知財で差別化、「ぷは~うまい!」を支える、お酒の知財戦略  ~レモンサワー&チューハイ編~

梅雨も明け夏本番。強い日差しとともに、キンキンに冷えたビールやチューハイ、ハイボールに心躍る季節がやってきましたね!

以前のように家族や友人、仕事仲間と気兼ねなく飲みに行きたい!と思う気持ちがますます高まる今日この頃です。

 

もちろん、気の置けない相手とワイワイガヤガヤ賑わったお店で飲むお酒は恋しいけれど、少し凝ったおつまみを用意して、家でゆっくりと楽しむお酒もまたよし。私自身も〝家飲み〟の良さを再認識しています。

同じように、長引くコロナによる自粛期間の中で、これまでは〝家では飲まない派〟だった方の中にも、〝家で楽しむお酒〟という新しいスタイルを確立された方も多いのではないでしょうか。

こうした背景もあり、メキメキと売上げを拡大し、前年を上回る実績をたたき出しているのがRTDカテゴリーです。

RTDとは:レディ・トゥ・ドリンクの略。広義には購入後そのまま飲める缶やペットボトル飲料のこと。本記事では缶入りチューハイを指します。

なかでも、〝第三次ブーム〟といわれるまでに人気を集めるのが「レモンサワー」。さまざまなメーカーから、次から次に新商品が登場し、スーパーやコンビニなどで単独コーナーが展開されるなど盛り上っていますね。

 

スーパーのRTD売場(筆者撮影)

 

コンビニのRTD売場(筆者撮影)

アルコールカテゴリーは食品業界の中でも1、2を争う知財戦略を繰り広げている分野。ブームの裏には意外な知財戦略があるのかも?!

そこで今回は注目度が高い〝RTD〟をキーワードにどんな権利化がされているのか調べてみました。RTDにまつわる〝なるほど知財ストーリー〟を紹介していきたいと思います。

ゲスト紹介

イモミさん:食品関連の記事を書くライターです。

取材を通じてビジネスにおける知財的財産権の重要性に気づいてから、すっかり〝知財ファン〟に。

今回は知財への熱い気持ちを伝えたことをきっかけに、『Toreru Media』で記事をかかせていただくことになりました。

 

1 気づくとおもしろい!知財戦略が活きている人気商品

まずは、巷で旋風を巻き起こし中の「レモンサワー」にまつわる知財権を紹介します。

家庭用での「レモンサワー」ブームの火付け役ともいえる、サントリースピリッツの「こだわり酒場」シリーズ。導入率がかなり高いので、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

 

サントリー 集まレモンサワー 売り場写真(筆者撮影)

 

この商品は、もともと〝炭酸水で割るとお店の味が家でも楽しめる〟ことをコンセプトに、家庭用商品ではRTDが主流の中、瓶タイプの「レモンサワーの素」を発売。のちに、同じブランドでRTDタイプも発売されています。

公開されている権利を調べてみると、「こだわり酒場 レモンサワーの素」」「こだわり酒場 レモンサワー」の商標と「レモンサワーの素」の瓶(包装容器)とコップの意匠が権利化されていました。

 

「こだわり酒場」シリーズの商標登録

テキスト が含まれている画像

自動的に生成された説明

 

ダイアグラム が含まれている画像

自動的に生成された説明

珍しいのが、「こだわり酒場」のファンが家やお店で飲んだ様子などをアップするコミュニケーションツール「集まレモンサワー」も商標権を取得している点です。

集まレモンサワー!こだわり酒場ファン倶楽部 | サントリー (kodawarisakaba-fan.com)

J-PlatPat検索結果

 

中には『ファンサイトまで商標を取得することは必要なのか』と疑問を持つ方もおられるかもしれません。確かに、レモンサワーブームが〝一過性〟のものだとすれば、企業にとっても今後を見越してブランドをトータル的に保護しようとはならないでしょう。

