い方”こそが、今回の特許訴訟の核心でした。


2. 「有償石を先に消費する仕様」はセガ社の特許になっている!?

セガが保有している特許(特許第6143141号)は、要約すると次のような内容です。

ユーザーが保有する無償石と有償石の数量をそれぞれ記憶し、
無償石と有償石を双方保有している場合、
有償石を先に消費させる。

多くの読者にとっては、「そこに特許が成立するとは想像しにくい」のではないでしょうか。しかし、この点について、実際に特許が成立しています。

その背景として重要なのが、本件特許の出願時期です。本件特許の出願日は2012年8月(厳密には優先日)であり、当時は、現在ほどソーシャルゲームが普及していなかった時期です。

言い換えれば、現在では「当たり前」に思えるような仕様であっても、出願時点の技術水準を前提として、新規性と進歩性があれば、特許として成立し得るということになります。

なお、特許が成立するための要件である「新規性」や「進歩性」については、以下の記事で分かりやすく解説されていますので、併せてご参照ください。
特許が認められる条件とは?~新規性と進歩性がポイント

以下、請求項1を原文のまま引用します。

【請求項1】

  購入手続きを行なうことでユーザーに付与される第1の仮想アイテム、および、ゲームの実行によりユーザーに付与される第2の仮想アイテムを区別なく利用可能なゲームを実行するゲームシステムであって、
  前記ユーザーに対応付けて、前記第1の仮想アイテムの数量と、前記第2の仮想アイテムの数量とをそれぞれ記憶する手段と、
  前記ユーザーが前記第1の仮想アイテムおよび前記第2の仮想アイテムの両方を保有している場合、第2の仮想アイテムに優先して第1の仮想アイテムを消費させる手段と、
  を備えたことを特徴とするゲームシステム。

特許6143141

整理すると、

  • 購入手続きで付与される有償石(第1の仮想アイテム)と、ゲームの実行で付与される無償石(第2の仮想アイテム)の数量を別々に記憶し、
  • ユーザーが両方保有している場合は、有償石(第1の仮想アイテム)を優先的に消費させる

という仕様そのものが、権利化されていると理解できます。


3. 「ツムツム」が特許侵害で訴えられた根拠とは?

セガの主張は明快です。

  • ツムツムも有償ルビー/無償ルビーの数量を別々に管理している
  • 有償ルビーを先に消費する仕様である
  • よって、本件特許を実施している

判決文の(令和6(ワ)70223 損害賠償請求事件)のP58にも、次のようなツムツムのスクリーンショットが添付されています(以下は、筆者が簡略化した図を作成したものであり、ツムツムのスクリーンショットではありません)。
 

争点は、「ツムツムの実装が、特許請求項の文言を充足しているか」です。


4. 裁判所の判断

本件で興味深いのは、

「購入手続きを行なうことでユーザーに付与される第1の仮想アイテム」、
「ゲームの実行によりユーザーに付与される第2の仮想アイテム」、
「前記第1の仮想アイテムの数量と、前記第2の仮想アイテムの数量とをそれぞれ記憶する」

という各文言の解釈です。

(1)「無償」でも第2仮想アイテムとは限らない

裁判所は、「第2仮想アイテム」を ゲームの実行により付与されるルビーに限定して解釈しました。
つまり、課金購入時のボーナスとして付与されるルビーは、「第2仮想アイテム」には該当しない、という判断です。

(2)数量を「記憶していない」という判断

ツムツムは、

  1. ゲームの実行により得られる無償ルビー
  2. 購入時のボーナスで得られる無償ルビー

をまとめて一元管理していました。

この点について裁判所は、

ツムツムは、➀と②の総量の和を表示しているが、➀のみの数量を管理しているとはいえない。したがって、ツムツムは、ゲームの実行により得られる仮想アイテムの数量を記憶しているとはいえない

として、ツムツムはセガ特許に抵触しないと判断しました。

以下に、判決文(58〜59頁)における裁判所の判断部分を引用します。

 被告ゲームシステムにおいては、ユーザーがルビーを購入することによって購入ルビー(有料ルビー)及び購入ルビー(無料ルビー)が付与され、また、ゲームをプレイすることによって無料ルビーであるゲーム実行ルビーが付与されることが認められる。これらのうち、購入ルビー(有料ルビー)が「第1の仮想アイテム」に、ゲーム実行ルビ ーが「第2の仮想アイテム」に、それぞれ該当することについては、当事者間に争いがない。

 そして、購入ルビー(無料ルビー)は、購入手続を行うことによってユーザーに付与されるものであるから、構成要件1Aの文言どおり、「第1 の仮想アイテム」に該当するものといえる。そうすると、被告ゲームシステムにおいて、「第2の仮想アイテム」に該当するものは、ゲーム実行ルビーのみとなる。

 他方、上記認定事実によれば、被告ゲームシステムは、購入ルビー(無料ルビー)及びゲーム実行ルビーの総量の和を、無料ルビーとしてユーザ ーに表示するにとどまり、被告ゲームシステムがその内訳を記憶していることの立証はないことからすると、被告ゲームシステムは、ゲーム実行ルビーの総量を記憶しているものとは認められない。

