ChatGPTと弁理士を『知財相談』への回答で対決させてみた~AI VS 弁理士 第2ラウンド!

Toreru Media では10月6日を「Toreruの日」として、毎年特別企画を公開しています。

近年の技術で最も話題になったのはやはり生成AIです。特にChatGPTは2022年11月の公開後、その応答の自然さに世界中が注目し、たった2か月で1億人を超えるアクティブユーザー数を獲得しました。

そして2023年3月、より改良されたモデルであるGPT-4が公開されました。GPT-4は「GPT-3がまだ小学生なら、GPT-4は大学生」と言われており、アメリカの司法試験でも上位10%の成績を叩き出したそうです。

ただ生成AIの進化は利用者にとっては福音ですが、人間の仕事を奪うとも言われています。

サイバーエージェントで制作に携わる職種のうち、広告クリエーティブの出来栄えを判断するディレクター職はかつて30~40人いたが、現在はゼロになっている。極予測AIの予測機能が同職の役割を代替したからだ。ディレクター職だった人材は営業職など他の職種に転向したり、同社を退社したりしたという。キャッチコピーをつくるコピーライター職も、いずれは不要になる可能性がある。

ChatGPTで広告会社の組織激変、サイバーでは30人以上いたディレクターがゼロに

クリエイティブ職でもすでにAIに仕事が代替されつつあるという衝撃。知財業界も他人事ではないでしょう。

・・・ Toreru では2019年に「AI vs 弁理士 商標対決」というイベントを開催しました。この時は商標調査実務でAIと弁理士が競い、20問中13問正解のAIに対し、14問正解した人間の勝利という結果でした。

レポート「AI vs 弁理士 商標調査対決」—法と実務のプロはAIにどう勝ったのか | クラウドサイン

13問正解と14問正解。人間の勝ちだったとはいえ、すでに僅差です。

ただ、このとき生成AIはまだなく、「AIにあれこれ質問して、的確な回答を得る」ことはできない時代でした。また、AIのアウトプットには「理由付け」がなく、何故その商標が類似または非類似とされるのか?根拠がわからず、AIの回答をそのまま使うのは難しい状況もありました。

しかし、生成AIは当時より格段に進化した技術です。また、複雑なプログラムを組まずとも「日本語で自然に問いかけ、回答を得る」ことが可能です。つまり、商標調査に限らず、さまざまな知財相談を投げかけることができるということ。

・・これまで知財相談は弁理士のプロフェッショナルな領域とされていましたが、AIはすでに弁理士に迫り、いや、追い越してしまっているかもしれません。それを判断するためには、やはり対決でしょう。

今ここに、AI VS 弁理士の2ndステージ 開幕です。

対戦ルール

・AIと3人の弁理士が与えられた3つのお題(知財相談)に対してそれぞれ自分なりの答えを書く。回答時に弁理士は参考文献を見ても良い。字数は500~800字程度を目安とする。

・AIは「ChatGPT(GPT-4)」を使用する。AIに対する問いかけは日本語とする。
※GPT-4はUSD $20/月の有料プランを使用。

・完成した回答(記事)はAIか弁理士かを伏せ、知財関係者20名に読んでもらい「どちらが良いと思ったか」を理由とともにオンラインで投票してもらう。得票が過半数を超えた側を勝ちとする。

「どちらのテキストがAIだと思ったか?」も合わせてコメントしてもらい、投票者が弁理士かAIかを判別できるかも測る。

<3つのお題>

① 商標登録とは簡単に言うと何ですか?気をつけることはありますか?

② 中小企業の知財戦略を進めていく上で最適な方法を教えてください。

③ 特許出願は意味がないと思うのですが、どう思われますか?

