皆さんは「桃太郎電鉄(以下、桃鉄)」をご存じですか?プレイヤーが各地を巡り、物件の購入などを通じて資産を増やすゲームです。今回は、桃鉄をプレイして世界を巡りながら、世界各地のユニークな知的財産権(以下、知財権)について探究してみましょう。地球は知財権であふれてるのか?確かめていきます。
それでは、知財権の世界旅行を始めましょう!
目次
1.フェニックス(アメリカ)~太陽の谷~
まずはアメリカ。世界の知財権を紹介する上で欠かせない国です。
アメリカは18世紀の建国当初から特許制度を導入し、産業発達を図ってきました。アメリカ合衆国第16代大統領であるエイブラハム・リンカーンは
『特許制度は、天才の火に利益という油を注いだ(The patent system added the fuel of interest to the fire of genius)』
という言葉を残すとともに、実は発明者として船に関する特許も取得。歴代大統領の中で唯一特許を取得した人物であり、特許業界の小ネタとして度々語られています。
US6469:Buoying vessels over shoals
発明者:Abraham Lincoln 出願日:1849.3.10
現代でもシリコンバレーのようなイノベーションの中心地では日々新しい発明が生まれ、例えばアップル社の iPhone などは、数多くの特許権に支えられています。
さて歴史の話はこれくらいにして、桃鉄をプレイしていきましょう!
西海岸のどこかに行こうか・・・以前一人旅で訪れたサンフランシスコがいいな!などと考えゲームを進めていたところ、なかなかアメリカが目的地にならない。紹介する順番を変えた方がいいか?いや、最初はやはりアメリカじゃないと・・などと葛藤しながらゲームを進めていき、ようやくアメリカへ。
ラスベガスのカジノで25億円を当てつつ最初に辿り着いた物件駅は、砂漠の地、アリゾナ州フェニックス。「太陽の谷」の愛称で親しまれている都市です。
「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」より引用
サボテンから半導体まで、様々な物件がありますね。「アメフトチーム」は、アリゾナ・カージナルスでしょうか。購入する持ち金はあるものの、収益率はまさかの2%。さすがに購入は見送りました。
さて、物件に関連した特許権でも探してみましょう。
半導体や太陽電池関連は特許権がひしめき合っている分野だし、ここで特許を1件紹介したところで面白みに欠ける・・何より内容が難しそう。
そこで今回は、サボテン関係の特許権を紹介します。実際にフェニックスを訪れたことがあるのですが、至る所にサボテンが生えていたのが印象的です。
ホテル前で出迎えてくれた大量のサボテン。かわいい。(2019年 筆者撮影)
道路にも大きなサボテン。(2019年 筆者撮影)
さすが「太陽の谷」。短い滞在でしたが、一生分のサボテンを楽しみました。
さて、サボテンの育成方法や調理方法に関する特許が出てくるのか?データベースをたたいてみると、こんな案件が見つかりました。
【特許権】サボテンバーナー
US630823:Cactus-burner.(Espacenetリンク)
出願日:1899.3.1
あぁぁああっ!
サボテンを燃やしている。平べったく、どこか可愛げのあるサボテンを、おじさんがよそ見しながら燃やしている!利益という油が注がれた天才の火で、サボテンを燃やしている…!!
本件はサボテンバーナーに関する特許であり、テキサス州在住の発明者によって出願されています。テキサス州西部にはチワワ砂漠(Wikipedia)が広がっていることから、もしかしたら近くの地域に住んでいて、サボテンを燃やすお仕事をされていたのかもしれませんね。
大国を後にし、次はフランスへと向かいます。
2.リヨン(フランス)~美食の町~
次に訪れたのは、フランスのリヨン。美食の町として有名なことから、桃鉄の物件も食べ物系が多いです。
「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」より引用
実に安価に買占めが可能で、且つ収益率が高い!ゲームの序盤で訪れることができたら嬉しい駅ですね。
ザリガニに関する特許権があったら面白そう。絹織物なら、スカーフの意匠権などあるかな?などと考えつつも、リヨンといえば・・飛行士であり作家でもあるサン=テグジュペリの生まれた地。
そこで本記事では、桃鉄の物件とは無関係であるものの、サン=テグジュペリの代表作「星の王子さま/Le Petit Prince」に関わる商標権を紹介しましょう。
200以上の国と地域で翻訳された本作品。実は挿絵に関する商標権が世界中で取得されています。
【商標権】「星の王子さま」挿絵
左:BR 908811454(TMView)中:CH692207(TMView) 右:PET00011719(TMView)
どれも激熱な商標(挿絵)…!
