名古屋といえば・・・金のシャチホコ?熱田神宮?今ならジブリパーク?
いえいえ、色々名所はあれども、やはり楽しみは『名古屋めし』。
Toreru商標検索より(以下同様)
『名古屋めし』で商標検索をしてみたところ、「ナゴレコ」という商標が出てきました。(ロゴの一部にNOGOYAMESHIというワードが含まれているからで、『名古屋めし』という単語自体を登録者が独占しているわけではありません)
ナゴレコとは「名古屋人がレコメンドする本当に美味しい名古屋めしキュレーションサイト」だそうで、
ナゴレコHP
名古屋のたくさんのお店、ご当地グルメが紹介されています。
『名古屋めし』としては、手羽先、味噌カツ、味噌おでん、どて煮、天むす、台湾ラーメン、ベトコンラーメン、味噌煮込みうどん、きしめん、ひつまぶし、あんかけスパ、ういろう、小倉トースト・・・
さまざまな料理があり、たくさんのお店が名古屋エリアに展開しています。店ごとの違いや食べ歩きも『名古屋めし』がご当地グルメとして人気を博した理由の1つでしょう。
ただ、実は『名古屋めし』にはいくつか特定のお店に登録されている関連商標があります。
「ひつまぶし」は横綱クラスの名古屋めしですし、「ベトコンラーメン」はややマイナーですが、ご当地では愛されているグルメとのこと。
これらの商標が特定の人に登録されているのはちょっと不思議ですよね。他のお店に影響はないのでしょうか?
そこで今回は、実際に名古屋に行って散歩し、「ひつまぶし」や「ベトコンラーメン」を味わいながら、商標の権利範囲や効力について考えてみます!
目次
1、蓬莱軒『ひつまぶし』商標は、どこまで独占できる?
早速名古屋にやってきました。
名古屋といえば、名鉄百貨店の「ナナちゃん」像。個人的に必ず名古屋に来たら、「ナナちゃん」像に挨拶することにしています。
過去には鏡餅、綾波、シン・ウルトラマンと様々なコスプレを披露してきましたが、今回は普段着の「ひとやすみ」バージョンでした。虹色のマスクがオシャレですね。
さて「ひつまぶし」の蓬莱軒は名古屋の名所、熱田神宮の近くに本店があります。熱田神宮までは名鉄で約7分、あっという間ですね。
さすが三種の神器のひとつ「草薙の剣」を祀る、由緒ある熱田神宮。鳥居からもオーラがあります。参拝して、旅の安全を願います。
本店までは10分ほど歩きます。その間、ちょっと事前情報を仕入れておきましょう。
公式HPによれば、あつた蓬莱軒は明治六年創業、140年の歴史あり。熱田の町は門前町でもあり、さらに江戸時代は東海道五十三次の宿場町としても栄えたとか。
「ひつまぶし」は、明治の時代、蓬莱軒が出前のときに数人分のうな丼をおひつに入れて出してしていたところ、お客さんが上の鰻ばかり食べてしまい、ご飯が残って困る。
そこで、2代目店主甚三郎が女中頭と相談し、鰻を細かく切ってご飯に混ぜて出してみたところ、大変好評だったので、懐石料理の食事にも出すようになったとのこと。
ひつまぶし=大きなおひつで、鰻とご飯をまぜる(まぶす)が、語源だそうです。
HPの紹介によれば、蓬莱軒がひつまぶしの元祖であることは間違いなさそうですね。
商標情報も改めて見てみます。
ここで注目したいのは、「商品・サービス」。登録商標は指定した商品・役務の範囲でのみ、独占権が与えられます(類似の範囲も含む)。
逆にいえば、指定されていない「商品・サービス」には商標権は及ばず、他の人による使用も自由です。
この登録をみると、“29類 食用魚介類(生きているものを除く)”や “30類 べんとう”という指定商品で、「テイクアウトメニューとしてのひつまぶし」はカバーされています。
ただ、店内メニューについては「43類 飲食物の提供」(レストランのように店内で消費される飲食物を提供するサービス)での商標登録が必要なのですが、実は43類の「ひつまぶし」出願は特許庁に拒絶されています。
その特許庁の審決も見てみましょう。
拒絶2006-025186
「ひつまぶし」の文字(語)は、戦後の食糧難の時代に鰻のこまぎれを活用して考案された料理であって、名古屋の鰻屋の大半がメニューに加えており、名古屋名物として全国に知られているものと認められる。
そうすると、「ひつまぶし」の文字からなる本願商標をその指定役務について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、該役務が鰻を細かく刻んでご飯にまぶした料理の提供であると理解するにとどまり、該役務の質、役務の用に供する物を表示したものと認識し、自他役務の識別標識としての機能を有しないものといわざるを得ない。
と判示して、蓬莱軒の「ひつまぶし(43類)」登録を認めませんでした。
よって、持ち帰り品としての「ひつまぶし」弁当ならば、蓬莱軒の登録商標の権利範囲に含まれるものの、お店で出すメニューとしての「ひつまぶし」は、43類での追加出願が拒絶されている以上、権利範囲の外です。
このあたり、蓬莱軒のお店はどう商標を表記しているのでしょうか?