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以上が対戦ルールです。結果発表の前に、AIと弁理士が作成した回答(記事)を掲載しますので、自分なりに「どちらが良いと思ったか?またAIの回答なのか?」も考えて頂けると、より楽しめます。

また、試合結果について、 Toreru Media の関係者3名が解説していきます。

1戦目「商標登録とは簡単に言うと何ですか?気をつけることはありますか?」

回答となる記事1・2はAIまたは弁理士が作成したものです。どちらがAIの作品か当ててみてください。

記事1

商標登録とは、ある企業や個人が特定の商品やサービスに使用するロゴや名称などを、他者からの模倣や使用を防ぐために登録することを指します。例えば、ある飲料のブランド名が商標登録されていると、その名前を使った同じような商品を他の企業が出すことはできません。商標登録により、自社のブランド価値を保護し、消費者に安心して商品やサービスを提供することができるのです。

しかし、商標登録にはいくつか気をつけるべき点があります。まず、登録する商標が他の企業と似ていないかどうかの確認が重要です。似ている商標がすでに登録されていると、登録が拒否される可能性があるためです。具体例として、ある企業が有名なスポーツ用品メーカーのロゴに酷似したデザインで申請すると、その申請は却下されるでしょう。

さらに、商標を使用する商品やサービスの範囲を正確に定義することも大切です。商標はその使用範囲内でのみ保護されるため、漠然とした申請では後々問題が起きることがあります。例えば、あるカフェがコーヒーのみに商標登録をし、後にティーも販売したいと考えた場合、改めて登録をする必要があるでしょう。

商標登録は、企業のブランドを守り、成長を支える重要なプロセスですが、注意深く進めなければならない部分も多いです。企業の将来を見据えた戦略的な登録が求められるため、専門の弁理士に相談することも検討するとよいでしょう。

記事2

商標登録とは、簡単に言うと「ネーミングやマークなど、ビジネスで使う “目印” について権利を取る」ことです。

わたしたちはビジネスをするとき、「わたしはこういう者です」とか「これはうちの商品です」ということを相手にわかってもらうために、他社と区別できるような独自のネーミングやマークを目印としてつけます。「SONY」という会社名や、「iPhone」という商品名、「マクドナルドのMのマーク」などは、この “目印” に当たります。この “目印” こそが「商標」であり、これを特許庁の審査を受けて「登録」し、独占権を取ること。これが「商標登録」です。

商標登録に際しては、気をつけた方が良いポイントが多くありますが、ここでは特に重要度が高い3つだけ紹介します。

ポイント1:登録の優先順位が高い商標を見極める

商標登録に投資できる予算は限られているのが普通です。そのため、商標登録の手続きに進む前に、そもそもどの商標の権利確保を優先すべきなのかを見極めることが大切です。

ポイント2:出願前に必ず商標調査をする

商標調査とは、登録したい商標について、特許庁の審査に合格できそうか調べることです。特に、Google検索をして商標に十分な独自性があるか調べたり、特許庁の商標登録検索サイトですでに似た商標の権利が取られていないか調べることが重要です。商標調査をすることで、無駄な手続きを回避したり、将来起きそうなリスクをあらかじめ知り、事業戦略や商標戦略を立てることができます。

ポイント3:商標にしっかりと信用を貯める

商標登録をするだけでは、商標権の価値は上がりません。登録した商標を市場で積極的かつ効果的に使うことでその商標に「信用」を貯め、その商標を見た人が「このブランド名なら安心だ」「このマークの商品、前に使ったときにすごく良かった」のように “良い体験” を想起できるようにもっていく=ブランディングすることが最も重要です。このブランディングと商標登録が両輪で機能したときにはじめて「法的にも守れる強いブランド」をつくることができるからです。

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さて、どちらの回答が良いと感じたでしょうか?

知財関係者20名による投票結果は、こちらです。

勝敗:18対2で記事2が大勝!

そして記事2を作成したのは・・・弁理士でした!記事1がAIによるものです。

まずは人間側、1勝です。

<解説1戦目:AIにどうやって書かせたの?>

解説者:Toreru 代表弁理士 宮崎 超史、Toreru パートナー弁理士 土野 史隆、弁理士&知財ライター ちざたまご(左より)

ちざたまご(以下ちざ):さあ、始まりました「AI VS 弁理士」第2ラウンド。ちなみに我々3人は、出題者や回答者として関わっていますので、解説というより感想戦ですね。

宮崎:役割分担としては、私が問題文を作って、AI側の回答(記事)も作成しました。

土野:ちざたまごさんと私が、弁理士側の記事を受け持った形ですね。あと1つは他の弁理士の方に記事を作成してもらってます。

ちざ:で、まず言いたいことが。宮崎さんが問題作って、AIの回答も作ったならそれはAI有利じゃないですか?人間側はキツいですよ!

