えっ、ハリボーの熊も商標登録!?~個性あふれるグミ×知財の世界

みなさん、グミ食べてますか?

筆者も長年のグミ好きで、1日1袋ペースで食べていますが、ここ10年くらいのグミラインナップの充実化には心躍るばかり。

昔は「ひもQ」や「もぎもぎフルーツ」など子ども向けの印象が強かったグミですが、近年ではオトナ女子をメインターゲットとした「ピュレグミ」シリーズや、男性に人気の超ハードグミ「タフグミ」など、グミ市場はどんどん拡大しています。

近所のスーパーのグミ売り場には、多種多様な顔ぶれが並んでいます

以下の図は、筆者が独断でみんなのランキングの上位グミを「ソフト/ハード」「あまい/すっぱい」の2軸でマッピングしてみたものです。

 

この図を見ると、「めっちゃカタい!」「めっちゃスッパイ!」「形が面白い!」といった個性の光るグミが人気を集めているようです。

――そう、世はまさに大グミ戦争時代

オーソドックスな果実系グミから、甘酸っぱ~いパウダーをまぶしたグミ、一風変わった食感を目指した新機軸グミまで、熾烈なグミ開発競争が巻き起こっています。

こうしたグミの個性や独自性は、実は、グミメーカーの知的財産(知財)の一部ともいえます。各メーカーは、新しいグミのアイデアや革新的な製造方法を保護し、これらが他社から模倣されるのを防ぐことによって競争優位性を維持しているはず。

というわけで、本記事では、グミメーカーがどのようにして自社のグミを保護しているのかを探っていきます。

グミ戦争の裏側にある知財の世界、一緒に覗いてみましょう!

ゲスト紹介

しろ:特許事務所に勤める弁理士。最近の推しグミは「タフグミ グレーピーパンチ」と「コグミ」。あと「GOCHIグミ」の再販を永遠に待ち続けています。

Twitter:https://twitter.com/PateAt0

1.商標権で守るグミのブランド

まずは代表的なグミの商品名やブランド名について、商標登録状況を見てみましょう。

 

筆者 J-PlatPat調べ

さすがにほとんどのグミは商標登録されてますね。

全体的な傾向として、2000年頃まではそれほど積極的に商標出願されていなかったのに対し、2000年代後半くらいからは大半の会社が商標出願をする方向に舵を切ったようです。

たとえば、グミ界の王様「ハリボー」シリーズや、1980年に発売された日本初のグミ「コーラアップ」、1988年に発売されたグミランキングの常連「果汁グミ」など、初期のグミブランドの多くは、発売からだいぶ時間が経ってから商標出願されています。

一方、明治の「ポイフル」「GOCHIグミ」や、UHA味覚糖の革命児「コロロ」は、発売日より前に商標出願されており、これらのグミのブランディングは発売前から計画的に進められていたことが窺えます。

日本グミ界のブランドリーダー、ピュレグミ

日本発のグミブランドの中で最もブランディングに成功しているものの一つは、カンロの「ピュレグミ」シリーズでしょう。

ピュレグミ ブランドサイト – Kanro POCKeTより

2002年の発売以来、女性層を中心とする幅広い支持を集める大人気グミです。フルーティな甘酸っぱさと柔らかい食感で、グミとしてもめちゃめちゃ美味しいのですが、それだけでなくハート形や星形といったかわいい形状やパッケージの色使いなどにも強いこだわりが感じられます。

「ジュレピュレ」「ピュレグミプレミアム」「ピュレリング」などの派生商品も展開しており、コラーゲンを増量した「ピュレサプリ」、プロテインや乳酸菌を配合した「ピュレプラス」、グミとチョコを組み合わせた「ピュレショコラティエ」といった変わり種も販売されています。

そのほか、ピュレグミファンのための公式コミュニティ「ピュレコミ」を立ち上げたり、誕生日にピュレグミが届く「誕ピュレ」を企画したりと、ピュレブランドを盛り立てる様々な活動が行われています。