公式HPにも登録商標である旨の表記はあり、こだわりは強そうですが・・・
歩いていくとお店が見えてきました。こちらは裏手、正面に回ります。
ネットには「休日で3時間待った」とか書かれていて戦々恐々としていましたが、16時半に着いたら1時間待ち。17時半の夕食ならちょうどよく、ラッキーです。
あいにくの雨でしたが、老舗らしい結構なお庭。中に通され、メニューを確認します。
何と、『ひつまぶし』の横に登録商標の赤字!やはり『ひつまぶし』商標にはこだわりがあるようです。
注文を聞きに来た仲居さんに「ひつまぶしください」と伝えると、さらに驚く発言が。
仲居さん「はい、登録商標のひつまぶしですね」
おお・・!? 店内飲食だから、商標権の権利範囲外では?と思いましたが、登録商標であること自体は事実。気圧されて「はい、“登録商標”のひつまぶしをお願いします」と復唱してしまった自分の小心さよ。
想像を超えた『登録アピール』にやや気圧されつつも、とりあえず一杯。
肝焼きがすでに売り切れだったため、二番人気とおススメされた「肝のから揚げ」。これはこれでビールによく合います。
そして本命の登場。
おお、これが“登録商標”の『ひつまぶし』!
仲居さん「まず、おひつの中を四等分に切り分けてください。そして一膳目はそのまま。二膳目は薬味をかけて。三膳目はお出汁をかけてお茶漬けに。最後の四膳目は3つの中の好きな食べ方で締めるのがおススメです」
なるほど、これがひつまぶし四分の計。郷に入りては郷に従え、言う通りに食べてみることにします。
- 一膳目を茶碗に取り分けると、ご飯の中にも埋まっている鰻を発見。これは見た目以上に鰻たっぷりのご馳走です。鰻はふっくらと焼き上がり、甘さを抑えたタレと絡んでちょうど良い加減。
- 二膳目で海苔・ネギ・わさびを投入。わさびは意外に鰻に合うんですよね。
- 三膳目はうな茶漬け。出汁に漬かった鰻が柔らかくなって食感も変わり、違うメニューを楽しんでいる感覚。
- 四膳目はお好きに、ということだったので、さらに3等分して、ノーマル・薬味あり・うな茶漬けをもう1周楽しむことに。
うーん、これは3つのどの食べ方が良いかというより、「うな重」という1つのメニューを一食の中で3変化させ、序破急を付けたのが『ひつまぶし』の手柄なのでしょう。単品なのにまるでコース料理のような満足感があります。
それにしても結構ボリュームがあります。私は完食しましたが、隣席の学生風の女子2人連れは食べきれない様子。すると仲居さんが・・
「ひつまぶし、お持ち帰りになさいますか?」
うん?自分で容器に入れて持ち帰る・・・。
30類「弁当」だーっ!!
