外食で楽しみなのは、やはりその店ならではのオリジナルメニューでしょう。
マクドナルドなら、ビッグマック®。
スターバックスなら、フラペチーノ®。
蒙古タンメン中本なら、北極ラーメン®。
特に外食チェーンでは、看板メニューの名称を商標登録し、他社が使用できないように防御していることが通常です。
ただ、このメニュー名の商標登録については、「お店の料理メニューに登録商標を使用した場合、それは『43類:飲食物の提供』についての商標の使用といえるのか?」という議論があります。
各社の商標登録は効果的だと言えるのでしょうか?
そこで本記事では、メニュー名と商標に関する裁判例を紹介しつつ、後半では登録商標が多い「コメダ珈琲店」に実際に行き、その使用例や登録の効果を考えます。
1、理論編:メニューへの商標の使用、侵害になる?ならない?
メニューに登録商標を表示した際に「商標の使用とはならない」という見解は、
- たとえメニュー表に登録商標が書いてあっても、お客さんは「単なる料理名」と認識するだけであり、商標の識別機能が生じない。
- 商標法2条3項3号で規定しているのは「役務の提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」であるが、メニュー表に1料理の名称として記載されているだけでは、「利用に供するもの」に標章を付したとはいえない。
- お客さんはすでに店内にいるため、「誰がそのメニューを提供しているか」は明らかであり、その登録商標の使用によって他人の“飲食物の提供”と混同しようがない。
あたりを根拠とし、以前は有力な考え方でした。「商標の使用ではない」という結論であれば、メニューに登録商標を使用しても商標権侵害とはならず、差止や損害賠償の責任を負うことはありません。
ただ、近年では「メニュー名に商標を付すことは、商標の使用として侵害になる場合がある」と考えるのが主流となっています。参考になる裁判例として、「皇朝事件(東京地裁 平成26年(ワ)第11616号)」があります。
これは、銀座で中華料理店を営んでいる被告が、「皇朝小籠包」と表示したランチメニューやスタンドメニューを掲げていたところ、これに対して「皇朝」の商標権者が原告となり、商標の使用停止や抹消、損害賠償請求を求めた事件です。
登録商標5078407号(指定商品に43類:「飲食物の提供」を含む)
2つの商標の類否ですが、裁判所は
被告は、被告店舗において「皇朝小籠包」とのメニューを表示していたことがあり,このうち「小籠包」の部分は商品名を表すものとして出所表示機能はなく、識別力を有するのは「皇朝」の部分にあるものと認められるから、 同メニュー表示は、原告商標1と類似するというべきである。
として、「皇朝」と「皇朝小籠包」の商標の類似は認めました。
ここから本題の、メニューに商標を付す行為が「商標の使用になるかどうか」という話です。裁判所は、
この「皇朝小籠包」については、被告店舗で供されるメニューに表示されており・・・、このメニュー表示は、中華料理の提供を行う被告店舗において役務の提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為であり、法2条3項3号にいう商標の使用に該当するものと認められる。
そうすると、被告店舗における「皇朝小籠包」とのメニュー表示は、原告商標権1の侵害に当たる。
として、明確に「商標の使用に該当する」と判示しました。
・・この判断からすると、原告が差止や損害賠償金を勝ち取れたように思えるのですが、実はそうではありません。裁判所は、損害の発生がないとして、差止・損害賠償請求を認めていません。その判断部分がこちら。
被告店舗において用いられた「皇朝小籠包」とのメ ニュー表示のうち、「皇朝」の部分そのものには顧客吸引力が認められず、「皇朝小籠包」との記載が被告店舗内で使用されている限り、当該標章の使用が被告店舗における売上げに全く寄与していないことは明らかであり、その使用によって原告に損害が発生しているものとは認められない。
何故、顧客吸引力がないと裁判所が認定したかといえば、
- 「皇朝」は「我が国の朝廷」との意味を有する普通名詞であり、もとより「皇朝」の部分の自他識別力は極めて弱い。
- (被告は「乐天皇朝」を商標登録し、店舗のリーフレットにも使用する者であるから)、「皇朝小籠包」が被告店舗内で使用される限り, 需要者である顧客は、「皇朝小籠包」との表示はあくまで被告店舗である 「乐天皇朝」の「小籠包」の意味で使用されていると認識するにすぎない。
- 原告は「皇朝」商標を「横浜中華街」や「中国料理世界チャンピオン」との表示と共に使用することが多く、ウェブサイトの記載も「横浜中華街」や「中国料理世界チャンピオン」を強調するものになっている。
を根拠としています。
この裁判例からの学びですが、
- メニューに商標を付す行為が、一律に「商標としての使用ではない」と侵害を否定することにはならない。侵害になる場合も当然ある。
- ただ、メニューは店内で提供されるものであるから、メニューに第三者の商標が使用されていても需要者(お客さん)は「その店の〇〇」というように理解しやすい。全く誤認混同しないようなケースで損害賠償や差止を認めるべきではない。
- 裁判所は、そのメニュー名が一般名称かどうかや、原告自身の商標として認知されている(そして顧客吸引力が生じている)かどうかも、侵害の成否の判断基準としている。
の3点が導かれます。
この判断の応用編として、例えば「ご当地料理」として一般に知られ、複数の業者が提供しているメニュー名について「発祥のお店」が商標登録したとしても、②③の要素により、他の業者でのメニューへの使用を差止めすることは難しい・・という判断に繋がりそうです。
こちらも参考:【ひつまぶし・ベトコンラーメン】「名古屋めし商標」の権利範囲を、実食しながら考えた ちざ散歩Vol.01 | Toreru Media
ともあれ、「商標登録されたメニュー名を、第三者が自らのメニューに無断使用した場合には商標権侵害になり得る」と言えるでしょう。
2、実践編:コメダ珈琲店で「商標メニュー」を食べよう!
