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【累計648億枚!】「ポケモンカードゲーム」の関連特許を調べてみた~TCG特許探検記1枚目

「トレーディングカードゲーム」(以下TCG)が人気です。2022年度には国内市場だけで2300億円を突破。2022年対比で132%と、他の玩具を圧倒する成長率です。(日本玩具協会調査データより)

人気拡大の理由は、コロナ禍に家庭や仲間内で気軽に遊べる遊具として再評価されたことや、子供だけでなく20〜40代の幅広い年齢層がプレイヤーとして参入していること。

さらには一部のレアカードが高価格で取引され、ニュースなどを通して注目されていることも挙げられています。(急拡大!トレーディングカード市場 人気の理由は?(2024年4月18日放送)なるほどくらし情報部

レアカードといえば、『マジック:ザ・ギャザリング』で世界に1枚しか封入されなかった「一つの指輪(The One Ring)」カードは、発売前から200万ドル(約3.2億円)の懸賞品がかけられて話題になりました。

The Lord of the Rings: Tales of Middle-earth – MTG Wikiより引用

このカードは無事カナダで引き当てられ、その後、ラッパーのPost Malone氏が260万ドルで購入したそうです。

日本のTCGでも「ポケモンイラストレーター」という配布数が39枚、現存する美品は10枚程度とされている、トップレアカードは海外YouTuberに530万ドル(現在のレートで約8億円)で落札され、こちらも大きな話題になりました。

I Bought The World’s Most Expensive Pokémon Card ($5,300,000)

これだけの巨大ビジネスになったTCGの世界。しかし、一般にボードゲームなどのカードルールは「人為的取り決めにすぎず、アイディア自体である」として特許権の対象になりません。

なんだ、TCGは全く特許にならないのか・・と思われた方、実は特許を取る方法はあります。

1つはアプリなどのソフトウェアを絡ませることで特許化する方法。
もう1つは、ゲームルールそのものではなく、TCG周辺の発明を特許化する方法です。

と言っても、これだけでは具体例をイメージできないですよね。

そこで本記事では、30年近くの歴史があり、日本で最も人気が高いTCGといえる『ポケモンカードゲーム』にスポットライトを当て、TCGに関する特許権の例や、権利取得の工夫について紹介します。

『ポケモンカードゲーム』ってどれだけすごいの?

関連特許を調べていく前に、まずは商品そのものについて。

『ポケモンカードゲーム』は1996年10月に最初の商品が発売され、累計製造枚数は648億枚以上。93の国と地域で発売されている、まさにグローバルな商品です。(ポケモン社公式HP「数字で見るポケモン」より:2024年6月時点)

ライバルの『遊戯王OCG』は1999年、『デュエルマスターズ』が2002年スタートのため、日本発祥のカードゲームとしては最も歴史が長いTCGといえます(ちなみに、世界初とされる『マジック:ザ・ギャザリング』は、1993年に発売開始)。

『ポケモンカードゲーム』ならではの魅力はいくつもありますが、

  1. そもそも「ポケモン」というキャラクターが世界観を含めて魅力的。
  2. カードのイラストが可愛い系・カッコいい系・オシャレ系などデザインの幅が広く、熱心なコレクターが多い。
  3. 歴史が長いのにルールが複雑化しておらず、遊びがシンプルで入りやすい。
  4. ショップ大会や大型公式大会などの遊べる場が充実しており、一緒に遊べる人を見つけやすい。

あたりがよく言われるポイントで、日本最強TCGに君臨しているのも納得です。

ポケモンカードゲームの発売元であり、ポケモンシリーズのライセンス管理・プロデュースをしている(株)ポケモン社ですが、近年特許権の取得にも力を入れています。

「ポケモンスリープ」の関連特許を愛でよう ~特許でわかる、アプリゲームの過去・現在・未来 | Toreru Media

今回も特許庁の無料データベース、J-PlatPatを使い、出願人に「株式会社ポケモン」、かつ明細書に「カード」をキーワードとして含む特許権を検索してみましょう。

国内文献92件、外国文献12件がHITしました。

これらの文献から「特許登録済み」であり、かつTCG関連特許として興味深い特許権を3件ほどピックアップして紹介していきます。

実際の「ポケモンカード関連特許」を見ていこう

①リアルカードを撮影してアプリ等でのコレクションや対戦に活かせるカード利用システムの特許(特許7319147)