もしかして、「商標としての使用」を意識して、お客様にお持ち帰りをおススメしている?いやいや、単なるサービスですよね。
改めてHPを見たら「お持ち帰りメニュー」も充実。
蓬莱軒HPより
ただ、仲居さんには申し訳ないのですが、蓬莱軒の「ひつまぶし」登録商標の効果は、持ち帰り弁当についても現在どれだけ有効なのでしょうか。
商標には“普通名称化”という考え方があります。先ほどの特許庁の審決をもう一度見てみます。
拒絶2006-025186
「ひつまぶし」は、お品書きにあるように、「鰻丼」、「長焼定食」等の料理名と同じ欄に書いてあることより、料理名として認識されるとみるのが相当であり、飲食物の提供について使用する商標として広く認識されているとはいい難い。
また、出願に係る商標が自他役務の識別力を有するか否かの判断時期は、査定又は審決時と解されるものであることからすれば、「ひつまぶし」の文字(語)は、現在において、鰻料理を提供している各店舗における料理名の一つとして一般に使用されていること前記1のとおりであり、本願商標は、その指定役務との関係において、鰻を細かく刻んでご飯にまぶした料理の提供であると理解するにとどまり、自他役務の識別標識としての機能を有しないものであるといえるから、請求人(出願人)の使用の事実、あるいは商品における登録商標があるとしても、その主張は採用することができない。
この審決は、あくまで「ひつまぶし(43類)」商標の登録を認めるかどうかの審査に関するもので、既存の「ひつまぶし(29・30類)」の登録の有効性に対する判断ではありません。
ただ、一度登録された商標がそのあとに普通名称(様々な人々が使用することによって、その業界の一般的な名称であると広く認識されてしまった商標)に該当すると、もはや他人の使用を禁止することはできません。
<普通名称化について参考記事>
つまり、持ち帰り弁当についての「ひつまぶし」が、あつた蓬莱軒という特定の店舗を想起させず、一般に「鰻料理」の持ち帰り弁当としか認識されないのであれば、もはや「ひつまぶし」商標で、他人の使用を禁止することはできないということです。
私見ですが、「ひつまぶし弁当」でGoogle検索すると、蓬莱軒以外のさまざまなお店のひつまぶしがたくさんHITする現在、上記審決の「本願商標は、その指定役務との関係において、鰻を細かく刻んでご飯にまぶした料理の提供であると理解するにとどまり、自他役務の識別標識としての機能を有しない」という判断は、持ち帰り弁当についても適用されると考えます。
・・・そうなると、あつた蓬莱軒の「ひつまぶし(29・30類)」商標に、もはや意味はないのでしょうか?
実は、日本の商標制度では商標が普通名称化したとしても、それを理由に取消をされることはありません。第三者による使用を禁止できず、独占できないだけです。
あつた蓬莱軒には、商標権で他のお店の使用を排除しようとする意志はないのかも。ネットで調べた限り、ひつまぶし商標の使用について蓬莱軒から警告がきたというような話もありません。あくまで「元祖であること」、「登録商標であること」をしっかりPRしているだけです。
食後、戻ってきた神宮前駅前にも、しっかりと「ひつまぶしはあつた蓬莱軒の登録商標です」の案内広告がありました。
商標登録されていることは厳然たる事実なので、あつた蓬莱軒はなにも間違った表示をしていません。
これは、商標登録であることを裏付けにして「元祖である」というストーリーを強化する商標マーケティングなのでしょう。実際私も「ひつまぶしの元祖の名店なら、一度食べてみたい」という気持ちで、お店を訪れました。
そして、店内でも「登録商標である」ことをPRすることで、「ここはひつまぶしの元祖の店なんだな」とお客にも訴求し、だったらひつまぶしにするか、と選択を促す効果もあります。ひつまぶしは普通の「鰻丼(2950円)」よりも値段が高いので、客単価を高める効果もありそうです。
登録商標である旨の表示を見て、他の業者が「“ひつまぶし”って表記しちゃいけないんだ・・」とか、「うちのメニューに入れちゃまずいかな・・」と誤解しないのであれば、1つの上手な商標活用法といえるでしょう。
2、サウナの名店「ウェルビー今池」で『ベトコンラーメン』を食らう
続いての「名古屋めし商標」はベトコンラーメンです。
