日本人の国民食といえば?ごはん、カレー、ハンバーグなどなど、多くのメニューが上がるものの、やっぱり一番は「ラーメン」でしょう。
ラーメン・カレーライス・そば・うどんの4種を競わせた「どれが好きか」調査では、全国平均46.9%で見事ラーメンが優勝したそうです。
4つの国民食<ラーメン・カレーライス・そば・うどん>ではどれが好き?【ちょっと面白い都道府県ランキング】 | TABIZINE~人生に旅心を~
ラーメンを出す飲食店は国内に約18,000店舗、インスタントラーメンの年間国内消費量は57億8000食。これだけでも驚きの数ですが、世界消費量だとなんと1036億食、食糧支援にも広く利用されています。
「国民食」を超え、もはや「世界食」になったラーメンですが、その歴史では、意外にも?知財との繋がりが深いです。
ラーメンが国民食になる礎を作った日清食品の『チキンラーメン』(発明者・安藤百福氏)も、発売当初に他社から類似品が大量にでて、知財紛争になったと語られています。
現在では、ご当地ラーメンを地域団体商標として登録して町おこしするプロモーションも盛んです。それ自体は素晴らしいことですが、商標を独占することで、そのネーミングをほかの事業者が使えなくなるという反動も生じます。
「安藤は特許を独占するつもりはなかった。要望であって契約条件さえ折り合えば、いつでも使用を許諾するつもりだった」と『定本・安藤百福』には書かれています。ただ一方、安藤氏は粗悪な類似品に対し、知財を武器として断固戦いました。このバランス感覚があったから、ラーメンは「世界食」となったのでしょう。
日本人であればみんなラーメンには一家言あるもの。これは「ラーメン×知財」の世界を、主に商標にフォーカスしながらめぐっていく連載企画です。
連載1杯目は「現存する、日本最古のラーメン商標」から探っていきましょう。
1、『チキンラーメン』が、なぜ最古の商標じゃない?
まずは、知財データベースJ-PlatPatで「ラーメン」を含む登録商標を検索してみます。すでに権利消滅した商標は外しました。
J-PlatPat検索結果より
現存する商標登録を、古い順に見てみましょう。
1件目は『パーラメント』、海外たばこの有名ブランド名ですね。何でこれが?と確認したら、どうやらデータベースで振られた称呼が「パーラーメント」だったのでHITしたようです。
2件目は『ラットラーメン』、こちらも殺鼠剤が指定商品だったのでラーメン違い。
そして3件目の『ハイラーメン』。1964年2月の出願で、出願人は東洋水産。指定商品も「30類 即席中華そばのめん」で、これぞラーメン商標です。
あれ?古い登録から見てきたのに、途中に『チキンラーメン』はありませんでしたよね。
先ほどの『転んでもただでは起きるな 定本・安藤百福』には、
チキンラーメンの商標は前年1959年(昭和34年)の12月に商標登録の出願をしていたが、まだ確定していない時期だった。・・・
(競合13社が組織した「全国チキンラーメン協会」が、チキンラーメンはチキンライスと同様に普通名称にすぎないと異議申立してきたものの)
・・・1961年(昭和36)年9月、チキンラーメンの商標登録が確定した。全国チキンラーメン協会から出されていた異議申し立てはしりぞけられた。
と記載されていました。1961年に『チキンラーメン』が商標登録されたことは日清食品の公式HPでも明記されており、間違いなさそうです。
1965〜1966 「チキンラーメン」はただ1つ。製法特許を出願し、類似品を追放。 | コラム | NISSIN HISTORY | 日清食品グループ
では、なぜ当時の商標登録が残っていないのか?J-PlatPatを「すでに権利消滅している登録も含む」形で検索してみましょう。
登録番号580500号(消滅) (J-PlatPatより)
「乾燥即席味付けラーメン」を指定商品として、1959年に出願しています。これだと商標見本が不明なので、さらに当時の「公告」資料を見てみましょう。
ビンゴ、これが『チキンラーメン』商標出願です!『ハイラーメン』より先に出願・登録されていたんですね。
この公告に書かれた「使用による顕著性」とは、「『チキンラーメン』は一般的な名称であるために通常は商標登録できないが、日清食品の広告宣伝や販売により、日清食品の商品として認知されるに至ったので、特別に登録を認める」という意味です。
当時、この出願に対して「チキンラーメンは一般名称にすぎない」という他業者からの異議申し立てもあったそうなので、そのエピソードとも合致していますね。
しかしなぜこの『チキンラーメン』商標は現存していないのか?データベースを改めて見てみます。
存続期間満了とは、「更新しなかった」ということ。ちょうど登録日から20年後、2回目の1981年の更新期限で更新しなかったことがわかります。
ではなぜ更新しなかったのか?・・ここまでは理由がわからないのですが、「担当者が更新を忘れていた」という説がネットにはありました。
うーん、『チキンラーメン』は日清食品にとって重要な商標、意図的に放棄するとは考えにくい。この権利をカバーできる別の『チキンラーメン』商標が1981年時点に存在していて、不要になった訳でもなさそうです。これは更新忘れ説も一理あるのかもしれません・・。
なお時系列で「ラーメン」を含む登録商標を見ていくと、38番目に現存する『チキンラーメン』商標がありました。1991年に出願しなおしたようです。
権利者もしっかりと日清食品ホールディング株式会社。何だか一安心しました。
2、現在、最古商標の『ハイラーメン』とは?