宮崎:いやー、人間側の回答は一切見てないですし、ChatGPTの出力には手を加えてないですよ。さらに言えば、ChatGPTには3問とも同じ条件(スクリプト)を投げています。しかも1発回答です。

ちざ:えっ、何回もAIに回答させて、推敲したわけではない?

宮崎:今回は1発です。まあ、間違った回答をしていたらやり直しはさせるつもりだったんですが、直す必要がなかったです。

ちざ:1発でこの回答クオリティはやばい。

土野:私も何回かやりなおさせたのかと思ってました。どんなスクリプトでChatGPTに回答させたんですか?

宮崎:こんな感じですね。

ちざ:こんなシンプルでいいんですか?お題はそのままですし、条件付けも4行しかない。

宮崎:AI側としては、複雑な条件設定をあえてせず、生成AIや知財の専門家じゃない人が考えつくぐらいの問いかけをして、それで弁理士と戦ってみたいなと。ChatGPTって誰でも使えるのが最大の凄みなので。

土野:有料版だとAIの回答も数十秒で出力されますよね。これは脅威だな・・。弁理士目線でも間違ってる部分はないですよ。

ちざ:AIの回答は585文字。書き始める前の構成や、調べものの時間もあるので、人間が書けば数十分は掛かりますよね。

宮崎:条件付けとして「弁理士として具体例を出しつつ」というのが効いてますね。「有名なスポーツ用品メーカーのロゴに酷似したデザインで申請すると、その申請は却下されるでしょう。」あたりは具体例を求めた結果かなと。

ちざ:ただ、人間側にある「SONY」、「iPhone」、「マクドナルドのMのマーク」までの具体性はないですね。ChatGPT側で、固有名詞までは出せないという規制がかかっているのかも。

土野:人間側(記事2)に投票した方の理由付けを見ても、

・記事2は具体例があって分かりやすいのと、親身になって教えてくれている感じがしたから。

・「簡単に言うと」という導入でぐっと引き込まれます。また、具体例を挙げてくれているので、頭に残りやすいです。気を付けた方が良いポイントを羅列するのではなく、重要度の軽重をプロが判断して分かりやすくまとめてくれている印象を持ちます。

・記事2のほうが、ビジネスに商標登録がどう関わるのかという説明が分かりやすかったのと、当事者が具体的に何をすべきか、どこに留意すべきかが具体的に理解できる説明だったため。

のように、具体性を評価する声が多いです。

宮崎:プロが親身になって教えてくれる、というのが好感触、人間の勝利につながってますね。ただ、一方で2名の方はAIのほうが良いと言ってくれてはいて。

・個人的な感想ですが、熟語の量がある程度多いほうが読みやすく感じます。記事2は、記事1では熟語で表現していた内容をあえて熟語でない表現に書き下しているような印象を持ちました。

・商標登録のポイントが、端的に的確に説明されていて、洗練された内容のように感じました。

という理由付けでした。

ちざ:文体の好みもありますね。投票してもらう時も「どちらが良いと感じたか、選択ください」と主観的な回答でOKとしてますし。

土野:AIの記事を良いとした2名は弁理士の方ですね。具体例とか言い回しがくどいと感じたのかも。読み手の知識レベルで、どちらが良いと思うかの判断も変わってきそうです。

宮崎:人間の記事かどうかの正解率も見てみますか。

土野:記事2が人間でしたから、9割が正解でしたね。

ちざ:コメントを見ると、AIが固有名詞は使えなさそうとか、そこまで具体的な解説はできないだろうとかの点で、見破ってた方が多いです。

宮崎:ただ、AIが書いた記事1のほうが良いと回答された2名は、誤判定していますね。これ、正しく判定できていれば人間側へ投票したのかな。

ちざ:現状、なんとなく人間びいきにしちゃう気持ちはありそうですね。

土野:それも過渡期で、数年後には「AIが書いた文章だから、人間より正確だろう」と判断する人も出てくるかも・・。

宮崎:内容だけを比較するとしたら、AIが書こうが人間が書こうが評価に影響はないはずなんですが、誰が書いたかに評価が引きずられてしまうのが人間の面白いところではありますね。