挿絵は物語の重要なシーンを彩り、読者の心に愛着を呼び起こし、記憶に深く刻まれる魅力を持つもの。だからこそ、物語の世界観を象徴する挿絵について商標権を取得しているのでしょう。
そして本国であるフランスにおいては、物語中に登場する小惑星「B 612」についての商標権も取得されています。挿絵のみならず、重要な単語についてもブランド価値が生じている証ですね。
FR 4391573(TMView)
なお、サン=テグジュペリは飛行士でもあり、航空機関係の特許出願も行っています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
参考記事:知財×サン=テグジュペリ(著:うえお アイ)-第1回「知財とアレ」エッセイ大賞 大賞作品 | Toreru Media
欧米を巡った次は、アジアの金融ハブ、シンガポールへ。
3.シンガポール~金融のハブ~
シンガポールは、東南アジアに位置する都市国家。東京都程の面積にもかかわらず、シンガポールは世界の主要な金融ハブの一つであり、高度な経済と多文化社会を持っています。筆者の初めての海外渡航先がシンガポールであり、思い出深い国です。
シンガポールといえば、マーライオン(2009年 筆者撮影)
桃鉄の物件は以下の通り。
「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」より引用
さすがはシンガポール。高額物件が並んでおり、買い占めには途方もなく時間がかかりそうな駅です。「ナイトサファリ動物園」は、世界で初めて開業した夜間専用の動物園(Wikipedia)であり、筆者も訪れたことがあります。
ナイトサファリ。ずいぶん明るいが、夜まで楽しんだはず。(2015年 筆者撮影)
さてシンガポールにおける知財権の紹介もしていきましょう。
シンガポールといえば「マーライオン」ですが、今回は2011年に開業した「マリーナベイサンズ」関連の知財権を探ってみました。
建築中のマリーナベイサンズ(2009年筆者撮影)
マリーナベイサンズはシンガポールを代表する高級ホテルであり、そのユニークなデザインと豪華な施設で知られています。三つの建物に支えられ船の形をした屋上部分が特徴的で、ホテルの屋上にある「インフィニティプール(公式HP)」からは、シンガポールの壮大な景色を一望できます。
マリーナベイサンズに臨むマーライオン(2015年 筆者撮影)
インフィニティプールから見渡す街並み(2015年 筆者撮影)
そしてマリーナベイサンズは、カジノでの名声も高く、シンガポール政府が公認する2つのカジノのうちの一つ。このカジノは、広々としたフロアに多種多様なゲームテーブルやスロットマシンを完備しており、多くの観光客でにぎわいを見せています。
前置きが長くなりましたが、カジノに関する特許権を紹介しましょう。マリーナベイサンズのCCO(Chief Casino Officer)でもあった Andrew MacDonald 氏が発明者の特許であり、日本においても権利化されています。
【特許権】ルーレットホイールに取付可能なスマートカバー
特許第6150902号:スマートカバー付きルーレットホイール(J-PlatPatリンク)
出願日:2013.9.24 その他出願国:米国、シンガポール
液晶デバイス等を有するルーレットカバーに関する発明です。
ルーレットゲームは、回転するルーレットの中でボールが最終的にどのポケットに落ち着くかを予測し賭けるものです。通常、ルーレットの回転速度が遅くなると、賭けの受付は終了します。しかし、この発明では、ディーラーが電気信号を用いてカバーを透過状態(図1A)から不透過状態(図1B)へと切り替えることで、ルーレットの回転速度が落ちても賭け続けることが可能になります。
本特許は、回転数に応じて透過→不透過を自動制御する技術についても記載されており、ディーラーにとってはより便利に、そしてプレイヤーにとってはより興趣溢れるルーレットゲームとなりそうです。
他にも、同じ発明者からは、複数の乱数発生デバイスを活用したルーレット関連(*1)、中国の伝統的な五行(木・火・土・金・水)を示すカードデッキを使用するバカラゲーム関連(*2)など、種々の特許権が生み出されています。
(*1) 特許第6580493号:2ホイールルーレットゲーム(J-PlatPatリンク)
(*2) US9345950:Baccarat game with side wagers(Espacenetリンク)
又、12面体サイコロの意匠権も米国で権利化済みです。
【意匠権】「福」「寿」「禄」を含む12面体サイコロ
USD722651:Dodecahedron die(Espacenetリンク)