愛知県一宮市が発祥とされるご当地ラーメンの名前なのですが、実はこの「ベトコンラーメン」をめぐって商標権の侵害訴訟が起こっています。この事件は、以前ToreruMediaにも「お笑いと知財」をテーマに寄稿いただいた、岡村先生に教えていただきました。
これは「ベトコン」の商標権者が、「ベトコンラーメン」を使用する他のラーメン屋を訴え、商標の使用中止や損害賠償を求めたという事件です。
裁判は2022年11月時点で判決まで至らず、公開されていないのですが、商標権侵害にあたるかの判断を特許庁に求めた「判定」の結果は公開されており、判定資料を元に事件の背景を紹介します。
ベトコンラーメン商標事件の解説 | 事例研究 | brandesign-ブランデザイン-
※判定資料に興味がある方は、上のbrandesignの事例研究ページから閲覧可能です。
「ベトコン」商標は、ベトコンラーメン発祥の店とされる「新京」からのれん分けした店舗グループである「新京会」が現在管理しており、被告の経営する店舗はもともとは「新京会」からライセンスを受けて、「ベトコンラーメン」の看板を出していました。
判定請求人のイ号標章(同判定請求の資料より)
ただ、被告側がライセンス料を支払わなかったため、原告は商標使用契約を終了させ、「ベトコンラーメン」の商標を今後使用しないように申し入れたが、被告が看板を下げなかったために商標権者(原告)が起こした訴訟とのことです。(同判定請求の資料48P)
これはあくまで商標権者の主張であり、両者の争いは訴訟で決着をつけて頂きたいところですが、気になるのは「全く関係なく『ベトコンラーメン』をメニューとして出しているお店にも、この争いは飛び火しちゃうの?」ということ。
もし飛び火して、「ベトコンラーメン」は商標権者の許諾を得ず、お店では出してはいけない!ということになれば、影響は大きいはず。ググったところ、北は北海道から南は沖縄まで、メニューとして「ベトコンラーメン」を出すお店があるようです。
これらのお店が商標権者に許諾を得ているかどうかまではわかりませんが、「家系」、「背油チャッチャ系」、「二郎インスパイア系」のようなラーメンの様式の1つに「ベトコンラーメン」が並ぶとしたら、実質的な「許可制」になってしまうことは違和感が生じます。
・・ただ、実は私、ベトコンラーメンを食べたことがありません。百聞は一食にしかず。
今回は、あえて係争している2つのお店ではなく、係争外のお店で食べることで「ベトコンラーメン」がラーメンの様式として成立しているのか?、考察してみたいと思います。
地下鉄で移動したのは今池駅。
サウナの名門、ウェルビーグループ。サウナー(サウナ愛好家)なら名古屋に行く目的の半分はウェルビーでしょう。
名古屋ウェルビーといえば栄店が一番有名なのですが、今回は栄より少し空いていて、ひとり用サウナもあるという「ウェルビー今池」を訪問しました。
入口から世界観が素晴らしい。今日はカプセル泊にしたので、夜も朝もサウナを堪能できます。
ウェルビー今池、メインのフィンランドサウナも、寝椅子たくさんの屋外ととのいスペースも素晴らしかったのですが、サウナ室の中になぜか水風呂が同居している「森のサウナ」に驚愕しました。
サウナ&カプセルホテル ウェルビー今池(名古屋) | wellbe
こちらのサウナストーブの反対側に大き目の水風呂が鎮座しています(公式サイトにも写真なし。訪店して、その目で確かめてみてください!)
セルフロウリュで室内の湿度を上げたあと、アチアチになってきたら水風呂に浸かる。
だんだん体が冷えてきたら、水風呂のヘリで寝転がって休憩しているとだんだん熱くなってきて、また水風呂に戻る・・
サウナ無限機関の成立です。
このシステムを考えたのはやはりサウナ界のゴッドファーザーと呼ばれる代表取締役 米田氏なのでしょうか。いや、常識破りのすごい設計です。名古屋のサウナーがうらやましい。。
さて、3セットどころか5セット満喫したあとは、いよいよ「ベトコンラーメン」です。
ウェルビー今池は食事処の評価も高く、サウナーブログでも「ウェルビー今池に行ったら、ベトコンラーメンを食べろ!」と紹介されていました。
【ウェルビー今池】名古屋のサウナ飯と言えば “ベトコンラーメン” 〈名古屋市千種区〉 – Manpapa’s blog
食堂に行って、早速メニューをチェック。
ベトコンラーメンありました!