 そうすると、被告ゲームシステムは、「第2の仮想アイテム」であるゲーム実行ルビーの総量を記憶するものではない。 

 したがって、被告ゲームシステムは、構成要件1Bの「第2の仮想アイテムの数量」を「記憶」するものではなく、構成要件1Bを充足するもの とはいえない。 

東京地方裁判所 令和7年9月11日判決(令和6年(ワ)第70223号 損害賠償請求事件)

5.考察

上記のように、裁判所はツムツムはセガの特許に抵触していないと判断しました。

もっとも、特許権者であるセガの立場に立って考えると、
ツムツムの仕様は、本件特許に抵触すると評価し得る余地がある、とも考えられます。

本件特許の請求項1が保護しようとしている発明の中核は、

  • 有償で取得した仮想通貨と、無償で取得した仮想通貨とを区別して管理し
  • 両者を同一用途に使用可能としつつ
  • 有償で取得した仮想通貨を優先的に消費させる

という、課金設計上の仕様にあると解釈することもできます。

このような理解に立つと、ツムツムにおいても、

  • 課金によって取得される有償ルビーと
  • 無料で取得されるルビー(その入手経路がゲームプレイであれ、課金時のボーナス付与であれ)とが存在し
  • 有償ルビーと無償ルビー数量はそれぞれ区別されて表示され、かつ、同一の用途に使用可能であり
  • 実際の消費処理においては、有償ルビーが優先的に消費されている

という点において、本件特許が想定する課金仕様と共通する側面があるように見えます。

つまり、特許権者の側から見れば、本件特許が想定する技術思想がツムツムによって利用されているのではないか、ひいては、本件特許が侵害されているのではないか、との問題意識から、本件訴訟を提起するに至ったものと理解することができます。

このような特許権者側の問題意識に立てば、 「無償ルビーの入手経路が複数存在すること」や 「その内訳を個別に記憶していないこと」を理由に、 直ちに特許非充足と評価するのではなく、 発明の実質に着目すれば、請求項の文言はより柔軟に解釈し得るのではないか、という見方も成り立ちます。

もちろん、これはあくまで特許権者側に立った一つの解釈の可能性にすぎず、 裁判所は上記のとおり非侵害と判断しました。
しかし本件は、請求項の文言をどこまで厳密に解釈し、その解釈を実装にどのように当てはめるかという点において、難しい線引きが問題となった事例であることは確かです。

なお、特許業務においても生成AIの活用は急速に進んでいますが、本件のような解釈については生成AIであっても完璧な予測をすることは難しいと思います。

もっとも、本件については、特許権者であるセガ社が控訴する可能性もあり、知的財産高等裁判所で第2ラウンドが行われる可能性もあります。

なお、原告であるセガ社は、損害額として約100億円を請求していました。以下に、判決文(50頁)に記載された原告の主張を引用します。

争点3(損害額)

(原告の主張)

 被告は、被告ゲームシステム及び被告ゲームプログラムにより、令和3年5月 30日から現在まで、575億円を下らない売上げを上げ、230億円の利益を得ている。

 そして、実施料率は3%を下らないから、この期間における実施料相当額は17億2500万円である。 また、被告は、被告ゲームシステム及び被告ゲームプログラムにより、本件特許2の登録日である平成26年10月3日から本件訴訟提起の3年前の日である令和3年5月30日までの期間において、2678億円を下らない売上げを上 げ、その実施料率は3%を下らないから、実施料相当額である80億3400万 円を不当に利得した。

  なお、弁護士及び弁理士費用の相当額は上記記載の損害額及び利得額の10%である。 

上記を整理すると、原告であるセガ社は、

  • 令和3年5月30日以降の実施料相当額:約17億円
  • それ以前の期間に係る不当利得額:約80億円
  • これらに加えて、弁護士・弁理士費用相当額(10%)

を損害として請求していたことになります。
合計すると、請求額は概ね100億円規模となります。


6. まとめ

以下は、本件判決を踏まえた筆者なりの整理です。

  • 思いもよらない仕様であっても、特許訴訟は発生している
     (本件では、ゲームの課金仕様が争点となりました)
  • 特許紛争における損害賠償請求額は、高額になり得る
     (本件では、ツムツムの売上の3%として、約100億円が請求されているようです。)
  • 特許の解釈は難しい
    (高性能なAIであっても、裁判所の判断を正確に予測することは困難でしょう)

本件を通じて筆者が強調したいことは、特許紛争においては、請求項の文言が、具体的な実装のどこにどのように当てはまるのかという解釈が結論に大きな影響を与える、という点です。

その意味で、本件特許は、「技術的に高度かどうか」という観点よりも、ビジネスモデルやユーザー行動を踏まえた設計上の工夫に特許性が見出されたものと理解することもできます。

特許は、専門家だけの世界に閉じた話ではありません。

課金仕様や内部ロジックといった、日常的に使っている仕組みの裏側にも、状況によっては、法的な意味が与えられることがあります。

本稿が、ゲームに関わる方はもちろん、そうでない方にとっても、「仕様が特許としてどのように評価され、裁判所は何を見て判断するのか」を考える一つの材料となれば幸いです。

なお、ToreruMediaでは、ゲームと特許をテーマとした以下の記事も公開されています。関心のある方は、是非ご覧ください。

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