特許庁で、電子化されていない書類を閲覧請求・複写してみた~ちざ散歩Vol.04

日本の特許・商標・意匠の情報が閲覧できる、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」は拡充されてきており、今では2019年1月1日以降に出願された意匠・商標の審査・審判書類もWEBブラウザで閲覧することができます。

願書だけでなく、意見書や審判請求書、手続補正書、上申書といった「登録を目指して出願人がロジックを組み立てた書類」も簡単に閲覧できるので、知財実務の調査や研究はとても便利になりました。

また、2019年1月以前の審査・審判書類であっても、基本的には「インターネット出願ソフト」(要設定登録)を利用して閲覧請求することができます。

オンライン閲覧の概要 | 経済産業省 特許庁HPより

ただ、実はいまだにオンラインでは閲覧できない資料も残っています。意匠・商標では1999年12月31日以前の出願書類。特許庁のガイドラインでも、

(1) 書類の閲覧 (平成11年12月31日以前の出願書類)
① 閲覧の方法 特許庁の閲覧窓口で書面により閲覧請求をし、請求した事件の書類の閲覧を行います。  

第一節 出願書類等の閲覧及び交付

と明記されています。

・・これは知財データベース界の2000年問題?いや、紙でなら閲覧できる訳ですし、明治時代から連綿と続く出願書類等をいつ閲覧請求されるか分からないのに全部データベース化するのは税金の無駄でしょう。

逆に言えば、今後もデータベース化される見込みは薄く「1900年代の資料が見たければ、希望者が特許庁まで来て手続きしてね」という仕組みが続きそうです。

そこで本記事では特許庁の閲覧申請窓口に行って、実際に読んでみたい「商標意見書」を取り寄せ、複写するまでのやり方を紹介します!商標に限らず、電子化されていない書類(包袋)の閲覧を特許庁でしたい方の参考になれば幸いです。

事前準備編~調べたい書類を特定しよう

まず特許庁に行く前に、調べたい資料を特定します。

そんなの当たり前と思われるかもしれませんが、実はこの工程が一番重要。古い特許庁の資料は「閉架式」になっており、町の図書館のように自分で探すことはできません。

資料番号を指定して窓口で申請する方式なので、あらかじめどの資料を閲覧したいか決めておかなければ窓口で慌てることになります。

例として、今回私が閲覧したい資料は、登録商標『フラワー』の意見書です。

商標登録2477054号

この『フラワー』商標、なんのこともない登録に見えますが、驚くべきはその指定商品。

ここで指定されている1類 工業用粉類とは「穀物及び豆を粉にしたもの」であり、小麦粉が含まれます。(「工業用粉類」と「小麦粉類」の類似群コードは33A03で同じです。)

そして小麦粉を英語に翻訳するとFlour、すなわち『フラワー』です。

flour(意味・対訳)
小麦粉、メリケン粉、粉末、細粉

英語「flour」の意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書

つまり、この商標登録は、指定商品「りんご」に『Apple』の登録が認められているようなものなのです。そんな登録ありなのか!?

ただ、特許庁も簡単には登録査定を出してはおらず、出願から登録まで12年もかかり、その間に意見書・手続補正書・上申書など多数の資料が提出されています。

この登録の経緯を資料を見て研究したい・・のですが、出願が1980年なので電子化されていません。インターネット出願ソフトでも取り寄せは不可能。そこで、特許庁まで行き、書類の現物を閲覧することにしました。

訪問前に、J-PlatPatで閲覧したい書類をピックアップします。

黄色でマークしたのが登録の判断に影響しただろう書類たち。これらを閲覧できれば、『フラワー』商標登録の謎が解けそうです。準備ができたところで、早速特許庁に向かいましょう!

2.特許庁訪問編~閲覧請求窓口で手続きしよう

特許庁の最寄りは地下鉄銀座線の虎ノ門駅。11番出口を出て、外堀通りを赤坂方面へ向かいます。

歩いて3分ほど、特許庁が見えてきました。

霞が関の官庁街でも南端です。

国旗と並んだ、JPO(Japan Patent Office)の庁旗がまぶしいです。

左側の正面入り口から入ります。守衛さんが立っているのですぐわかるでしょう。なお、入場には簡単な荷物チェックと身分証明書の確認が必要です。私は運転免許証でOKでした。

中に入って右手にはエレベーターがありますが、これは使う必要なし。目当ての窓口は1Fです。

通路を右に曲がると2Fの公報閲覧室に続く階段が。「閲覧だから2Fだよね」と思いがちなのですが、これも罠。私も上ってしまったのですが、公報閲覧室で見れるのは電子化された資料のみ。紙でしか保管されていない商標出願書類等は見ることはできません。

ではどこに行けばいいかというと、右手にある「出願課」が正解。

ぱっと見、出願にしか対応していなさそうなのですが、入って右奥の部屋に「閲覧・証明」カウンターがあり、そこで閲覧請求ができるのです。

ただ、室内は撮影禁止。そのため、窓口でもらった申請書類だけ紹介します。

右側が「閲覧請求書」、こちらに閲覧したい書類の種類、番号と請求人の住所・氏名を記載します。

閲覧対象となる「出願包袋」には願書・拒絶理由通知書・意見書といった審査系書類がセットになっており、閲覧料は包袋一式で1500円。1書類ごとに課金されたらすごくお金がかかるな・・と心配していたので一安心です。

ただ、審判・異議書類の包袋は別。今回は「出願包袋」と「審判包袋」の2種類を取り寄せたので合計3000円でした。

支払いは特許印紙になるのですが、出願課を出て右手の「販売所」で購入することができます。このあたりの手順は窓口の職員さんが親切に教えてくれたので、まごつくことはありませんでした。