しかし量が多そう。先ほどあつた蓬莱軒の「ひつまぶし」を平らげたところで、フルの「ベトコンラーメン」はきついかも・・。そこでおばちゃん(お姉さん)に聞いてみます。
「このベトコンラーメン、麺少な目ってできます?」
「半玉で出せるよー」
「じゃあそれでお願いします」
待つこと5分ほど。きました、ベトコンラーメン麺ハーフ!!
Wikipediaによれば、「ベトコンラーメン」は
丸ごとまたは粗く砕いたニンニク数個・ニラ・長ねぎ・モヤシなど大量の野菜をトウガラシで辛く味付けして炒め、鶏ガラベースのスープを張った麺に載せる。しょうゆや味噌味や、鶏ガラと豚骨をベースにしたスープで提供する店もある。スープに辛味は無い。台湾ラーメンは具材に挽肉を使用するが、ベトコンラーメンは肉類をほとんど使用しない。
とのこと。確かにスープ自体に辛味はなく、マイルドな野菜スープとしても楽しめそう。
大量に載った野菜炒めはピリ辛トウガラシ味で、そこから味がスープに染み出し、ちょうどよい塩梅になっています。
Wikipedia情報だと肉類はほとんどないはずですが、ウェルビーVer.だと豚バラらしき細切れが入っています。味に深みとボリュームが出て美味い美味い。
それにしてもニンニクは多いです。麺半分だったのでスープに浸かってしまっていますが、底をさらっていくと出るわ出るわ。ホクホクした粒が4つも5つも。
翌日仕事だと「こんなにニンニクかじっていいの?」と悩むところですが、今日はウェルビーのカプセルに泊まります。全部ニンニクも平らげました。
一応、罪滅ぼしに相方はデトックスウォーター。いやー美味かった!
『ベトコンラーメン』を実食した感想ですが、最初見た目「重いかな」と感じたところ、スープがあっさり風味だったので意外にスルスルいけました。おっさんの夜飯としては二郎系や家系だとちょっと重いところ、ピッタリな感じです。
ちなみに名前の由来は、最初、南ベトナム解放民族戦線の「ベトコン」戦士に着想を得て名づけられたものの、戦争の泥沼化でイメージが悪くなり、後付けで「食べるとベストコンディションになるラーメン」、略して『ベトコンラーメン』だという説明に変わったそうです。
東海住みなら知らぬ者はいない「ベトコンラーメン」とはなんなのか – メシ通 | ホットペッパーグルメ
由来のエピソードが変わるとはゆるい話ですが、サウナは体調を良くするために入るもの。サ飯として「ベストコンディションラーメン」を食べることはピッタリです。結果的にメニューとしての間口が広がって良かったかなと。
・・・さて、『ベトコンラーメン』の商標権の考察ですが、すっかりととのってしまい、何だか眠くなってしまいました。
ここは明朝、考察を深めていきたいと思います。
3、満腹の一夜を明け~『ウェルビー今池』の朝食を食べながら考えた
朝起きたら、ひとり用サウナ「からふろ」へ。
早朝の時間帯、待ち時間もなく思う存分個室を楽しめます。
サウナストーンにロウリュしながら、『ベトコンラーメン』の論点を整理してみます。ポイントは2つです。
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① 特許庁の判定では『ベトコンラーメン』の看板(イ号標章)は『ベトコン』の商標権の効力の範囲に属すると示されています。
→ただ、ウェルビー今池の食事処の店名はあくまで「サウナ茶屋」であり、『ベトコンラーメン』は1メニューにすぎません。
このようなメニューの使用に対しても『ベトコン』の商標権の範囲は及ぶのでしょうか?
② 『ひつまぶし』や、『ベトコンラーメン』のような1つの料理形式の呼び名になっている用語を創業者や後継者が商標登録し、独占している状況は妥当なのでしょうか?
確かに、メニューとしての創業者の功績は間違いなくあるでしょうが、商標登録によってその創業者グループの者しか商標を使えない、という状況は「食文化の発展」を逆に損なってしまわないでしょうか?