2戦目:中小企業の知財戦略を進めていく上で最適な方法を教えてください。

さて、2戦目に進みましょう。1戦目と同じく、どちらの記事がAI執筆か考えてみるとより楽しめます。

記事3

知財(知的財産)戦略は、中小企業にとって非常に大切なテーマです。商品やサービスが似ている競合他社と差別化するためにも、しっかりとした知財戦略が必要です。

まず、一番初めにやるべきなのは、自社が持っている知財をしっかりと把握すること。これには、既に出願した特許や商標、それからまだ公にしていない独自のノウハウやアイデアも含まれます。これらの情報を整理して、どれがビジネスにおいて重要かを評価しましょう。

次に、競合分析です。他社がどのような知財を持っているのか、そしてそれが自社のビジネスにどう影響するのかを理解することが大切です。これによって、自社が優位に立てるポイントや、逆に補強が必要な部分が見えてきます。

そして、保護策の実施です。価値のある知財は、特許や商標としてしっかりと保護する必要があります。例えば、独自の技術があれば特許を取得。ブランド名やロゴに投資をしているなら、商標登録をするべきです。ちなみに、これらの手続きは専門的な知識が必要な場合も多いので、弁理士に相談することをおすすめします。

最後に、知財を活用する戦略を練ること。これには、例えばライセンシング(他社に使用許可を出して収益を上げる)や、新たなビジネスモデルの開発などが考えられます。

要するに、知財戦略とは自社の「宝石」を見つけ、それをしっかりと「金庫」に保管し、そして賢く「売り物」にするプロセスです。この一連の流れをしっかりと組み立てることで、中小企業も大企業と肩を並べるチャンスが広がりますよ。

記事4

知財戦略とは、企業の知的活動で生み出される知的財産(発明・ノウハウ、ブランド、著作物など)を活かし、企業の「競争力」を高めるための方針・計画です。

中小企業が知財戦略を進める上で、取り組みやすいステップは以下の通りです:

1、自社及び競合マーケット分析(自社の競争力となる知的財産の抽出)

2、知財強化プランの策定

3、強化プランに基づいた実行

4、強化プランの振り返り・修正

1では、自社のビジネス上の強み・弱みや、競合するマーケット環境を踏まえて、どのような知的財産が「競争力強化」のために必要か抽出します。
例えば、メーカーで市場開拓のため新商品の開発に取り組んでいるならば「発明」が重要になりますし、定番商品の知名度向上に取り組んでいるならば「ブランド」が重要です。他社がどのような知的財産を有しているかも適宜検討します。
この工程では関係者で良くディスカッションし、目線を合わせることが大事です。

2では、1に基づきどう知財を強化するかの強化プランを立てます。発明の社内報奨制度を設けるなどの「知財が生み出されやすくする」施策と、特許や商標をもれなく取得するための「知的財産権取得のルール化」施策の2つの視点が大切です。
この行程を進めるときは、官庁が公開している事例集も参考になるでしょう。

3と4は、実際に社内で定めた強化プランを実行し、半年に1回など期限を決めて振り返り・修正を行います。最初の計画は無理があることも多いため、振り返りは必ず行います。複数年継続することで自社にあった有効な「知財戦略」が機能していきます。

企業の事業領域や強み・弱みはそれぞれ異なるため、必要とされる「知財戦略」もそれぞれ異なります。初めての取り組みであれば1の段階から弁理士・コンサルティング会社に中立的に入ってもらい、適宜アドバイスをもらうこともお勧めです。

参考HP:事例から学ぶ!「知財戦略」 | 経済産業省 中小企業庁 

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2つとも読み応えがある回答ですね。さて、どちらが良いと感じたでしょうか。

知財関係者20名による投票結果は、こちらです。

勝敗:17対3で記事4が勝利!