このように築き上げたブランドを保護する制度として、ご存じ商標登録制度がありますが、ブランド関連商標をどこまで出願・登録するかは企業によって様々です。

そこで、カンロのピュレブランド関係の登録商標を調べてみました。

商品名は青字で示していますが、商品名以外にもピュレブランドに関係する言葉が幅広く登録されています。

先ほど紹介した「誕ピュレ」、「ピュレコミ」だけでなく、「ピュレゼント」なる言葉も登録されていました。ピュレグミを渡し合う優しい世界。

ともあれブランドの商標登録からも、カンロがピュレブランドにかける熱意がわかりますね。

グミの立体商標!? グミの王様HARIBO

さらにもう1社、グミブランドを語る上で外せないのが、世界で初めてグミを開発した世界最大のグミメーカー、ハリボー(HARIBO)社です。

公式HPによれば、

ハリボーの創業者Hans Riegel(ハンス・リーゲル)が、出身地であるボンに会社を設立したのは、第一次大戦直後の1920年。姓名と地名の頭文字「Hans Riegel, Bonn」から、社名をHARIBOと命名しました。

以来「ハリボーは子どもも大人も幸せにする」というスローガンのもと躍進を続け、ヨーロッパでは知らない人がいないといわれるほどの企業に成長しました。

現在ではドイツ、フランスに加え、英国、デンマーク、オーストリア、スペイン、トルコ、ハンガリー等10か国16工場が稼働中。約7,000人の従業員が100か国以上へグミ製品を出荷しており、グミキャンディ世界最大のメーカーとして不動の地位を築いています。

ハリボー|菓子|商品情報|三菱食品株式会社より

と紹介されています。国内では三菱グループの一員である「三菱食品」が輸入・販売する、まさにグミ界の名門。

他の国産グミメーカーの商標登録のほとんどがグミ名・ブランド名に留まっている中、ハリボー社はかの有名な「熊の形」を立体商標として登録しています。

商標登録第5800440号(出願人名義はリゴ トレーディング エスエー)

しかも、ちゃんとハリボーのゴールドベアに入っている6色すべて登録していますね。

立体商標の中でも、このように文字などではなく専ら立体的な形状で特定される商標は登録が難しいのですが、そこは世界のHARIBO。しっかり登録されています。

 

せっかくなので並べてみました

確かに、この熊の形を見れば多くの人が「あっハリボーだ!」と思うのではないでしょうか。同社Webサイトによれば現在の熊の形は1978年に採用されたようで、特許庁も、40年以上にわたる使用実績などに鑑みて、グミの形状そのものがハリボーを識別するマークとして機能していると判断したのでしょう(2015年5月に出願し、一度も拒絶理由通知がなく同年9月に登録されたスピード感もすごい……)。

ちなみに、ハリボー社は立体商標だけでなく、さらに登録が難しい「色彩のみからなる商標」も出願していますが、こちらは残念ながら日本では拒絶されています。

 

ハリボーゴールドベアのパッケージの「あの金色」

2023年7月現在、日本ではいまだ一色のみの「色彩のみからなる商標」の登録が認められた例はないので、さすがのハリボーでも難しかったようですね。

2.特許権で守るグミの製造技術

グミの競争力を後押しするのは、ブランドや商標権だけではありません。

その一粒一粒には、砂糖だけではなく、グミメーカーの長年の技術開発の粋も詰まっています。

こうした技術を守るための知的財産権が、ご存じ特許権です。

製造技術の特許権侵害は立証が難しい?

しかし、実は特許権で食品技術を守るのは意外と難しかったりするんです。

たとえば、UHA味覚糖の特許第6123258号の「特許請求の範囲」(特許権の権利範囲を特定する書類)には、次のように記載されています。

【請求項1】

固形分として、糖質を35~80重量%、食用油脂を5~40重量%、並びにゼラチン、ペクチン、カラギーナンおよびプルランから選ばれる一種以上を含み、弾力性が5.0×10kg/m・sec~2.0×10kg/m・sec、粘着性が1.5×10kg/m・sec~8.0×10kg/m・secである引き裂き可能なグミキャンディ様菓子の製造方法であって、以下の工程を有することを特徴とする引き裂き可能なグミキャンディ様菓子の製造方法