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まず、①『ベトコンラーメン』のメニューの使用に対しても、『ベトコン』の商標権が及ぶかどうか。
さきほどの特許庁の判定をもう一度読んでみましょう。
以上を総合考慮すれば、「ベトコンラーメン」の文字について、特定の地域における需要者において、ラーメンの種類を表すものと認識される場合があり得ることは否定できないとしても、元来、創作料理の名称として出所表示機能を有するものといえる「ベトコンラーメン」の文字について、イ号標章は、店舗の看板に、「ベトコン」及び「ラーメン」の片仮名を極めて大きく二段に表示しており、さらに・・・・上記片仮名の右横に「R」の表示があることもうかがえるから、イ号標章における「ベトコンラーメン」の文字は、これに接する需要者に、直ちに「ニンニクと唐辛子の入った辛味のあるラーメン」を意味するものと一般的に認識され、ラーメンの種類を表示するものとまでは、認めることができない。
ポイントは太字の部分です。特許庁は、「ベトコンラーメン」の文字について、お客さんにラーメンの種類を表す表示として認識され得ると認定しています。
「特定の地域における需要者において」という但し書きもあるので、全国的にまで認知が広がらなくても、名古屋エリアのお客さんにとって「ベトコンラーメン」が「名古屋の色々なお店で提供されている、ニンニクたっぷりの辛味野菜ラーメンの1種」だと認知されていれば、特定の出所(本件では「新京会」)を表す標章ではないとして、商標権侵害にはならないというロジックです。
ただ、本件では特殊事情があります。
再掲:判定請求人のお店外観(イ号標章)
今回の判定の対象は、お店の看板です。この看板、「ベトコンラーメン」の文字が2段書きで、右下にはニンニクを模したとおぼしきオリキャラもおり、しかもラーメンの右下には®マークまで付しています。
この看板を見て、お客さんが「ラーメンの種類を表している」と読み取るだけでなく、「お店自体を他の店と識別させるための標章として、看板を掲げている」と理解するのは自然でしょう。
つまり、看板にデザイン性があり、他の店と差別化しようとする要素があったからこそ判定で『ベトコンラーメン』の看板(イ号標章)は『ベトコン』の商標権の効力の範囲に属する、という判断が下ってしまっただけなのです。
ここからは私見ですが、メニュー表での『ベトコンラーメン』の使用は、単なるラーメンの種類として、少なくとも東海エリアのお客さんは理解するものと考えます。
1つの証拠として、Yahoo!ニュースで、「キムタク信長が、「信長公騎馬武者行列」の前日にベトコンラーメンで充電」という記事がありました。実はベトコンラーメンは名古屋だけでなく、岐阜発祥という説もあるのですが、この競争もあって、東海エリアでは比較的メジャーなご当地グルメと思われます。少なくとも、特定のお店やグループだけが出している創作料理ではないのです。
さらに面白い情報があります。先ほどの「ベトコンラーメン ゆるかわ商標ラジオ」に出演されていた真さんが、被請求人のお店に実際に行ったそうなので、その写真を頂きました。
確かに看板は変わってますが・・・
店名しか変えていないそうで・・
メニュー表記はそのまま!
なお、真さんが食べた国士無双の「ベトコンラーメン」は美味かったそうです。
この被請求人の「看板は変えるけど、メニュー名は変えないよ」という対応は、やはり特許庁の判定を受けての判断でしょう。
私もやはり本件のメニュー名としての使用であれば、商標権侵害にはならず、ウェルビー今池の「ベトコンラーメン」メニュー表示も侵害にはならないと考えます。
それでは最後の考察へ。
② 『ひつまぶし』や、『ベトコンラーメン』のような1つの料理形式の呼び名になっている用語を創業者や後継者が商標登録し、独占している状況は妥当なのでしょうか?
確かに、メニューとしての創業者の功績は間違いなくあるでしょうが、商標登録によってその創業者グループの者しか商標を使えない、という状況は「食文化の発展」を逆に損なってしまわないでしょうか?