カジノにも種々の知財権が関わっているとは、興味深いですね。なお、発明者である Andrew MacDonald 氏は、現在、同じくシンガポールの統合型リゾートであるリゾート・ワールド・セントーサ(RWS)へと転職しているようです。(参考記事:Industry veteran Andrew MacDonald to join Singapore’s Resorts World Sentosa – IAG)
RWSといえば、政府公認のもう一つのカジノを有するリゾート地。今後はRWSでも、知財権が関わり、より一層興趣溢れるカジノ体験が生み出されるかもしれませんね。
シンガポールを満喫した後は、お近くの台湾に寄りつつ、我が日本へ立ち寄って終了です。
4.台北(台湾)~伝統と現代の融合~
台北は台湾の首都で、高層ビルと伝統的な寺院が共存する都市。美味しいストリートフードや活気に満ちたナイトマーケットが特徴的で、故宮博物院(Wikipedia)には中国の古美術や歴史的文物が豊富に展示されており、文化的な魅力も豊かです。
夜の台北駅(2019年筆者撮影)
桃鉄の台北駅には、どのような物件が並んでいるでしょうか。確認してみましょう。
「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」より引用
おおお! 物件名よりまず先に、収益率の高さが目立ちますね!タピオカとマンゴーかき氷がまさかの収益率300%。持ち金があるならば買わない選択肢があり得ない物件です。
ここで今更ですが、桃鉄における「収益率」の説明をします。
桃鉄は毎年3月になると決算が行われ、購入済みの物件金額×収益率 を得ることができます。つまり、仮にマンゴーかき氷屋を購入した場合、それだけで3億円もの金額が「毎年」手に入るということ。お得すぎますよね。
ナイトマーケット(士林市場)のマンゴーかき氷。収益率300%も納得の美味しさ(2012年 筆者撮影)
さて、本題の知財権についても見ていきましょう。これまで3ヵ国を巡って、特許権、商標権、意匠権を紹介してきました。台北では何を紹介するか・・?
特許、商標、意匠とくれば、あと一つ。実用新案権が残っていますね。であれば、「フットマッサージ屋」にかけて、マッサージ関連のかわいい実用新案権を紹介します。
【実用新案権】猫型のマッサージデバイス
TWM361342U:Massage device(Espacenet リンク)
猫が全身を駆使してマッサージしている!突き出した両腕、両足のみならず、尻尾や耳までも!図1によれば文鎮としても活用できそうで、デスクに1匹欲しい猫です。
台北のお店で見かけたので、特許関係者として当然購入しました。そして現在でも、旅行や日々のお供として大活躍しています。
日本に移住した猫。背中には台湾の実用新案登録番号が輝く。(2015年 筆者撮影)
なんだか旅行記みたいになってきたので、そろそろ終わりにしましょう。最後の都市は大阪です!
5.大阪(日本)~活気溢れる街~
「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」より引用
地球を巡り、日本に戻ってきました。日本の物件駅は「札幌」「東京」「京都」「大阪」「那覇」の5都市です。大阪は手頃かつ収益率が良い食品物件が2件ありますが、他は収益率が悲惨。。でもここは記事執筆のためにも、「タイガー野球団」を購入しました。
2023年は阪神タイガースが38年ぶりに日本一となり、盛り上がりましたね。岡田監督の名言「アレ」は、2023年流行語大賞にも輝きました。
そこで最後は、岡田監督の名言に関する商標権を紹介しましょう。
【商標権】「そらそうよ」
商標登録第6710506号(J-PlatPatリンク)
出願日:2022.11.28
「そらそうよ」について、株式会社阪神タイガースが商標登録しています。監督の言葉を会社としても大事にしている証であり、現場と球団の間に一体感が醸し出されていますね。だからこそ、圧倒的な強さで日本一を成し遂げたのかもしれません。
さいごに~地球は知財であふれてた!でも・・~
今回桃鉄ワールドをプレイしてみて、地球が知財権であふれている現実を実感しました。ゲーム内の物件は、地域を代表する名産品や企業と関連付けられており、関連する知財権を探せばきりがないためです。
しかしそれは、一部の国に限られた話。知財制度は創造力をかきたて産業発達を促進する役割を担っていますが、制度未整備の国や、他の違った課題に直面している国々も多いのです。日本だけでなく、世界を、地球をふまえた上で知財制度を捉え、日々のサイコロを振っていきたいものです。
桃鉄ワールドは、世界の多様な名産品や地理についてだけでなく、日常では忘れがちな視座を教えてくれました。