売上倍増!知財から見るワークマン快進撃のヒミツ~ちざ散歩 Vol.10

近年急成長したアパレルチェーンといえば、ワークマンです。チェーン全店売上高が797億円(2018年3月期)から1752億円(2024年3月期)へと、6年間で約2.2倍になっています。TVニュースで特集されたり、新業態である『#ワークマン女子』をショッピングモールで見かけたりということも増えました。

ワークマンの歴史は1980年、群馬県伊勢崎市に「職人の店 ワークマン」1号店が開業したことから始まります。ワークマンは個人向け作業服・作業用品の専門店に特化し、2017年に全国800店舗まで成長しました。
歴史・沿革 – ワークマン公式サイト

ここまでは堅実な成長だったのですが、転機になったのは2018年に新業態『ワークマンプラス』をオープンしたことです。この『ワークマンプラス』は職人専門店というこれまでのワークマンのイメージを一新させ、「高機能・低価格のアウトドア&スポーツ専門店」という切り口で一般人にも訴求しました。

商品の販売先が大きく広がったからこそ、ワークマンは短期間で売上が倍増したのですが、「売り先の拡大」は普通は簡単なことではありません。ワークマンは取扱商品がもともと「高機能・低価格」であり、一般ユーザーにも広く受け入れられる素地があったと言われていますが、その商品価値を伝えるための様々な工夫があったはずです。

商品が溢れる時代、「良いものだから売れる」訳ではありません。ターゲットへの効果的なアピールを伴わなければその価値が伝わることはないのです。

『らーめん才遊記』9巻、第88杯「濃口ラーメン・解!!」より

知財は企業の競争力を高め、差別化の武器になると言われています。そこで本記事では実際の店舗を訪れ、ワークマンの知財を確認しながら、その急成長の理由に迫ります。

1、ワークマンの店舗構成は?

店舗に向かう前に、現在のワークマンの売上構成比を見てみましょう。決算資料に、業態別の売上高を比較した開示がありました。

株式会社ワークマン – 2024年3月期 決算説明会資料13Pより

『ワークマンプラス』が51.5%と、『ワークマン』を超えて最大シェアとなっています。また2020年から店舗展開をスタートした『#ワークマン女子』も6.2%を占めています。

さらに店舗数も確認すると、

2024年8月度:1,019店舗(内訳:ワークマン 367店舗・ワークマンプラス 588店舗・#ワークマン女子 54店舗・ワークマンプロ 10店舗)
月次報告 – ワークマン公式サイト

と、やはり『ワークマンプラス』が最大勢力になっていることがわかります。この『ワークマンプラス』ですが、

商標第6153372号

2018年6月に商標出願、登録されていました。さらに当時の資料を探してみたところ、「ららぽーと立川立飛」に第1号店舗を展開するにあたっての、コンセプト説明もありました。

2019年3月期 第1四半期決算説明会17-18Pより

この資料で興味深いのは、第1号店舗から『ワークマンプラス』が狙う市場が明確であったことです。それはすなわち「低価格、機能性」市場であり、国内外のスポーツブランドは機能性は高いが高価格である。また、国内外の製造小売とはデザイン性で負けても、機能性では勝てるという戦略でした。

ただ、いきなり「低価格・機能性」だとアピールしても、これまで接点がない一般ユーザーにとっては「いや、作業着でしょ?」となりそうです。そこでフックになるのが、3つのメインブランドです。

先ほどの会社資料でも『FieldCore』、『Find-Out』、『AEGIS(イージス)』が機能性ブランドの柱として紹介されていましたが、全てしっかりと商標登録されていました。

ここで興味深いのは、3ブランドともに、商標登録の時期が2016年と『ワークマンプラス』の開店2年前であることです。すなわち、まずは3つの機能性ブランドが立ち上がり、これらのブランドを一般ユーザーに広く訴求していくべく『ワークマンプラス』という業態ができたという、商品ブランド主導型の店舗展開だったといえるでしょう。

これらを踏まえて、まずは『ワークマンプラス』の店舗に向かいます。

2、『ワークマンプラス』に行ってみよう

やってきました、『ワークマンプラス』。看板にはさきほど確認した登録商標と同じロゴが掲示されています。

機能性3ブランドのロゴも入口に掲示され、しっかりと訴求されています。中で商品を確認してみましょう。

まず目についたのは『Find-Out』のシャツです。

ワークウエア由来の優れた機能性とスポーティなデザイン、そして動きやすい素材を掛け合わせたオリジナルブランドです。

一般的なスポーツブランドの約1/3の価格を目指して開発しています。自社ブランドのなかでも特に気軽に手に取れるロープライスを追求しており、①生産から販売まで一貫して行うこと②工場閑散期における大量生産を行うことで低価格を実現しています。