まず、そもそも「メニュー名」の商標登録の効果ですが、以前は「店内メニュー」はその場で消費するものなので、商標法上の商品性(流通しないので)がなく、商標登録できない。一方、持ち帰る「テイクアウトメニュー」であれば商品性があるので商標登録できるし、他人の商標の使用を禁止できる、という考え方が主流でした。
ただ、商標法改正で「43類 飲食物の提供」という区分が生まれたのと、『皇朝事件』のように店内メニュー名が原告商標権の侵害と認定された東京地裁判決があること、また、コロナ禍でテイクアウト・配達メニューが多くのレストランで一般化したことにより、「メニュー名」の商標登録の効果について議論する価値は上がっていると思います。
参考:飲食店のメニュー名と商標(皇朝事件:Vol. 36) | 事例研究 | brandesign-ブランデザイン
第一に、すぐ胃袋へ消費されてしまう店内メニューといっても、その店でしか出していない「創作料理名」であり、お客さんがその店への訪問を決める「識別標識」となるのならば、出所表示・品質保証・宣伝広告といった商標の3機能は働いていますから、商標法で保護する実益はあるでしょう。これはテイクアウトメニューでももちろん同じです。
しかし、メニュー名は店内・テイクアウトに関わらず、「一般的な料理名」を表す一般名称になりやすいという特徴があります。
例えば、「ひつまぶし」は特許庁の審決で
「ひつまぶし」の文字(語)は、現在において、鰻料理を提供している各店舗における料理名の一つとして一般に使用されている
と判示されていました。ひつまぶしを出すお店は名古屋のみならず、東京をはじめあちこちに広がっていますから、妥当な認定だと思います。
また、「ベトコンラーメン」は特許庁の判定で
「ベトコンラーメン」の文字について、特定の地域における需要者において、ラーメンの種類を表すものと認識される場合があり得ることは否定できない
と判示されていました。こちらは「ひつまぶし」ほど全国的ではないのでやや歯切れが悪いですが、「ベトコンラーメン」をメニューとして出すお店も北は北海道・南は沖縄まで分布しているようなので、料理名として認識されつつあるのでしょう。
ここで、商標の世界では一般名称化のことを「悪」としがちです。
曰く、権利者の注意が足りなかった。もっと権利であることをPRし、あちこちに警告をしなければならなかった。努力を怠ったから、一般名称になってしまったのだと・・。
しかし、こと「メニュー」の世界において、商標の一般名称化は本当に「悪」なのでしょうか?
「名古屋めし」は1つの料理だけでなく、たくさんのメニューがあり、しかも多くのお店が立ち並んでそれぞれの味の違いを競っているからこそ、観光資源として盛り上がっています。
1つの事業者がメニューを独占することは「差別化」としては最強ですが、市場としては小さいです。例えば、ひつまぶしが『蓬莱まぶし』として蓬莱軒さんだけで出しているメニューだったとしたら、今ほど全国的に愛されている料理法となったでしょうか。
「ひつまぶし」が“うなぎの美味しい料理法”として全国的に普及し、その中の開祖として「あつた蓬莱軒」という名店が知られて、私のようにお店へ訪れる。
すなわち、真に商標の価値を発揮しているのは「ひつまぶし」という商標ではなく、「蓬莱軒」というブランドネーム、屋号です。逆にいえば、「ひつまぶし」という料理法・名前が独占されなかったからこそ、蓬莱軒の存在価値が上がっているのです。
味噌カツの世界だと「矢場とん」が好例でしょう。「味噌カツ」の商標登録はないのですが、矢場とんはぶーちゃんこと「横綱ぶた」のイラストも商標登録しています。
本店に行ってみると、ものすごく大きいぶーちゃんの標識が。
立像と合わせて、一目で「矢場とん」の世界観がわかります。
さまざまな事情があることも理解しつつ、「ベトコンラーメン」でも、『ベトコン』の商標を独占するより、『新京』というブランドネームを推してもらうことが、1ユーザーとしては納得感があります。
「ベトコンラーメン」が家系ラーメンのように、ラーメンの一様式として全国的に定着したときにこそ、開祖としての『新京』の価値が本当に高まるように思うのです。
頭も体もシャッキリしたところで、昨夜の「サウナ茶屋」に向かいます。何とウェルビー今池のカプセルホテルに泊まると、朝飯が無料・・!
これがタダだって!?ウェルビー恐るべし。
・・・最後に、大切なことを書いておきましょう。
「ウェルビーは神」