さて、現存する最古のラーメン登録商標である『ハイラーメン』へ話を戻しましょう。
こちらは1966年6月登録のあと、40年近くも更新され続けています。
権利者はマルちゃんでおなじみ、東洋水産株式会社。代表商品は『赤いきつね』、『緑のたぬき』、『麺づくり』、『マルちゃん正麺』などで、私の胃袋もお世話になっています。
『ハイラーメン』は東洋水産の社史ページにも記載されていました。ただ、スーパーやコンビニで見かけたことはありません。もう終売の商品なのでしょうか?
・・・いえ、公式サイトにはちゃんと現行商品として紹介がありました。しかし販売エリアは「静岡」のみ。さらに調べたところ、
静岡だけで「ハイラーメン」が売れ続けているのは、東洋水産の創業者が、静岡の出身者だということで、創業当時から長いお付き合いをしているお店や業者が県内に多くあり、いまだに置いてくれている(お客様相談室からのコメント)
「マルちゃん ハイラーメン」が静岡だけで50年以上も売られているワケ:スピン経済の歩き方(2/5 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン
という記事がありました。
うーん、静岡まで行くのは遠い・・。こんなときはAmazonだ!
探してみたらしっかりと出品がありました。早速取り寄せて、食べてみましょう!
3、『ハイラーメン』を実食してみよう
注文して待つこと数日。届きました!
クラシックな見た目ですね。袋ラーメンは久しぶりです・・。どう調理しましょうか。
せっかくなので、このイメージ画像にできるだけ近づけてみましょう。丼も中華風のものにして、チャーシュー・ナルト・メンマ、そして個人的に好きなゆで卵を準備します。
ナルトって人生で初めて購入しました。袋を開けます。

『ハイラーメン』はチキンラーメンとは異なるスープ別添え方式です。実はこれは特許回避策だったそう。当時、日清食品は「麺に味付けをする製法」で特許を取っていました。スープを別袋にすれば特許を回避できるという訳です。
ただ、結果的にこの方式は即席ラーメンの味を多様化させました。かやくや香味タレをさらに別袋で付ける方式もありますよね。権利があるからこそ、他社の創意工夫を促したともいえそうです。
ぐつぐつ煮えてきました。広告写真を参考に、先ほどの具を盛り付けて完成です!
良い感じにできました。さて、お味は?
・・これは懐かしい味です。正直、めちゃウマではありません。でも記憶をくすぐる感じ。小学生の夏休みに「何か食べるものない?」と聞いて、親に作ってもらったラーメンがこんな感じでした。ポーク×野菜のシンプルなスープ。
そして、『ハイラーメン』にはナルトがめっちゃ合います。ナルト舐めてました。なんなら主役のはずのチャーシューのほうが浮いてます。昔のラーメンにはナルトが合うんですね。
さらにメンマも合います。必然性がある具材だったのか。ナルトとメンマを追加で丼に放り込んで完食、ごちそうさまでした!
おわりに~ラーメン商標登録の前にあるもの
今回は「ラーメン商標記」の初回として、日本最古のラーメン商標登録を調べてみました。
『ハイラーメン』は1966年6月に商標登録されていましたが、日本最古のラーメンはこれよりはるか昔。「1488年、室町時代に来客にふるまわれた『経帯麺』が原型」とも、「1697年、徳川光圀公が家臣にふるまったとされる中華麺が原型」とも言われています。
(日本最古のラーメン発見! 「水戸黄門説」覆す室町時代の記録)
そもそも商標制度が生まれるはるか昔のエピソードでしたが、どちらも民間に広がることはありませんでした。
では、庶民にラーメンが広がるきっかけは何だったのでしょうか。これは、浅草に1910年に開業した中華そば屋「來々軒」が、ラーメンブームの火付け役だったと言われています。
そこで第2杯目は、中華そば屋「來々軒」がもたらした「近代ラーメン」とはどんなものだったのか、掘り下げていきたいと思います。
次回もお楽しみに!