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ぼくドラえもんです!特許発明によって実現可能な傑作ひみつ道具3選

知財ライターの Uchida です。本記事では、実現可能と思われるドラえもんのひみつ道具について、特許情報とともに紹介します。3つ目のひみつ道具は、ドラえもんのコミック全45巻&大長編を通じて、ほんの一コマだけ登場するものです。私が好きな漫画は「こち亀」だけではありません(こち亀関連記事)。それを証明すべく本記事を執筆しました。

ここで、突然のクイズです。以下クイズの答えはご存知でしょうか?

① ドラえもんの身長・体重・胸囲
② のび太ママの旧姓&下の名前
③ のび太パパがママと出会う前に結婚する予定だった人の名前

答えは記事末尾に記載しました。もしお時間があれば最後までお読みいただければ幸いです。

1.【ひみつ道具】わりこみビデオ →【実現技術】機械学習を活用した画像処理

ひみつ道具】わりこみビデオ(コミック第30巻:ジャイアンテレビにでる!)

1つ目のひみつ道具は、「わりこみビデオ」です。テレビ局の社長と父親が友人関係にあるスネ夫に対して、「テレビで歌わせろ」と、ジャイアンが強引なお願いをするシーンからお話が始まります。そして、テレビでジャイアンを歌わせるなんて無理だ・・と嘆くスネ夫。その場を横から見ていたドラえもんは、録画していた歌手の顔に対して「わりこみビデオ」を用いてジャイアンの顔をはめ込んでみます。

『ドラえもん』第30巻P92

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第30巻(小学館, 1984年)P92 より

スネ夫の安否を心配しているドラえもん。のび太以外に対しても優しいんですね。この「わりこみビデオ」の技術的詳細は不明なものの、どうやら「保存されている動画像に加工を施すことで、人物の顔部分を所望の顔に入れ替えることができる」というひみつ道具のようです。これは、正にディープフェイクですね。

実現技術】機械学習を活用した画像処理(ディープフェイク)

「わりこみビデオ」を実現する技術として、いわゆる「ディープフェイク」があります。これは機械学習を活用した画像処理技術であり、例えば動画像における顔の部分を所望の顔画像へと差し替えることが可能です。

本技術に関する特許文献は大量にありますが、ここでは以下案件を紹介します。顔交換が可能なスマホアプリ「Reface」を開発する Neocortext 社による特許出願です。

US2020/294294 Fig.4

US2020/294294 Fig.4

図4によれば、a source face 302 が含まれる「source image 301」と、a face to be modified 304 が含まれる「image to be modified 303」を処理することにより、a resultant face 309 を有する「resultant image 308」が生成されるというものです。たしかに、顔部分のみ入れ替わっているように見えますね。

そして段落[0044]には、動画像において顔交換することについても記載がありました。これにより、ひみつ道具「わりこみビデオ」と同じことが出来そうですね。

As one example, these teachings can be employed with video content and gif images to swap faces. 

US2020/294294 [0044]

ところで、上記ドラえもんのお話のその後の展開としては、「わりこみビデオ」は活用せずにスネ夫を助けてあげようという方針へと舵を切ります。のび太のセリフが辛辣です。

『ドラえもん』第30巻P93

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第30巻(小学館, 1984年)P93 より

2.【ひみつ道具】トレーサーバッジ →【実現技術】位置情報共有

ひみつ道具】トレーサーバッジ(コミック第9巻:トレーサーバッジ)

2つ目のひみつ道具は「トレーサーバッジ」です。ジャイアン率いる野球チームのマネージャーであるのび太。となり町のチームから試合の申し込みがあった旨をメンバーへ知らせるべく、のび太が炎天下に歩き回って疲弊するシーンからお話が始まります。

そして帰宅後に不平をブツブツと言っているのび太に対して、「つまりだれがどこにいるか、いつでもわかればいいんだね。」と言いつつ出したひみつ道具が「トレーサーバッジ」です。ピカピカ光っている様々な形状のバッジを、のび太がメンバーへ渡しに行きます。

『ドラえもん』第9巻P133

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第9巻(小学館, 1975年)P133 より

そしてトレーサーから発信される電波に基づいて、「レーダー地図」にて位置情報を確認することができます。例えば渡した相手のバッジ形状を覚えておけば、「ジャイアン(スペードマーク)に追いかけられているのは山田くん(星マーク)」ということが分かります。

では、実現技術について見ていきます。

実現技術】位置情報共有(Zenly | Snap Map)

Zenly HP

Zenly HP より

バッジや特殊なディスプレイを使うこともなく、現代ではスマホを活用した似たサービスがあります。例えば仏 Zenly 社が開発した「Zenly」や、Zenly を買収した米 Snap 社による「Snap Map」です。これらサービスにより、友人と位置情報を共有することができます。

特許情報も見ていきます。

US10791422

US10791422

Snap 社による米国特許(US10791422)によれば、マップ上に各ユーザーのアバターである ”bitmoji”(an indicium 1106)が表示されます(Fig. 11)。そして各ユーザー(James)における message 1008の表示や、チャットを行うことができます(Fig. 10)。近くにいる知人と気軽に連絡を取れるのは楽しそうですね。中高生などの若者には刺さるサービスなのかもしれません。

そしてマップ上に知人の位置情報を表示する旨については、例えば以下の特許出願にも記載があります。

特表2008-538464 図8

特表2008-538464 図8

図8はサンフランシスコ周辺の地図ですね。随分壮大なスケールですが、中ほどに「Dean」と記載されたマーク(50)が表示されています。そして図7によれば、ユーザーから Dean Smith 氏までの距離等の記載があります。

