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【精鋭集うチョコの饗宴】「サロン・デュ・ショコラ」の商標を深掘りしてみた

日本のバレンタイン市場が独自の発展を遂げていることをご存知でしょうか。

ざっくり言うと「デカイシノギがあると聞いて世界の一流ショコラティエが来るチョコのコミケ」になっています。

日本人が製菓企業の戦略に全力で乗っかった結果、バレンタインが「デカイシノギがあると聞いて世界の一流ショコラティエが来るチョコのコミケ」に。→教訓は、『楽しい祭りには全力で乗っかる方がお得』 – Togetter [トゥギャッター]

もともとバレンタインは愛する人に贈り物をするという文化が欧米から持ち込まれたのが日本でのはじまりですが、そこに目を付けた製菓メーカーがチョコレートを贈るという習慣を広めました。そして、さらには「せっかくなら、もっと、もっと美味しいチョコレートを‥!」という日本人の食への貪欲さにより独自の進化を遂げてしまったのが、現在の日本のバレンタインなのです。

昨今の日本では、年明けとともに各地からチョコレートフェアの便りが流れて来ますが、その中でも大、大、大本命は毎年1月から2月にかけて新宿伊勢丹で開催されるサロン・デュ・ショコラです。

さて、筆者はPart 1の開催初日にさっそく会場へ足を運んでみました。平日の昼間にもかかわらず多くの来場者で会場は大盛り上がり。整理券をもらった時点ですでに約200組待ちの状態で、入場まで2時間ほどかかりました。(ただしお呼び出しメールのシステムがあるため会場に張り付いている必要はなく、伊勢丹店内で過ごしながら楽しくチョコレートへの思いを高めることができました。)

やっと入場できたことに喜び勇んで会場に入ると、壁面装飾の中にToreru Mediaライターとしては見逃せないマークが。

開場の壁面装飾。サロン・デュ・ショコラのポスター、チョコレート職人、カカオ生産者の写真が並ぶ。写真のあいまにチョコレート形のパネルがあり、そこに「SALON DU CHOCOLAT」と刻まれており、その右上には商標登録を示すアールマークが刻まれている。

商標登録されていることを示す®マークです!

チョコレート形のパネルの拡大写真。パネルには「SALON DU CHOCOLAT」と刻まれており、その右上には商標登録を示すアールマークが刻まれている。

この商標登録がいつどのような経緯でなされたのか、そして、サロン・デュ・ショコラ関連の商標に関して起こったあれこれを本記事では紹介してゆきます。

サロン・デュ・ショコラ のはじまりと商標

まずはサロン・デュ・ショコラの歴史から紐解いてゆきましょう。

サロン・デュ・ショコラは1995年にフランス・パリで初めて開催されました。若者の職人離れが進む中で、チョコレート職人(ショコラティエ)たちに脚光を当てることで業界を盛り上げようとしたのが開催のきっかけだったそうです。

参考:サロン・デュ・ショコラの創設者&現CEOに特別インタビュー!

さて、そんなサロン・デュ・ショコラにまつわる初めての商標はいつごろ出願されたのでしょうか?

それは初開催から遡ること2年、1993年のことでした。カカオ豆をモチーフにしたイラストの商標がフランスで出願されています。出願人はサロン・デュ・ショコラの運営であるEVENT INTERNATIONALです。

CHOCOLAND SALON DU CHOCOLAT|Grobal Brand Database

開催2年前というかなり早い段階で商標が出願されていることに驚きです。ちなみにこの商標は2024年12月時点でまだ存続しています。現在はこのイラストを商標として積極的に使用していないようですが、初期のコンセプトアートを財産として守り続けようとする意思がみえますね。

そして、初開催から2年後の1997年には文字商標が出願されました。イベントの運営が軌道に乗ってきたところで文字商標も出願しようという判断がなされたのでしょうか。

SALON DU CHOCOLAT CHOCOLAND (FR)|Grobal Brand Database

さて、商標登録出願はフランスに留まらず他国へも広がります。フランスで文字商標が出願されたのと同時期に、アメリカでも同じ文字商標が出願されました。ちょうどその頃、サロン・デュ・ショコラはパリを飛び出しニューヨークでも開催されるようになっていたので、おそらくそれに備えての出願でしょう。

