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スタートアップ企業はいつ商標出願すべき?〜経産省「J-Statup」選定100社の商標データから学ぶ

先日、官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」の新たな選定企業が発表されました。

官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」新たな選定企業を発表|経済産業省より引用
官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」新たな選定企業を発表|経済産業省より引用

「J-Startup」とは、ベンチャーキャピタリスト、アクセラレーター、大企業のイノベーション担当などの有識者からの推薦に基づき潜在力のある企業を選定し、政府機関と民間の「J-Startup Supporters」が集中支援を行うプログラムです。

つまり、「J-Startup」に選定された企業というのは「これから伸びそうな」「いま勢いのある」スタートアップとしてお墨付きを得た企業であると言えます。

そんなアツいスタートアップが集まる「J-Startup」の企業は、いったいどのようなタイミングで商標登録出願をしたのでしょうか?

本記事では「J-Startup」選定企業の商標登録出願のタイミングについて掘り下げてゆきます。

1.「J-Startup」とは

「J-Startup」は世界で戦える日本発のスタートアップを育成することを目的としたプログラムです。

About J-Startup概要|経済産業省より引用
About J-Startup概要|経済産業省より引用

「J-Startup」に選定された企業は、官民両面から様々な支援を受けることができます。民間企業からの支援としては、例えば、実証実験への協力、専門家・ノウハウを持つ人材によるアドバイスなどが挙げられます。また、公的機関からの支援としては、例えば、メディア等でのPR、省庁・企業とのビジネスマッチング、規制等に関する要望への対応などが挙げられます。

そして、海外進出するスタートアップ企業への現地情報の提供やメンタリング、現地でのコミュニティづくりを支援する「JETROグローバルアクセラレーションハブ」や「Startupツアー」といった海外進出のための支援を受けることもできます。

先日、そんな「J-Startup」の新たな選定企業が発表されました。今回の選定は第1次(92社:2018年6月)、第2次(49社:2019年6月)、第3次(50社:2021年10月)に続く4回目の選定です。

本記事では、2021年に選定された第3次選定企業50社と、先日選定されたばかりの第4次選定企業50社の合計100社がどのようなタイミングで商標登録出願をしたのかを分析してゆきます。

2.「J-Startup」選定企業の商標登録出願タイミング

本記事では「J-Startup」選定企業の出願タイミングを、各企業の設立日を基準として分析しました。

具体的には、各企業が最初に商標登録出願をおこなった日と、各企業の設立日を照らし合わせて分析をおこないました。

結果

・90%の企業が商標登録出願していました

・設立日から12ヶ月(1年)以内に40%の企業が最初の商標登録出願

・設立日から24ヶ月(2年)以内に54%の企業が最初の商標登録出願

Q. 「設立日前に出願」とはどういうことか?

A. 新会社設立前に親会社や創業者個人などの名義で商標登録出願がされ、新会社設立後に権利者(出願人)が新会社名義に変更がされたケースです。

・最小値は1ヶ月(設立日と同月に出願)、最大値は159ヶ月でした。

・最も頻度が高い区間は「~6ヶ月」でした。 

分析条件

分析対象:

「J-Startup」第3次選定企業50社および第4次選定企業50社の合計100社

第3次選定で選定された企業の一覧 「J-Startup2021」選定企業・推薦委員|経済産業省

第4次選定で選定された企業の一覧(リンク先記事の中盤「2.J-Startup2023選定企業」参照)「J-Startup」 新たな選定企業を発表!~J-Startup 2023~ |経済産業省

分析時期:2023年5月

分析手順:

① 各企業の社名をJ-PlatPat商標検索の「出願人/権利者/名義人」に入力して検索した。

② 上記①で出願がヒットしなかった場合、各企業の旧社名または新社名をJ-PlatPat商標検索「出願人/権利者/名義人」に入力して検索した。

③ 上記①、②で出願がヒットしなかった場合、「出願無し」と判断した。

④ 上記①~③により各企業が最初に商標登録出願をおこなった日の一覧を作成した。

⑤ スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」により各企業の設立日の情報を得て、一覧を作成した。

⑥ 上記④で作成した各企業が最初に商標登録出願をおこなった日の一覧と、上記⑤で作成した各企業の設立日の一覧を照らし合わせて分析をおこなった。

3.スタートアップ企業はいつ商標登録出願すべき?