ところで、位置情報を共有することで便利になる一方、使い方次第ではトラブルになる危険性もあります。その点の危惧はドラえもんにおいても描かれています。

『ドラえもん』第9巻P136

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第9巻(小学館, 1975年)P136 より

友達の位置を監視していたのび太が、ジャイアン(スペード)としずかちゃん(ハート)が「くっついている」との状況をマップ上で発見します。そして慌てて現場に駆け付けたところ、実際はジャイアンが隠れている土管の上にしずかちゃんが座っていただけということが判明します。「トレーサーバッジ」では、3次元的な位置情報を精微に検出することは出来ないようですね。

3.【ひみつ道具】マジックおしり →【実現技術】触覚伝達技術

ひみつ道具】マジックおしり(コミック第13巻:マジックハンド)

最後は、数あるひみつ道具の中で異彩を放っている一品「マジックおしり」です。同じくドラえもんのひみつ道具である「マジックハンド」で悪ふざけをするのび太を懲らしめるために、ドラえもんがママに対して提供するひみつ道具です。「マジックおしり」を叩くことで、遠隔にいるのび太にダメージを負わせることができるというものです。

『ドラえもん』第13巻P93

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第13巻(小学館, 1977年)P93 より

実現技術】触覚伝達技術(Sense-Roid Type-S)+ SHIRI

「マジックおしり」関連技術として、例えば「Sense-Roid Type-S」があります。これは抱きしめられる感触を再現することが可能な「ハグ再現スーツ」です。以下動画の1:50付近によれば、右側の記録用スーツに加えた圧力に応じて、左側の「ハグ再現スーツ」が絞られています。

 

Youtube チャンネル「Nobuhiro Takahashi」より

「確かに触覚は伝達しているようだけど、マジックおしりとはちょっと遠くない?」という声が聞こえてきそうですね。でも大丈夫です。上記技術と「SHIRI」を融合すれば、マジックおしりになります。AI アシスタント Siri ではなく「SHIRI」です。

皮膚感覚の入出力特性に基づく視触覚インタフェースに関する研究
-電気通信大学, 平成24年度修士論文, P78 より

「SHIRI」は、ハグ再現スーツ「Sense-Roid Type-S」と同じ開発者である高橋宣裕さん(東工大 特別研究生, HP)によって手掛けられたものです。Youtube 動画(年齢制限有りのため要ログイン)によれば、SHIRI を触ったり叩いたり撫でたりすることにより、”Tension(緊張 – 弛緩)”, “Twitch(痙攣)”, “Protrusion(突き出し)” といった反応を示します。なお「SHIRI」は見た目が衝撃的ですが、ヒューマノイドロボットの視触覚インタフェース研究に資する真面目な成果物です。高橋さんの修士論文によれば、殿部は多様性があり研究対象として適していたようです。

殿部は人体のうち最も脂肪が厚い部位であるため,触覚的なフィードバックの多様性にとんだ部位であると言える.また殿部は「尻叩き」として躾のため用いられること,漫画や喜劇におけるエンタテインメントの表現として用いられること,さらには性的な対象や彫刻などの芸術表現としての側面を有するなど実に多彩な文脈を人間に想起させる部位でもあり,ユーザインタラクションの設計の検証を行うに当たっても興味深い部位である.

皮膚感覚の入出力特性に基づく視触覚インタフェースに関する研究」-電気通信大学, 平成24年度修士論文, P74

以下は、SHIRI に関連する特許第6128530号です。残念ながら、SHIRI に対応する図面は掲載されておりませんでした。

特許第6128530号 図1

図1に示すように、本発明の一実施形態である人体模擬装置1は、骨格を模した骨格部2と、筋肉の表面状態を模した筋肉部3と、筋肉の動きを模した筋肉伸縮部であるアクチュエータ5と、皮膚を模した皮膚シート6とを備えている。

特許第6128530号【0029】

・・というわけで、最後は組み合わせによって「マジックおしり」を実現できるという紹介をさせていただきました。この様に、例えば特許技術を組み合わせることでドラえもんのひみつ道具を実現することができます。皆さんも是非探してみてはいかがでしょうか?

最後に:ドラえもんひみつ道具実現まであと91年

以上、既に実現可能そうなひみつ道具3点について、特許の図面とともに紹介しました。科学技術の発達は必ずしも正義ではなく、負の側面があることも事実です。しかし、ドラえもんは正義です。大長編ドラえもんの映画主題歌を聴いてジンワリして、それが活力となる方もいることでしょう。

世界は グーチョキパーで だから楽しくなる
みんなちがうから あいこでしょ

「世界はグー・チョキ・パー」-武田鉄矢一座 より

ドラえもんやひみつ道具の実現に向けて、私は知財関係者として技術者や研究者の方々を応援しております。ドラえもんの誕生日は2112年9月3日なので、まだあと約91年も時間があります。今後もきっと幾つかのひみつ道具は実現して、世界が楽しくなるはず。よろしくお願いいたします!

(クイズの答え)
① ドラえもんの身長・体重・胸囲
答え:「身長129.3cm・体重129.3 kg・胸囲129.3cm」(てんとう虫コミックス『ドラえもん』第11巻(小学館, 1976年), P173)

② のび太ママの旧姓&下の名前
答え:「片岡玉子(かたおかたまこ)」(てんとう虫コミックス『ドラえもん』第43巻(小学館, 1991年):のび太が消えちゃう?, P180)

③ のび太パパがママと出会う前に結婚する予定だった人の名前
答え:「金満兼子(かねみつかねこ)」(てんとう虫コミックス『ドラえもん』第43巻(小学館, 1991年):のび太が消えちゃう?, P175)

(参考文献)
ドラえもん 最新ひみつ道具大事典 -監修/藤子・F・不二雄(小学館, 2008年)

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