SALON DU CHOCOLAT CHOCOLAND (US)|Grobal Brand Database

また、同時期に国際登録もされています。

ここで、「国際登録」と「指定」について少し解説を。

まず、日本国特許庁を経由して国際事務局に国際出願すると、国際登録されます。注意したいのは、この段階ではまだどの国でも商標が保護されている登録されている状態では「ない」ということ。この段階は、あくまで各国に対して商標の保護を求めているだけの準備段階なのです。

このあと実際に保護を求めるには、保護を求める国を自分で「指定」する必要があります。そうすることによって初めて商標が保護されることになります。

マドリッド協定議定書による国際出願について(初めての方へ) | 経済産業省 特許庁より引用

さて、1997年になされたこの国際登録で「指定」された国、つまり商標登録が保護される国は、ベネルクス三国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)、スペイン、イタリア、モナコ、ロシアであり、日本は含まれません。日本での商標登録出願はもう少し先、2005年まで待つことになります。

SALON DU CHOCOLAT CHOCOLAND (WO)|Grobal Brand Database

ちなみに、この国際登録はフランスでの商標登録とは別法人である「ChocoLoco International SA」が行っています。この法人はどうやらサロン・デュ・ショコラ関連のライセンス管理などを行っているようです。この法人はスイスに籍を置いているのですか、スイスに籍を置くのはおそらく税制優遇のためでしょう。

日本でのサロン・デュ・ショコラ関連の商標登録出願から学ぶ指定商品の選び方

さて、前述の通り日本では2005年に「SALON DU CHOCOLAT」が商標登録出願されました。

商標「SALON DU CHOCOLAT」チョコロコ インターナショナル ソシエテ アノニム|Toreru商標検索

実はこの商標登録出願には「商品・役務の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとして拒絶理由が通知されました。

商標「SALON DU CHOCOLAT」に対する拒絶理由通知書

ツッコまれたのは「第30類   菓子,ペストリー」の部分です。「SALON DU CHOCOLAT」の「CHOCOLAT」はフランス語で「チョコレート」を意味します。そのため、この商標登録をチョコレートが入っていないお菓子に使用すると、「あ!チョコレートのお菓子だ!」と誤解されてしまうかもしれないので、登録してはダメですよということです。

このケースでは、さきほどの部分を「第30類   チョコレート,チョコレートを使用してなる菓子,チョコレートを使用してなるペストリー」と補正することにより、拒絶理由が解消され、晴れて商標登録されました。

この商標登録を付けていい製品をチョコレートが入ったお菓子に限定することで、「あ!チョコレートのお菓子だ」という印象を持たれても、実際にチョコレートが入っているので問題なしというわけです。

参考:商標の拒絶理由通知とは?初心者向け5つの対応方法をわかりやすく解説します! | Toreru Media

ちなみにこのケースでは拒絶理由通知書をウェブで閲覧することができなかったため、特許庁出願課の「閲覧・証明」カウンターで閲覧を申し込みました。「ファイル記録事項記載書類の交付証明書」に記入し、特許印紙とともにカウンターに提出すると、即日で閲覧することができました。

参考:証明・閲覧に関する手続の主な対象書類と請求方法の一覧 | 経済産業省 特許庁

なお、電子化されていない書類の場合、閲覧請求から実際の閲覧まで数日のラグがあります。

参考:特許庁で、電子化されていない書類を閲覧請求・複写してみた~ちざ散歩Vol.04 | Toreru Media

マレーシアでは、サロン・デュ・ショコラ といえばカフェのこと!?

サロン・デュ・ショコラのライセンス管理会社であるChocoLoco International SAは、2020年以降、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアといった東南アジア地域でサロン・デュ・ショコラの商標を出願しています。

SALON DU CHOCOLAT CHOCOLAND* MONDIAL DU CHOCOLAT & DU CACAO (MY)|Grobal Brand Database

なぜ近年東南アジアでの商標登録出願を行っているのでしょうか?

