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漫画作品中に実在の商標を使うと侵害になる?~パロディ商標のホントのところ、弁理士に聞きます!

日常感を読者に印象付けるため、漫画やアニメには、現実世界で私たち読者が利用するお店や商品が出てくることがあります。

例えば“マック”ではなく“ワック”、“ポッキー”ではなく“パッキー”。現実の世界で見る店名や商品名とは少々違う名称ですが、実はこれら、作者や出版社が商標権を気にしての措置であることが多いのです。

名称をそのまま使えない・・となると、後ろ向きな回避策に思えるのですが、中にはユニークなパロディ方法をしている作品も。

今回はそんな商標パロディ事例例を集めてみるとともに、弁理士さんに実際の商標をそのまま使用するとどのような問題になるのかも聞いてみました。

ゲスト紹介
加藤つばきさん:Webメディア編集部、退職代行業者勤務を経てフリーのライターへ。アニメ・マンガ好き。趣味として特許出願の速報に出たユニークな内容を見るのが好き。

Twitterやってます。https://twitter.com/tsubaki_reboot?s=20

 

1、漫画・アニメにおける商標の伏せ方実例

では実際に、どのように漫画やアニメの中で商標が伏せられていたか、いくつか実例を見ていきましょう。

 

① 「マッワ」(邪神ちゃんドロップキック!)

『邪神ちゃんドロップキック!』より「マッワ」。マクドナルドによく似たお店に見えますが、よく見ると微妙に違います。

② 「ワ?マじゃろ」(映像研には手を出すな!)

こちらは『映像研には手を出すな!』の5巻の1コマ。「クドナルド」のトラックが来ていたというセリフに対して「じゃろ」という指摘が入るこのセリフ。作者の大童澄瞳さん曰く「企業名を伏せない方法」とのこと。

「マクドナルド」という商標をそのまま使うことを避けつつ、どの店がオマージュ元かしっかり分かるようになっている、ウィットに富んだ表現です。

 

③ 「パキっ!!とおいしいチョコレート」(アニメ ハヤテのごとく!)

引用:http://hayatenogotoku.com/goods/choco.html (c)畑健二郎/小学館・白皇学院生徒会・テレビ東京

こちらは2009年に放映されていたアニメ、『ハヤテのごとく!』より「パキっ!!とおいしいチョコレート」。元ネタの名前は一切出ていないものの、見慣れた赤いパッケージに、スティック状のチョコレートのお菓子が描かれています。こちらは実際に商品化もされたとのこと。やはりポキポキ食べるタイプのお菓子だったのでしょうか。

 

④ 「週刊少年ジャック」(アニメ バクマン。)

 

引用:NHKアニメワールド バクマン。 (c)大場つぐみ・小畑健・集英社/NHK・NEP・ShoPro

こちらは週刊少年ジャンプで連載されていた漫画作品『バクマン。』がNHKで放映された際の主人公たちが連載したマンガ誌の名称です。

元々この作品は主人公2人が漫画家を目指し、作中の週刊少年ジャンプに原稿を持ち込むという展開であり、週刊少年ジャンプそのものが物語に深く関わってきます。原作漫画中では持ち込み先はしっかり「ジャンプ」と呼称されていましたが、NHKで放映するにあたり放送法83条で特定企業の宣伝が禁止されているため、語感が近い「ジャック」という名称に変更されています。

NHK放送ガイドライン2020 インターネットガイドライン統合版

上記ガイドラインでも、企業名や商品・サービス名を放送で取り扱う際は、「本質的に必要なのか、その他の表現に置き換えることはできないのか」を判断の基準にするとしています。

アニメ化においては「週刊少年ジャンプ」という名称を使うことに本質的な必要性まではないと判断されたのでしょうね。

 

⑤ 「有名な遊園地」(ウマ娘プリティーダービー)

アプリゲーム『ウマ娘プリティーダービー』より (c) Cygames, Inc

『ウマ娘プリティーダービー』ではあの“有名な遊園地”と呼称される場所が出てきます。どの有名な遊園地かは詳しく言及されていませんが「ビッグカミナリ山」と言われて連想するのはやはり東京ディズニーランドにあるアトラクション「ビッグサンダーマウンテン」です。どこの遊園地かという明言は避けつつ、オマージュ元が分かるように工夫された表現になっています。

なお、このスクリーンショット中でライスシャワーが訪れている遊園地は実は「あの有名な遊園地」ではなく、別の入園料が安価な遊園地だった・・という展開でした。

 

2、もう伏せなくて良いの!?本家に公認された実例

ここまでは特定の商標を使わないように名前を変えたり、伏せたりしている例を見てきましたが、逆に、作中のパロディ商標と本家が正式にコラボレーションした例を紹介します。

① クレヨンしんちゃん × イトーヨーカドー

 

引用: Wayback machine 春日部市公式HPより (c)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 

『クレヨンしんちゃん』に登場するイトーヨーカドーのパロディである「サトーココノカドー」。かなり有名どころのネタですが、こちらはなんとパロディ元とコラボしています。

2017年4月、クレヨンしんちゃんの舞台である春日部店限定で店名がサトーココノカドーに変更され、期間限定で屋上の看板もサトーココノカドー表記になっていました。

 