前章で示したように「J-Startup」のなんと4割の企業が会社設立から1年以内に最初の商標登録出願をしていました。

このことからも、早期に商標登録出願することの重要性がわかります。

Toreru Media ではスタートアップ向けの商標登録についてまとめた記事があるのですが、その記事でも商標登録出願をできるだけ早期におこなうことを勧めています。

この記事では、サービスのローンチ時期を指標として早期の商標登録出願を薦めています。

サービスをローンチしてしまうとサービス名が公になってしまうので、第三者に先取り的に商標登録をされてしまうおそれがあります。そのため、できればローンチ前に商標登録をするのが望ましいです。

とはいえ、ローンチ前はゆとりがなく商標登録を完了できていないケースも多いです。その場合、ローンチ後すぐに商標登録するのがよいでしょう。このフェーズではまだサービスの認知もそれほど高くないため、第三者に先取り的に商標登録されてしまうリスクは低いからです。

いずれにせよ、早期の商標登録出願が望ましいことには変わりありません。「J-Startup」の4割の企業が会社設立から1年以内に最初の商標登録出願をしていたというデータからもそのことが裏付けられるでしょう。

4.会社設立に先駆けた商標登録出願 3社

前述の通り、新会社設立前に創業者個人などの名義で商標登録出願がされ、新会社設立後に権利者(出願人)に権利が譲渡がされたというパターンの企業がありました。

これらの企業は商標に対する意識が高いと考えられるため、3社ほど深堀りしてみたいと思います。

①メトロウェザー株式会社

京都大学発スタートアップであるメトロウェザーは、目には見えない大気の流れをリアルタイムに可視化する技術でドローンが安全に運行できる世界を目指します。

メトロウェザー株式会社ホームページより引用
メトロウェザー株式会社ホームページより引用

創業者の古本淳一氏は、京都大学生存圏研究所で助教として研究をおこないながら2015年5月にメトロウェザーを創業しました。

社名である「Metro weather」が商標登録出願されたのは会社設立から遡ること数ヶ月、2014年12月のことでした。出願人は創業者の古本氏です。つまり、会社設立に先駆けて創業者が社名を出願したという形になります。この出願は晴れて権利化され、その権利は後に古本氏からメトロウェザー株式会社へ譲渡されました。

②株式会社 SkyDrive

株式会社 SkyDriveは、空飛ぶクルマと呼ばれる電動垂直離着陸型無操縦者航空機(eVTOL)や物流ドローンの開発をおこなうスタートアップです。

株式会社SkyDriveホームページより引用
株式会社SkyDriveホームページより引用
株式会社SkyDriveホームページより引用
株式会社SkyDriveホームページより引用

SkyDriveは、自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手メンバーを中心とした業務外有志団体「CARTIVATOR」のメンバーを中心に結成された企業です。

有志団体「CARTIVATOR」についてはこちらの記事にまとめられています。

社名である「SkyDrive」の商標登録出願はこの有志団体によっておこなわれ、後にその権利はSkyDriveへ譲渡されました。こちらも、会社設立に先駆けて商標登録出願をおこなった一例になります。

③株式会社ヤマップ 

株式会社ヤマップは、登山アウトドア向けWEBサービス・スマートフォンアプリ「YAMAP」の開発・運営を柱に、「YAMAP 登山保険」の販売や「YAMAP STORE」の運営など、山に関する多角的な事業を手掛けています。

株式会社ヤマップホームページより引用
株式社ヤマップホームページより引用

創業者の春山慶彦氏は、出版社勤務を経てフリーランスとなり、学校案内や企業案内などの制作を手掛けました。そして、2013年にYAMAPをリリースし、株式会社ヤマップを設立しました。

No.1登山アプリ「YAMAP」春山慶彦が、山と地方にこだわる理由と決意|Qualities

社名である「YAMAP」の商標登録出願の出願人は有限会社春山制作所という法人であり、後にその権利は株式会社ヤマップに譲渡されました。ここで、有限会社春山制作所というのは、創業者の春山氏に関わる法人であると推測されます。

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さて、この章では、会社設立に先駆けて商標登録出願をおこなった3社をご紹介しました。

前述の通り、第三者に先取り的に商標登録されてしまうリスクを回避するためには、早期の商標登録出願が望まれます。ここで紹介した3社のように、会社設立に先駆けて商標登録出願をするのも一つの手段であると言えるでしょう。

おわりに

本記事では「J-Startup」に選定された企業がどのようなタイミングで商標登録出願をしたのかを分析し、スタートアップ企業がいつ商標出願すべきかについて述べてきました。

次回の記事では、「J-Startup」に選定された企業の中から数社をピックアップして、各社の商標出願の戦略について掘り下げていく予定です。どうぞお楽しみに。

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