もしかしたらマレーシアでのとある商標登録が関連しているかもしれません。それがこちら、マレーシア国内で展開するカフェチェーンサロン・デュ・ショコラ社の登録商標です。

SALON DU CHOCOLAT (MY)|Grobal Brand Database

マレーシアのサロン・デュ・ショコラはその名の通りチョコレートが売りのカフェです。ウェブサイトにはチョコレートドリンクの写真が並びます。カップには商標登録されている先ほどのマークが。

Salon Du Chokolat 公式ウェブサイトより引用

マレーシアのサロン・デュ・ショコラ社は2011年にマレーシアのクアラルンプールで創業したそうです。そして、2013年、2014年にはそれぞれ2店舗目と3店舗目を出店しています。上記の商標を出願したのはちょうどその頃(2014年6月)です。その後店舗数を増やし、2024年時点では店舗数が9つまで拡大しています。

こうなるとマレーシアでは「サロン・デュ・ショコラ」 といえばイベントではなくカフェチェーンという認識なのかもしれません。実際、検索地域をマレーシアに限定して「SALON DU CHOCOLAT」と検索してみると上位にはカフェチェーンのサロン・デュ・ショコラが上位に来ます。

ちなみにマレーシアのサロン・デュ・ショコラは、同じ商標をタイでも出願をしています。現時点ではマレーシア国内だけの出店ですが、もしかしたらタイでの出店を目論んでいるのかもしれません。ゆくゆくは東南アジア地域全体への拡大の可能性もあり得そうです。

マレーシアのサロン・デュ・ショコラがフランスのサロン・デュ・ショコラにあやかって命名されたものかどうかはわかりませんが、商標権の世界は原則「早い者勝ち」であり、また、同じ商標であっても、商品・サービスが異なる別の権利者が併存可能ですので、このような事象は度々見られます。そのため、世界的なブランドは、幅広い商品・サービスで商標登録しておくことが重要といえます。

日本のサロン・デュ・ショコラの盛り上がりを体感してみた

さて、話を日本のサロン・デュ・ショコラに戻しましょう。冒頭でもお伝えしたとおり、筆者はサロン・デュ・ショコラPart 1の開催初日にさっそく会場に行ってみました。

会場はものすごい熱気です。「チョコレートが好き」という共通の思いを持ち集った人々が幸せな一体感をつくりあげています。ついつい財布の紐も緩みます。

ここで、筆者の購入品の中から2点をご紹介します。いずれもパッケージに®マークが光る、Toreru Mediaで紹介するとしたらこれ!という商品です。もちろん味も申し分ありません。

写真の左手に写るのはイギリスのティーツリー社のチョコレートポップコーンです。隠し味に塩キャラメルが仕込まれているこの一品、甘味、塩味、酸味、そして苦味が絶妙なバランスで混じり合い、口に含むと至福のひとときが訪れます。

写真右手はエクアドルのパカリチョコレート社のチョコレートアソートです。プレーンなカカオの味が楽しめるチョコレートと様々なフレーバーのチョコレートが詰め合わされております。筆者のお気に入りはレモングラス。エスニックな香りが不思議とチョコレートにマッチしていたことに驚かされました。

さて、こんなに楽しいサロン・デュ・ショコラ、日本で開催してくれて本当にありがとうございます。これも「SALON DU CHOCOLAT」をしっかりと日本で商標登録してくれたおかげ‥と言い切ってよいかどうかはわかりませんが、このようなイベントを世界展開するにあたって、商標登録は非常に大事!ということは自信を持って言い切ってよいと思います。

2025年のサロン・デュ・ショコラは新宿伊勢丹にて2月16日まで、続きます。来年以降もきっとバレンタインシーズンに賑やかに開催されるでしょう。読者の皆さんも商標登録に思いを馳せつつ、サロン・デュ・ショコラに足を運んでみてみてください。

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