そして記事4を作成したのは・・・これも弁理士でした!

人間側、2勝ですが、どうやら物言いもあるようです。

<解説2戦目:それって反則負けじゃないですか?>

ちざ:2戦目、勝ったのは人間なんですが、最初見たときに驚きもあって。AI側の

要するに、知財戦略とは自社の「宝石」を見つけ、それをしっかりと「金庫」に保管し、そして賢く「売り物」にするプロセスです。この一連の流れをしっかりと組み立てることで、中小企業も大企業と肩を並べるチャンスが広がりますよ。

という表現、これは人間が書いたものかと思いました。Googleで検索してみても、同様のテキストは出てこないんですよね。どこから学習したのかなと。

宮崎:この表現は私も驚きでした。ChatGPTへの条件付けで具体例を出すだけでなく、「できるだけ初心者にもわかる言葉で、わかりやすく書いてください」と指示したのですが、これが効いているのかも。

 

土野:AIが書いた記事3に投票された3名の理由付けですが、

・中小企業向けなので、語りかけるような文面の方が共感を得れそう。
・読みやすかったから。
・異なる観点で書かれている部分があるので、記事3と記事4をマージすると、より良い記事になると思いました。

というコメントでした。

ちざ:少なくとも2名は、AIが書いた記事の方が読みやすいと評価していますね。

宮崎:実際、AIの得意分野は「分かりやすく簡潔に表現する」という点ですから。人間が書いた文章をまとめなおすように指示する使い方もできます。ビジネス文体という点だと、すでにGPT-4は多くの人間の上を行っていると思います。

ちざ:パンフレットの文章や、募集要項といったビジネス文書では、盛り込みたい情報をもとにAIに作成させて人間はちょっと手直し、でもすでに問題ないようです。人間が1から書くより全然早い。

土野:今回、最新のGPT-4を使ったから自然な表現になっているんでしょうか?

ちざ:私が使っているのは無料版のGPT-3.5なので、同じ条件付けで聞いてみましょうか。

土野:うーん、この出力もダメではないですが、「箇条書きを使わずに段落を分けて書いてください。」という指示が通ってないですね。具体例は入れてくれていますが。先ほどの、「宝石を見つけて金庫にしまい、売り物にする」というこなれた表現も見当たりません。

宮崎:GPT-3.5とGPT-4では、回答の創造性や精度が大きく高まったと言われています。特に法律分野では、米国の共通司法試験の模擬試験で、GPT-3.5は213点、GPT-4は298点と大きく向上しています。ちなみに合格ラインが260~270点なので、GPT-3.5は不合格、GPT-4は上位10%での合格だそうです。(参考記事)

ちざ:大幅に性能向上していることが実証されましたね。GPT-4はMicrosoft Bingのブラウザであれば無料で使えますから、そちらで試してみるのもいいかなと。

宮崎:弁理士作成だった記事4の評価ポイントも見てみましょうか。

・記事3と記事4は正直初見ではどちらも大きな差がなく何度か読み比べました。記事4の方が各ステップで行うことをより具体的にイメージできましたし、なるほど、と思わせる説得力や新発見もありました。記事3の方は既知情報が整理されている内容、という感じで、読みやすかったですが学びとしては薄かった気がします。

・知財戦略のイメージを掴むのは、一見記事3も分かりやすかったが、記事4のほうが、知財担当目線で、具体的にいつ何をすべきかが(戦略だけでなく戦術にいたるところまで)明確に説明されていたため。

・経産省のウェブサイトのリンクがあるので、根拠を示してくれて親切だと思います。「半年に1回」など目安があるのも取り組みやすさに繋がります。

甲乙つけがたいが、具体性や説得力で記事4を推す、という意見が多いですね。

ちざ:ここで1つ、懺悔しなければならないことがあって・・。この人間側の記事、私が書いたんですが、投票フォームを作る際、ChatGPTの回答を見ちゃって「あっ、やばっ」と思って、少しだけ書き足したんですよ。