現場作業はもちろん、ジョギング、ウォーキング、ジムでのトレーニングにも。ブランドロゴは「躍動感・しなやかさ」をイメージしています。

ファインドアウト (Find-Out) | ワークマン公式オンラインストア

価格には特に自信があるブランドとのことで、令和の時代に1枚580円は、確かに他のスポーツブランドの追随を許さない低価格です。

登録5889213号

ロゴデザインも『Find-Out』の文字とは別に、商標登録されていました。他社の模倣を防ぐという観点では、ロゴと文字を別々に登録したほうが権利範囲が広くなり、防衛しやすくなります。そのあたりもしっかりと考慮されていますね。

 

『FieldCore』ブランドの製品もありました。

FieldCore(フィールドコア) は、プロ職人に認められたワークウェアの品質と機能性にアウトドアデザインをプラスしたブランドです。
“WORK & OUTDOOR”を企画開発のコンセプトに掲げており、現場作業でお使いただけることを絶対条件として、そこからアウトドアやタウンユースへと派生していきます。
また、常に機能性の革新・追求を続けており、一部を挙げても「立体裁断」「防虫」「防融」などがこのブランドから生まれています。ブランドロゴは「山」をイメージしています。

フィールドコア (FieldCore) | ワークマン公式オンラインストア

こちらもタグを見ると、ブランドロゴ以上に「機能性」がアピールされています。「吸汗速乾」、「UVカット」、「クライミングカット」、「2WAYストレッチ」、「FLAMETECH」などなど。

特に大きくタグに表示され、®マークもある「FLAMETECH」について調べてみると、

登録6439769号(2020年12月出願)

2020年代、『ワークマンプラス』が全国に広がってからの商標登録でした。これはファッションブランド名だけでなく、機能性自体にも名前を付け、ワークマンの独自ブランド化していこうという戦略なのでしょう。

同じ『FieldCore』ブランドでも「FLAMETECH」機能の有無で1900円と2900円、1000円の価格差があります。もともとの価格が安いので、結構な差なのですが、

FLAME-TECH®(フレイムテック)ー防融ー

「FLAME-TECH®(フレイムテック)」とは、耐熱性のある樹脂の被膜を作ることで、生地の溶解を遅らせ、火の粉等の飛び火による穴あきがしにくくなるのが特長の機能です。

FTR001 フレイムテック(R)マウンテンレインパーカー | ワークマン公式

明確な機能の説明があるために、納得感がある価格差になっています。

そのほか、『AEGIS』ブランドのレインスーツもありました。上下で4900円と他のブランドより少し高めですが、「絶対的な防水性能を備えた、“本格派”機能性ウェア」ということで、こちらもそれだけの価値はあるようです。

タグでも「耐水圧」、「透湿度」、「3層構造生地」といったレインスーツに求められる機能をしっかりと訴求していました。

 

3ブランド以外の商品でも、店内のバナーや商品パッケージでしっかりと機能性がPRされています。試しに「放熱冷感」の長袖シャツを買ってみましたが、素肌に触れるとひんやりと冷たく、また長袖で胸ポケットもついているので、クーラーをつけて寝る夏の寝間着にもよさそうでした。

これで580円は安いですね。「低価格、機能性」の立ち上げ時からのブランドコンセプトがしっかりと維持されています。

女性向け衣料コーナーには『#ワークマン女子』の表示もありました。

古いワークマンにはやはり「プロ御用達、女・子供はお断り」というイメージがありますから、市場開拓という点ではまだまだ可能性がありそうです。

一方で、職人向けのプロ道具コーナーもしっかりとありました。幅広いターゲットに訴求できるのが『ワークマンプラス』の強さといえそうです。

3、元祖『ワークマン』にも行ってみよう

新業態『ワークマンプラス』の快進撃ばかりが注目されていますが、昔ながらの『ワークマン』も全国に367店舗あります(2024年8月現在)。こちらにも行ってみましょう。

看板はカタカナで『ワークマン』。何かほっとします。

 

看板ではブランド名より「取り扱い商品」をアピールしており『ワークマンプラス』と対照的です。入口では「ファンウェア」が紹介されていました。これは小型扇風機付きの作業着・スポーツウェアのことで、気温上昇が進む昨今、注目されています。