購入した印紙を貼り付け、閲覧・証明カウンターに戻って閲覧請求します。

ここで注意したいのが書類は即日出してもらえる訳ではないということ。書庫から引き出して窓口まで届けてもらうため、数日かかります。

書類が揃ったら連絡してもらえるのですが、私の場合、金曜日の午前中に申請し、翌月曜日の午後には「揃いました」とすぐに電話いただきました(2023年11月時点)。

なお、出願課への通路には初代商標登録所長・専売特許所長である高橋是清像が飾られています。

高橋是清氏は日本の商標・特許制度を立ち上げた最重要人物。敬意を込めてお参りしておきました。

初代特許庁長官高橋是清について

特許庁再訪問編~取り寄せた包袋を複写依頼しよう

閲覧請求した書類が準備できると特許庁から電話がかかってきますが、その時いつ閲覧に来れるか質問されます。あらかじめ閲覧に行けそうな日を決めておくと良いでしょう。窓口は平日9時~17時(土日祝日は休み)となっています。

数日ぶりにまたやってきました。

前回見た高橋是清像の反対側には、「偉大な日本の発明者」の展示があります。自動織機の豊田 佐吉氏、養殖真珠の御木本 幸吉氏ら錚々たるメンバー。せっかくの訪問、見学するのもいいでしょう。

ぐるっと回り、先日と同じ「閲覧・証明」カウンターへ向かいます。

ここで届いた包袋・・をお見せしたいところなのですが、室内・紙包袋ともに撮影禁止。そこで閲覧がどんな様子だったかを簡単に紹介します。

  • カウンターで「閲覧でお願いしていた〇〇です」と名前を言うと、倉庫から取り寄せた包袋を出してくれる。時間を伝えていただけあり、スムーズに対応してもらえた。
  • 包袋はその名の通り紙の封筒。「出願書類」と「審判書類」で別々の封筒だった。出願書類の方はA4の書類を縦に2つ折りにして、長封筒に収めてある。審判書類は折らずにA4サイズの大封筒に入れてあった。
  • 閲覧はカウンター前のデスクで行う。ノートやペンは持ち込みできるので、書類を閲覧しながらメモを取ることは可能。なお、封筒へ原状復帰して返却するため、書類がバラバラにならないように注意。
  • 書類のコピーはできるが、自身でコピーする形ではない。備え付けの複写申請用紙で、書類番号・ページ範囲・白黒かカラーかを指定し、業者に依頼する方式。

ついに包袋を閲覧できましたが、手書きでメモするには限界が。複写申請を行います。

こちらが複写申請用紙。申請用紙が書けたら、いったん特許庁に包袋を返却し、別窓口の「複写コーナー」に向かいます。下画像の“相談者専用”看板の右奥が「複写コーナー」でした。

前回印紙を買った「販売所」の並びにあるので、現地ではすぐにわかるはず。

こちらが複写の料金表。ぱっと見て「白黒1枚32円かー、高いなあ」と思ったのですが、それは持ち込み書類の場合。

特許庁保管書類(包袋)の場合、もっと高くて白黒5ページまでの基本料金が407円、追加は1枚あたり81円です。カラーは1枚114円。マジか・・・。調子に乗ってコピーする範囲をたくさん指定してしまいましたが、もう後には引けません。

当日は先に依頼した人がいて、コピーする量も多いため完了まで数時間かかると言われました。午後から予定がありそんなに待てないな・・・と困ったところ、郵送もできるとのこと。

郵送では送料が別途加算。支払い方法も同梱される請求書をもとに銀行振込又は郵便振替になるので、手間は多少かかるのですが、3回目また訪問するよりは各段に楽。有難いサービスです。

この日は郵送をお願いし、複写コーナーを後にしました。

おわりに~「特許庁食堂」も要チェック!

無事に包袋の閲覧・複写申請も終わったところで、何だかお腹が空いてきました。30分ほど時間があるので、お昼にすることに。

特許庁の地下には2つの食堂があり、実は職員でなくても利用が可能です。

地下への階段を下りて、左手にあるお店が『第二食堂 ながとも』。

メニュー的には定食のほか、油そばやつけ麺にも力を入れているようです。

大盛・特盛はもちろん、追い飯の設定もあり、ガッツリ行きたいときは重宝しそうですね。審査官も書類の読み込み前にはここでパワーを付けているのでしょうか。

もう1軒は第一食堂の『BONO』。

看板にあった『JPOランチ』という名前にそそられます。今日は『BONO』にしてみましょう。

食堂入り口には写真入りのメニューが。JPOランチは680円と最も格上で、名前負けしていません。メニューは色々ありましたが、バリューランチなら560円とかなり良心的な価格ではないでしょうか。

食券を買い、カウンターに差し出して料理を受け取ります。

来ました!これがJPOランチです。今日は油淋鶏でした。定食なら選べる小鉢が2つ付いてくるのも有難いですね。

味は揚げたてでサクサク、脂の旨みをダイレクトに感じられる正統派の油淋鶏でした。中はお昼時ということもあり、中はほぼ満員。相席で食べている方も多かったので、職員食堂として愛されていると感じました。

うーん、満腹になりました!

1Fの入口には特許庁スタンプも。見学に来ている学生さんも多く、開かれた特許庁を目指しているのかなと感じました。

・・・電子化が進んだことにより、特許庁で手続きをする機会は激減していますが、今回紙包袋の取り寄せで訪問して、展示や食堂など意外な楽しさがありました。もし機会があれば、是非こちらのレポートを参考に訪問してみてください!

そして後日郵送で送られてきた『フラワー』の意見書のコピーについては、別記事にて、登録までの戦いの歴史を紹介したいと思います。

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