土野:インチキじゃないですか。

宮崎:ちざさんの反則負けだ。

ちざ:いや、本当に1行だけなんで!記事を書くときに、中小企業のはじめての知財戦略としては、ライバル会社の細かい知財調査をするリソースは厳しいだろうなと思い、「自社及び競合マーケット分析」とだけして、他社分析のことはほぼ触れなかったんですよ。

ただ、ChatGPTは「競合分析」で1項目立てていたので、項目漏れと思われたらヤバいなと思って、「他社がどのような知的財産を有しているかも適宜検討します。」という1行を足しました。

土野:えー・・。まあ、項目漏れを防ぐためにChatGPTにまず要素をリストアップさせて、その要素を漏らさないように文章作成するのはAIの上手い使い方ではありますが・・。

宮崎:うーん、17対3なのでこの1行だけで勝敗が変わったとは思えないものの、疑惑の勝利ではありますね。ゴルフだったら失格。

ちざ:ま、まあ参考文献OKだったということで!反省しております。それぐらい「このままだと負けるかも」という危機感があったんですよ。

土野:気を取り直して、人間側が良いとした別の理由付けも見てみますか。

・どちらも良い説明だと思いましたが、記事4は、「知財が生み出されやすくする」施策や 「知的財産権取得のルール化」施策を紹介するなど「知財に慣れていない企業」の視点がしっかり盛り込まれている点と、PDCAサイクルを回すことを強調している点が、「中小企業の知財戦略」という観点ではより優れていると思いました。

「中小企業でも実行できそう感」も好評価だったようですね。

ちざ:教科書的なことを正面から言われても、現実にはリソースがなくて実行できないというのが知財戦略あるあるだと感じていて。「これなら最初の着手はできますよね」、「後から改善していけばいいんですよ」というメッセージを読者に送るつもりで書いてみました。

宮崎:教科書的な定説の列挙ではAIには勝てなくなっていくので、人間は読み手に寄り添い、カスタマイズするというのは、正しい戦略だと思います。AIはインプットされた条件で出力しますから、質問者が聞いてないことに先回りするのは難しい。

今後は、優等生的な模範回答を求めるならAI、アレンジされた「外れ値」の回答を求めるなら人間という図式になっていくかもしれませんね。

3戦目:特許出願は意味がないと思うのですが、どう思われますか?

いよいよ最終戦です。この対戦でAIの逆襲はあるのでしょうか!?

記事5

特許出願の価値は技術分野等によって異なるので、一概に「意味がある」「意味がない」と言うことはできません。そして特許出願に対して経済合理性が無い状況でも、視野を広げると「意味がある」と考えることもできます。

以下に、特許出願のメリット・デメリット例を挙げます。自社の状況やビジネス環境をふまえた上で包括的に判断し、特許出願の「意味」を考える一助となれば幸いです。

特許出願のメリット例:

1.排他機能

他者による技術的な模倣を抑止し、ビジネスの繁栄に繋がります。

2.PR機能

技術力のアピールとなり、協働相手や顧客に安心感を与えることに繋がります。

3.産業発達機能

技術を開示して積み重ねることで、技術発展・産業発達に繋がります。

4.新結合促進機能

特許情報を媒介として、他者との新結合が実現する場合があります。

5.文化遺産機能

特許出願とは技術課題に人類が対峙したことの現れであり、特許公報は、時を経て文化的所産になると考えることができます。

特許出願のデメリット例:

1.経済合理性の欠如

手間と時間とお金がかかります。そして技術的に成熟した分野においては、期待する排他機能を得られず競争優位性の確保に繋がらない場合があります。

2.ビジネスの滞留

原則として出願前に発明を公開できず、ビジネスが滞る恐れがあります。

3.技術流出

発明内容を他者に知られ、権利範囲の及ばない内容で、自社にとって不利益な模倣をされてしまう恐れがあります。

あなたが特許出願に意味がないと感じているのは、とても納得します。しかし、既に特許制度は現代社会にインストールされ、いきなり無くすことはできません。

特許出願に意味があるか否かは、我々の意思次第です。弁理士等の専門家の力を借りつつ、前向きな意味付けを行いましょう。

どうしても意味を見い出せない場合は、5番目のメリットに頼ることをお薦めします。政府が発行する公的文書たる特許公報を通じて、100年後の人々に知を伝えていきませんか。