ワークマン空調ウェア

中に入ると、正面の目立つところにファンウェアコーナーがあります。ちなみに『空調服』は(株)セフト研究所/(株)空調服の登録商標(4871177号他)で、一般名称ではありません。

ワークマンでも『空調服』の取り扱いはあるのですが、プライベートブランドとして『WindCore』シリーズの展開もしています。

【ワークマン】最新ウィンドコアファン付きウェアの使い方を徹底解説!【公式】

こちらのブランドも調べてみたところ、商標登録はあったのですが、登録名義が株式会社ザックコーポレーションになっていました。

登録第6186496号

株式会社ザックコーポレーションは岡山県倉敷市の会社で、デニムワークウェアの企画提案型製造・販売メーカーであり、近年はファン付き空調ウェア・ヒーターウェアも取り扱っているそうです。

すなわち『WindCore』は(株)ワークマンのブランドではなく、あくまでザックコーポレーションのブランド商品なのですが、調べてもワークマン以外で売られている所はありませんでした。

通常、OEM商品は販売メーカー側が商標を押さえることが通例なのですが、ザックコーポレーションの開発元としてのスキルや関係性に基づき、『Wind Core』はザックコーポレーションブランドの販売委託商品でありつつ、契約で「ワークマン独占販売」となっているのではないでしょうか。

取引先メーカーと上手にタッグを組めるワークマンの懐の深さを感じました。

なお、『WindCore』は夏用だけでなく、冬にはヒータージャケットも出ています。

ワークマンが世界初の「着るコタツ」ジャケットを発売─電熱ヒーター内蔵でコート無しでも暖かい | 知財図鑑

夏冬ともに使える「ICE×HEATERペルチェベストPRO」も出ており、これからの技術進化に注目です。

さらに店内を見てみると、先ほどの『ワークマンプラス』で見かけた商品もたくさん販売されていました。

 

 

『FieldCore』『Find-Out』『AEGIS』、3ブランド揃い踏みです。

品数・色数の品揃えには多少違いがありますが、売っている物自体は共通。店舗の業態を増やしても売るものが一緒ということは、製造時のボリュームディスカウントも効きやすいということで、ワークマンの低価格の秘密はここにありそうです。

 

一方で『ワークマン』らしく、プロ仕様の商品は『ワークマンプラス』より充実していました。俺は「力王たび」しか使わない!といった職人さんでも安心できそうな品揃えで、店舗ブランドを分けている意味を感じます。

さて、最後は『#ワークマン女子』に向かいましょう。

4、男子にも刺さる?『#ワークマン女子』の計算

『#ワークマン女子』は、2020年10月に横浜市桜木町の「コレットマーレ」に第1号店が開店したワークマンの新業態で、その名の通り女性客をメインターゲットにしています。

もともと「#ワークマン女子」はSNS上で自然発生的に使用されるようになったハッシュタグで、ワークマン公式アカウントも注目し、2019年頃から積極的にPRされるようになりました。

#ワークマン女子 は何故流行したのか。作業服のイメージを覆す「ブランディング」戦略 | 口コミラボ

商標を確認すると、

登録第6341316号(2020年1月出願)

と、店舗オープンと同じ年に出願されています。新たに取り込みたいユーザーがすでに盛り上がっている「#ワークマン女子」というキーワードを店舗名自体に取り入れ、注目を集めるというのは非常に上手いマーケティングといえるでしょう。

さて、今回は日本最大のショッピングモール、越谷イオンレイクタウンにある『#ワークマン女子』にやってきました。

 

 

店頭からキレイ目、色調もおしゃれで、SNSにアップする用のフォトスポットもありました。先ほどの『ワークマン』とはなかなかの落差です。

商標目線では、興味深いことにイメージキャラも商標登録されていました。

商標第6478057号(2021年3月出願)

名前は「わく子」というそうで、店ごとにぬいぐるみ、パペット、フィギュアなど仕様が違う人形がいる模様。『#ワークマン女子』のブランドシンボルになっていますから、商標登録しておくことも頷けます。

さらに店内を見て回りましょう。

 

 

第一印象は「全然違う店だな」と感じたのですが、商品をよく見ると、機能性3ブランドのロゴが・・・これ、『ワークマンプラス』や『ワークマン』の取り扱い商品と同じやつだ!