② ジョジョの奇妙な冒険 × ローソン

引用:ローソン2020年1月17日付リリースより (c) 荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

『ジョジョの奇妙な冒険』では、日本の杜王町を舞台とした第4部で「OWSON」というLAWSONのパロディコンビニが登場していました。

こちらもパロディ元であるLAWSONと公式コラボが実現。最初は2012年、仙台で開催された荒木先生の原画展のタイミングでの実施でしたが、好評により六本木、長崎など各地でも「OWSON」が出現しています。

オーソン前で集合してだべったり相談しあう…という原作の一場面も再現できそうな、原作ファンにはたまらないコラボでした。

 

3、本当に商品名を作中で使っちゃダメ?弁理士に聞いてみました

ここまで、漫画・アニメのパロディ実例を見てきました。いくつか公式コラボが実現した例はあるものの、基本的には「作品中で特定の企業名・商品名を使わない」という配慮がされているようです。

しかし、本当に「商品名を作中でそのまま使ってはダメ」なのでしょうか?もしかして過剰反応なのかも?そこで、漫画・アニメに詳しいT弁理士に聞いてみました。

 

―T先生、よろしくお願いします。いきなりですが、何故、漫画やアニメ作品中で「マクドナルド」などの特定企業の名称や商品・サービス名を使ってはいけないのでしょうか?

T弁理士:まず誤解されがちなのは、「たとえ作中で登録商標をそのまま使っても、商標法上、侵害になるわけではない」んですよ。

 

えっ、侵害になるからみんな変えているんじゃ?

T弁理士:例えば、よく作中に名前を変えて登場することが多い「マクドナルド」の商標登録例を見てみましょう。

 

商品・サービスの欄に「西洋料理を主とする飲食物の提供」とあり、これはハンバーガーなどの飲食物の提供を含んでいますが、漫画が実際に飲食物を提供しています?

 

―作中のキャラクターはハンバーガーを食べたりしていますが、読者は別にお腹は膨れない。飲食物の提供とはいえなさそうです。

T弁理士:そうですよね。商標権の侵害といえるためには、第三者が無断で「指定商品若しくは指定役務についての商標の使用」をしたことが必要(商標法25・37条)なのですが、たとえ漫画内で「マクドナルド」というお店が出てきても、「西洋料理を主とする飲食物の提供」のために商標を使用したとは言えないでしょう。

「商標の使用」には、「広告、定価表若しくは取引書類に標章を付して展示し、又は頒布する行為(商標法2条3項8号)」も含まれると法律上規定されていますが、漫画・アニメ作品自体が「広告」であると認定するのは無理がありますよね。

よって、単に漫画やアニメの作中に特定の商標を使っただけでは、商標法上の侵害とはならないと考えられます。

 

じゃあ、ではみんな変える必要もないのに「忖度(そんたく)」して名前を変えているだけ・・?

T弁理士:うーん、話はそんなに単純ではないんですね。登録商標を何の配慮もなく作品中にそのまま使用すると、商標権者からクレームが来るケースがあります。

この点、実際に出版社に来た商標クレームを赤裸々に紹介している本がありますので、ちょっと見てみましょう。

 

 

この本の228Pの事例ですが、2001年、週刊少年サンデー連載の『モンキーターン』で、「エアロバイクは1日1時間以上漕いだ」と描写したところ、「エアロバイク」の商標権者であるコンビ社(現、(株)コナミスポーツライフ)より小学館社長宛で照会状が送られてきたそうです。

クレームの内容は

「作中にはエアロバイクが当社の登録商標である旨の記載がない。一般的な自転車型エルゴメーターを画に描きながら、それを「エアロバイク」と呼ぶのは一般名称としての使い方である。当社が商標を登録し、防衛する商標の効力を損ね、営業上にも重大な支障をきたす」

というもので、これを受けて、単行本では「バイクトレーニング」と表記を差し替えています。

 

 

―確かに、他社商品なのに、誤って自分の登録商標を使用されるのは腹が立ちそうです。

T弁理士:『編集者の危機管理術』の別事例では、「万歩計」を一般名称だと誤解し、「安そうな万歩計だ」、「安物は多少の揺れでカウントしちまうからな」とギャグのネタにしたところ、商標権を有するメーカーから

「弊社は値段に関わらず全ての万歩計に対して、厳しい検査を行っており、精度面ではお客様にご満足いただける製品を提供しているつもりです。(略)不信感を与える表記は取り消していただきたい」

と、怒りの手紙が来たそうです。

 

―商標権者は色々とチェックしているんですね。ただ、法律上の根拠がないなら、無理に変更する必要はないのでは?