1つ目は、2023年7月に登録になった、アナログカードに対応するデジタルカードをデジタルゲームに利用可能にする「カード利用システム」等に関する特許です。

この特許では上記図面のように、まずはアナログカードをユーザ端末(スマホなど)で撮影し、「ピカチュウ」「イーブイ」などカードの情報を特定します。図面にある②とか、①とかの数字は同時に撮影された同じカードの枚数ですね。

撮影したカード情報は運営側のサーバに送られ、対応するデジタルカードの使用可能期間を延長します。例えば、「ピカチュウ」のデジタルカードの使用可能期間が残り5日になっている場合、撮影をすると30日延長され、35日デジタルカードとして使用可能となる・・というような仕様です。

「デジタルカードとして遊ぶために、何故わざわざアナログカードを撮影させるのか?」という疑問に対しては、特許の明細書の中で、

前提:デジタルカードを無限に増殖させないように、アナログカードとデジタルカードの連携には一定の制限をかける必要がある。

課題:カードにICチップを設け、それを読み込むことでデジタルカードに登録させる方式が従来あったが、これではカードごとにかかるICチップのコストが高く、さらにICチップを有しない過去のアナログカードをデジタルカードに読み込ませることができない。

目的:ICチップ等を搭載しなくても、アナログカードに対応するデジタルカードの増殖を抑制しつつ、デジタル上で利用可能にするカード利用システム・利用方法・プログラムを提供する。

明細書の記載をもとに筆者要約

のように説明されていました。

デジタルカードとしてのみ販売すればこのような問題は生じないですが、すでにアナログカードを持っている人に「オンライン上で遊びたければ、デジタルカードも別に買ってください」とするのはなかなか厳しいでしょう。

ただ、アナログカードを撮影すれば永遠にデジタルカードとして使える、という仕様だと、友人やカードショップのカードを一時的に撮影すれば、所持しなくてもデジタルカードが無限に遊べる・・という商売あがったりな状況になってしまうので、両方のバランスを取る意味ではなかなか有効な特許といえそうです。

この特許では、同種のカードをまとめて撮影すると一気に使用可能期間が延びて撮影の手間が軽減される仕様案や、価値が高いレアカードは再撮影に要求する期間を短くすることで、複数ユーザー間での使いまわしを抑止できるという工夫も示されていました。

「せっかく買っても対戦相手がいないと遊べない」というのはアナログカードゲームの永遠の悩みですが、この特許のような「リアルカードとデジタルカードの連携」の工夫により、デジタルでも遊べる世界が広がれば、TCG市場もさらに拡大していきそうですね。

②カードのデッキ管理に関する特許(特許7184733)

2つ目に紹介するのは、2022年11月に登録になった、TCGで使用するカードを管理するための情報処理装置に関する特許です。

この特許では上記図面のように、まずはアナログカードをカードスリーブ(収容袋)や箱に収容します。収容袋や箱についている97・99番は「マーカ」で、例えば2次元コードやICチップ等が使用できると説明されています。

このマーカを使ってユーザが所有するカードをシステムで管理するのですが、そのフローチャートはこちら。

具体的な処理の流れですが、ユーザが例えば「イワーク」などのアナログカードと、スリーブのマーカをスマホのカメラなどを使用し、それぞれシステムに読み込ませます。

その後、「イワーク」のカードデータとスリーブのマーカを紐づけて、「このスリーブにはこのカードが入っている」と記録させます。これにより、「スリーブ1にはイワーク」、「スリーブ2にはタケシ」というようにスリーブごとのカード認識が可能となります。

また、ユーザは一定の枚数の収容袋のマーカを「デッキA」というようにシステムに登録することが可能です。ポケモンカードゲームの公式戦ではカード60枚を1デッキとして取り扱うので、「スリーブ1~60番をデッキA用とする」と登録すれば、手持ちのデッキに入っているカードの内訳を、スリーブのマーカを介してシステムで確認できるようになります。

 

このような「アナログカードのシステム管理」技術が特許出願された背景としては、

前提:アナログTCGではユーザは様々なアナログカードを保有し、カードの有利不利を考慮しながらデッキを編成することに興趣性がある。

課題:ただ、ユーザがデッキ編成のバリエーションを増やそうと所持カードの枚数を増やせば増やすほど、どのカードをどこに置いたかの保管を管理することが困難となる。

目的:TCGユーザが複数のカードを容易に管理することができる装置を提供する。

明細書の記載をもとに筆者要約

と説明されていました。

確かに、この図のようにアプリ上で自分のカードとデッキ管理ができれば、手持ちのカード資産が膨れ上がっても「このカード持ってたっけ?」、「どのデッキに入っていたっけ?」と迷うことはなくなりそうです。