では、実際のレモンサワーはどうか。むしろ、〝定番中の定番フレーバーがひょんなことから再注目を集めている〟という表現がしっくりきますよね。ある程度の市場規模があるカテゴリーに再度注目が集まっている=ブーム後にも新たなファンの方が一定数上乗せして残る可能性が高い市場といえます。

サントリーは、「こだわり酒場」の商標登録だけでなく、ファンサイトや包装用瓶の意匠登録など、商品やブランドを連想するものに関して総括的に保護しています。それは、商品開発やマーケティング、広告宣伝、発売プロモーション、そして発売後のフォローに至るまで一貫性のあるブランディングを行う中に知財戦略を置いていることを指します。

また、自社製品の差別化ポイントを明確にしておき、知財権で保護することで、ブーム前よりも広がった市場の中で他社よりも存在感を発揮して、レモンサワーの〝一番手〟として定番に残り続けることを可能にしました。

この一貫したブランディングこそ、さすがサントリーとうなる戦略的な知財活用例といえます。

続いてはロングセラーブランドだからこそ出来た知財戦略として、キリンビールの「氷結」が取得した立体商標(ダイヤカット)について紹介していきます。

 

氷結® シチリア産レモン
「氷結 シチリア産レモン」(キリンビールHPより

 

「ダイヤカット」の権利化は、新しく市場を取るという視点ではなく、主力商品の市場におけるブランド力を向上させ、より強いものにする点で参考になります。

この立体商標のすばらしい点は、文字や図形などがない包装容器そのもので権利が成立したことです。消費者が模様や文字で「氷結」を認識しているのではなく、独自の模様である「ダイヤカット🄬」と商品が結びついていることが認められたことを指します。

文字やデザインを変えたところで、「氷結」を連想させる形で発売した時点で権利侵害に該当するため、模倣品対策という点では最強レベルの強さですよね。こうした唯一無二の権利化には、長い期間をかけてブランドを定着、浸透させてきた企業努力があります。

実際にキリンホールディングスが発表したリリース文には「氷結は2001年以来19年に渡りダイヤカット缶を使用し続けている」と書かれていました。

 

ガラスの瓶

中程度の精度で自動的に生成された説明

「キリン 氷結®」シリーズの「ダイヤカット®缶」が立体商標に登録(リリースより)

このような缶デザインのみの商標登録は、使用し始めただけでは登録が認められませんが、「ダイヤカット缶」は長年の使用と、2018年で180億本(250㎖換算)という販売量により、「容器の形状のみで氷結と認識できる」と特許庁が認め、立体商標が登録されています。

商標は基本的に先願主義ですが、新規性を必要としないため、自社の核である商品はブランドを育成するとともに、市場における認知度などを考慮しながら、〝今なら登録が認められる〟と判断できた時点でより強い権利範囲(「氷結」であれば文字なしの缶デザイン)で出願を行うことが効果的な出願戦略といえるでしょう。

 

2 権利侵害?あえて?お酒売り場って似ている商品多くない?

みなさんは売場で、似たような名前やデザインが多くて「あれ?この前飲んでおいしかったやつどれやっけ?」と戸惑ったことはありませんか?すぐに新商品が発売されることもあり、「この前飲んだやつどれや・・・」と売場で途方に暮れることもあります(大げさ)。

色々なRTDを試すのが好きな友人が「この前飲んだやつがおいしかったから、今日も買ったつもりやってんけどなんか違ったわ~。パッケージ似てない?」ぼやいたときに、ある思いがよぎります・・・

これは〝権利侵害〟にならないのだろうか?