記事6

もちろん、特許出願が「意味がない」と感じる方もいるでしょう。しかし、その考えは状況によって異なると言えます。特許を持つことには確かなメリットが存在します。

まず、特許を取得すると、その技術やアイデアの独占権が手に入ります。これは他の企業があなたのアイデアをパクってビジネスを展開するのを防ぐために非常に重要です。例えば、ある新しい製品を開発したとき、特許を取得しないと競合他社にその製品を模倣される可能性が高くなります。しかし特許を持っていれば、一定期間その技術はあなただけのものとなり、競合他社がその技術を使うことはできません。

また、特許はビジネスの資産ともなります。将来的に企業を売却する際や、投資を受ける際にも特許は大きな価値を持つ場合があります。特許があることで企業価値が高まり、より良い条件での取引が期待できます。

もちろん、特許出願には費用と時間がかかりますし、全てのアイデアや技術が特許に値するわけではありません。ですが、長期的なビジネス戦略として特許は有用なツールであることは確かです。

だからといって、特許が必ずしも全てのビジネスに適しているわけではありません。例えば、特許の審査に時間がかかりすぎて、市場に出るタイミングを逃してしまうような技術に対しては、特許出願はリスクを伴う場合もあります。

総じて、特許出願が「意味がない」と一概に言うことはできません。独自のアイデアや技術があり、それを保護・活用することでビジネスに貢献する可能性があるなら、特許出願は重要な選択肢となるでしょう。

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なかなか難しいお題、記述にもかなり差が出たようです。あなたはどちらが良いと感じたでしょうか。

知財関係者20名による投票結果は、こちらです。

勝敗:13対7で記事6が勝利!ここまでの2戦よりだいぶ意見が分かれました。

そして記事6を作成したのは・・・AIでした!

AIが最終戦で勝利を収めました。

<解説3戦目:人間とAIの境目とは?>

ちざ:いやー、ついにAIが勝利してしまいましたね。弁理士側の3勝になると思いきや・・。

宮崎:設問を作る際、1戦目、2戦目、3戦目と回答の自由度が上がるように構成したんですよ。意見が割れたのはその設計によるところもあるかなと。

土野:記事6、AI側が良いとした理由も多彩ですね。具体的には、

・特許出願のデメリット部分の記載が、より共感できる内容だと思いました。

・(正直どちらか迷いましたが)、特許出願が意味ないと感じている人の目線に立って書かれた(立場に寄り添った)文章構成になっていたように感じたため。

・記事5は難しい言葉が多くとっつきにくい感じがしたのに対し、記事6はふだん使う言葉で説明されており、理解しやすかった。

といった意見がありました。

ちざ:コメントからは人間側記事の「新結合促進機能」や「文化遺産機能」といった用語にぴんと来ず、AI側に投票した人も多かったようですね。一方、人間側への投票者からは、

・「文化遺産機能」が新しい視点で良かったです。

・記事5の方がメリットの部分でなるほど、と思わせる新発見があり、内容に深みを感じたため記事5を選びました。

・答えがない問いだが、質問者自ら判断するに当たっての参考情報が多数含まれていたため。

と、その部分こそがこの記事の価値だという反対のコメントも出ています。

宮崎:興味深いことに受け手によって評価のポイントが変わっているんですね。
「特許出願に意味はないのでは?」という問いに、一応の回答を与えるならAIの記事が良い。一方でその問いには簡単に答えを出せないと思うなら、さまざまな視点を提供した人間側の記事が良い、という評価になるのではと。

ちざ:AIはビジネス上の特許出願のメリット、デメリットの範囲で回答していますが、人間側は特許制度そのものの存在意義も念頭において回答していますね。

「自社のビジネスのためにならなくても、特許公報が人類の文化的所産の蓄積になるなら、それは価値があるんじゃないですか?」という主張はその一端かなと。ここからさらに議論を拡げていきたくなりますね。