裁判例が理解できたところで、次はフィールドワークです。メニュー名を商標登録している飲食店はいくつもありますが、特に(株)コメダが運営する「コメダ珈琲店」は積極的に知財を活用していることで知られています。
知財活用企業紹介 株式会社コメダ 広報誌「とっきょ」2019年12月9日発行号 | 経済産業省 特許庁
全国約990店舗(2024年8月時点)、台湾・中国・インドネシアなどにも展開する一大喫茶チェーンなのですが、私はこれまで行ったことがありません。
デカ盛り喫茶店とか、注文を間違えると腹パンで1日なにも食べれなくなるとかの噂を聞いて、なかなか勇気が出ず・・。
しかし今回、商標メニュー探訪のため初訪問します!
今回、家からほど近くにあったロードサイドのお店へ訪問しました。
コメダ珈琲店といえば山小屋風のデザインですよね。実はこのデザイン、立体商標登録されています。
2016年には不正競争防止法に基づき、(株)コメダがコメダ珈琲店の類似店舗に対し店舗使用差止の仮処分命令を求め、裁判所が請求を認めた事件もありました。
店舗に入る前からコメダのブランディングは始まっているのです。
入り口には店舗のミニチュアも飾られていました。「ナノブロック コメダ珈琲店」として一般発売もされていたようです。これはちょっと欲しくなりますね。
10時過ぎと朝・昼のピークタイムをずらしたのが奏功してか、入店後、数分で席に座ることができました。早速メニューを確認します。
名古屋発祥の企業らしく、モーニング推しですね。モーニングサービスとは、朝方に喫茶店でコーヒーなどのドリンクを頼むと豪華な朝食セットが付いてくるという、名古屋エリアで盛んなサービスです。
コメダ珈琲店では全国展開するうえで、
「朝コメ」の商標も登録し、モーニングサービスの認知を拡げているようです。
定番でいえばホットコーヒーなのですが、私はちょっと苦手。他のコメダらしいメニューはないか探してみたところ・・
「ジェリコ 元祖」なるメニューがありました。スマホで調べてみると商標登録もあります。
ジェリコにモーニングサービスをつけましょう。
他のフードを探してみます。シロノワールはソロでは討伐無理と聞いているので自重しつつ・・
コメチキも商標登録されている看板メニューなんですね。合わせて注文し万全の布陣。後は到着を待つばかりです。
最初に来たのは、
・・いやいや、君なんか写真と違わない?
・・・メニュー写真だとパースがかかって小さく見えるんですね。実物より小さく見えるメニュー、初めて見ました。
コメダの洗礼に焦っていると、続々と襲来。
モーニングサービスの食パン&小倉あんセット。
そしてコメチキ!
・・いや、君たちもなんか大きいのよ。
ともあれ実食することにします!
クリームを混ぜて…飲むと、おー、結構苦い!激甘を覚悟していましたが、意外なビターさ。メニューを見ると、
コーヒージェリーとアイスコーヒーを組み合わせて仕上げにホイップをのせた、ほろ苦い大人の飲むスイーツ
とあります。スターバックスのフラペチーノ®系の甘さとは一線を画してますね。ただ、なかなか減っていきません。そういえばトーストが・・
うん、ふわサクで美味しいです。ここに小倉あんを・・
おー、ジェリコの苦みがうまいこと中和されます!!これなら飲み進められそうです。
さらにコメチキも。
よくあるナゲットとは一線を画するジューシーさ、揚げたてです。そして1個1個がでかい。ローソンの「からあげくん」の2倍近くあるでしょうか?あっちが君なら、こっちはコメチキさん。むしろ様をつけた方がいいかもしれません。
アツアツをジェリコで中和しつつ・・
食べ進んでモーニング&コメチキ完食!初コメダにして、いい塩梅で注文できました。
コースターにも®️マークを見つけました。
こちらは「中世のヨーロッパ紳士がコーヒーを飲んでいる姿」をデザインしたという公式ロゴで、「コメダおじさん」と愛称されているとか。
「コメダおじさん」、公式の呼び名なんですね。
読書しながら、しっかりジェリコも完飲しました!
3、おわりに:どうしてメニューを商標登録するのか?
さて、そろそろお昼になりそうなので退店します。改めてメニューのコンセプトページを見返します。
どちらのキャッチフレーズも商標登録済みでした。
振り返ると、コメダ珈琲店は店舗名はもちろんのこと、店舗形状(立体商標)、オリジナルメニュー名、公式ロゴ、キャッチフレーズと幅広いワード・ロゴを商標登録していました。
その目的ですが、お客さんの「くつろぎ」こそがコメダ珈琲店が提供したい価値であり、そのために店舗という舞台装置と、オリジナルメニューという小道具が上手く合わさって機能している。
これらコメダ珈琲店ならではの「価値の構成要素」をもれなく商標登録しておくことで競合の模倣を防ぎ、また自分たちが誇るオリジナリティだと社内外にしっかりとPRできるようにする。
・・つまり、コメダ珈琲店は「メニューの商標登録」だけにこだわっていたのではなく、より広い視点で、「自分たちのオリジナルの価値」につながる構成要素たちを商標登録しており、その中にオリジナルメニューが含まれていたという構造だったのです。
このような堅固な商標ブランディングがあるからこそ、コメダ珈琲店は日本中に広がり、さらに世界にも飛躍していったのだと感じました。
次はお腹の具合と相談しつつ、看板商品のシロノワールにも挑戦してみたいと思います!