(1)前記固形分の原料を90℃未満で加熱混合する工程

(2)得られた混合物を50℃未満に冷却した後、ベルトコンベア上に厚さ0.2mm~5mmのシート状に押し出す工程

(3)押し出し後のシート状の生地をベルトコンベア上で25℃未満に冷却後、前記生地を切断しない程度の深さを有する麺線状の溝を形成し、所望の大きさに前記生地をカットする工程

(4)カット後の生地を、ベルトコンベア上でピックアンドプレースロボットにて剥離・整列後包装する工程

UHA味覚糖特許第6123258号より

この特許発明には「引き裂き可能なグミキャンディ様菓子の製造方法」という名称が付けられており、どうやらUHA味覚糖の「さけるグミ」に関連する発明のようです。

 

【公式】さいて食べられるグミ『さけるグミ』 UHA味覚糖より

この特許は「グミの製造方法」に関するもので、原料の加熱温度や冷却温度などの製造条件が特定されています。このように、お菓子や食品の発明では、完成した食品そのものというよりも製造技術に特徴があることが少なくありません。

それでは、この「グミの製造方法の特許権」を他社が侵害しているとして、その事実を証明するにはどうすればよいでしょうか?

……グミの製造工程は他社の工場内で行われており、勝手に立ち入ることはできません。一方で、完成品のグミを調べたとしても、製造時の加熱温度まで判別することは難しそうですよね。

このように、特許権者が「製造方法の発明」の特許権侵害を証明するのは、「物の発明」より難しいことが多いのです。

そして、もし侵害を証明できず特許権が全く行使できないとすれば、その特許出願は自社の製造技術を全世界に公開しただけ、という話にもなりかねません。

「じゃあ出願するだけ損」と思われるかもしれませんが、一方で「その特許を見た他社が侵害リスク回避のために製造方法を避ける」だろうから、特許権が「権利者に見えない形」で有効に働き得る点で意味がある、という意見もあります。

このため、製造技術に関する発明をめぐっては、大きく2つの考え方があります。

  1. 侵害を立証しやすいように、発明の捉え方を変えたり、特許出願書類に様々な工夫をする。
  2. 特許出願は控えて、製造技術は社内ノウハウとして秘密に管理する。

これはどちらが正解というわけではなく、メーカーのビジネス戦略や具体的な製品、技術内容によって変わります。

特許を通じて競争優位性を追求する企業もあれば、特許権の20年という権利期間に縛られずにノウハウを保護するために厳格な秘密管理を行う企業もあります。これらは、その企業が選んだ独自の戦略といえるでしょう。

グミ関連特許、圧倒的1位はあの会社!

考え方がわかったところで、会社ごとの特許数を見てみましょう。

以下の図は、代表的なグミメーカーのグミ関連技術の出願数ランキングです。

J-PlatPatで「ソフトキャンディ」技術に属する特許出願(Fターム:4B014GB07)のうち本文中に「グミ」という記載を含む出願を検索

グミ関連の特許出願数はUHA味覚糖が圧倒的です。さすが、UHA(ユニーク・ヒューマン・アドベンチャー)の名のとおり、独創的・個性的であることを経営理念に掲げるだけあって、たくさんの独創的な発明について特許権を取得しているようです。

先ほどの考え方でいけば、(1)侵害を立証しやすいように、発明の捉え方を変えたり、特許出願書類に様々な工夫をする、という方針でしょうか。

試しにUHA味覚糖の大ヒットグミ「コロロ」を見ると……ちゃんと特許表示されています!

 

UHA味覚糖の特許表示はあのグミやあのキャンディにも。ぜひ探してみてください!

特許をきちんと表示することは、他社が類似商品を作ることへのけん制につながるだけでなく、消費者へ「独自の商品」であることをPRする効果もあると言われています。

さてそれでは、コロロのパッケージに表示されていた特許権(特許第6331325号)の特許請求の範囲を見てみましょう。

【請求項1】

 グリセリンと、単糖および二糖から選ばれる1種以上と、ゲル化剤及び増粘多糖類から選ばれる1種以上と、水とを含有し、グリセリンの含有量が3~15重量%、ゲル化剤及び増粘多糖類から選ばれる1種以上の含有量が3~5重量%、水の含有量が28~40重量%であり、かつ単糖および二糖から選ばれる1種以上の含有量が全固形分量の50~70重量%であり、直径2mmの円柱形プランジャ—を、20℃の温度下にて貫入距離200%、貫入速度1mm/secで厚み方向に貫入させて測定したゲル強度が0.49~1.97MPaであることを特徴とする、果肉様食感を有するゲル状食品組成物。