T弁理士:商標法上は侵害にならないかもしれませんが、作中の描写によりパロディ元に損害を与えてしまうと、企業に対する名誉棄損・損害賠償責任は別に発生します。

『編集者の危機管理術』のさらに別の事例では、『BELIEVER』という作品で、「Family mark」という大手コンビニチェーンを1文字変えたお店で、高校生がお酒を買う・・という描写をしたところ、ファミリーマート社より

「未成年への酒類の販売は法律上禁止されており、当社は年齢確認の徹底、POSシステムの改良、ポスター掲示などで未成年へ酒類を販売しないよう最大限の努力を尽くしている。しかし、本作品の描写は、当社店舗の店員が高校生と知りながら酒類を販売し、未成年者の飲酒を助長しているかの誤解を読者に与える。当社の事業上の利益を侵害することに不快の念を禁じ得ない」

との通知書が届きました。本通知に対し、小学館はヤングサンデー誌上で謝罪文を掲載し、同作品の単行本化をしないとの表明をしたそうです。

 

―厳しいですね!単行本化ができなくなるなら、漫画家にとってはショックですよ。

T弁理士:出版社の立場としても、パロディ元の企業は「広告主」として別の場面ではクライアントになることが多いです。不用意に特定の商標を作中に描写し、「一般名称化を助長している」、「当社の利益を害する」などと険悪な仲になるのは避けたい。

たとえクレームが来なくても、『バクマン。』のようにアニメ化の際、放送局のルールで差し替えざるを得ない場合もあり、必然性がない限りは、漫画の中で特定の商品・サービス名は描写しないように配慮していることが多いです。

 

―Family Markの例だと、パロディで多少文字を変えてもダメだったんですね。

T弁理士:結局は、特定の商品・サービス名を想起させるか、描写により不利益が生じるかという点を商標権者側は気にしているので、上記の例のような「メーカーの逆鱗に触れる」ケースだと、少しもじったとしてもクレームのリスクはあまり減らないですね。

一方、主人公が立ち寄ってお店で談笑するような他愛もないシーンであれば、名前を多少変えることでクレームリスクを下げる効果は期待できそうです。

 

―過去、話題になった事件としては、2014年にスクウェア・エニックス社の『ハイスコアガール』で実在のゲームを無許諾で描写していたとして、漫画家らが書類送検された事件がありました。

T弁理士:あの事件は商標が問題になったわけではなく、「漫画作品中にゲームに関わるキャラクター、画像、パッケージなどが随所に、ほとんどそのまま掲載されている」ことが著作権侵害だと争われたんですね。

最終的に和解になっていますが、民事訴訟で争うのとは別に、警察による強制捜査・関係者の大量書類送検という形で作品側にダメージを負わせる必要があったかは議論があるところです。

明治大学知的財産法政策研究所が

表現活動に対する萎縮を招きかねず、当時著作権侵害の成否が明らかにされていなかった時点での刑事手続きに対して慎重に行うべき」

「ハイスコアガール」事件について ―著作権と刑事手続に関する声明― 月刊ビッグガンガンに

という声明も出しており、私もこれに賛成です。

ただ、「事前に許諾を得る」ことが業界の慣行だったのに許諾を得ていなかったとの指摘もあり、他人の商品・サービス名や著作物を作品に利用する際は、相手側の心情にも配慮し、慎重に行う必要があると言えます。

 

―単純にそのまま商品名を作品内に使ったらアウト、1文字変えればセーフ、という話ではないのですね。

T弁理士:やはり作中での実際の描写も大切です。例えば、『クレヨンしんちゃん』の「サトーココノカドー」が、安物ばかりで品質が悪いとか、未成年でも酒を簡単に買える柄が悪い店という描写だったらどうでしょうか。コラボレーションどころか、イトーヨーカドーからクレームが来たでしょう。

ギャグ漫画ではパロディ先を過激に描写することもあるでしょうが、それが「洒落」で済むのかどうか。ブランドの価値を傷つけ、商品やサービスを守り育ててきた権利者の努力を踏みにじることになっていないか。

もちろん許諾を取るのが一番なのですが、たとえ無許諾のパロディであっても、元ネタに対する「リスペクト」が大事なのだと思います。

 

4、まとめ

ここまで、漫画・アニメ作品での商標のパロディのされ方や、それが法律上、本当に必要なのか見てきました。あらためて本記事の内容をまとめます。

  1. 実は作品中に登録商標を使用しても、「商標法上の侵害」になるわけではない。
  2. 一方、実在の商品名・サービス名を作中に登場されることで「普通名称化」や「営業上の信用・名誉」を害するとしてクレームが来た実例がある。
  3. クレームがエスカレートして民事訴訟や刑事摘発に発展したケースもあり、必然性がない商品名・サービス名の描写は慎重に行うべき。一方、描写に必然性があれば事前に許諾を取ることも考えると良い。

 

パロディは一概に自粛すべきとはいえず、『クレヨンしんちゃん』や『ジョジョの奇妙な冒険』のように、最初は作中のパロディ表現だったところ、公式コラボに発展したケースもありました。

2つは有名作品だったこともありますが、作中での描写に悪意がなく、コラボすることで双方にWin-Winの関係が生じたことが大きいと考えられます。

名称を少し変えてリスクを下げるか、正面から許諾を取りに行くか。答えは1つではありませんが、どちらにせよ、ブランドオーナーが大切にしている「価値を傷つけないか」の配慮が大切なのでしょう。

商品・サービス名の扱いを正しく理解して、楽しい創作ライフをお過ごしください!

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