さらにシステム管理の便利さとして、サーバと通信することでTCGの大会で使えるカードかのレギュレーションを表示したり、他のユーザのデッキ情報を参照することができたりしてもよいという記述もありました。

アナログカードのシステム管理には、最初に読み込ませる手間がどうしてもかかってしまいますが、デッキ構築アドバイスなどシステム管理ならではの付加価値があれば、さらに利用が広がっていきそうですね。

③カードスリーブのデザインプログラムに関する特許(特許7372292)

ポケモンカードゲームについてはもう1件、少し変わり種の特許も紹介します。

この図のように、TCG用のカードスリーブを自らデザインできるプログラムに関する特許です。

「スリーブに好きな絵を描いて印刷するだけのシステムだとしたら、新規性がなくて特許は取れないんじゃないの?」と思われるかもしれません。その点、この特許は

少なくとも一方の表面の、ユーザがデザインを決めることが不可能な第2領域を決定するステップ

を請求項1に含むことで特許権を取得しています。・・・「自分でデザインを決められない領域がある?」どういうことでしょうか。

これはスリーブデザインのデザイン作成画面例ですが、デザイン面が4分割されており、4分割されたそれぞれの部分には「運営側が用意した図柄を選択」することしかできない仕様になっています。

最初は、「自由に図柄を描いたり、配置できたりしたほうが楽しいじゃん」と思ったのですが、明細書にちゃんと理由が書かれていました。

前提:カードスリーブの一面には、様々なデザインが施されており、プレイヤーとしては独自のデザインのカードスリーブを使ってプレイしたいというニーズがある。

課題:しかし、デザインの自由度を許容しすぎると、1組のデッキの中で、カードスリーブのデザインの一部にプレイヤー本人にしか気づかない程度の微小なデザイン上の差のあるカードスリーブを混在させて、裏返したカードの内容を認識するといった不正行為に利用されてしまうおそれがある。

目的:プレイヤーが自由にデザインを作成する自由度を許容しつつ、不正行為に利用させることを防止したカードスリーブを作成するシステムを提供する。

明細書の記載をもとに筆者要約

対戦時の不正対策・・!

確かに、自由にデザインを作れることにしたら、「ピカチュウの微妙な尻尾の角度で、自分だけがエネルギーカードか、トレーナーズカードかを裏面から識別する」みたいなインチキも出来ちゃいます。

一方で、1種類しか絵が選べないならデザインシステムの意味がありません。そこで、印刷領域を分割し、既存の絵柄からデザインを組み合わせてオリジナルのスリーブを作れるプログラムにしたのは、TCGならではの工夫で「なるほどな」と感心しました。

おわりに~TCG特許がソフトウェア関連発明ばかりの理由は?

今回、紹介した3つのポケモンカード関連の特許は、デジタルカードとの連携システムや、カードデッキ管理システム、さらにスリーブデザインの制作プログラムと全てコンピュータソフトウェアの関連発明でした。

その理由ですが、ソフトウェアの関連発明は

ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されているか
第 1 章 コンピュータソフトウエア関連発明(特許庁審査ハンドブックより)

という観点から「発明該当性」が判断されるため、アナログの手順だけでは特許性がないような発明でも、ハードウェアを介することで特許を取る余地が出るためと考えられます。

具体的には、3つ目に紹介した「カードスリーブのデザインプログラムに関する特許(特許7372292)」について、ソフトウェアを全く介さず、スリーブのデザインをお店が用意したイラストの選択肢から選んで組み合わせる仕様もあり得ますが、これでは「自然法則を利用していない、単なる人為的な取り決めである」として、特許が認められないでしょう。

ポケモン社はソフトウェア特許の制度を上手く利用して『ポケモンカードゲーム』関連の特許権を強化していると言えます。

なお、今回紹介した『ポケモンカードゲーム』以外でも、各社が魅力的なTCGを発売しており、それぞれに特許を取得しています。そこでポケモン社以外のTCG関連特許についても、また改めて紹介していきたいと思います!

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