こちらは一見難しいので、見どころを。この特許は製造方法ではなく、「ゲル状食品組成物」という物の発明について権利化されています。

特許発明は、(1)構成材料の種類、(2)その含有料、(3)具体的な測定方法で特定されるゲル強度、の3点で特定されています。数値も明記されているので、他社の販売するグミを購入して成分分析と強度測定をすれば、特許権侵害かどうかを判断できそうですね。

ちなみに、この特許の明細書には【実施例】として実際にグミのレシピが記載されているので、ご家庭でのグミ自作に興味のある方はやってみてもいいかもしれません。ビジネスとして(業として)特許発明を実施しなければ特許権侵害とはならないので、あくまで家庭内で個人的な趣味としてグミを作るのは、特許権的には問題ナシです!

グミ道を極めた弁理士の例

3.意匠権で守るグミのデザイン?

商標権と特許権のほかに、意匠権を活用しているメーカーもあります。

それが、「知育菓子」の登録商標を保有するクラシエフーズ

意匠権は物の形状などのデザインを保護する権利ですが、いったい何のデザインを保護しているのでしょう?

百聞は一見に如かず、クラシエフーズの意匠権の一例を見てみましょう。

意匠権で守る「知育菓子」のデザイン

意匠登録第1744666号

……これ、何だと思いますか?

「知育菓子」と聞いて、勘のいい方はわかったかもしれません。

そう、こちらの商品です!

たべる図鑑 海の生き物編

クラシエフーズは、「ねるねるねるね」シリーズ、「ポッピンクッキン」シリーズ、「たべる図鑑」シリーズなど、子どもたちが自分の手でお菓子を作れる知育菓子ブランドを広く展開しています。

これらの知育菓子に必須なのが、子どもたちがお菓子を作るためのプラスチックトレイ。そう、クラシエフーズが意匠権で保護しているのは、このトレイの形状です。

これも立派なグミ×知財ですね!

トレイはこんな形状。まさに登録意匠の形状と同じですね。

グミのもとをトレイのくぼみに流し込んで……

完成! ウミガメの左脚が溢れてるのはご愛嬌。

中毒性のありそうな粉をまぶして、おいしくいただきました。

この「たべる図鑑 海の生き物編」には、4種類の「生き物トレー」のうち1つがランダムに入っており、これらはすべて「関連意匠」として登録されています。

類似のデザインバリエーションをまとめて保護する「関連意匠」制度を利用

ちなみにグミではありませんが、「ねるねるねるね」のトレイももちろん意匠登録されていますよ。

意匠登録第1660208号

小学生以来のねるねるねるね

しっかりねるねるして、筆者がおいしくいただきました。

グミの形状自体も意匠権で守れるの?

そのほか、グミ特許の王者UHA味覚糖も、意匠権を活用しています。

それがこちら!

意匠登録第1610343号

みなさんご存じ、コロロの形状でした。確かに、他にはない独特な形ですよね!

グミの形状を意匠権で保護する例は非常に珍しいのですが、やはりUHAは一味違うということでしょうか。

なお、グミの中に見える気泡のようなものは、「グミ材の中に点在する複数の粒グミや果実ピール」であり、これも特徴のようです。コロロの「果実感」は内部からも生み出されていたんですね。

4.まとめ

グミ一粒を取っても、その奥深さは想像以上です。

味わい、形状、さらにはパッケージまで、各ブランドの独自性が詰まっており、各メーカーは各社各様の知財戦略でグミの「個性」を守っています。

次にグミを手に取るときは、ぜひグミ自体やパッケージを眺めて、その背後に広がる知財の世界も感じてみてください!

さらに一歩進んで、グミメーカーの特許明細書を読み解き、“極み”を目指して自分だけのグミを作ってみるのもきっと楽しいですよ。

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