土野:人間の回答は癖というか、個性が出ますよね。そこに魅力を感じて、この先生に相談したいという差別化要素、いわば「情緒的価値」が生まれるんじゃないかと思います。優等生的なつるっとした回答では、AIと差別化するのは難しくなっていくんじゃないかと。

この勝負もAIのほうが支持者が多くて一見勝ったように見えるんだけど、3人に1人は「人間側の回答のほうが良い」と言っていて、そこがクライアントの中心層であれば弁理士としては問題ないわけですよね。

ちざ:そうですね、ビジネスの観点では全員に合わせる必要はない。誰にも支持されないと困るけど。

土野:一方、万人受けする、最大公約数的な回答を作りたいなら、AIの力を借りるのは有効な戦術になりそうですね。

ちざ:この勝負、記事執筆者がAIかどうか判別できたかも見てみましょう。

実は記事6のほうがAI作成だったので、12人が逆を選んでいますね。さらに「両方の記事ともにAIが作成」というひっかけ的な選択肢も5人が選び、人間の記事を正解できたのは20人中3人だけでした。

宮崎:この正解率だと、どちらがAI作成の記事か、というのは意味がない問いかけになっていきそうですね。人間としてはAIをツールとして活用していけばいいのかなと。

ちざ:人間が書いた文章をAIにより分かりやすく修正提案してもらう、というのも有効な活用法になりそうですね。

3つの試合を終えて~これからのAIとの差別化は?

ちざ:ここまでの3試合、一応は人間2勝、AI1勝という形にはなりましたが、AIの進化を改めて感じさせる試合になりました。全体を振り返ってみてどうでしょうか。

土野:今回の対決でおもしろいなと感じたのは、どちらが書いた記事が良いと思ったかの判断自体は分かれつつも、多くの人が「自分が良いと思った記事は人間が書いたものだと思っている」という点です。

書いた内容の客観的な良し悪しは、今後のAIのさらなる発達も考えると、今以上に差がなくなっていくと思います。でも「良し悪し」ってそもそも何なのか。「良し悪し」を判断する人が人間なのであれば、人間は「誰が書いたか」とか「自分の好み」で判断したり、完璧すぎるものよりも、ある種の「欠陥が少しある方が好感が持てる」と感じることも多々あります。

今後、人間の存在意義は「人間的(不完全)な感受性」で評価されるシーンに残ると思います。1と2はどちらが大きいでしょう?という客観的に比べる世界ではなく、人間は2つの絵のどちらが好きですか?という主観的な好き嫌いの世界で生きましょう、ということな気がします。

宮崎:本企画の結果はとても面白いですよね。投票の理由では、特に人間味を求める人と、正確性を求める人のどちらもいたのが、なるほどと思いました。

自分はAI側の記事を担当しましたが、今回はあえて単純なプロンプト(命令文)にし、純粋なAIの力のみで勝負しました。ただ、さらにプロンプトを複雑なものにすると、より人間とAIがわかりにくくなると思います。

そのAIのアウトプットを人間が修正することによって、人間味と正確性の両方が出ます。しかも低コスト。今後は「AI+人間」の協業がスタンダードになるかなと感じました。ちなみにこの感想は100%自分で出力してます笑。

ちざ:自分はChatGPTが最初に流行った2023年1月に触ってみて、AIが嘘が混ざった回答をするので「人間っぽいけど、内容に嘘が多いからまだまだダメだな」と思って離れていたのですが、今回GPT-4の出力を見て、非常に正確かつ人間よりある種自然な回答をするので衝撃を受けました。

日本では意外にビジネスで使っている人は少ないというのも聞くのですが、生成AIが専門性が高い回答もできるように進化してきたことを正面から受け止め、どう「協業」するかを、知財業界でも考えていく価値があるなと感じました。

自分もあらためて業務での活用法を考えてみたくなりました。

試合の解説、宮崎さん・土野さんありがとうございました!

 

AIいらすとやで作成した「AIと人間、知財業務での協働」の図

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