価格も他店舗と同じです。これは「妻や彼女の付き添い」のつもりで店舗を訪れた男性客も、その安さや機能性に惹かれて、ついつい自分のものを買ってしまいそうな設定ですね。

カラーバリエーションはより豊富ですが、業態が違っても販売商材を共通にすることで低価格が維持できる、ワークマンの強みを再確認できました。

衣類以外で『#ワークマン女子』で充実しているのは、アウトドア商品です。

 

中でも『FieldCore』ブランドの「アルミ燃え広がりにくいローチェア」が気になっていたのですが、先に訪れた2店舗では売り切れだったので、お土産に1つ買ってみました。

こちらは全長約370センチとリュックに気軽に放り込めるコンパクトさ。座面シート、フレームと収納袋がセットになっており、重量は約1300グラムと、椅子にしてはかなりの軽さです。

組み立ててみると、安定して座れます。キャンプだけでなく、公園にちょっと持って行ったり、長時間動かない列に並ぶのに使ったりもできそうで、良い買い物ができました。

調べてみたらこちらの商品、コンパクトに折りたためるフレーム構造に特許もありました。

特許第7161009号

2024年8月時点で、株式会社ワークマンの特許文献は12件と少なめでしたが、うち11件が2020年以降の出願でした。独自の機能性がある商品開発を進めるなかで、オリジナルな構造・機構について模倣されないように特許を取得するようになったのでしょう。

ワークマン商品の機能性、さらなる進化にも期待できそうです。

おわりに:これからのワークマン、どこに向かう?

今回、ワークマンの3つの店舗を回って感じた強み、そして急成長の原動力についてまとめてみました。

ただ2022年以降、ワークマンの成長は鈍化しており、23年3月期・24年3月期と減益が続いています。原因は急激な円安、原材料費の高騰とされていますが、これからも成長が継続できるのか、懐疑的なネット記事も掲載されています。

なぜワークマンの勢いは止まったのか…「ワークマン女子の強化」を危険な賭けと評価せざるをえない理由 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

例えば上記記事では、ファッション衣料と作業服の共存戦略自体がすでに限界を迎えており、「一部商品だけを共通化し、それ以外の大部分の職人向けと一般向けを独立させることが最適解では」と論じられています。

これに対しての私見ですが、確かに共存戦略には限界があるものの、職人向け・一般向けを独立させれば生産効率が落ち、ワークマン最大の強みである「機能性・低価格」がぐらつきかねません。

近年の成長スピードがあまりにも早すぎたのだから、ここはじっくりワークマンの魅力である「機能性・低価格」をさらに磨き、まだ『ワークマンプラス』に訪れたことがない見込み顧客にその価値をPRしたほうが無理がなく、「ワークマンらしさ」が保たれるのではと考えます。

一方、記事で疑問を呈されている「#ワークマン女子」の積極的出店は、確かにリスクもあると感じました。すなわち、ファッション衣料はトレンドの移り変わりが早く、季節の移り変わりで値引き販売することが通常です。しかし、低価格を維持するために円安でも価格を据え置いたワークマンで値引き販売商品が増えることは、さらなる営業利益の低下を招くのではという不安です。

この点は、円安がどこで止まるかや、『#ワークマン女子』の出店が増えることで1商品当たりの発注数が増え、ボリュームディスカウントが効きやすくなること。また、徒に品数を増やすのではなく、1つ1つのブランドの特性をユーザーにより理解してもらい、単品効率を上げることが鍵になるように思います。

その時の武器は、やはり「機能性・低価格」で、特に「機能性」のPRはさらに伸ばす余地があるように感じました。何といっても『ワークマンプラス』が最初にできたのは2018年、たった6年しか一般人がワークマンの店舗で商品を買う習慣はないのです。

私も今回店を訪れるまで、「価格が安い」というイメージはあっても、「機能性が高い」というイメージはありませんでした。ただ、実際に商品を買ってみて、その使いやすさに感心し、また訪れたくなりました。このような「商品価値・ブランド価値への共感」が広がれば、ワークマンの成長余地はまだまだあると感じています。

本記事で取り上げたさまざまなブランドの商標登録のほか、ワークマンでは「ファン対応ウェア」系の特許出願が近年増えており、研究開発も強化している様子です。

特許7503032

これらは「機能性」の価値向上の一環と言えるでしょう。さらなるワークマンの進化から、目が離せません!

Toreru 公式Twitterアカウントをフォローすると、新着記事情報などが受け取れます!

押さえておきたい商標登録の基本はコチラ!