気になり、新商品の棚を定期的にチェックしてみると・・・〝果汁のおいしさ〟をアピールした新商品が発売されたと思ったら、すぐに他社から似たようなデザインや名前の商品が登場、的な事件が多発しているではないですか。

ますます気になったので知り合いの弁理士に聞いてみると、実際には「権利侵害」に該当し得るような微妙な相乗りデザインもあるものの、企業によってはあえて権利に基づく排除に向かわず、一緒に売場を形成することでカテゴリーの活性化を選択する場合もあるとのことでした。

 

スーパーの新商品売場(筆者撮影)

 

新しい商品カテゴリーである場合は、まず自社商品が生き残るためにも、ある程度の市場規模まで他社と協働し育てていくことも大切。一方、カテゴリーが熟成して、自社ブランドが育った場合は、権利を活用して積極的に他社を排除していく、いわば「時期」の戦略です。

この戦略をとる場合、競合他社も「売れる」ブランドを参考にしたがっていることを前提に、〝これだけは真似されたくない〟と考えるブランドや関連デザインについて積極的に権利化し、あらかじめビジネスを守ることが大切になります。つまり、知的財産権を取得することで、「排除する・しない」の選択肢を握っておくのです。

どの業界、どの商品やサービスでもあり得る事例なので、すぐに取り組める点も含めて、重要性が高い知財戦略の一つといえるのではないでしょうか。

 

3 新たな視点が特許に。「おいしさ向上」にまつわる熾烈な争い

食品分野ならではの特許に『おいしさ向上』に関する発明を権利化したものがあります。

よくよく考えると食品を取り扱う企業にとって自社の商品を〝よりおいしくする〟ことは当たり前に掲げている使命ですよね。でも、〝当たり前だからこそ〟他社に権利を取られてなるものかという熱い・熾烈な特許争奪戦があるのです。

RTD分野もたくさんの特許出願がされていますので、その中からアサヒビールが販売する「アサヒもぎたてSTRONGまるごと搾り」で権利化した〝おいしさ向上〟にまつわる用途発明を紹介したいと思います。

用途発明:或る物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見い出すことに基づく発明をいいます(進歩性審査基準より)

同品は〝果実のもぎたて感体感用〟という用途で権利化(用途発明)されています。アサヒビールのHPでも〝『収穫後24時間以内搾汁』の果汁のみを使用しており、素材や製造・容器に至るまで鮮度を徹底追求した「鮮度マネジメント」を導入している〟点を商品特長としてアピールしていました。

【請求項1】  果実のもぎたて感体感用の果汁含有アルコール飲料であって、 摘果後3日以内の果実の搾汁液由来の果汁(ただし、田熊スダチの果汁を除く)を含有 する、果汁含有アルコール飲料。

特許6764251号(アサヒビール:果実のもぎたて感体感用の果汁含有アルコール飲料の登録)

特許の内容をかみ砕いて表現すると〝取れてから3日以内の果実の果汁をアルコールに入れて飲むとおいしいってことを発明(発見)したよ〟という感じの内容です。『え?それは当たり前じゃ・・』と感じますよね。

でも、特許は文献で否定できるかが新規性を問うポイントです。当たり前のように感じることでも先行する文献がなければ発明として認められるので、アサヒビールの着眼点が良かったのでしょうか。意外と先行文献がなくほぼ無傷で権利化になりました。

 

アサヒもぎたてSTRONG まるごと搾り レモン
「もぎたてSTRONG まるごと搾りレモン」(アサヒビールHPより)

 

同シリーズでは〝収穫後24時間以内搾汁〟を商品パッケージで謳っています。そこからは『取れたての果実か~新鮮でおいしそう!』というプラスの印象を受けます。では、他社のへのけん制という点ではどうなのか。

先ほども書いた通りこの特許は用途発明。ですので、権利化された用途に対して権利を行使できるため、製品自体の保護という点ではそこまで強い権利といえません。しかし、他社が商品で『果実のもぎたて感の向上』に関する表現ができなくなる点を考えると、消費者へのアピール面ではとても有効な権利です。

また、今後商品の販売を中止しアサヒビール自体が権利を実施しない場合でも、権利が有効な期間は、他社が摘果してから72時間以内に果汁を含有したアルコール飲料に対して『果実のもぎたて感の向上』をPRできないこともポイントといえます。

アサヒビールは実際の商品では、『収穫後24時間以内搾汁』と謳っていますが、先ほど見た通り、特許権は72時間以内の搾汁で取得しています。これが24時間で登録していたら、『25時間以内搾汁』『30時間以内搾汁』で権利回避された可能性もありますが、72時間だと、それ以上経った果汁を添加しても〝もぎたて感〟を感じさせるのはハードルが高く、強い権利と感じます。

そして、〝おいしさの特許〟が感覚的な評価である官能評価試験で権利化されることが多い中、この特許権では実際に化合物の量が増えている、増えていないという成分の変化に関する実験も行われており、客観性も持ち合わせています。

このほかにもアサヒビールは、まだ登録には至っていませんが、z-ジャスモンおよびβ-イオノンという成分と、果汁の含有量を指定する出願も行っています。果汁が多すぎると逆に「異風味」が出てしまうので、特定成分と果汁の含有率を指定するとより良い味になる、というのは果汁含有商品を多く取り扱う企業ならではの発明ですね。

発明の課題:果汁含有飲料は、特に果汁含量が多い場合には、加熱殺菌や長期保存することにより、果汁由来の成分が変化して加熱臭やイモ臭とも呼ばれる異風味(オフフレーバー)が強く感じられ、従来果汁のもつ、果物を想起させる風味がマスキングされてしまう。

特開2019-97490(アサヒビール:z-ジャスモンおよびβ-イオノンのうち少なくとも一方を含有する、果汁含有飲料の出願)

この出願がどの商品に利用されるのか現時点では不明ですが、すでに第三者から情報提供がされている点をみると、他社もこの出願に警戒しているようです。

最近は商品で〝特許製法〟〝特許を取得した技術〟といった形で、自社独自の製法や成分の組み合わせで作られた商品であることをアピールする企業も増えてきています。普段手に取る商品を通して、どんな特許があるかを注目してみるのも面白いのではないでしょうか。

 

4 まとめ ~売場争奪の裏にある知財戦略は意外と奥深い~

ここまで商標、意匠、特許のRTDカテゴリーで権利化されている知財権を紹介してきましたが興味を惹かれるものはありましたか?

他社が模倣できないように、権利の網を張り巡らせるロングセラー商品や看板ブランドもあれば、逆に新たな商品カテゴリーを形成するときは類似品の参入を受け入れてカテゴリー集合体として売場を勝ち取ることもある。すべては、自社商品を生き残らせる戦略であり、そのために知財が生きています。

そう思うと、普段何気なく手に取る商品でも「ずっと売り場を守るコイツは熾烈な売場争奪戦に勝ったのか・・・」「新しい市場を築いて、しかも生き残ったのか・・・」(少し大げさですが)と見る目が変わってきます!

私は知財の専門家である弁理士ではなく、いわゆる『知財ファン』の食品分野の記事を書いている記者なので、明細書の内容も説明をしてもらわなければちんぷんかんぷんですし、知財権に関する質問を投げかけられても、すぐには自分の言葉で答えられず立ち尽くすと思いますが・・・

それでも、私がここまでの『知財ファン』になった理由は、知財権を戦略的に活用することが、シンプルにビジネスに活きると思い、そこがとても面白く感じたからです。

戦略的にというと、難しく感じ『知財をどうやって?』と思うかもしれませんが、商品の研究・開発・マーケティング・プロモーションなど発売までの流れの中に知財を組み込むこと。それが、知財戦略と言われたらその戦略はすごく当たり前のように、そして身近に感じませんか? 

知財においても、自社の商品を市場の中で『どう展開したいのか』『将来的にどのポジションを確立したいのか』など重要視するものを考えて、そのポイントに一番適した知財権で権利化する。時には意匠と商標、商標と意匠と特許、という風に知的財産権ミックスを行うことが戦略的な知財の活用であり、ビジネスにも生きそうです。

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